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第二章 魔法使い

 いつもの通学道の橋を渡ったところで、いつものあいつがやってきた。

「やほやほ、昨日は大変だったね、夜坂さん無事でよかったね。しかしなんで急に昨日、いきなり助けるようなことをしたの?」

「昨日も言ったと思うが、生徒会長の後見人に相応しそうだったからで。なんとか声をかけたかったのと、あと、昔のリベンジができるかなって、思っただけだよ」

 半分本当で半分本当である。 

 「ふーん……でも、なんか、元春達に無計画で突っ込んでたけど、なんか作戦があったの?」

 鋭いところを突いてきた。ここは昔の俺が答えそうな解答をした。

「なかったかな。なんか体が勝手に動いちゃったんだよね。昔から許せなかったから、ついに耐え切れなくなった感じかな」

 遥は少し、訝しんで

「……そうまってそんなキャラだったっけ? 我、関せず、みたいな感じだと思ったけど。」

 今まで、そういう態度だったから、急に態度変えてしまったら、やはり怪しまれるか……

「一昨日、妹を見てたら、俺は何してるんだろうって不意に思って。それで、何かしたいと思ってな。それだけだ。それより、今日の学校で元春達にどう立ち向かおう、一応、護身用のスタンガンは持ってきてるけど。」

「ふふふー それは、私に手伝えってことかい? いいぞ、遥ちゃんは強いぞ、ただし! 条件が二つある。」

 想定していた言葉が来て、内心ほくそ笑んでいた。遥がけんかをつよいのは知っている。しかし二つ? 一つかと思っていたが。無茶苦茶なのが来なければいいが……

「……仕方ない、飲んでやろう、聞かせろ」

「一つ、夜坂さんをオカ研に入れよう!」

 思った通りだった。前からメンバーを増やしたいといっていたから、多分一つはこれだろうと、しかし、もう一つは?

「無理やりは誘うなよ、それで、もう一つは?」

「宿題一か月見せて!」

「くっ……まあ、いいだろう、その変わり赤点を取っても知らんからな。」

 宿題見せる程度か、変なことが来なくて良かった。

「ふふふー 遥ちゃんの強さを元春達に見せ付けるぞー」

 ここまでは予定通りだな、あとはクラスに入ってから、どのタイミングで、オカ研に誘ってくれるかで、栞の立場が変わってくる。信じてるぞ、遥、お前は馬鹿だが空気が読める奴だ。と、幼馴染の力を信じているいい意味でも悪い意味でも信じている相馬である。

 クラスはいつもと変わらない感じだった。ただ一つ違うことと言えば、元春達がいないことだった。

「あれ? 元春達いないね? なんでかな?」

「わからないな、何か俺達に仕掛けているのかもしれない」

 栞は一人で席に座っていて、授業の準備をしていた。だが、想定外のことが起きた。元春達がいないのを良いことに、別のクラスメイトが近づいて行ったのだった。

【まずい、別の奴からもいじめられていたのは知っていたが、接触してくるのが思ったより早い。このままだと、栞が我慢できずに力を使う可能性がある……それは避けたい。しかし、どう対処する?】

 そのとき、遥が栞に駆けよった。そして。

「やあやあ、しおりん」

「え? しおりん?」

「あなたのあだ名だよー ところで、オカ研に入らないかい?」

「どうしましょう……」

「そうまも居るし、楽しいよ! 一緒に世界の不思議を探そうよ」

「相馬が居るなら……わかりました。入部します」

「了解― よし、言質も取ったから、後でやめますはなしだよ!」

「……軽率だったかな?」

 遥がオカ研にさそったことで、ちっ、と舌打ちをして、栞に近づこうとした連中は離れて行った。ナイスタイミングだった。これで遥と俺が味方になった。これなら栞がクラスで孤立することもいじめられることもないだろう、何かあっても遥と俺が助ける理由ができたのも大きい。

