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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第六章・決戦。
105/203

103話・覚醒。

ブックマーク300件突破していました。

本当に有り難うございます。嬉しさのあまり、十数分呻いてました。

 ―レフィ=パーバド―


 男が笑いながら迫ってくる。


「ほらよ、極炎(ヘルファイア)

「……っく……」


 炎の波が迫ってくる。あれに呑まれれば、きっと死んでしまうだろう。それまでに私は何が出来るだろうか……心当たりは一つだけ……

 命を……削る……

 私には魔力がもう無い。なら、命を削って唱えるしかない。

 それに、今からじゃ、詠唱をしている時間もない。なら、無詠唱で魔法を使うしかない。

 曹駛の話では、無詠唱は出来ないと言っていた。でも、あの男はそれをやってのけた。つまり、実際は無詠唱で魔法を使うことはできるはずなんだろう。

 なら、私はそれをやってみせる。


 魔法のイメージを作る。

 魔法のイメージを作る。

 魔法のイメージを作る。


 なんどもなんども、ひたすらに、私が使う魔法のイメージを作る。時が止まっているかのようにも感じた。いや、実際に止まっている。もちろん止まっているがために口を動かすことは出来ない。視線を動かすことも出来ない。動かせるのはどうやら私の頭や心臓といった、自身の身体の内部だけのようだ。

 この感覚からして、これは、きっと麻理さんの魔法か何かだろう。視線を動かせないために確認は出来ないが、薄っすら麻理さんの魔力を感じる。


 魔法のイメージを固める。

 魔法のイメージを形状化させる。

 魔法のイメージを確執させる。


 私の使いたい魔法は、私が使うべき魔法は……


 大きな風。とても強い風。風の盾。いや……まだ足りない。もっともっと強い風が吹いて……

 風が炎にかつイメージが浮かばない。

 貫く風、吹き飛ばす風、風の槍……駄目だ、もっと大きな力でなければ……

 今まで私が使ってきた魔法じゃ駄目なんだ。もっと、もっと強大な物でなければ。

 でも、それだからと言って、風以外の魔法はもっと駄目だ。私の得意属性は風。それ以外の属性の魔法は、きっと無詠唱では放てないはずだ。

 全てを吹き飛ばせるほどの風。そんな風があれば……


 その風は、迫りくる軍隊を蹴散らし、其の国を守った。

 その風は、大気を揺らし敵軍を打ち滅ぼさんとする。

 その風は、その風の名は……


 確執としたイメージ。それが、唐突に、私の脳内に浮かんできた。


「私の持つ力を少し分け与えましたわ……だから、頑張ってください……」


 次に、麻理さんの声が脳内に響いた。

 きっとテレパシー系の魔法だろう。


「お役立て出来れば幸いです……それと、私のこの時間停止もあと1分程度しか持ちません。それまでに、なんとかする方法を考えてくださいませ……」


 麻理さんの力……あのイメージはそこから来ているのだろうか。


 強大な風だった。全てを薙ぎ払い横転させるほどの荒れ狂った暴風。その風には、かつてつけられた名がある。それが、事実であるのか、本物がどれほどの物であるのかは、分からない。でも、私が今欲しているのは、間違いなく伝説の中に吹く風。

 その風の名は……


 イメージをより強固に自分の脳に焼き付けた。それを再現できるように。

 そして、時が来てしまった。時間が動き出した。私は、その風の名を口にした……


「……カミカゼ……」


 炎の波は逆流した。強固な柱は折れた。鉄でできた天井の骨組みが崩れ落ちた。大理石の床が削れた。炎の波はより強力な波となって、その主である男を焼き払った。

 助かったと安堵の息を漏らした……次の瞬間、身体に違和感が走った。

痛み……なんてものじゃない。痛みじゃない。これは……もう……痛みじゃ……ない……

名付けるなら。純粋な苦しみである。痛いなんてものじゃない。苦しい。苦しい。苦しい。死にたくなるくらいに苦しい。いや、このまま死んでしまう。そんなふうに思えるほど苦しい。苦しい……

 これが代償だとでもいうのだろうか。私は、その場に倒れてしまったのだろう。よく分からない。ただ、身体が動かない。全身の感覚が無い。

 私は、このまま……死ぬ……?


「ははぁ~……やるなぁ……まさか、お前まで俺が使えないような魔法を使えるとは……お前らは、本当に殺すのがもったいないくらいだ……」


 男の服はところどころ焼けてボロボロだ。それに、先ほどまで持っていた本は手元にない。きっと、さっきの炎で焼けたのだろう。


「まぁ、でも、殺すけどな……」


 男は、掌をこちらに向けた。


「焼き尽くす極炎は、私の僕となりて、私に仇なすものを焼き払う絶対な炎となれ。その炎、何時をきっと焼き尽くすだろう。私は、それを祝福する。私は、それに歓喜する。ならば、僕なる炎はなぜそれをせぬか。よって汝は死。私は喜。それぞれ得る。僕は汝を焼き尽くす。死を待て、私は喜ぶ。さぁ、行け、僕よ……極炎(ヘルファイア)


