12話・久しぶりに、超本気で戦いました。
20150403:更新しました。大して変更は有りません。
小さな山とも言えるドラゴンの体が震える。
武者震いか、もしくは……
大岩のような拳の片方は焼け焦げて使い物にはならなくなっている。
手負いとはいえ、一人の人間を相手取ることに何を恐れる。ただ、少なくとも、この人間相手に手を抜いてはいけない。と、でも思ったのだろうか。先ほどまでとは、両者の雰囲気が違う。
曹駛はもとより、ドラゴンの雰囲気も変わったのだ。
「行くぜッ!」
ランスもシールドも投げ捨てての全力疾走、向かう先はドラゴン。
ドラゴンの動きもさっきまでとは違う。曹駛の攻撃に注意しつつも、まだ動く左の手で曹駛を掴んだ。
そして、その最後の手で、曹駛を握りつぶそうとした。
「がっ……」
ドラゴンの握力である。それは人間の想像をはるかに超えている。
身体は鎧ごと潰され、曹駛は口から大量の空気と血を強制的に吐き出された。
しかし、曹駛の笑っていた。
ドラゴンは何か察したのか手を放そうとしたが、まるで粘着剤でもくっ付いているかのように手を開くことが出来なかった。
「かかったな……こいつは、とっておきだ……」
曹駛の体が急速に熱を持ち始める。
「人間爆弾」
そして、曹駛は、炸裂した。
辺りには焼けた肉の匂いと、生臭さが混在している。
ドラゴンの左手は曹駛の自爆特攻と共に弾け飛んでおり、手首から先が存在していない。
そして、曹駛は、大地に立っていた。
「まだまだ、終わらねぇ、羽根つきトカゲ」
曹駛はランスとシールドを拾い、装備し直してドラゴンと向き合った。
ドラゴンは、両腕が使えなくなったことに憤慨しつつも、目の前の男をどうするか考えていた。
「それくらい、いいハンデだろっ!」
曹駛は笑いながら、そう叫んだ。
ドラゴンはその意味が分かっているのかどうなのか、爆音のような咆哮を返した。
「それじゃあ、そろそろ奥の手と行きますか」
纏うは炎。絶対的な焔。
高純度の魔力を火とし、燃え盛る烈火は、己を包み込み敵を焼き尽くす。
唱える派、召喚術式、用いる派着装魔法。
「………」
曹駛の集中力は既に、ドラゴンの咆哮が気にならないくらいの物になっている。
曹駛を包む魔力は炎となって、陽炎を発生させる。
そして、炎は一転に集まり始め、珠となる。その珠の色は、どんどん濃くなっている。
その珠は、色が真っ赤な朱色になった時、弾けた。
「来いッ! イフリートォ!」
曹駛は爆炎に包まれた。
いや、曹駛だけではない。このコロシアム全体が爆炎に包まれた。
その炎はオーラでも、魔力でも、魔法でもない。
紛いもない、本物の炎である。
爆炎は全てを焼き払うほどの勢いで広がっていく。
そして、その中から、炎の精霊イフリートと業火を身に纏った曹駛であった。
「さぁ、こっからが、本番だぜ」
曹駛はランスを天に向ける。
その先には火球が精製されていく。
「喰らいなッ! フレイムボールッ!」
火球がサッカーボールほどの大きさになったところで、ランスの先をドラゴンに向けた。
その火球は大きさに見合わず、とてつもないエネルギーを秘めていた。
そして、ドラゴンに向けられた火球は、爆裂した……その場、ランスの先で……
吹っ飛ぶ曹駛。
大して被害を受けなかったドラゴン。
そして、声高らかに笑うおっさん。
「はっはっはー、久しぶりだったからな、失敗しちまった、はっはっはー」
「……げほっ……失敗した……じゃ、ねー、だろ……」
「……あっ……死んだ……」
曹駛は、息を引き取った。
そして、目を覚ました。
「お、生き返ったか」
「うるせぇ! 痛いのは痛いんだから、ミスんなアホ親父」
「いや、仕方ないだろ、久しぶりだったんだし、というか久しぶりだったのも、お前が呼び出してくれないから……」
