99話・戦力差。
―サキ=フォールランス=カムラ―
爆裂音と熱波の中、私は走る。重い身体は気にならない。動けばいい。腕を動かし、槍で敵を突く。私の渾身の突きは自称蝶に軽々と受け止められてしまう、もしくは受け流される。当たる気配すらない。こちらが突けば、返しで何回か切りつけられる。もちろん、それらを弾いたり受け止めたりする努力はしているが、かなりの速度でかなりの回数を切り付けてくるので、全ては防ぎきれず、何カ所か切られてしまう。それに、この爆風の原因である、他種多量の爆弾に気を付けていなければ、切り傷どころでは無く下手をすれば体が吹き飛んでしまう。なので、彼女からの攻撃だけに集中も出来ない。だからと言って、私がこの場から引けば、敗色が濃くなる。奴井名さんは、恐らく近接戦闘が苦手だろうし、椎川さんは、近接戦は出来るが、彼女を相手にするのは難しいだろう。彼女との戦いに集中するためには、まずあの爆弾使いを何とかしないといけないのだが、それが、胴にも難しい。彼は、前に出てこず、後ろから自称蝶のサポートをするだけである。
「死ね、クソ女」
「口が悪いですよッ……!」
喉元を引き裂くように向かって来る小刀を槍の柄で何とか防ぐが、これがなかなか凄い衝撃で、少し隙が出来てしまう。その隙を見計らって、私の目の前に小型の爆弾が現れる。どういうことか、あの男は、好きな場所に好きな爆弾を好きなタイミングで出現させられるらしい。それに、この爆弾、威力は異常なまでに凄い物なのだが、範囲がかなり狭い。つまり、普通の爆弾ではない。爆炎は広がって2メートルといった所だ、だが、その威力からして、巻き込まれれば確実に死ぬだろう。だから、全力で躱す。しかし、元々隙がある状態から無理に躱したら、その隙は更に大きくなってしまう。その広がった隙が、強烈な爆風と爆裂音で、更に更に大きくなる。そして、私はその大きな好きでの度や心臓頭と言った、身体の重量箇所を重点的に守ることで、一撃死だけは何とか防ごうとするが、がら空きの足や腕を深く切られる。そんな風なやり取りはもうこれで4回目だ。
今、私の右腕に力が入らなくなった。
腕が限界を迎えたのか、今切られた箇所が悪かったのかは分からないが、ただ一つ言えるのは……この陣形も長くは持たないということだ。奴井名さんと椎川さんは爆弾使いを何とか倒そうとしているが、あちらもあちらで苦戦しているようだ。それにしても、あの爆弾魔、二人を相手取りながら、自称蝶にここまでのサポートをしてくるとは……強い……
先ほど、ここの兵士を操っていたのはこの自称蝶の女性だということは、もしかしたら、彼女は元々は戦闘員ですらないのかもしれない。それなのに、この強さ。
だが、爆弾使いの強さを見ていると、その説が有力であると証明されてしまう。だとすると、どうして彼ら彼女らを倒せるというのだろうか。彼のような化け物染みた人が集まった集団なんて、誰が倒せるというのか。
そんなの、あの人でも難しい……いや、無理だ。
完全な人心掌握。それに、自由自在に爆弾を操る力。共に、人間離れしたものだ。あれは、どんな努力をしてもきっと身につかないほどのものだ。
私の心は折れかけていた。
「あれれ、右腕動かなくなっちゃった?」
「それはどうでしょう、ブラフかもしれませんよ」
「きゃははっ! 決定、テメーの右腕はもう動かねぇんだなッ! いい気味だぜ、この糞女」
左腕も震える。ガタガタと震える。恐怖によるものではない。限界なのだ、左腕も……
彼女は先ほどから左腕ばかり狙ってくる。左手で持つ槍で左手を狙ってくる攻撃受けるのは難しいのだ。だから、どこを狙っているか分かっていても攻撃を防ぎきれず、浅くだが、何度か切られてしまっている。それもあって、もう、左手も……
カラン……
槍を落としてしまった、そして……息が出来なくなった。
「ケホッ……」
せき込み気管を確保しようとするが、してもしても、次から次へと、血が……
ふらり、私は、立っていられなくなって……倒れてしまった。
「サ……ん……目……して……」
「……キ……ん……」
奴井名さんと椎川さんの声が随分と遠くに聞こえる。済まない、私に気を取らせてしまった。
身体が動かない。左腕だけでない。全身が動かない。私の目は自然と閉じられてしまった。暗い世界に、落ちていく。ああ、懐かしい感覚と言ったら、懐かしい感覚かもしれない。
小さい頃は、よくあった。その度にグルック……曹駛が、助けてくれた。
あの時の私は弱かったから、よくこんな感覚を味わっていたのだ。私は強くなった、だがらこんな感覚を味会うこともなくなった。そう思っていた。けど、依然、私は弱いままだったようだ。今、ここに曹駛はいない。……終わりか……
嫌だ……死にたくなんてない……
なんで、こんなところで……
まだ、曹駛に何も返せていない。まだ、曹駛は私たちの家に帰ってきていない。それまでは死ねないはずなのに……
さよならの一言も言えないなんて……
ごめんなさい……
昔のように、謝っていた。いつか過去、今思えばだいぶ前のようにも感じられる。あの頃、よくそう曹駛に謝っていた。
走馬灯……これが……
嫌だ……けど……ごめんなさい……さようなら……




