108話・それより、お前は誰だ?
―武元麻……メアリー=フィン―
スタリ……というよりは、ズドンと音を立てて、男が屋根から飛び降りてきました。
「その話、乗った。俺も参加せてもらうぜっ!」
その背にあるのは、巨大なバスタード・ソード……それも、かなりの業物……それに、見ただけで分かる。……強い。
得意なのは、見た目通り接近戦。それも、透さんよりも強いかもしれません。最初に透さんを見た時も、強いとは思いました。ですが……総合的な力は分かりませんが、少なくとも接近戦だけでみれば、おそらくあちらの方が上……
「まぁ、大船に乗った気分で……って、あれ? 俺、警戒されている?」
警戒されていることに、今さら気付いた男は、まいったな、と言いつつ、頭をぽりぽりと掻いていた。
さて、さきほど、協力していただけるようなことを言っておりましたが、それが本当なら大幅な戦力増強になります。ですが、気がかりなのは、まずあの男が何者なのかさっぱりわからないことです。唯一の問題であって最大の問題でもあります。
「えっと、どっちで呼べばいいのかな? メアリーさんでいいのかな?」
「はい、そちらでよろしくお願いします」
と、言ったものの、もう一つの名前を出されては困りますわね……一応、釘を刺しておきましょうか……
「いや、その、わかりましたから、メアリーさん。はい……」
ああ、そう言えば、心を読めるのでしたね。なら、心の中で言わせてもらいますが……
言ったら、どうなるか分かってますね……?
「ひっ……は、はい」
頭中で思い浮かべたのは、先日お兄様にやったあの毒物パンチを満曳さんにするイメージですが、そこまで怖がられるとは。
「え、えっ~と、その、紹介します。この、大きな剣を担いでいるのは、木尾杯人さん。安心してください。この国の元門番で、今は、何しているか不明ですが。僕たちと同じ、曹駛くんに助けてもらった内の一人です」
「おう、だから、恩返しってこったぁ。気にすんな。別に参加させてもらえなかったとして、俺一人でも行くぜ!」
「……では、信用しても良いのだな? 満曳殿」
「はい」
なるほど、お兄様も伊達に長旅をしていたわけでは無いのですね。遠征に出たきり帰ってこないし、心配していたのですが。こんなところで油を売っていたとは。まぁ、その油の恩返しがあるってことは、よほど格安で売ったのでしょうか。
その油は、消えかかった戦いの火を再び燃やす為の石油のようなものかもしれませんが。
「さてと、じゃあ、行くか」
「「「どこに?」」」
私、透さん、満曳さんの言葉が被った。
「え、いや、曹駛を助けに」
「「「場所は」」」
またしても、声が被りました。
「さぁ」
「「「はぁ……」」」
ため息までも被りました。
えっと、戦力としては、十分なのかもしれませんが……その、結構、頭の方が、残念のような……
「ああ、なんだお前ら、その顔。なんだその残念そうな物を見る目は……がぁーっ!」
「まぁ、実際、色々残念ですわ」
「ああ、もう、なんだと」
「いや、その、今のは、流石に木尾さんが悪いような……」
「ああ、くっそ、満曳。お前まで……」
「………」
「お前に至っては無言かよっ!」
木尾さんは、肩を震わせ叫びました。
「ああ、もう怒った。テメーら俺と勝負しろッ! 3対1でいいッ! かかってこいッ!」
木尾さんは担いでいたバスタード・ソードを片手で軽々しく持ち上げました。
「さぁ、どっからでも掛かってこい。修行の成果、見せてやるぜ」




