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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第六章・決戦。
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101話・リベンジ。

 ―サキ=フォールランス=カムラ―


 暗く沈む意識の中。光を見た。

 まだ重い瞼を開いてみれば、目の前にはいつぞやの少女がいた。たしか、名前はジャクリン・メイそんな名前だった気がする。


「あ、あなたは……」

「もう大丈夫です。あなたは生きている」


 そう言うと、メイは腰の刀を抜き、後ろを振り向いて、迫っていた女の小刀を切った。てっきり弾き飛ばすものかと思ったが、まさか斬るとは……

 女は自分の武器が切られたことで後退した。


「これで、4対1、形勢逆転だね」


 椎川さんがそう言った事によって、彼女の標的が椎川さんに変わった。まずい……椎川さんは弱いわけではない。けれど、今、彼は、少し気を抜いてしまっている。このままでは……

 私は、急いで立とうとした。そして、立った……立てたが、その瞬間、先ほど小刀で貫かれた箇所に激痛が走り、倒れそうになった。どうやら、傷は治りきっていないらしい。だが、ここまで治れば充分。メイの力がどれほどのものなのかは分からないが、致命傷を短時間で動けるまでにしてしまうとは、とてつもない力だ。

 立ち上がり、地面に落ちてしまっていた槍を拾い、椎川さんの元へ駆けだした。

 案の定、気を抜いてしまっていたらしく椎川さんは、彼女の速度について行けず、フェイントも交えた彼女の攻撃は椎川さんの喉を貫こうとしていた。私は、槍を突き出す。

 ガキンッ……金属音と共に手に伝わる振動は、彼女の攻撃を止められたということを意味している。


「なっ……テメーといい、あの男と言い、そいつらと言い、なんでどいつもこいつも、殺しても殺しても生きてやがるんだっ! ふざけるなっ! こっちは、死んだら終わりだと言うのにっ!」


 彼女はそう叫んで、標的を私に変えてナイフを振るってきた。今度はあの爆弾使いがいない。いつの間にか、アキラが倒したようだ。それに、彼女は今、正気でない。ならば……まだ私にも勝機がある。


「来るなっ! 1対1で戦わせてくれ」


 私は加戦しようとしていた、4人にそう叫ぶ。


「ちっ! なめているのかっ!」


 彼女は突進して向かって来た。右手にはナイフ。心もとない装備のように見えるが、彼女はそれでも十分に強いだろう。油断は禁物だ。

 左からくるナイフを槍の柄で受け止め、とび蹴りを右手で受け流す。後ろからの回し蹴りをわざと地面に伏すことで躱し、仰向けの体制から3連続で突きを放つ。頸動脈、膀胱、アキレス腱と急所を狙う。頸動脈は手に持っていたナイフで、膀胱は何処からか取り出した、2本目のナイフで防がれたが、両方とも破壊した。それに、アキレス腱は防げなかったようで、彼女の左足はもう使い物にならなくなっているはずだ。


「がぁっ!」


 彼女は、またしてもどこからか数本ナイフを取出し投げつけて来た。だが、左に転がりそれを躱した。そして、彼女の上腕三頭筋を槍で突いてから、彼女から距離を取った。


「ぐっ!」


 これで、彼女は左の足と手が使い物にならなくなった。左からの攻撃には滅法弱くなったはずだ。

 そして、最後は、私の最高最強の技でとどめを刺させてもらおう。


 大丈夫、まだ……魔力はある。


「これで、終わりにしよう。お相手務めるのは、サキ=フォールランス=カムラ。何時は強敵であった」


 これは、私なりの強者に対する礼儀である。たとえ、相手がどんな者でも強いということは、それだけの何かをしてきたということだ。それが修行か、実戦か、それとも事件か、それは分からない。ただ、強者を強者にした、それだけの何かはあったということは確かなはずだ。だから、相手に礼儀を。


「すまない、さようならだ」


 私は、手に握られている槍にそう言ってから、槍を構え直した。

次の瞬間、視点が急に変わる。これは、テレポートの劣化版のようなものだ。テレポートは、目標座標に直接飛ぶ技。それに対し、私のこれは、ワープという物に近い。私自身が、目標座標に一瞬で移動する技だ。その場に転移するのではない、高速で移動するのだ。魔法によって、衝撃などの身体の負担は大分減っているが、それでも結構なダメージを受ける。

 元々、曹駛がテレポートでやっていたその技を、私は見よう見まねでやったのが、この連撃『フォールランス』だ。

 ある日、私も魔力を作れる数少ない人間の内の一人ということに気付いた。ただ、その量はあまりにも少なく。魔法の才能もなかった。だから、私が魔力を使ってできるのは、このワープ程度だろう。

