115話・こんのっ、チート兄妹がっ!
―木尾杯人―
「あなたも気付いたようで。そのとおり、この騎士のモデルはお兄様ですわ。本物には及びませんが……本物の八割くらいの強さはもっております。どうか、気を付けて戦ってください」
いつの間にかそこにあった、4メートルは有ろうかという四角いレンガ造りの白い建物の上に、いつの間にか用意されていた、王座のような椅子に座っていた曹駛の妹は、腕を振り降ろし俺達を指差した。瞬間、曹駛モデルの人形兵がこちらへ飛びかかってきた。
早い……先ほどの奴らも最後にはなかなかのものになっていたが、比べ物にならない。
「カマイタチ」
またしても成長した、この剣は一振りで、大量の空気の刃をつくり出せるようで、十数個もの空気の刃が相手を目掛け飛んでいく……が、お返しと言わんばかりに相手も空気の刃を魔法で放ち、相殺してきた。
やはり、魔法は使えるのか……くっそ、俺だって使えねぇってのに。
曹駛の8割か……ほぼ本物だろうが、それ……
「くそがっ、ぬおおおおおおおおお、突風大砲!」
「……」
今の俺の最大火力、喰らってみやがれ……って、なんだその馬鹿でかいエネルギー球は……
俺の全力は、あっさりと破られた。その上、相殺しきれずにこちらに飛んできたエネルギー球の爆裂による爆風を躱しきれずに、左足に怪我を追ってしまった。
「ぬっ……」
ま、不味いな、透も足をやられたようだ……二人とも機動力を失った……か……
土塊の騎士が、地に降り立った。この威圧感……偽物であっても、格上だっていうのかよ。勘弁してくれよな……
「フレイムボール」
炎の球が曹駛モドキを狙って進んでいく。
「……」
だが、曹駛モドキは無言で、同じ炎の球を放ち、相殺させそれを塞いだ。だけじゃない……
曹駛は、目の前から消えていた……
「う、上かっ……」
透が、そう言った。俺は上を見たが……だが、あるのは、10メートル先の天井のみ……
「上には、いないぞ」
「ち、違う……そんな下ではない、もっと上だ。そう、儂らからでは見えないほどのな……」
「つ、つまり……」
「そうだ、空だ……」
その台詞と共に、曹駛は天井を突き破って、俺達の真上から降ってきた。
まるで……隕石だった……
俺達は、すぐさまその場から離れようとした。だが、隕石は目に入ってからよけようとしても、もう遅い。
「ぐっ……」
「ぬぅ……」
「……」
俺達は、直撃を何とか避けたものの、その一撃ではじけ飛んだ地面を数発ずつ受けてしまう。
「くっそ」
「やはり、強いの……」
「……」
俺達は、多大なダメージを負ったが、だが、相手も空気摩擦と衝撃で片手、両足を、失ったようだ。これなら……なんて、上手くいくわきゃねぇよな。
曹駛は、残った方の腕を地面に付けた。そして、瞬時に壊れた箇所が復活した。
なるほどな……戦って分かったぜ……あいつは、曹駛だ。紛れもない曹駛だ。俺が目指したあいつがあそこにいる。だから、倒さなければ……だから、膝ついている場合じゃねぇ!
「ぬおおおおおおおおおおっ!」
気力で立ち上がった。いけるぜ、俺は、俺だって、ピンチになるほど強くなるッ!
「あああああああああああああああああっ!」
更に、更に、この剣は成長する、俺も成長する。この剣も俺も生きている。どちらも、曹駛の力によるものかもしれないが、それでも生きている。
この剣は、曹駛が作った。
この俺は、曹駛に生かされた。
そして、俺達が、曹駛を倒す。そして、言ってやる。
「超えたってよ……」
頭に入ってくる。なんだ、これは……この剣の事、この剣の本当の力を、この剣の想いを……この剣が俺を認めたって事を……っ!
「行ける、行けるぞっ、今度こそ行ける……」
武器は、使う物でも使われるものでもねぇ。一緒に、戦うものだ。
お互い高め合い、お互い協力して、相手を倒す仲間、それが武器だ……言うなれば、一種の運命共同体ってやつだ。
「いくぜ……武具融合……」
俺の手にあるバスタード・ソードが光り出した。
手に巻き付いてくる、蔦のような物。それは、爪。胴を覆うように被さってくる殻のような物。それは牙。
な、なんだこれは……よ、よく分からねぇけど、なんかかっちょいいんじゃねえか? 融合前のようなど迫力はねぇけど、これはこれでいいだろ。
「ふむ、なるほどな……」
急に、炎が喋り出した。
「うわっ、びっくりした、急に喋るなよ……えっと、焔邪だっけ?」
「ああ、驚かせたか、すまない。だが、分かった」
分かった?
「何が分かったって言うんじゃ」
「ああ、それか……まぁ、いうなら、あの曹駛の人形を倒す方法をだ」
「な、なんだって」「なんじゃと……」
曹駛を倒す? そんな手があるのか?
「まぁ、聞け。あの曹駛の人形は、本物の八割と言ったな」
「ああ、そうだな」
「おそらく、それは、本当だろう」
「やはりか……曹駛と長くいたお前言うことじゃから、本当なのだろうな」
「ああ、そうだ、だが、あれは、あくまで曹駛本体の力の内の8割だ」
曹駛本体の……ああ、なるほど、そう言うことか……
「あの曹駛の人形は本物とは違い、俺達精霊が付いていない、そのうえ、武具融合も出来ないようだな」
武具融合できないって、本物は出来んのかよ……畜生、まだやっぱ超えれてねぇのかよ。せっかく勝ったと思ったのに。
「まぁ、ここまで言えばわかるだろう、そこを突くぞ」
まぁ、そうだな、せめて、あいつくらいは倒してやるぜ。本物は、また今度だ。
さて、行くぜ……なんだっけ、えーと……あの……そうだ、そうそう……
「さて、行くぜ、第二回戦の始まりだっ!」




