107話・転移先は、一体どこなんじゃ。
―老爀斎―
光が消えるころ、見た事もない所にいた。
「ここは?」
「さて、私もよく分かりませんわ」
「随分とクレイジーな判断だな」
「いえ、お兄様が残したままにした転移先ですわ、危険な場所であるはずがない……とは言い切れませんが……意味もなく、残したとも思っていませんわ」
信頼しているんだな……曹駛の事。
「あ、君たちは……一体誰だ?」
「ぬ……」
一人の中性的な男がこちらを見ていた……その右手は腰に差している小太刀に伸びている……やる気か……
「……誰だい?」
「ふむ……敵対するつもりはないが……そちら来るならば……戦わざるを得んだろうな」
辺りが静まり返る……まさに一触即発の状態といって差しさわりないだろう。
「君は……本当に敵じゃないのかい?」
と、言いつつ、彼は瞬きをしようとしたのか、目を閉じた……儂は……それに何か底知れぬ恐ろしさを感じ、彼の視界の外まで、彼が再び瞼を開くその前に移動した……
再び開かれた彼の目は……光っていた……紫色に……
あれが何なのかは分からないが、あの目で見られてはまずい。ただ、そう直感が告げていた。
「後ろかっ!」
「くっ……」
儂は、彼が振り向こうとしているのに気付いて、彼の視界の中に入らないように動いた。
「なっ……」
「振り向くな、その眼を閉じろ……これで、終わりだ……」
背後から彼に手を回し、喉元に鞘から半分抜いた炎皇を付けていた。
「降参です……」
さて、どうしたものかな……殺すのはどうかと思うのだ、実際、突然現れた儂らの方が怪しいし、こちらも自衛とはいえ、相手もまた自衛でやったに過ぎない。まぁ、少々過剰にやりすぎた気もするのだが……さて、本当にどうしたものか……
「あ~っ!」
「な、なにをしているのですッ!」
その聞き覚えのある声が耳に届いたのは、そんなことを考え始めたばかりの時であった。
「その手を放しなさい」
その声のする方を見て見ると……そこには二人の姫様がいた。
… … …
「すまない、満曳殿……大変すまないことをした……」
「いえいえ、最近ちょっとあってピリピリしていたもので、こちらこそいきなり戦闘態勢に入ってしまいすいませんでした」
「いや、だが……こちらは実際に攻撃をしてしまった」
「ですけれど、それは、感か何か別の物かは判断できませんが、何かで、僕の目の事に気付いたから攻撃をしてきたのですよね……あなたは、僕の視界に入らないように行動していたし、最後は目を閉じろと言いましたし」
「まぁ……直感ではあったが、その目にはどんな力があるのじゃ?」
「この目ですか……」
そう言って満曳殿は自分の目に手を当てて、またその目を紫色に光らせた。
「この目は、相手の心の中……本人すら気づかない、もっと深い深層部まで、それに本人を記憶さえも覗くことが出来るんです」
なるほど、それは、実に恐ろしいものだ。何を考えても、考えずとも、何をするか筒抜けとなると、実に戦いにくい相手だ。前線に出ずとも、ただ見ているだけで、全てを知られてしまう。本当に末恐ろしい能力だ。
聞けば、今は不在であるが、もう一人の同居人である恩殿は、人間でありながら魔法が使えるらしい……といっても、最近人間離れした人間を見てしまったが故、そこまで凄いと思えない儂もいるのじゃが……。実際、魔法が使える人間は特別な存在である。それも、完全な自力でとなれば、それだけで十分強い。モンスター相手ならたいしてかわらないのだが、対人戦闘となると、まだまだ不明な点が多く対策の取れない魔法はかなり強力な武器にもなる。
曹駛が、姫様を預ける場所をここにしたのもなんとなく分かるな。
「さて、その目で見たということは、もう分かるんじゃろ?」
「そうだね……っ……これは、少し、難しいかな……」
満曳殿は顔をひきつらせながら、そう返事を返した。
「さて、今日は、依頼に来た……曹駛救出の手助けをしてくれ……頼むッ!」
頭を下げ、彼に懇願した……彼らの力があれば……曹駛救出の可能性がかなり上がる。
「もちろん、当たり前です……そもそも、この命は、曹駛くんに助けてもらったものだし……恩は、まぁ、ちょっと分からないけど、僕は手伝わせてもらうよ」
「すまない、感謝する」
「その話、聞かせてもらったぜっ!」
屋敷中に声が響いた。
ストッ……屋根から飛び降りたのか、上から庭に、背に大剣を背負った男が降りて来た。
「その話、乗った。俺も参加させてもらうぜっ!」
完全に正体不明の男は、そう言った……こいつは、信用してもいいのだろうか……?