 それは……詠唱だったのだろう……今更ながら分かった。彼が無詠唱であれほどまでに強力な魔法を唱えられていたのは、きっとあの本のお蔭だったのだろう……ああ気付くのが遅かった。それに、彼はあの本のお蔭で無詠唱で強力な魔法を放っていたのだ。それに対し、私は、自力でそれをした。

 なんで、曹駛が私に無詠唱では唱えられないと嘘をついたのか分かった。そうすれば、とてつもない代償を払わされるからだ……

 今度こそ……終わった……目を閉じたいところだが、そんなことすらできない。ただただ苦しい。目も動かせない。もう時は動いているはずなのに、私の時だけが、未だに止まったままのようだった……


「死ねっ……? あ……」

「殺させませんです」

「なっ……お前は……」


 男は、血を吐き出して、その場でよろめいた。


「クソがっ!」


 そして、振り返りざまに拳を振るった。しかし、拳は空を切って、男はバランスを崩しその場に倒れた。


「だ、だいじょうぶです?」


 私の目の前にいたのは、テンチェリィだった。

 なぜここに? 確かテンチェリィは、もう逃げたはずじゃ……


「て……て……ん……ちぇり……ぃ……」

「れ、れふぃさん……」


 最後の力を振り絞って声を出す。だけども、名前を呼ぶのがやっとで、「逃げて」とまで口にすることは出来なかった。


「くそが……」


 よろよろと、男は立ち上がった。


「わ、私が相手をします」


 テンチェリィの手には血濡れのナイフが握られていた。きっと、先ほど男を刺した物だろう。

 男は、懐から紙を取り出した。


「簡易発動・召喚」


 男はそう言った。すると、その紙は突然燃え始め、煤となって消えた。それと同時に、魔法が発動したようで、男はどこからともなく現れた剣を持っていた。


「いくぜ、嬢ちゃん」


 男は剣を振り降ろした。

 目を閉じたい。この先を見たくない。そう思った。

 だけど、テンチェリィはその剣を躱して、男の後ろに回り込んだ。それに、すれ違いざまに、男の腕を切りつけている……なかなか動きだ。


「えいっ!」


 そして、ナイフで背中を切り付け、男が右回りで振り向くのに合わせ、テンチェリィは右回りで男の背中を追うように周り、男の背後を取り続けた。

 そして、もう一回、男の背中を切り付けた。


「がぁっ!」


 男は苦悶の表情を見せた。

 次に男は出鱈目に剣を振り回し始めた。テンチェリィは、距離をとることで、それを躱し、柱などが崩れたことによって出来た石ころを、男の背中や顔を目掛けて投げ始めた。

 傷のある背中や、弱点の多い顔なら、テンチェリィの投擲でも十分ダメージを与えられるだろう。


「ぐっ……」


 テンチェリィは戦いなれているようにも見えた。なぜかは知らない。けれど、戦いなれているように見えた。

 けれど、いける。これなら、勝てるかもしれない。押している。


「ちくしょう……」


 男は、剣を振るうのをやめて、テンチェリィに投げつけた。テンチェリィはそれを躱すが、その隙に男はまたしても紙を取り出した。


「簡易発動・極炎(ヘルファイア)


 その魔法は……不味い……

 炎の波が現れる……その波はテンチェリィに向かって行った。

 テンチェリィも躱す努力はしたのだろう。だが、刺突や斬撃といった、点や線なら躱せるのだろう。だが、この魔法は、面……躱しきれない。苦し紛れに、上に大きく飛んで

その魔法を躱した。

 テンチェリィはこの魔法を躱すことが出来るくらい高く飛ぶ、脚力を持っていたようだ。それ自体が信じられないことであるのだが、何より、あの魔法を躱すということが出来ると言うのが驚きだ……

テンチェリィは躱したのだ……そう……この魔法は……

 だが、次は躱せなかった。

 次が来ることは分かっていたのだろう。だから、躱せるはずなのに、渋って最後まで、ジャンプという隙が出来る方法で躱したくなかったのだろう。


「簡易発動・プロミネンスノヴァ」


 小さな太陽が、テンチェリィを飲み込んだ。

 熱気というよりは、もはや炎そのものにも思えるほどの熱波がこちらにまで伝わる。

 その燃え盛る炎を見ていられなかった。今にも目を逸らしたかった。だけども、私には、瞼を動かす事すら許されていはいない。

 泣くことすら許されていなかった。


「さーて、今度こそ、お前の番だ。安心しろ、すぐ同じところに送ってやる」


 男は、私の目の前にいた。


「我が僕よ、我がもとに現れよ。瞬時に手の元へ。一瞬間もせずに我に使えよ」


 今のは詠唱だろう。事実男の左手には、またしても剣が握られていた。


「では、さようならだ」


 男が剣を振り上げた……そして、男の後ろで燃え盛っていた炎が一瞬にして、弾け飛び、消え去った。そして、そこには……


 て、テンチェリィなのだろうか……少女が一人立っていた……


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