14話・事後処理、面倒でした。
―武元曹駛―
はい、どうもこんにちはこんばんは。
武元曹駛です。
本日はお日柄もよく。
私は、こちらのどっかで見たことがあるような気がする兵士の方に、質問攻めと言うか詰問攻めと言いますかをされている状況です。とりあえず大変な状況です。
それに、これ、終わる気がしません。
一体、どうしたらいいと思いますか?
「だから、こんなときにそんな嘘はつかないでくれ。こちらは真面目なんだ」
「いや、そんなこと言われましても、この通り、ここには俺とドラゴンの死体しかいないわけで……」
さっきまではおっさんもいたけど……。だとしても実質一人。
「そんなわけないだろっ!! 本当の事を話せ」
「本当に、俺一人で……ほら、爆弾とかいろいろ使ったんですよ」
「そんなので、こんな超巨大ドラゴンを倒せる訳が無いだろう」
「だから、それは運が良かったんですって」
「そ、そんな、見え透いた嘘はやめろと言っているんだ」
「いや、だから……」
と、ずっとこんな感じ。
ミットが倒れているという点については、一つ二つの質問で終わったというのに……そんなにドラゴンの方の話が気になるというのか……。
「くそ、どうして真実を話さない」
「どうして、俺の話を信じない」
「真実味が無いからだ」
「真実味がある嘘を言うのもどうかと思うがな」
「お前の真実味の無い嘘よりはいくらかマシだ」
もう、いい加減家に帰してくれないかな。
俺、こう見えてかなり疲れているんだけど……。
そりゃね、身体はね、見た目通り、この無傷の装備と無傷の身体の通りでね、疲れは無いのかもしれないよ。見た目通りね。でもね、人間、精神面とかいろいろと疲労するところはあるでしょう。だからさ、まぁ、ほら、さ、言いたいことは数あれどね、とりあえずね。
「お願いします、帰らせてください」
こう言うしかない訳だよね。
でもね。
「おいおい、ちょっと待て、せめて真実を話してからにしろ」
帰してはくれないよね……。
「もう、面倒くさいな!! 仕方ねぇ、バトルだバトル。それでいいだろ、勝ったら認めろアホ、俺は疲れているんだよ……精神的に……」
「何を言っているんだ」
「だからなにをもかにをもないだよ、こんちきしょー!! 街を救ってやったのにこの扱いはねぇよ!! くっそ、ほらはやくしろ、剣抜け、剣」
「お、おう……」
圧倒的勢いで兵士の剣を抜かせることに成功。
また、随分とやる気はなさそうだが、丁度いい。これなら、一瞬で終わるだろ。
ということで、はい、さっさと倒そう。
もう疲れたから。本当に疲れたから。寝たいから。
「はいスタート」
「うおっ」
決着。
「なんだ、その速度」
「なんでもいいだろ、はい、俺が勝ったから、俺帰る~」
「ふ、ふざけるな、き、きっとイカサマに違いない!!」
してねぇよ。なんだよ。
もうマジで面倒くさい。早く帰って寝たい。レフィに抱き着いて寝たい。
むしろ抱き合いたい。
「じゃあ、もう一回やるか? 次はお前の合図でいいぞ」
「……ああ」
「これで最後だからな、ほんとに疲れたんだっての、これ以上疲れさせるな」
兵士と5メートルほど距離を取る。
そして、ランスを構える。
盾は無し。重いし疲れる。
相手側は細身の剣一本を手に構えを取っていた。
もちろん先ほどとは違い完全に本気モードのようだが。
まぁ、大差ないだろ。いいからさっさと初めてさっさと終ろう。
「……始めっ!!」
と、言うと同時……むしろ少し食い込み気味なくらいのタイミングで兵士が走り出した。
つまるところ唐突な開始宣言だった。
そして、その一瞬後。
「はい、終わり」
勝者、俺。
やったね。
「これで満足しただろう、だから帰っていいだろ? な?」
「ま、待て……」
「え~、もう本当に帰らせてくれよ、本当に帰らせてくれよ、本当に帰らせてくれよ」
「何度も繰り返すな」
「じゃあ帰らせてくれよ」
「も、もう一回だけ……」
「ダメだ。さっきので最後って言っただろ、人の話は聞いておくものだ」
「ぬぅ……」
まぁ、この後さらに5戦くらいしたんだけどさ、まだ納得しない。
いい加減、負けを認めてほしい。
と言うか、俺の話を信じてほしい。
帰りたいならわざと負けるか、嘘でも付けばいいと思うやつらもいるかもしれないが、それは出来ない。
なぜなら……金が無いからだ。
いや、ね、俺も一応傭兵センターにね、登録しているんだよ。
傭兵センターっていう名前だけど、別に傭兵が本当に傭兵している訳じゃないよ。
なんというか、名前は戦時中の時の名残だね。今は、フリーのなんでも屋と依頼人の橋渡しのようなことをしている所。
まぁ、でね、そのね、これくらいのドラゴンを倒したとなると、ドラゴンの討伐金だけでもかなりの高額になるんだけどね、街の防衛という国家レベルの依頼となるわけで、本来分配されてもかなりのお金が入るそれを一人で達成したとなるとね、物凄くお金が貰える訳だよ。だからね。つまりね。
お金が欲しいんだよ。
こいつらもお金が欲しいんだろうな。
だからここまで取っ付いてくるんだろうな。巨大ドラゴン相手と言う事だし、装備とかその他諸々の準備でお金かかったと思うからさ、分からなくはないけどさ。
それでも、俺が痛いの我慢して一人で倒したんだから、それはちょっと譲れないかなって……。
「くそ……」
「もういいだろ、勝てないから諦めろ」
「……な、なら、勝ち抜き戦で、俺たち全員と戦わないか?」
「なんだ、その、そっちが一方的に有利なルール」
「お、お前が支離滅裂なことを言うからだろ」
「どこがだよ、むしろ一貫性しかないだろ」
なんか面倒くさいなぁ……。
「じゃあ、もう本当の本当に最後にしてくれよ、これ以上は殺してでも帰らせてもらうからな」
「ああ、分かった」
と言った所で、後ろに重みを感じだ。
誰かにホールドされてる……。
まさかッ!!不意打ちッ!!
