120話・殴り込みだぜ・ヒャッハー!
―木尾杯人―
曹駛の場所が分かったと、曹駛の妹が言っていた。だから、これから殴り込みに出る。はっはっは、俺のこのバスタード・ソードが火を噴くぜ……いや、炎は出さないけど。出せないけども。
新しく手にしたこの武具融合という力で、どこまで通用するか試してやるぜ。俺だって強くなったんだぜ……あん時は、この剣貰っても全然戦えないし、むしろ完全な足手まといとなっていたが、今は違う。俺だって強くなった。だから、それを見せてやる。
それに、お前が負けた相手に勝ったなら、俺の方がお前より強いって事だろ。ふふ、間接的だが、お前を越えられるっていうだけで、今回の戦いに参加する理由には十分だぜ。
「それでは、そろそろ出発したいと思います。そこには、敵がいるでしょうし、転移した瞬間出合わせる可能性も高いです。気を付けてください」
いつもよりも、真剣な顔をして曹駛の妹がそう言った。つまり、敵はそれだけ強いって事だ。下手をしなくても死ぬ可能性は高い。むしろ、下手をしたらどころか、上手くいかなかったら死ぬと言う勢いだろう。
「では、再度、今回の作戦説明をします。まずは、私、木尾さん、透さんが先行して敵のアジトと思われる場所に向かいます。レフィさん、サキさん、満曳さん、恩さんは、少しの間待機してください。私達が、急遽撤退した際に敵がもしも紛れ込んだ時、もしくは、敵が何らかの手段で追って来た時、その対応をお願いします。なお、2時間経っても戻ってこなかった場合は、こちらが上手くいっている、もしくは苦戦している、最悪全滅している可能性が高いので、先ほどお渡しした札で転移魔法を発動させ追ってきてください」
その言葉に、俺と透は声で返事を返し、他の4人は頷きで了解の合図を返した。
「では、行きます」
曹駛の妹はそう言って魔方陣を展開させた。
視界にあるのは光のみとなる。そして、その光が消える頃。俺達は、荒廃した研究所のようなところにいた。
「ここは?」
どこに敵がいるか分かったものじゃないので、一応、小声で、そう問いかける。
「そうですね、詳しくは、恥ずかしながら、気絶した際に忘れてしまったのですが。昔はここに遺伝子研究センターがあったらしいです。しかし、研究内容が違法だったらしく、国にばれて今から数年前に潰されたということまでは覚えているのですが。それ以上はよく分かりません。ですけど、潜伏場所にするにはいい場所です。ここは、負の遺産ではあるのですが、元々の土地の持ち主が研究者とは、別の人らしく国は国で下手に手を出せないらしいです」
と、曹駛の妹はいつものような声の大きさで説明してくれた。隠密行動では無かったのか? と、言いたい気もしたが、声を出した時点で、大きいも小さいも大差ないのかもしれない。なので、俺もいつもと同じような声量で喋ることにした。こう、なんというか、コソコソ声って苦手だしな。
「詳しいな」
「ええ、まぁ……といっても、これくらいしか覚えていませんが」
なるほどな……透をチラッと見ると、腰の刀に手を掛けている。ちょっと警戒のし過ぎのような気もしないではないが、しかし、ここに留まり続けているってことは、トラップとかがあるかもしれないし、気を付けないといけないだろうな。俺も少しはそれにも警戒することにするか。
「それで、曹駛の詳しい居場所は?」
「そうですわね、それを知っていたら、直接飛べたのですが……申し訳ありません」
「そうか、まぁ、仕方ねぇよ」
ここを突き止めただけでも十分凄い。俺達なら、ここを探しとめるのにいくら時間が掛かるか分かったもんじゃないしな。
「それにしても、どんな大魔法でしょうかね」
「なにがだ?」
「そうですね、ここには無数の魔力線が張り巡らされています。いや、もう張り巡らすと言うよりは、まるで空気のようにあると言う感覚に近いような気がするレベルの量ですけど」
嫌な、汗が流れる……曹駛に妹は落ち着いているが、見れば、透の額にも汗が滲んでいる。
「つまり、何が言いたい?」
なんとなく予想はついたが、出来れば信じたくない。だが、俺は、自ら自分にとどめを刺す言葉を要求した。
「そうですね、私達がここに来た時点で、敵に場所を察知されていたということです。さて、そろそろ来ます」
や、やはりか……だから、最初から隠密行動なんかする気が無いかのようなふるまいをしていたのか……透もそれに気づいていたから、最初から刀に手を掛けていた……また俺だけか……まぁ、俺は魔法使えないし、察知も出来ない。ちょっと、情けなくなって来たぜ。
「ふん、来たのか……」
そう言って一人の男が扉を開けて俺たちの居る部屋に入って来た。その男の隣には黒い球体が浮いていた。
「鷸陽々さん……」
曹駛の妹が、恐らく敵の名前と推測されることを口にした。
「不思議だな、本当に不思議だ。曹駛の事は良く覚えていないが、お前の事は覚えている。誰だか思い出せなかったが、同期の兵の内の誰かにに連れられ、たまに訓練場などにいた記憶はあったが、ここにいるということは、きっと曹駛に連れられていたのだろう」
「私は、ほぼ覚えていませんわ、ただ、あなたのような人がいたような気がすると言うだけでして」
曹駛の妹と敵が会話をしている。知り合いなのか? 敵同士にしては、あまり険悪な関係には思えないが、それは、二人が無表情に見えるからだろう。どうやら、相手もまた曹駛の妹と同じで、感情をあまり表に出さないタイプのようだ。
「で、廃研究上に来たということは、曹駛を助けに来たのか?」
「はい、でも、あなたもこの部屋へ来たということは、それを見逃すつもりはないのでしょう?」
「まあな」
曹駛の妹が白い棒を取り出した。透が刀を抜く。相手は黒い球体を自らの目の前に移動させた。俺も、皆からワンテンポ遅れてからだが、剣を抜き構えた。まずは、小手調べ……ってわけには、行かないだろうが、武具融合はまだとっておこう。しかし、武具融合無しの本気は、最初から出させてもらおう。そうでないと瞬殺されかねないのでな。
「起きろ、グノーメ」
『最初から、起きています』
相手が、そう黒い球体に話しかけると、どこからともなくどこか機械的な女性の声が聞こえてきた。
「炎皇……焔邪、ましこ、解放」
透は刀から炎を噴出させた。
「ふん、あれは、精霊だ。俺達と同じな」
焔邪はそう言った。あいつもまた、精霊を味方につけているって事か……
「ええ、そう言うことでしょう。土というか、大地をつかさどる大妖精みたいです」
俺の心を読んでか、そう言った曹駛の妹は、目を紫色に光らせ、その服装はいつの間にか、巫女服のようなものに変えていた。何故に巫女服のようなデザインをしているかは分からないが、あれは、曹駛の妹にとっては戦闘服のような物らしい。
「爪牙解放」
彼らを見た俺もまた、臨戦態勢に入った。
「さて、戦おうか」
「ええ、そうですわね」
あまり感情を出さない二人のそのそっけない会話によって、今、戦いの火蓋が切られた。




