第七章 終わりと始まり
「……パトリオット? なんでここにいるんだ?」
「zzz……」
【ふああ、なんじゃ、もう起きたのか? うぬ? パトリオットが横におるのか? こやつは昔からわらわのベッドに潜り込んできたりしていたからのう】
【しょうがないな……】
よほど疲れていたのだろう、パトリオットは泥のように眠っていた。しかし、その顔は幸せそうだった。相馬は仕方ないと呟き、もう少しだけ眠ることにしたのだった。
しばらくして、時間が来たのでパトリオットを起こし、眠そうにしているところに余っていた妹の制服を渡した。この場で着替えようとするので、慌てて止めて、部屋で着替えるように促した。
登校中、パトリオットはみんなの注目を集めていた。なにしろ澄んだ青い髪をしている人なんてこの学校にいなくて、顔もかわいいからだ、俺は今日のことを説明していた。
「お前は今日からおれのクラスに俺の従妹の設定で転校してくることになっている、クラスが一緒だからわからないことがあったら俺に聞いてくれ」
「うん……」
相変わらず無表情だが、小さくうなずいた。
「おっす、おお! そっか、今日からパトちゃんも一緒だったねー」
「俺は、お前が忘れずに学校に来れたことに驚きだよ」
「なにを、私だって覚えてることくらいあるもん」
「どうだか……」
俺と遥がいつものような会話をしていると、パトリオットが無言で手を繋いできた。
「ん? どうした、パトリオット?」
「相馬……手を繋いでいい?」
「あ、ああ」
やや、戸惑ったが、最初だし慣れてないと思い、手をつないでおくことにした。今度は遥がムッとした顔をすると、手を繋いできた。
「パトちゃんだけずるい、私も」
「お前は調子に……まあ、たまにはいいかな」
周囲の視線がちょっと怖かった。なかには、恨み言をぶつぶつ言っている奴もいた。
そうすると、栞がやってきた。
「おはようございます。みなさん……ってなんで二人とも手を繋ないでるんですか!? 私も繋ぎます。」
「栞……俺、もう、開いてる手がないよ……」
「ぐぬぬ……きょ、今日は諦めます!」
栞はしぶしぶ諦めた。
校門に着いたところで美鈴さんとフラムと緑葉の三人と出会った。どうやら待っててくれたらしい、パトリオットと手を離し、何時までも繋いでいようとする遥を引っぺがした。
【相馬君、フラムをおねがいね、私の妹ってことになってるから】
【わかりました。美鈴さん】
【よろしくであります】
フラムとパトリオットを職員室まで連れて行き、担任の先生にパトリオットを預け、俺は教室に向かった。
教室に入ると、一か月前とはうってかわって、みんなが俺に挨拶してきた。生徒会長になったからだろう、現金な奴らだ。
めずらしく、遥が俺のところに来なかったので、席を見てみると、机に突っ伏して寝ていた。疲れがまだ取れきってないのだろう。俺は仕方ないので、ゴールデンウィークの宿題の残りをやっていた。
そうしてるうちに、担任の先生がやってきた。
「おはよう。今日はお前らに嬉しいお知らせがあります。なんと転校生が二人やってきた」
その言葉にクラスのみんながざわついた、絶対美人だ! いや、イケメンよ! っと、クラス中が口々に転校生が男か女か言い合っていた。
「みなさん、静かに! 転校生は二人とも女の子だ」
そういうと、女子は落胆し、男子は飛び上がって喜んでいた。
「じゃあ、入ってきてください。倉木パトリオットさんです」
そういうと、パトリオットはしずしずと入ってきた。男子も女子はその澄んだ青い髪とかわいらしい顔に目を奪われていた。
「パトリオットさんは、倉木君の従妹で家庭の事情で転校してきました、自己紹介おねがい」
「私の名前は……パトリオット……」
そういうと、パトリオットは黙り込んでしまった。
「えーとパトリオットさん、なんか他にはないの?」
「コーヒーゼリーが好き……」
すこしだけ嬉しそうに言った。
「ま、まあいいわ、えーと、じゃあ丁度、空いてる席があるわね、そこに座ってくれるかしら?」
空いてる席は元春達の取り巻きの一人の席だった。位置的には栞の左隣にあたる場所だった。
「えーと、パトリオットさんはまだ慣れないと思うから、副会長の栞さん、しっかり面倒を見てあげてね」
「よろしく、パトちゃん」
「よろしく……栞……」
お互い、小さい声だったが挨拶をしていた。
次にフラムが入ってきた。整った顔立ちの転校生二人目でパトリオットほどではないがみんな注目していた
「フラムさんは三年生に姉がいます。先週転校してきたそうです」
「そういう設定になってます」
設定? みんなは顔にはてなマークを浮かべていた。
「自己紹介をするであります」
橘符螺夢と書いて、思わず俺は吹き出してしまった。
「このように名前は橘符螺夢であります。当て字じゃないであります。よろしくおねがいします。QED」
先生は唖然とする
「……はっ、空気にのまれた。とりあえず、フラムさんは生徒会長の倉木君に任せるわ」
