113話・いやいや、やっぱ反則だろ。
―木尾杯人―
「真っ暗だな。思った以上に」
透がそう言う。
「まぁ……そうだな、良く考えたら夜の屋内だし、なんか知らないけど照明設備は使えねぇし」
先ほど、電源を入れようとしたのだが、何故か入らなかった。だから、この修練場は依然として暗闇に呑みこまれたままであった。
「さて、どうするか? 儂も、この暗さではいつものような戦い方は出来んぞ」
「位置が割れるからか……そうだな、俺の攻撃は一応風だし、視認できるようなものじゃないけど、それでも、轟音が出るし、大差ないだろうな」
風も炎も使えない。俺たちの得意な物が封じられた状況での戦い。本当にやり難いぞ。
まぁ、実際は使おうと思えば使えるし、使わなきゃいけない場面はそのうち来るだろうが、少なくとも序盤に使う利点がほぼない。だから、かなり不利な戦いだ。
「……やり難いな、予想以上に」
「ああ」
小声で会話しているが、声が思いのほか響く。もしかしたら、力を使うまでもなく位置を特定されている可能性はある。
それにしても、これは、一種の訓練だな。不利な条件でどう戦うかってことか……確かに、大事な事だろう。本当の戦闘では、いつも自分に有利な条件で戦えるとは限らないしな。
それと、もう一つ、チーム戦闘の練習も兼ねているのだろう。
俺も透も、どうやらチーム戦はあまり得意ではないらしい。だから、それも考慮したうえでの2対1だろう。流石曹駛の妹だ、そんなことまで考えていたということか。
「さて、まずどうする、即戦闘開始っていう感じの雰囲気が漂っているが……」
「そうじゃな、だがどちらにせよ、儂らからは打って出ることが出来んだろう、暗すぎて良く見えんし、探すのも一苦労じゃ」
「じゃ、迎撃準備をして、全方位集中ということでいいか」
「うむ」
ということで、俺と透はお互いに背中を預け、武器を構えた。ここからは集中し続ける事が要求される。慣れない戦い方になるな。
そうしてから、もう既にどれくらい経ったのか、分からないくらいした時。
「へぇ……なるほど……」
「どこだっ!」
曹駛の妹の声が聞こえてきたのだ。
「そうやって、私の攻撃を待っていると」
そう声が聞こえてきたことによって、より警戒を強める。
これは、集中疲れか、気を抜いてはいけないはずであるのに、なぜか、気が抜けてきた。
「それ、もう何時間してました?」
「何時間だと……」
確かに、随分と長時間こうしていたようにも感じるが、そんなに時が経ったのか?
「そうですね、来た時からずっとそうしていたとするならば、かれこれ6時間はそうしていたはずです」
「なっ……!?」
6時間? そんなバカな……それならば流石にもう少しくらい明るくなってもいいはずだろう……
「ああ、そうでしたね……ここは既に私が作り上げた暗黒の世界の中です。生生世世の刻……子……この中は永遠に0時ですわ」
ちょっと、待て。つまり、俺達が不利な状況というのは永遠に変わらないのか。むしろ、疲労が溜まった分だけ、さっきより不利になったぞ。
「それにしても、何時までも攻めてこないんですもの、時間も時間でしたし、少し寝させてもらったのですが、まだそうしていたとは……」
「ね、寝ていただと……」
マジかよ……一方的に不利な条件がどんどん重ねられていくな……
「まぁ、何時まで経っても攻めてこないようですし、お望み通り、こちらから言ってあげますわ」
と、言う言葉に続いて……これは、詠唱かっ!
「土塊の兵は、私につき従う」
やばいぞ、なんとかしないと……だが、この詠唱を止めようにも、相手の位置が分からない。この声もいろんなところで反響して聞こえてくる。これもきっと作られた世界の中故の事だろう。
「ここは、一つの世界。私だけの世界。私が治める世界」
魔力すら感じられない。一体、どこにいる。
「土塊の兵は、忠実なる姫の僕。その国で、私は退屈そうに外を眺める」
くっそ、このままじゃ……
場所が分からないなら、探し回るまでだっ!
「待てッ」
走り出そうとした瞬間、透に肩を掴まれ止められた。
「落ち着け……キャンセルを狙うな、恐らく無理じゃ……だから、キャンセルではなく、迎撃をするぞ」
「なんだと、だが、これが大魔法ならどうするんだ」
迎撃のしようがないほどの大火力の魔法とかを上から落とされたりした場合は、一瞬で終わるだろう。それは何としてでも阻止しなければ。
「まぁ、なんとかする。どうするかは決まっておらんがな、仕方あるまい……だが、キャンセルを狙うよりは、明らかに生き延びれる可能性は高いぞ」
「だがっ……くそっ、そうか、そう言うことか、分かった……」
くそっ、俺のしたことが……冷静さを欠いていた。あまりにも長い時間集中しすぎたもの有るのだろうが、随分イライラしていたらしいな。見れば、透の目は赤く光っている。どうせもう位置がばれていると知っての行動だろうが、それで俺を見ていたのだろう。そして、俺が冷静さを欠いている状態にあるということを見抜き、止めてくれたってわけか。
透は、俺と違って、長時間の集中にも慣れているようで、全く心を乱していない。
「兵よ出ろ、兵よ戦え、敵を倒せ、奪え、私を楽しませろ」
俺達は、再び背中を預け合い、集中力を高めていく。
「出でよ、たった一人の姫しかいない国のおもちゃの兵隊」
………
な、何も起きないぞ……し、失敗か?
「失敗か……ですか? いえ、成功ですわよ」
目の前には、目を紫に光らせた曹駛の妹がいた。
つまり、こっちの思惑は最初から筒抜けだったということか。だが、
「俺の目の前に来たということが、間違いだったな」
俺は、剣を振り降ろした。だが、その剣が相手に届くことはなく、四本の剣で止められていた。
「な、何者だ」
この暗闇は、特殊らしく、目が慣れてもおかしくないはずなのに、良く見えない。こいつらは……一体……
「こいつらとは、酷いですわね。紹介しましょう、私の兵隊さんたちです」
それらは、土塊だった。土塊が、人の形を取っていた。土塊は、剣や槍や盾の形をした土塊を持っていた。
「さて、戦いましょう。二人で一国の兵士相手にどれだけ戦えるか、私は高みの見物をさせていただきますわ」
そう言って、曹駛の妹は再び暗闇に消えて行った。
気配で気付いたが……一体何体いるんだ? 俺達は、既におびただしい数の土塊の兵士に囲まれていた。
「おいおい……2対1じゃなかったのかよ……」
自然と口から出たその言葉は、暗闇に呑まれ消えて行った。




