110話・なるほど、確かにお強いですわね。
―メアリー=フィン―
3対1という有利な状況がほんの数秒で逆転した。
相手は、二人を倒して、勢い付いているだろうし。……私も、一人では本気が出せません。
まぁ、出せたとしても、出しませんが。
私は、そもそもこういった模擬戦みたいなのは苦手でだ。なぜなら、私の戦闘スタイルは基本的に敵の死を目標点としているため。勝利を目標とする戦いは苦手なのだ。
「じゃあ……行くぜ」
「……ワームホール」
さて、殺気と同じ方法で突っ込んできた木尾さんをさっきと同じ方法でいなしたのですが……これがいつまで通用するか……
「ちっくしょー、なんだこれ」
「内緒ですわ」
「まぁ、分からねぇなら、何度でも突っ込むだけだ」
「なら、何度でも同じ目に合わせて見せますわ、ワームホール」
木尾さんは何度でも飛び掛かってくる。それを全て同じ手でいなしてはいるものの、このままではこちらからの攻撃が出来ませんわね。さて、どうやって攻撃しましょうか。
流石に威力の高すぎるものや、即死系のもの、毒物系のものは駄目だとして、弱すぎる攻撃が相手に届くとは思いませんし。ふーむ……
「ああ、だから、もう何だこれ」
「ですから、内緒ですわ」
「なぁーーッ!! もう、くっそ、それならッ! こいつでどうだッ! 爪牙解放」
木尾さんのバスタード・ソードから、また牙や爪のようなものが飛び出て来た。しかし、今回はそれだけでは終わらなかったようですね。風が……不自然に吹いています。
あの剣の元へ向かうかのように、強風が……吹いている……
「ははぁ、ビビったかっ!」
「……いえ、全然」
まぁ、死ぬことが無い以上怖いのは封印程度でしょうか。まぁ、回復出来ないので、手足と飛ばされたり、身動きを取れなくされるのも、地味に怖いと言えば怖いのですが、死自体はさほど怖くは有りませんわ。
「じゃあ、行くぜ、カマイタチッ!」
強風というよりは暴風と言うほどの風が、一瞬で過ぎ去って行きました、そして、見えない何かが、こちらに向かって飛んできている。確かに目には見えない。だけど、あそこまで強烈な力を持っていると、見えずとも一定の戦闘能力を持った人ならだれでも分かる。
あそこには何かある。そう、分かる。
「はぁ……、お天道様の番傘」
私の目の前に光の傘が現れる。この傘は、あらゆるものを弾いてくれる。木尾さんのあの攻撃の威力は分かりませんが、よほどの事が無い限り、この傘は壊れませんし、まぁ、大丈夫でしょう。
強い衝撃が、傘に伝わる。だが、傘は壊れない。
「ま、マジかよ……」
今ので裏が取れた。ブラフでも何でもない。弾くことに成功したようだ。
この傘の弱点は、本当に本命の攻撃を弾けたかどうか、自分で確認しずらい事なのですが、まさか相手から確認結果を頂けるとは。
「なんでもありかよ」
「まぁ、お兄様ほどではありませんが」
「がぁっ! くっそ、そういう理不尽な性能は兄譲りってか」
「そうですわね、実際、それが事実ですから、反論は出来ません」
そう、この力は全てお兄様譲りの力だ。
不老不死も、魔法も。まぁ、強いて言うなら薬師の能力は、私が自ら身に付けた物ですが、人体実験に自分の体を使えるのは不老不死のお蔭ですし、やはり間接的にはお兄様がかかわっております。
そもそも、私の能力の大半が発現したのは突然の事でした。最初は不老不死などには気付きませんでしたが、ある日の昼下がり、お兄様が遠征に行っている日でした。私の頭の中に、急に大量の情報が入って来ました。その日は頭痛にもがき苦しんでいるだけで終わりを告げましたが、次の日から不思議なことが起きました。
その知識をまるで最初から知っていたかのように。食べなきゃ死ぬことを知っているように。歩き方を知っているように。息の吸い方を知っているように。息の吐き方を知っているように。自在に使えたのです……知識の中にあることが。そして、そこで気付いたのです。漠然と、情報としてだけですが。