「ところで空上さん、オカ研ってなにするんですか?」

「来てみればわかるよー それと、私のことは遥でいいよ、私はしおりのことはしおりんって呼ぶからー」

「あ、はい、よろしくお願いします。遥ちゃん。」

 こうして、オカ研に新しい部員が入ったのである。栞を仲間にする計画はこれで完遂したのだった。


 チャイムが鳴り、少し遅れて、担任が疲れた顔で入ってきた。いつもの適当な雰囲気ではなくまじめな雰囲気を感じ取り、教室がざわつき始めた。そして叫んだ。

「お前ら! 黙れ! ……大変残念なお知らせがあります。よく聞け。元春君、佐々木君、

伊藤君の3人が昨日、山沿いの廃工場で何者かと揉めて大けがを負った。まだ容疑者は捕まっていない。皆さん気を付けてくれ。そして、いいな!」

 教室が一気にざわめいた。そして一斉に栞と俺に視線が向けられた。まさか倉木君が……夜坂がまさかそんなことするなんて……

 みんな、いろんなことを囁いている。そこに遥が立ち上がって叫ぶ。

「みんな! しおりんとそうまは犯人じゃないよ! 昨日、元春君達に廃工場に相馬は呼びだされてたんだけど、それを無視して、そうまとしおりんは、屋上に二人で隠れてたんだよ! 屋上に隠れている二人をうち、ちゃんと見たもん!」

 そうなのか…… でもじゃあ一体だれが……

 完全にではないが、俺と栞は容疑者から外されたようだ。

「はいはい、みんな黙れ! クラスメイトが怪我をしたのは悲しいことだが、騒いでいても何も始まらねぇ、犯人は警察が見つけてくれるはずだ。だからみんなは安心しろ、俺もいる」

 さすが、先生だった。うるさかった教室はまだざわざわしているが比較的に静かになった。

「はい、一時限目は国語、俺の授業だ、ちゃんと宿題はやってきたか?」

 そして、いつもの授業が始まったのであった。

昼休憩、俺達三人は屋上で弁当を食べていたのであった。

「しっかし、元春君達が怪我だなんて……罰があたったんだね」

 遥が呟いた。

「内輪もめでも起こしたのかな?」

 遥は不思議そうに首をひねる。

「そうですね……私にもわからないですね」

「まあ、これで元春達の対策はもういいねー」

「まあ、不謹慎だが、そうだね」

 そこまで話した後、みんな、それぞれがのお弁当を開いたのであった。

「そうまはいつもコンビニのオニギリだね、バランス偏るよ」

 そういう、遥は親が作った弁当のようだ。女の子の弁当というよりも、スポーツ系男子が食べるくらいのボリュームの量の弁当だった。対して、栞の弁当は女の子らしいかわいらしい弁当だった。

