124話・いよいよ、2時間だ。
―サキ=フォールランス=カムラ―
あれから、いよいよ、2時間が経過する。ということは、我々も向かう時刻になるということだ。
「そろそろ……だね」
「うん」
椎川さんの言葉に奴井名さんが頷いた。
それぞれ準備は出来たようだな。二人とも既に手に札を持っている。なので、私も腰に付けた袋から札を取り出した。
「では、行くとしよっ……うっ!」
私の言葉は何者かとの衝突によって遮られた。しかし、転移の魔法は既に発動していた。
光が私たちを包み込んだ。
腰辺りに先ほどから重みを感じていたので、下を見て見ると……
「わ、わわわわわ……」
幼女がいた……いや、テンチェリィがいた……
「なんで……付いて来た……」
「え、いや……できれば怒らないでください」
「いや、だからそうじゃなくて、何故付いて来たと聞いているのだ」
私の腰に抱き着いている少女はぷるぷると震え、涙目になっているが、これは危険な事である。いくら、庇護欲をそそられる姿をしていようと、この子の将来を思うと、ここで叱っておかねばならないだろう。それに、今回は、流石にこの子は足手まといになるだろう。
「あとで、説教だ」
「ひっ……です……」
少し脅してやると、瞬時に私の腰から手を離し、距離を取った。……少し、驚かせすぎてしまっただろうか。だが、今回、この子はそれだけの事をしたのだ、やはり叱らねばならないだろう。
「まぁ、もうついてきてしまったものは仕方ない。流石に君に護衛を付けるほどこちらも人員は多くない。君は、危ないからここでじっとしているんだ、テンチェリィ」
「そ、そうしたら、お、おこりませんです?」
「………」
怒らない……か。少し難しいかもしれないが、それで何も起きないのならば、それでもいいか。
「わかった、君が大人しくここで待っていてくれるなら、怒らない」
「……じゃあ、待ってる」
少女は、その場で膝を抱えるように腰を突いた……その姿勢、君がすると随分と危ない気がする。というか、君は下着付けないのか? なら、その服装はやめた方がいいと思うが……それとも、今日はたまたま下着をつけ忘れたのか? だとしても、その服装は良く考えなくとも、外出用のものではないだろう。
まぁ、それも後々いうことにして、今は、いち早く曹駛の元へ向かうのが優先だ。
私たちはこの転移の魔法が入った札を使ったが、この魔法そのものを発動させているのはメアリーという扱いらしく、転移先は選べない。まぁ、選べたとして、ここの位置が分かるのはメアリーだけである以上意味はないだろうな。それで、もしもの時のことも考えられていて、あとから参戦する私達は、南に1キロ距離を置いた位置に飛ばされると言っていた。なので、ここから1キロ、コンパスの差す方に進めば廃研究所が有るらしいが、夜闇の所為で、良く見えない。言ってみるしかないということか。
しかし、その場所に建物などはなかった。そこにあるのは、瓦礫の山と、一つの死体と、一人の重傷者……そして、鮮血を全身に浴び、無傷で立っている人が一人。
それは、彼は……曹駛。紛れもない、私達が捜しているその人であった。
「そ、曹駛……メアリーは……なぜ生き返らない。それに木尾に何があった。ろ、老爀斎様は、一体どこへ……」
この惨状を目の当たりにした私は、すぐに曹駛にそう投げかけた。しかし、曹駛はすぐには返答をくれなかった。
暫しの沈黙のあと、曹駛は口を開き、信じがたいことを口にしたのだ。
「メアリーこと麻理は、俺が殺した後に封印処理したから生き返りはしない、木尾は俺が数発殴ったらそうなった、透は、知らない、俺が目覚めた時にはいなかったからな」
「な……じゃあ、これは、全部曹駛がやったのか?」
信じがたい事である。いや、信じたくない。いや、信じる必要は無い。どうせ、また曹駛の性質の悪すぎる冗談だろう。そうに違いない。
「まぁ、そうなるなぁ……まぁ、この瓦礫の山は俺じゃないが、少なくとも二人をやったのは俺だな」
「な……に……な、何故そんなことを」
訳が分からない。なぜ、一体なぜ。
「ああ、それは、ちょっと内緒だな。話せないが、仕方ないだろ。みんな殺さないと、いけなくなったんだから」
その言葉は、まるで死刑宣告だった。