「仕方なくねぇ、格好悪いだろうが、あと、俺は別に悪くない」
ドラゴンを目の前にして、言い合いを始める二人。
炎の精霊イフリートであるおっさんは、笑いながら言った。
「はっは、大丈夫、大丈夫。次はミスらねぇから、もっと魔力寄こすがいい、任せとけ」
「チッ、本当だぜ、次にミスったらいい加減俺もキレるからな」
「おお、怖い怖い、最近の若者は……」
「それは嫌味か? おっさん」
「それも、嫌味だろうに、若者」
ドラゴンは、二人が言い争っている隙を逃すつもりはなかった。その大きな口から、小さな家なら呑み込めるくらいの火球を放った。
はたから見れば、不意の一撃かもしれない。当然ドラゴンもそのつもりで放ったのだろう。
だが、二人は、当然その火球には気付いていた。
「「火はデカけりゃいいってもんじゃねぇ」」
「「大事なのは、火力と濃度だ」」
曹駛は、既にランスの切っ先で火球を完成させていた。
先ほど暴発したものよりも一回り小さいが、それ以上、比べ物にならないほどのエネルギー量であった。
熱がランスを溶かしていく。だが、ランスは溶解と同時に再生をしている。結果、ランスは形を保ったまま、地面に液体となった鉄の塊を落としている、奇怪な光景がそこにはあった。
その奇怪ランスの先には、真っ赤な珠があった。
その珠は、炎でありつつも、質量があった。
「「教えてやる、これが、これこそが本物の火球だ……ボルケーノボムッ!」
質量を持った火球は、ゆっくりとドラゴンに向かい始め、徐々に速度を上げていく。
そして、ドラゴンが吐いた巨大だが、質量の無い炎とぶつかり合う。いや、ぶつかり合うまでもない。質量を持った炎は、質量の無い炎を飲み込む。そして、より色濃く燃え盛ったのだ。
火球は速度を速度を落とすことなく、ドラゴンの腹に当たって爆裂した。
その威力は金属爆弾や人間爆弾なんか比では無い。
劫火。
辺りを焼き払うその炎には、その単語が良く似合う。
まるで崖を見ているようだった、装甲のようなドラゴンの皮膚を焼き砕き、自身が吐く炎に耐えれるように作られている内臓までも焼き払った。
「鎮火」
曹駛がランスを振るう。
すると、たちまち火は消えて行った。
「羽根つきトカゲの丸焼き、いっちょ上がりだ」
レフィが好きそうな料理名だな、と思い、曹駛は小さく笑った。
コロシアムからは、未だ煙が上がっていた。
「それにしても、久しぶりだな曹駛」
「ああ、まぁ、そうなるなおっさん」
「おっさんいうな、歳はお前より若い」
「だったら、お前も若者とか言うな、お前よりも年上だ」
「いや、精霊になる前も足したら俺の方が年上だ」
「そうか、じゃあおっさんでいいな」
「良くないわっ!」
「まぁまぁ、どうやら、兵やらなんやらいろいろ来たから、話はまた後でな」
「ぐっ……仕方あるまい、今は引っ込んでやる、だが、また近々呼べよ、絶対だぞ」
イフリートは、そう言い残して、曹駛の纏っていた炎と共に消えた。
兵団のやつやセンターの登録メンバーの奴らが、相当いそうでここに来たようだが、おせーんだよ、もう終わったわ、などと曹駛は心の中で悪態をついていた。
と、同時に、曹駛はそいつらが遅く来たことに感謝もしていた。彼らは戦いの場にいたところで大して変わらないだろうし、曹駛が力をあまり表だって使いたくないので、彼らがいたら、その強大な力を使えなかっただろう。
そうなったら、目の前の巨大なトカゲは倒すのは難しいことになっただろうな、と曹駛は思った。
さらに同時に、曹駛は目の前の状況をどう説明するか、酷く悩むのだった……
20150403:微妙に技名が変わっております。ですが、それだけです。
ファイヤーボール → ボルケーノボール