私は、不老不死であると。
実際にそれを確かめるのは、随分と後の事になるのですが。
そうですわね、まぁ、今思い出しましたわ。お兄様の言葉。
どうでもいいような行動が、どうでもよくないようなことを引き起こすようなほうが多いんだ。
そうですわね。勝利を目標とする戦いは慣れていないのですけど。一つ。面白いことを思いつきましたわ。
「雨乞い。あめ、あめ、ふれーふれー」
豪雨が降り注ぐ。地面は泥濘み始めてきた。
「おいおい、なんだこれ」
「目眩ましと思っていただければ」
目眩まし。この豪雨は良識の外にあるものです。ただの1メートル先すら良く見えません。それに、一応風封じでもあります。効果がどれくらいあるのかは不明ですが。この中で風系統の力を使おうとしても、レフィさんと違って精製型の風でない以上、水を取り込み過ぎて水系統となるので使えなくなるはずです。まぁ、相手が水系統も使えるのであれば、これは全く無意味であるのですが。
「ま、まさか、あれか、電覇気ってやつか? そりゃ、ちょっと待ってほしいぜ」
「さんだーおーら……? ああ、お兄様のあれですか? いえ、御心配なく、私はそれを使えないので」
正確には、使いたくないが正しい。
使えるには使えるのだが、お兄様とは違って私が使った場合私も感電してしまう。相手だけ倒したいのに、それでは意味が無い。
「じゃ、じゃあ、一体どうするんだ?」
「まぁ、それは、内緒ですけど」
私は、光りの傘を差しているため、濡れずに済んでいるが、木尾さんや他の皆はびしょびしょだ。
「さて、次のフェイズです。雨季がやってきて、夏が来るのかもしれませんが。それでは、普通過ぎてつまらないですわ。ですから、冬を呼びましょう。季節こいこい。冬こいこい」
雨は……少しずつ止みはじめる。だが、代わりに。かなりの量の雪が降ってきた。
「な、なんだ、こ、これ……と、というか……さ、寒い」
それもそのはず、何故なら、ここは局所的ではあるものの本物の冬が到来しているのだから。それに、木尾さんはびしょびしょに濡れている。だから、なおさら寒いのだ。
「く、くっそ、寒い」
「なら、暖めてあげますわ、夏を通り越して、更に熱い、水が水でいられないそんな世界があなたを温める。蒸々世界」
ふむ……これは、熱いですわね。
雪は一瞬で溶け、全て水蒸気となってこのあたり一帯をミストサウナの中、いや、それとは比べ物にならないくらいに濃い霧で包み込んだ。
「な、なんだ、これ、ビショビショになったら、冬が来たり、今度は蒸し風呂か?」
さて、目眩ましもここまででしょうか。
「ふむ。じゃあ、そろそろ。目眩ましも終わりでしょうか」
水蒸気となった、雪や氷や水は、雲となって木尾さんの上に全て集まった。
「な、なんだこれ」
そして、木尾さんの周りは既に無数のランドランススピアで取り囲んである。数本は喉元で止めてあるので、これで勝ち……でもいいのですが、それだと面白くないので。
「さっきは、電気を所望していたようなので、お望みどおり答えてあげますわ。サンダーオーラではありませんが、もっと威力の高い物です。心行くまでご堪能くださいませ、木尾さん……落雷落とし」
「え、いや、ちょっと、参った、参ったてば、というか、そんなもの所望してないって、ちょ、まッ……」
落雷は、避雷針となるランドランススピアので囲まれている木尾さんの元にピンポイントで落ちた。
「ぎゃぁああああああああああああああッ!」
ぷすり……煙が上がりました。まぁ、威力はそれなりに調整しましたし、きっと生きてはいるでしょう。
「私の勝ちですわ」
私はそれなりに誇らしげにして、彼に、そう言ってあげました。