「そうですよ、相馬、栄養が偏ると、風邪ひいてしまいますよ。……そうだ! 私が作ってきてあげましょうか? 自分で作ってるので、一人も二人も変わらないですから。」

「おお! それはありがたい、じゃあ頼もうかな」

 そこで、慌てた遥が待ったをかけた。

「まって! うちも作ってくる!」

「遥の弁当量多そうだが、それ自分で作ってんのか?」

「努力と根性と1パーセントの才能を駆使して、いつも自分で作ってくる」

「それお前が作ってるのか……だが、恐ろしく不安なのはなんでだ、やっぱり栞に頼むよ」

「やだー 私も作る、作る、作るー」

「……じゃあ、しょうがないから一日おきで頼む」

「やった、超たくさん作ってくるから!」

「ほどほどで頼む」

「私も負けません」

 なぜか、弁当戦争みたいなものが起こったのだった。次の日から一日おきで地獄と天国を見ることになるのだがそれは些細なことだった。

「そうだ、大事なこと忘れてた。今日の最後の授業にホームルームあるからそこで空いていた委員長になる。栞は書記をおねがい。」

「わかりました。」

「私は私は?」

「お前は事務作業には向いてねぇよ、また今度な、プリント整理とかしたくないだろ」

「むむむ、仕方ない、しおりんに任せるよ」

「頑張ります。」

 そして久しぶりの複数人で過ごした昼休みは終わったのだった。

授業の最後のホームルーム、もともと人気のなかった。委員長になり、栞は書記に無事になることに成功したのだ。

授業が終わり、遥が栞に近づいて行った。

「さあ! オカ研に行こう」

「あ、でも、今日委員会が……」

「五時からでしょー 大丈夫、大丈夫」

「そうでしょうか……」

「そうまも来るし大丈夫だって」

「まあ、俺も五時までは、オカ研に居るつもりだったし、一緒に行こう」

「わかりました」

 遥に引きずられていく栞、しぶしぶながらも付いていく姿は、どこか楽しそうに見えたのだった。

 オカ研の部室に入ると、また先に先輩が居る。目をまん丸くしている。

「あら? その子誰?……まさか新入部員!」

「そのまさかですよ、先輩! 自分から入りたいとか言った有能株ですよ!」

「自分からは言ってないですけど……あ、はじめまして、夜坂栞といいます」

「あらあら、はじめまして、私は橘美鈴といいます、これからよろしくね、栞ちゃん」

「よろしくおねがいします。美鈴先輩。」

 どうやら、先輩が下の名前で呼んだから、栞も下の名前に先輩をつけて呼んだようだ。

「さて、自己紹介も終わったみたいだし、YUNOでもしようかー」

 しかし、時計の針はもうすぐ5時を指そうとしている。

「すまんが、もう時間だ、早く行って、みんなの印象をすこしでも良くしたいんだ。」

 印象を上げる……それもあるが、本当の目的は、じっくりと生徒会のメンバーの観察をしたいということにある。

「そうまはいつからそんな優等生になったのかなー? まあいいや、最初は肝心だもんねー いってらっしゃいー」

「行ってくる」

 そうして、栞と二人で生徒会室に向かった。

「あれが、オカ研ですか? なんか怪しい研究でもしているとのかと思ってました。」

「まあ、ほとんど遊び部活と変わらんからなあそこは」

「それは安心しました。私、オカルトの知識無いですからね」

 栞はほっとしていた。

「生徒会のときは隣に座ってくれ、もし、何かあったら、俺はお前に触れて心で会話して伝える。」

「なるほど、それが早く出た理由ですか、わかりました。そうします。」

栞は俺の意図を理解したらしい、そんな事を話してるうちに、生徒会室に着いた。中に入ると、何名か先客が居た。奥の真ん中に座っている人が生徒会長かな? ネームプレートにそう書いてあったから間違いないだろう。

「こんにちは、2年C組の倉木と書記の栞です。」

「こんにちは、ネームプレートが書いてある所に座ってもらえるかしら?」

「ありがとうございます。では、失礼いたします」

俺達はそこに着席した。すると、小さく舌打ちが聞こえた。どうやら副委員長が俺の機嫌を伺うような態度に腹を立てたみたいだ。栞が手を握ってきて。

【感じ悪いですね。あれが噂の副会長ですか?】

そうだな、奴は一年生で圧倒的支持で生徒役員になり前生徒会長が急にやめ、副会長に抜擢された人物だ、今回の選挙の一番株だ】

【あとから一発仕掛けとくか】

 クラス会議までまだ時間があり、生徒会室も4人しかいなかった。そのとき、生徒会長が口を開いた。

「今年のクラス委員長は優秀そうな子がそろってるわね……私も残り少ない任期をがんばらないと」

「いまでも、噂を聞いてますよ、委員長さん、俺も今年の生徒会長を目指してがんばりますよ」

「何を言っているんだ? 次の生徒会はお前じゃなく、この僕になるんだが」

 副委員長は口を挟んできて、真っ向からの睨み合いになった。そして、俺と栞は驚くべきことに気付いた。よく見ないと透けていて気が付かないが透明な羽の生えた猫みたいなのが居た。

「何をぼーっとしている? さすがは愚民だな、言い返す言葉も出ないのか?」

「いや、そんな戯言を副委員長さんが言うとは思いませんでしたよ」

「委員長しかいないから、こんなことを言ってるだけだ、普通は相手にしないがお前はなんか危ない気がしただけだ」

 そこで、委員長が怒った。

「緑葉君に倉木君! 同じ委員会なんだからけんかをしない!」

 そして、お互いしぶしぶと矛を収めるのであった。そして、同じタイミングで手を握り会話をする。

【肩にいたのは、なんだ?】【肩に何か見えませんでしたか】

 クロストークみたいになってしまった。その質問にゾフィーが答えた。

【あれは使い魔じゃな、魔法使いのサポートみたいなもんかの、つまりあやつは魔法使いとして間違いないのう】

【! 敵ってことですか? どうすればいいんですか】

【まて、正体もはっきりわからないし、戦闘力が未知数だから今は様子見だ】

そういうと、俺は、あらためて副生徒会長の特徴を確認する。

緑葉真みどりは まこと 性別は男、耳くらいまでの黒い髪、、目は釣り眼気味で、きっちりとした服装もきつい印象に拍車をかけていた。

 しかし、もうエトワールが来たのか? いや、まだ大きなアクションは起こしていない……元春達の件がばれたか? いやそれなら昨日の夜の時点から今までの間で隙があった俺に攻撃を仕掛けてくるはず。じゃあなぜ攻撃をしてこない? まだばれていないだけなのか?

