114話・だけどよ、勝利は貰うぜ。
―木尾杯人―
周りには大量の土塊の兵。対する俺達は二人。だが……俺達は、二人とも一騎当千の戦士だぜ。これくらい、なんてことはないぜ。
「ユクゾッ、ましこ、焔邪……解放」
「ああ、爪牙解放ッ!」
俺達は、互いに逆方向に飛び出した。
まずは、一撃、カマイタチを放ってやる。……やはり、予想通りだなぁ……こいつらは、数こそ多いが、一人一人はそんなに強くはねぇ。行けるぜ。
「ふんっ……フレイムボールッ!」
火球に呑みこまれ、大量の兵が焼かれていく。おお、怖っ……あの技は使われたくないな。
右に三体、左に二体、正面に五体。ああ、もう、しゃらくせぇ!
「おらおらおらぁ!」
バスタード・ソードをブン回しまくった。だが、奴らはこれを止めることは出来ない。背後から近づこうと無駄だ。こちとら、文字通り闇雲に振り回しているだけだ、だから、後ろから近づこうと、そっちにも剣は向かうんだよ。それに、矢鱈に振ってるって言っても、全力で振っている。掠って見ろお前らの体は吹き飛ぶぞ。
バゴン、バゴン、轟音を立てて、奴らは崩れていく。なんか爽快だぜ。よっしゃ、もう既に二十体は倒したぜ、このまま……って、あれ、と、止められた……今までは、止められなかったのになぜ急に……ッ!
「こ、こいつら……」
こいつら、六体掛かりで俺の剣を止めていた。うち三体は、完全に破壊され残りの三対もどこかしら壊れていたが……確かに俺の剣を止めていた。そして、左右後方からは、同時に鎗兵が飛び掛かって来た。不味いぞ、まさか止められるとは考えていなかった。ちっくっしょうがッ!
「う……ッおおおおおりゃああああああああっっっっ!」
強引に、俺の剣を止めた六体の土塊ごと、剣を振り回して、槍を弾いた。そしてカマイタチを放ち、周りを囲う兵を全て元の土に戻してやった。
「まだだ、まだまだだぁ、うぉりゃッ! カマイタチッ!」
特大サイズの風の刃を敵の固まっている所に飛ばしてやる。だが、二メートルはあろう盾をもった奴らが大量に集まって、ふ、防ぎやがった……だ、だが、連発には耐えられないだろう。
「連続カマイタチッ!」
一、二、三発目は、なんとか止められていたみたいだが、四発目で盾を壊すことに成功し、五、六、七発目は受け止めることが出来ず次々に切り裂かれた兵士たちは、土に戻っていった。
左右後方からまた槍兵か、飽きないな。今度は、自ら仰向けに倒れることで攻撃を躱し、三体の兵は互いに刺しあって、土に戻って行った。まぁ、こんなもんか……って、違う。こいつら、囮だっ……
仰向けになったことで気付いた。上から、一体来る。暗すぎて全く気付かなかったが、身体を逸らし間一髪、槍を躱すことに成功する。お返しに、剣を振るい、土に戻してやった。
これは……きついな。さっきやった、奇襲もそうだが、俺の剣を六体掛かりで止めたり、カマイタチに対し盾持ちを出して来たり……こいつら、成長してやがる……それに、最初こそこいつらの動きは統一性もなく、戦い方もなっちゃいなかったし、力も微妙な物だった。だが、今は違う……
「おりゃッ!」
バスタード・ソードを振り降ろした、だが、それを躱した敵は半身を持っていかれたものの、残った半身で殴り掛かってきた。
俺は、それを躱しきれず、胸で受けてしまった。体が吹っ飛ぶ、肺の空気が押し出される……最初に比べて、パワーも上がっている。それに……俺の吹っ飛ばされた先には、一体の兵が槍を構えて立っていた。
く、くっそ、こちとら肺を叩かれてきついっていうのによ……
「が……はっ……う、がぁ……ッ!」
意地で剣を振るって、そいつを切り倒し、このピンチは何とか乗り切ったが。一人一人が強くなってきている。このままいくと、いずれ……くそ、なんでこんなに成長が速いんだ。
「大丈夫か」
背後には透。勢いよく飛び出して行ったのはいいが、どうやら俺達は、数分もしないうちに、元の位置まで押し返されたようだな。畜生、なんてこった。一騎当千どころか、百体も倒せてないんじゃないか?