「わかりました」
従妹の設定であるパトリオットを栞にフラムを俺に任せたのは、クラスになじんでもらうための配慮だろう
「さて、自己紹介も終わった、授業を始めるわよ」
そう言うと担任は、授業を開始したのであった。
休憩時間。パトリオットとフラムはクラスのみんなに囲まれ質問攻めにあっていた。
「なんで髪が青いの?」
「本当に生徒会長の従妹?」
「付き合ってる人いるの?」
「どこに住んでるの?」
「えーと……」
パトリオットとフラムは一斉に質問を浴びせられて困っていた。そこに遥は助け船を出した。
「はいはいー みんなー パトちゃん、フラムちゃん、困ってるよ、いろいろ聞きたいのは分かるけど、パトちゃんはここに来たばかりであまり慣れてないから、質問攻めはなしにしよう、それにパトちゃんとフラムちゃんはオカ研に入るって決まってるから」
そう言うとみんなの眼はうつろになり、みんなバラバラに去っていった。生徒会長になったときにかけた催眠のおかげだった。
「パトちゃんフラムちゃん大丈夫だった?」
「問題ない……オカ研……?」
パトリオットが不安げに聞いた。
「オカルト研究会、世の中の不思議を調べるという建前で遊ぶ部活であります」
フラムが嬉しそうに言った。
「相馬も入ってる……?」
「もちろん」
「そう……良かった」
「……パトちゃんはなんで、そんなにそうまに……」
そこで、次の授業の先生が入ってきたので、話は中断された。
あっという間に、昼休みになった、フラムはみんなに囲まれる前に迅速にどこかに行ってしまった。そして今日は売店のコーヒーゼリーが売り切れていた。みんなパトリオットにあげるためだ。パトリオットはみんなからもらった。コーヒーゼリーを嬉しそうに少しずつ食べていた。みんな、パトリオットのかわいらしい、食べ方に見とれていた。パトリオットはこのクラスのマスコットになりそうだと思った。そのとき、ゾフィー が俺に不平を言ってきた。
【パトリオットだけずるいのじゃ、わらわにもプリンをみんなに貢がさせるのじゃ】
【残念だが、ここの売店にプリンは売ってない】
【そんな……ありえないのじゃ……】
ゾフィーは愕然としていた。
放課後、俺は教師から転校初日の感想を求められているフラムとパトリオットを待ち終わったら、一緒にオカ研に行った。
「授業はどうだった?」
「退屈……」
「簡単すぎておもしろくないのであります」
二人とも不服なようだ。
オカ研に付くと、めずらしく、俺以外のみんながもうすでに集まっていた。
「遅いよー そうまー 」
「まあまあ、遥ちゃん、パトちゃんとフラムちゃんを案内していたんでしょう」
栞と遥は机でオセロをしていた。緑葉は新しいグリモワールを持ってぶつぶつ言っていて、美鈴さんは紅茶を淹れていた。
「ここがオカ研……?」
パトリオットが目を輝かしていた。
「細かいことより、あそぼ」
遥がパトリオットを引きずって行った。
「待て、待て、その前に次の目標を決めからだ」
そういうと、みんな顔つきが真剣になった。
「最初の目標、学校は事実上支配した。もう俺達の思う通りに動く、いつか、みんなの魂を吸い魔力を強化したり、それぞれ、自分の眷族を作るのもいいだろう、しかし、この世界を征服するには、まだまだ力が足りない、なので、敵方にばれないようにゆっくりと支配していこう、次の目標は西日本の支配だ。しかし、俺達はおとといに大きな事件を起こしてるからな……今しばらくは身を潜めることにしよう。以上だ」
みんなはそれぞれ、決意を固めた顔で頷いてくれた。
「よし、作戦会議も終わったことだし、YUNOでもして遊ぶか!」
「よしー 今日は負けないぞー 」
「私もコツを掴んできました」
「僕は負けない」
「あらあら、みんなやるきね」
「この紅茶もおいしい……」
「YUNO、奥深いゲームであります」
すでに勉強済みのフラムは置いといて、パトリオットにルールを説明してから、みんなでYUNOをして盛り上がったのだった。こんな時間もいいな、と思った相馬であった。
その夜の夕食はしっかり、プリンとコーヒーゼリー一個づつ買って帰り、二人とも満足をしたようだった。
相馬はベッドで寝転がりながら、いろいろと考えていた。
【どうしたのじゃ相馬】
【いや……学校を征服でき、魔力を集めることができ、その際、敵と戦いもしたが一人も仲間を失わず、そして新たな仲間が増えた……俺達の目標は案外早く達成できそうだな、と思って】
【油断は禁物じゃ、エトワールは21人もおる、そいつらが、この世界にいつ探索に来てもおかしくはないし、それにこの世界でも勇者があらわれるかもしれぬ、しかも、われらの目標はこの世界だけじゃなく。全世界の支配、じゃから、まだ、それの第一歩にしか過ぎないのじゃ】
【ははは、そうだったな……道のりは長く険しいか】
こうして、俺は、新たに気を引き締め、次の目標、西日本を支配する作戦を考えているうちに自然と眠りについたのだった。