【……ゾフィー どう思う?】

【エトワールの追手としては早すぎじゃ、近くでこの世界に転移してきた魔力の形跡もない。おそらく、彼女はエトワールじゃないはずじゃ、確定はできないがの】

 ふむ、探ってみる必要があるな、どうする? 相手が得体のしれないのがまずいな、しかし尾行して気付かれるのも非常に厳しい……先に手を打つか?

 考えてるうちに、役員も集まってきて、会長が、生徒会始めの合図を出していた。重要なことは栞が抜け目なくメモを取ってくれていた。

 そして、生徒会が終わった。さて、行動に移すか、まず、栞に4階の空き教室で待機してもらった。俺は栞に比べて逃走能力がないので、1階のトイレで栞に空間に穴をあけてもらい様子見となった。そして、栞はほどなくして変身をすると、魔力に気が付いたであろう、二人のうち一人が反応して4階に向かうのがわかった

 4階の空き教室

「お前は見たことないな、新手の妖怪か?」

「妖怪? 知らないです!」

栞は妖怪つまり、この世界にも魔族もいるのかと、この世界の認識を改めた。

「最近、いろんなところで、魔力が感じられるが、お前か?」

「私はあなたをぶっ倒すです!」

「そう……答えないのだな……なら容赦はしない」

そういうと、緑葉は小さく呪文を唱えた。全身が光に包まれたと思うと、魔法使い特有の帽子をかぶり、髪が青色になって、黒いコートを羽織っていた、片手には本を持っていた。

「僕は、緑葉真、藍の教会オルキデ、の魔法使いだ、一応ここの地区の総括を任せられている」

「魔法使い? エトワールじゃないのです?」

「エトワール? なんだいそれは? まあ、お前は今から僕に倒されるから冥途の土産に名乗ったまでだ」

「別にいらないです」

そこまで、栞のちょうど真横にあたる壁に作ってもらった針の穴のようなから覗いていた。

【この世界にも魔法使いが居たのか、それに妖怪も……しかしプライドが高いのか? 名乗ってくれてとてもありがたい、おかげで正体がわかった。しかし、栞は外で魔法の練習してたのか?】

【与えた能力は魔力をあまり使わないから探知されにくいのじゃ、恐らく、空を飛んでみたりしようとしたんじゃないかの?】

 多分ゾフィー の推測で概ね正しいのだろう。

【しかしエトワールじゃないだけよかったが、状況はそんなによくないな。ゾフィー今のバンパイアとしての力と空間制御の力で栞は勝てるか?】

【十中八九無理じゃ】

【だよな、まあ、勝ち目があっても、適当に煽って、逃げる作戦だったからな】

【逃げるだけじゃダメなのか】

【賭けだが、煽ることにより、援軍を呼ばせないためだな、プライドが高い奴なら一人で始末したいと思うから、間違いなく呼ばない。】

【ふむ、そうことじゃったのか】

【まあ、栞に危なくなったら逃げろって言ったからな。大丈夫だろう】

 俺は楽観的に見ていた。

「しかし、副委員長は弱そうな魔法使いです。漫画みたいな髪をしてます」

 あ、まずい! と相馬は思ったが、すでに遅い

「お前はなぜ僕が副委員長と知っている?」

「それは、あなたが有名だからです」

「この学校の中だけではな、それにこの場所を選んだのも怪しい、つまりお前はこの学校の生徒というわけだ」

 栞はしまったと思った。こちらの情報はあまり漏らさないようにしていたのだが、つい口に出てしまった。

「ふん! そういう人ほど口がまわるです」

「……」

「もう、言うことはないのですか? じゃあこっちからいくです。」

栞は時空を切り裂いてそれを飛ばした、黒い刃が緑葉に飛んで行った。しかしそれを緑葉はひらりと交わした。後ろには線のような。跡が残った。

「珍しい攻撃をするな……じゃあ、こちらも行くぞ」

 手を前に出したと思ったら。複数の緑の閃光が鞭のように襲ってきた。それを栞は前に空間の穴をあけ飲み込んだ。

「その程度ですか? 笑いが出ますです!」

 言葉と裏腹に栞は冷静に状況を分析していた。相馬に言われた目標……相手の正体を分析し、そして出来るだけ挑発する。は完遂していた。だが栞はまだもうすこし自分の力を試したかった。