「ふむ……こいつら、学習してどんどんと強くなっていくようじゃな」
「ああ、そのようだな……それも、とんでもない速度で」
くっそ、マジかよ。雑兵に負けるのかよ。
そ、それは、嫌だ。絶対に嫌だ。
「嫌だ」
「む、何がだ」
「嫌だ」
自然と口に出ていた。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……い・や・だぁぁぁああああああ!」
そうだ、こんな雑兵の集まりにやられるのだけは嫌だ。やられるとしても強い奴だ。こんな一般兵の集まりみたいなのに……
「負けたくないィィィィィィィィ」
バスタード・ソードは、既にあちらこちらから、牙や爪やらが飛び出し過ぎていて、それが剣であるかどうかも分からなくなっていた。だが、そこからさらに牙と爪が飛び出してきて、本格的になんなのか分からない形状となった。この奇妙な形は、細長いドリアンのようにも見える。
「うおおおおおおおおおおおお」
俺が叫ぶのに共鳴しているかのように、バスタード・ソードが震える。成長する。おいおい、これ、本当に元の形状に戻るのか? そう思うほどに原型を留めていないこの剣は風を纏い始める。
まるで、暴風を手にしているようだった。
暴れ回る。俺の手にあるこの剣は暴れ回る。このまま、振るえば、あらゆる物を破壊できるだろう。それほどのパワーだ。
「喰らえッ! 突風大砲」
俺は、手にした暴風を全力で振り下ろした。すると……目の前の大地は抉れ、盾持ちごと、兵士が粉砕されていった。
「な、なんだ、これ……」
すげぇ……やべぇ……強いぞ、これ……か、勝てる。勝てるぞ、この戦い。
「うおおおおおッ! 突風大砲、突風大砲、突風大砲おおおおおおッ!」
連発していく。相手は、盾持ちを増やしたりとしているようだが、一瞬で破壊されるのなら、どれほど成長してもかなわない。暴風は、次々と兵士を土にしていった。
「む、それは、新技か……それほどの風なら、行けるかもしれん」
透が何か言ってる。一体どうしようってんだ?
「な、なにがだ?」
「その風、ここら一帯に吹き荒れさせることは出来るか?」
「ああ、もちろんだが、何をするつもり……だ……って、ああ、なるほど、分かった」
そうか、そういうことか。
「うおおおおおおおおおおッ!」
暴風が俺の手の中を中心として、吹き荒れはじめる。
そして、透は炎皇を掲げた。
「ハァッ! フレイムボール……分散ッ!」
火球が現れ、上に向かって飛んで行った。そして、その火球が破裂した瞬間……大量の炎が風に乗って、一帯を焼き尽くす巨大な炎となった。
「そうだな、名付けて、火炎地獄ってか」
「ふむ、いい名だ、それにしよう」
この火炎によって、兵は全滅したようだ。それに、夜が……終わった。ということは、一回殺したのか。この炎によって。
「俺たちの、勝ちか?」
「そうだといいがの」
「まぁ、そうはいきませんわ……あなた方は二人ですし、こちらも後もう一度の命は許してほしいですの」
と、言って現れたのは、メアリー。どうやら、一回殺されたのは認めるらしいな。
「もう一回だって、ああ、いいぜ、かかってこい、今の俺ならだれにも負ける気がしないぜ」
「まぁ、今のこやつと儂なら、十分戦えるだろうな」
「そうですか? じゃあ、戦ってくださいな」
そう言って、手を地に付けた。って、またなんか呼び出すつもりか? だからそれじゃ、勝てねぇってば。
「勝てない? それは、試してからのお楽しみですわ。詠唱は、もうとっくに済ませてありますの……姫に忠誠を誓いし最強の騎士」
現れたのは、たった一体。魔力切れってことか。装備は、ビッグランスに、タワーシールドとさっきの奴らに比べりゃ豪華だが……どうせ、魔力切れを誤魔化す為の物に過ぎないだろ。
確かに、完成度も先ほどの兵達よりは高い。だが、それもどうせまやかし。また一瞬で倒してやるぜ。
「そうですか、なら試してみてください」
またしても俺の心を覗き見てか、そう挑発をしてきた。だが、いいだろう、その挑発乗ってやるぜ。
「喰らいなッ! 突風大砲ッ!」
風の砲撃が、一体の兵を襲う。これで終わりだ。
そう思っていた。だが、終わらなかった。
その土塊の兵は曹駛の妹を連れて、消えた……いや、これは……
「転移……だと……」
ばかな、魔法を使った? いや、まて、良く考えろ。魔法を使ったのは、曹駛の妹だろう。俺ですら使えないのに、あの土塊の兵が魔法を使える訳が無い。
「うーん、転移を見抜いたところまではいいのですが、もう一つの推理は残念。魔法を使ったのは、私ではなく、正真正銘この騎士ですわ」
「……ッ」
嘘だ。そんな訳が無い。
「嘘じゃありません、じゃあ、そうですね……この騎士を倒せたなら、あなた方の勝ちでいいでしょう」
「なっ……本当にいいのか?」
「はい、もちろん……ですが、簡単に勝てると思わないように。先ほどまでの雑兵とは違いますわよ」
「どうやらそのようじゃな……」
そう言った、透の額には汗が滲んでいる。先ほどの火炎地獄の所為だと信じたいが……
「はい、流石ですわ、老爀斎様……この騎士には、モデルが存在しますの」
そこまで言われて気づいた。この装備……
「あなたも気付いたようで。そのとおり、この騎士のモデルはお兄様ですわ。本物には及びませんが……本物の八割くらいの強さはもっております。どうか、気を付けて戦ってください」