 まずは、彼女から見ての左に回り、彼女の下半身を中心的に突く。必死に躱そうとはしているが、躱しきれず血が噴き出す。彼女の両足は見るも無残な状態となった。

 次に、右に回る、そして、何度も付くことによって、彼女の腕を落とした。

 最後に、私は槍を手放した。その槍は、姿を消す。

 私は素手で、彼女の急所をいろんな方向から殴りつける。そして、再び彼女から距離を取った。


「……とどめは……」


 まともに喋れないのか、かすれた声で彼女は尋ねてきた。


「もちろんする」


 ああ、もちろんだ。そのための技だ。

 これが、本当のフォールランス。いや、違う。曹駛ならできるのだろうが、私にはできそうにないからな。これでもまだ、偽物のフォールランス。だが、最初に使ったあれは偽物の偽物。それに対して、これは、まだ偽物であるだけ十分必殺足り得る技だ。

 轟音と共に、地面が砕け散り、その上にいた彼女もまた爆散した。辺りは、土煙に包まれた。


「けほっ、けほっ……一体何が……」

「すまないな、庭に大穴を開けてしまった」


 煙が晴れる頃、そこには大きな穴が有った。


「い、一体何をしたんだい?」

「椎川さん、簡単な話です。私はただ槍を移動させただけです。彼女のはるか上空へね」


 そう、私はワープを私の槍だけを対象にし、はるか上空へ飛ばしそこから落としただけだ。その槍の速度は上がり続ける。そして、その槍がついさっき落ちてきて彼女に直撃したというだけの話だ。

 本来は、槍を持って自分も移動するのだが、そうした場合私の体がもない。落下時もそうだが、上空に移動する前に、絶命する可能性が高い。私のワープはテレポートと違い長距離の移動は出来ない。それをすると体が燃え尽きるか、全身の関節が外れて、身体のパーツがバラバラに前に飛んで行ったりする。だから、槍だけ飛ばすしかない。

 そして、その槍も……一度この技を使っただけで壊れてしまうのだ。


「はは……凄い威力だね……」


 バタリ。椎川さんは倒れてしまった。


「な、椎川さん、大丈夫ですかっ!?」


 急いで駆け寄ると、彼にはたくさんの傷跡が……恐らく先ほどのフォールランスで飛び散った石ころなどの所為だと思われる、傷跡が……って私の所為なのかっ!

 周りを見渡してみると、奴井名さんも倒れていた。原因は同じと思われる。


「スゲーな、その技」


 後ろから聞こえた声に振り返れば、そこにはアキラがいた。


「いやー、なるほどそう言う技もあるのか。参考になるかどうかは分からんが、覚えておく」

「い、いや、そんなこと言っている場合では……」

「あー、まぁ、それに関しては大丈夫」


 アキラが指さす先を見て見れば、私にしたことと同じように、椎川さんと奴井名さんの傷を癒やしているメイがいた。


「あれで、大丈夫だろ?」

「は、はい、あ、ありがとうございます」

「よしっ、これで貸し借りは無しな。じゃあ、俺達はもう行くから」

「いえ、せめてお礼を」

「いや、いらねぇ、ここでお礼を貰ったら、せっかく無くなった借りがまた出来ちまう」


 そういって、二人は去って行った。

 しばらくして、椎川さんと奴井名さんは目をさました。

 雀林兄妹の事を聞かれたので、二人はもう行ったとだけ伝えた。


「そうか、行っちゃったんだね」

「まぁ、お二人は借りを返しに来たとか言っていましたし、用事はそれだけだったのでしょう。私も引止めたのですが、行ってしまいました」

「まぁ……それにしても、家……ボロボロだね……」

「そ、それはっ、す、すいません……」


 今すぐ土下座でもしたい気分だったのだが、実は今、私は地面に伏している状態で、ここから一歩も動けないどころか、指を動かすのですらつらい。体中がボロボロなのだ。最後にワープを連続で使ったのと、使い慣れていない魔法を使い過ぎたのが原因だ。


「あー、まぁ、それはいいけど、だって全員生きているんだし」

「……そうですね」


 青空の太陽がいつもより近くで輝いているように見えた。


今回のカーヴァンズ公国での戦いはこれで終わりです。

この後、動けないサキが日光でダウンしたり。穴を埋めるために、色々したものの、途中で面倒くさくなって、石を敷き詰めて露天風呂にしたり、蔵に置いてあるバブルアイランド産の大量の食材を全部使って、国にいる腕のいい料理人を集めて料理を作らせて、盛大に勝利のパーティを開いたりしたのだが、それはまた別のお話。

戦いが終わったのはここだけ。まだまだ、別の場所では戦いが続く。

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