106話・まずは、集合しよう。
―老爀斎―
儂は、歩いていた。それにしても大分歩いた。
でかいな……あいつの家……というか、あいつの妹の家……
儂は、今、曹駛の妹が住んで居る屋敷の門の前に立っていた。一応、ここまでイフリートに案内はして貰ったのじゃが……うむ……案内も何も、近くまでくればすぐわかるほどの豪邸じゃな……
それと、その近くまで来るとういうのが問題で……かなり遠い。というより、国境を越えている気がする。
「ああ、それにしても、でかい。というか、でかすぎる……軽く貴族級じゃ……」
何をしたら、そんなに金を手に出来るんじゃ……儂でも、こんな屋敷立てるほど金を持ってはおらんぞ。
「さて、どうやって、入ればいいのか……」
と思っていると、この厳かなもんには似つかわしくない安っぽく見えるボタンがあった。それに、これまた安っぽいシールが貼ってあり、そこには『インターホン』と書いてある。
「……押せばいいのか?」
本当に押していい物なのか分からないままに、儂はそのボタンを押した。
………ギィ……重く堅牢そうな門が開いた。
これは、入っていいということなのだろうか……そのまま、広く広すぎる庭を歩いて2分くらいして、玄関(というかまたしても門についた気分なのじゃが……)についた。
今度は、流石にインターホンはなく、どうやって入ったものか。
コンコン……といった形で、ノックをして、大きな扉を開けさせてもらった。
「失礼させていただく……」
かなり腰を低くして、中に入らせていただくと……
「……あなたは?」
黒いドレスを全身に纏った少女が話しかけてきた……
「最近、少し困った御客人も来られましたので、警戒はさせていただきますことお許しください」
「そうか……まぁ、急に知らない老人に来られては、警戒はするだろうな……」
「ご理解感謝いたしますわ、それで、どちら様?」
「儂は、老爀斎……というより、青石透と名乗っておこう。まぁ、曹駛の知り合いと言うか……同期とうか……まぁ、信じてもらえんと思うので、さきにこいつを見てもらいたい」
儂は炎皇を抜いた。武器を出したのだから、構えるかと思ったが、そんなことはなく、彼女は態度も表情も変えずそのまま対応していた。
「よぉ……たしか、麻理だっけ?」
「ああ、お兄様の……それと、私はメアリーです」
炎皇から出たイフリートをみてひとまずは納得してもらえたようだ。それと、名前は麻理ではなく、メアリーらしい。曹駛め、嘘をつきおって……
「久しぶりのところ悪いのですが、イフリートさん、その刀に戻ってくれませんか? 最近炎に関してあまり嬉しくないことが起きましたので、ずっとこの場に居てもらうと少し、気が立ってしまいそうですので……」
「まぁ、大体は、予測できる。お前らも戦っていたことは知っているしな」
そう言うと、イフリートは炎皇の中に戻って行った。
「それで、大体は推測できましたけど、お兄様は……」
「そうだな……奴らに封印されて連れ去られた」
「……そうですか……それは、恐らく……」
曹駛の妹は見て取れるほどに罪悪感を孕んだ顔をして俯いていた……
「……用件は、それの報告ですか?」
「いや……違う」
「それじゃあ、お兄様のお葬式日時のお知らせですか?」
「それも違う、物騒な事を言う出ない」
「それじゃあ……」
「曹駛を救出する、その手伝いをしてもらいたい……その依頼に来たんじゃ……もちろん戦闘などしなくてもいい、後方支援だけでもいい、だから、どうか、手伝ってくれ……頼むッ!」
「……当たり前ですわ、むしろお願いしたいくらいです……」
「それでは……」
「ええ、もちろん、むしろこちらからよろしくお願いしますわ……どうか、お兄様を助けるお手伝いをよろしくお願いいたします……」
少女は深く頭を下げた……その足元は、ぽたりぽたりと、水滴が落ちカーペットにシミを作っている。
「よし、まずは、仲間を集めよう……このままでは、流石に敗色が強すぎる……曹駛すら敗れた相手じゃ、このままでは勝てまい、だからと言って修行をしている時間もないのでな」
「タイムリミットがある……と……」
「うむ。だから、仲間が必要じゃ」
「それなら……少し、そちらの椅子にでもおかけになってお待ちを……」
少女は、そう言って屋敷の奥へと消えて行った。
儂は長時間歩いたのもあって疲れていたので、お言葉に甘え、エントランスにあったソファに腰を掛けさせてもらった。
そして、待つこと数分。少女は、二人の少女を引き連れて戻ってきた。
「始めまして、レフィ=パーバドです」
そう言った彼女は、エルフ。実際に見るのは2度目だが、この種族の者達はみな魔法が使える。きっと彼女も使えるのだろう。そして、彼女もまた、戦闘要員なのだろう。足に付けたバンドのようなものに挿している木の棒は、きっと杖に違いない。それも、かなり良い物であるだろう。
「えっと、私は……テンチェリィ……です。老爀斎さん」
この子は……戦闘要員ではない……のだろうか。実のところ分からん、判断が付かない。歳はかなり若く、まだまだ子供だが……まるで人を殺したことがあるかように思えるのはなぜだ……いや、きっと気のせいだろう。曹駛が負けたということで儂も気が立っているのだろう。
まぁ、元捨て子なのだろうな。風貌からして……なにを好き好んで、未だにその風貌でいるかは、なぞだが……
「ふむ……それで、これから何をしようというのだ? 作戦会議か?」
「いえ、それは、もう少し後ですわ……ついてきてください」
彼女は、そう言うと二人を引き連れて、どこかへ歩き始めた。儂も置いて行かれないように、ついて歩く。
そして、家の中であるにもかかわらず1分くらい歩かされて、着いたのは……風呂場だった。
べつに、これから風呂というわけではあるまい。それは、すぐに分かった。
なぜなら、壁に大きな魔法陣があったからだ。
「それでは、行きますわ……転移」
儂らは……光に包まれた……




