118話・見つけましたわ、待ってなさい。
―メアリー=フィン―
私は、武元曹駛の妹のメアリーですわ。お兄様は、最強である。絶対不敗ではないけれど、それでも最強だと思っていますわ。そうして、その妹である私は準最強でなければいけません。
お兄様は、少し変わった人だなと思います。どこがどう変かと言われますと、全体的に少しずつ変なだけなので、ここがこうなどと、分かりやすくは言えませんが、変だと思います。ですから、私もまた、少し変なのかもしれません。
でも、しいて変なところを上げるとすれば、圧倒的におかしなところが一つ……
肉親に興奮するのは、どうかと思いますわ……
あの日は、大分気持ちが悪かったです。大分……いえ、かなり……最高に気持ち悪かった……
そうですね、一目見た時は……感動的で、ええ、それはそれは感動的だったのですが……どうして、あんなことをなさったのか……
その日、私はいつも通り、薬を作っていました。薬を作って、薬屋に売り込みに行く。それが、私の仕事というより、私の収入源となっておりました。今も住んでいるあの家で作業をしていると、インターホンの音が鳴り響きました。どうせ薬屋が、また新しい薬を作ってほしいと頼みに来たのだろうと思いながら、扉を開けると……そこには、お兄様が立っていました。
正直な話、もう合えるとは思っておりませんでした。まるで、死人を見ているような……そんな気分を味わいましたわ。
遠征に行ってから、何年と経ったのでしょう。死亡知らせも聞きました。目の前にいる存在が、悪魔の類であることも疑いました。それでも、私は、涙を止めることが出来ませんでした。
「ただいま」
その一言は、私をその場に崩れさせるのに十分すぎるほどの力を持っていた。
私の折れた膝が地面に着くその前に、お兄様は私に抱き着いてきました。気が付けば、抱き返していた。信じていた、生きていると。でも、心の奥底では、どこか諦めていた。
だから、私は、その時の感動を、激情を、二度と忘れることはない、いつまでも鮮明に覚えているだろう……と思っていたんですけれど、その後の事があまりにもショック過ぎて、微妙に記憶から薄れています。
私は、お兄様にお姫様抱っこをされました。そして、椅子に座らせられる形で降ろしてもらいました。そこで、私は、やっとこう返したのです。
「お帰りなさい」
と。
そこから、えっと、お兄様にそこまでの旅の話をしてもらいました。今思えば、随分ベタベタと触ってきていた気もしますが、その時は、長い間会っていなかったからか、私もきにしておりませんでした。あそこで気付いていれば……本当に感動的な一日でしたのに……
その時の会話は、実に楽しい物でした。確か……多分……それで、えっと、最初に問題が起きたのは、夕飯も済ませ、お風呂に入っていた時なのですが、お兄様が故意に入って来ました。えーと、この期に及んで未だ疑わずだった自分を呪い殺したいところですが、一番の原因はお兄様なので、呪い殺すのはお兄様にしておきましょう。もちろん、救出した後に、ですけど。
その時は、再会の喜びと、もっと話を聞きたかったからか「久しぶりに一緒に入らないか」っていう、意味不明なお誘いを断らなかったのですが、今思えば、あの時もじろじろと体を舐めまわすように見ていた気がしますし、何故断らなかったのか全く分かりません。
そして、ついに問題の時間。それは、お風呂をあがって、寝ようとする。そんな時間でした。
まぁ、先に何があったか言うと……舐められました。全身を舐めまわされました……
衣服を全部はぎ取られて、全身をペロペロと……ああ、気持ち悪い。詳しくは思い出したくはありません。
もちろん、次の日には追いだしました。家から追い出しました。感動が台無しでした。
それから、また期間を置いて会った時にその日のその行動に対して問い詰めて見ても……「いや、嬉しさのあまりな……」としか、答えませんし、本当に意味が分かりません。嬉しさのあまり舐めるって、お兄様は一体何度捕まるつもりなのでしょうか。全く意味が分かりませんわ。
さて、そんなお兄様ですが。私だって、嫌いなわけじゃない……前置きが随分と長くなりましたが、そこが私の変なところですわ。
そして、もう一つ。私が、準最強であること。それは、私が力を身に着け続けることでのみ証明されますわ。生憎、私はお兄様と違って無から有を生み出すのはあまり得意ではありませんので、誰かが使っていた技などを盗み、自分なりにチューンすることで新しい魔法などを身に着けていきます。
普通は……ですが、私だって、私だけの技を、魔法を、持たないと言うわけではありません。私だって、オリジナルの技を持つことくらいあります。ただ、あまりしないと言うだけであって、全くしない訳では無いのです。
得意じゃない。それが、一番の理由ですが。その得意じゃないと言うのに大きな問題があるのです。なぜ、私が、新しく一から作るのを得意としないのか、それは、私の理想が高すぎるところです。
私のしたい事、私の望むもの、それらは、一からやろうとすると、なかなか苦労するものとなってしまいます。ですから、いくつもいくつもつくることが出来ないのです。それに、理想が高いだけあって、基盤となるものを作ることが出来ない上、中級や初級などのものをつくることもできません。ですから、私が作るものは、全て過程を吹っ飛ばした、最上級の物であることが多い。そして、今回使うのも、その類の魔法……いや、肉体改造に近いでしょうか。満曳さんの目を盗んだ時とほぼ同じ手法です。
一からつくると言っても、確執たるイメージが必要です。ですから、私は、過去の文献をあさり、私が欲しているものに近い力を見つけ、それに近づける……いや、むしろ追い越すようにした。そして、いま、完成した。
「……千里眼」
瞬間、頭痛が走った。鼻から血が噴き出る。それが、下におりてきて、口からも血が出た。視界が歪む、体の末端部が痙攣を起こしている。それに、身体が重い。全く動かせない。情報が、入りすぎている。どういうことか分からない。まだ、調整が、微妙、だ、った、かも、知れな、い。け、ど、、そ、、、、れでも、み、つけ、、、た、。。みつ。け・・、た。
お兄様を見つけた!!
急いで千里眼を解除し元に戻す。思考回路は、徐々に戻ってきたが。依然として世界が歪んで見えるし、体も動かない。これは……予想以上だった。あの不老不死になった時よりもひどいかもしれない。これは、遠くまで見渡すなんてものじゃない。世界の全て一気に見回すものだ。とてもじゃないが使えた物ではない。今回はお兄様の行方に完全に意識を向け、それだけに集中していたから、こんなもので済んだが。他の事にも意識を向けたり、何も考えずに使ったりしたら……たとえ生きていても、廃人になっていた可能性は高い。いや、確実にそうなっていただろう。
これは、もう少し……かなり調整が必要だろう。せっかく時間をかけて完成させただけに、こんなオーバースペックになったのはショックだが……でも、見つけた。お兄様を見つけられた。
このことは、身体が動くようになり次第、みんなに伝えて、すぐに出発しよう。
待っていて、すぐに助けに行くから。そう思いながらも、私はそこで力尽きて、深い眠りに落ちてしまった。