「そ、そうしぃ……ば、ばかぁ……」
女の子の泣き声……というかレフィの泣き声!!
で、でも、あいつはこんな娘じゃなかったはずだ。こ、こんな、こんな風に泣きじゃくるようなキャラじゃ……。
「れ、レフィか?」
「……うん……」
どうやらそのようだ。
やばい、これが古来から伝わりし、ギャップ萌えと言うやつか……。
「そいつは、お前の連れか?」
目の前の兵士が話しかけてきた。
俺が泣いているレフィの可愛さに見とれていると言うのに、話しかけてくるのか。
もうちょっと空気読もうぜ、空気。
「あ、レフィ、その辺の観客席でもうちょっと待っててくれないか」
「や、やだ……」
「いや、ちょっと戦いにくいなって、思うんだよね」
「………」
どうしよ、可愛いのはいいんだけど、離れてくれない。
仕方ない、魔法で移動させよう。
「転送」
とりあえず一番遠くの観客席まで飛ばした。
「よし、始めよう」
俺は、先ほどの質問を無視し、そう言った。
「……分かった、まずは、あいつからだ……俺は最後に戦おう」
「はいはい」
そう言って、兵士は横に向か……あ、お前、ミットと戦ったときに立会人だか審判だかしてたあいつか。
なるほどな、それならミットの事は詳しく聞かなくてもいいからな、そりゃ質問数も少ないわな。
それにしても、数えたところ34人いるな。
34連戦か。本当に面倒くさいな。
俺はランスだけ持って、構える。
「開始!!」
俺の34人抜きが始まった。
5分後……。
「よっしゃ、これで終わりだ!!」
「つ、強い……」
これで34人抜き達成。俺の勝ち。
これで、やっと帰れるぞ。
「おい、お前、俺のこと忘れてないか?」
「え、何言ってんだ、おまえ、全くもって俺の相手ならないだろ」
というか、こいつら全員が相手ならない。
一番強い奴ですら、初撃を受け流すのが精一杯って……お前ら本当にドラゴン倒す気有ったのか?
「じゃあ、行くぞ~」
「ああ、来いっ!! ……あっ」
はい、勝ち。
もう完全に終わり。
次は本当に無いって。
「く、くそ……も、もうい「もうやめようぜ」」
もう一回とか言おうとしたものだからいい加減気絶させてやろうかなとも思っていたのだが、一番強かった、あの初撃を流した奴が俺の代わりにこの審判兵士を止めてくれた。
「俺らがいくらやったところで、こいつは次元が違う……勝てっこない、恐らくドラゴンを一人でやったのも真実だろう……」
「………」
「聞けば、ミットにも勝ったんだろ……ほぼ無傷で」
「それはっ……あいつがきっと途中で回復かなんかしたからで、み、ミット隊長は奴を何度も切っていました」
「それでもだ、戦闘終了時に無傷なら、その戦いで傷を負ってないのに等しい」
「……クソッ……なんで、なんでこんなやつが……」
おい、聞こえてるぞ、ふざけるな。
「悪いな、引き留めてしまって。センターには俺から伝えておこう」
「ああ、分かった、お前らも装備とかに金掛かっただろ、その分くらいは貰っていいぞ」
どうやら、まともじゃなかったのは、審判兵士ただ一人だけのようだな。
なんか他の奴、皆まともだわ。話せば分かるし、状況もしっかり判断できるし。というか、状況を的確に判断できない奴に審判やらせるなよ。
よし、これで帰れるはずだ。
だから、おうちに帰ろう。
今日はおうちに、帰ろう。
それにしても、この泣いたまま俺の腕に抱き着いているこの娘は一体どうしたらいいんだ……?