 次に栞は隣の空間に穴をあけ、手を突っ込んだ、そして遥の真後ろに出現させ、魔弾を放った。しかし、当たる直前で魔弾は弾けた。どうやら魔法障壁にはじかれたようだ。

「なんでです!」

 どうやら、栞は魔法障壁の存在を知らなかったようだ、俺も後から知ったのだが。

「そうかやはり威力が弱いな。お前……そんなに魔力ないな。」

 栞はびくっとなった。魔弾を放ったせいで、魔力が少ないことがばれてしまったのだ。

「茶番はここまでだ、そろそろ、終わりにする」

「それは、やってみないとわからないです」

 栞は自分の血を槍に変化させて、投げつけた、しかし、はじかれて霧散された・

 緑葉は手に持ってる本を広げた。

「愚民には勿体無いくらいの強い魔法だが。周りに人もいないことですし、巻き込まれる心配もないだ。僕のことを侮辱した罪……地獄で詫びるがいい!」

【まずい、魔力が強くなってるのが、私でもわかるです……逃げないとです】

 栞はそう心の中で思い、とっさに下に空間の穴をあけた。

「雨の降りし大地、雲から落ちし雷よ、汝は緑の代行者なり、天と地を結ぶ世界樹よ、我にその怒りを与えたまえ、深い緑のリーフライジング

 遥が詠唱を唱え終えたとき、同時に複数の黄緑の魔法陣が空中に浮かび上がり、光った。その瞬間耳をつんざく爆音がした。後ろの壁はもともと何もなかったように完全に破壊されていた。

「跡形もなく消し去ってしまったか? まあ僕を侮辱した罪と思うことにする……しかし、やりすぎた、後片づけが面倒くさいな……」

 一度隣の部屋へ移動して、戻ってきて、長めの呪文を唱えると。隣の部屋と同じような壁ができていた。それが終わると変身を解いていた。

 そうしているうちに、誰かが階段を上がってくる音がした。

「なんだ、何ごとだ?」

「ん? 先生どうかされましたか?」

「すごい、轟音がしたからな、緑葉はどうしてここにいるんだ?」

「ああ、恋文みたいなのを貰ってですね、それに『4階の空き教室に来てください』と書かれていましたので、ここに来たのですね、そしたら、ここに壊れたラジオがあって、誰かのいたずらで大音量で流れ始めたんですよ、今は壊して、外に投げ捨てました、まったくひどいいたずらをする人もいるんですね」

 堂々と嘘をついていた。

「そうなのか、まあ無事ならよかった。でも、ラジオを外に投げたんならごみになるから後から回収しておけよ。」

「片づけておきますよ」

 そして先生は去って、行った。

「ふう、これでこの二日間あった、魔力の反応は無くなるはずだな」

 そのとき、肩の猫が緑葉に話しかけてきた。

「まってマスター、マスターが呪文を唱え終える直前に敵は変な術を使って一階に逃げて行ったわ、そこで魔力が途切れてしまいましたが、それに、まだ魔力が残っています」

 そして、その猫はこちらを睨んだ。そのときちょうど栞が変身を解いたみたいで、穴は消えた。

 相馬は、栞に逃げる時は一度、一階の女子トイレに移動して、そこで変身を解いてそれから屋上に来るように指示していた。逃げる為の攪乱させる手段である。そして急いで待ち合わせ場所である。屋上に上がってきた。

「あ、危なかった。あれをまともに喰らってたら何も残っていなかったですよ。逃げるのが間に合ってよかった。」

 そして、屋上で恋人を装うように手をつなぎ、心の中で三人の会話を始めた。

【なんですかあれ! あんな強い人だったなんてわかりませんでしたよ!】

【まあ、落ちつけ栞、俺も想像以上だった。】

【あのレベルは魔法使いの中では中の上といったところかのう……わらわの世界ではもっと強い魔法使いが居たからの】

【あれで中の上か……きついな、どうしたらあのレベルまで行けるんだ?】

【魔王のわらわが付いている相馬も含み、魔力を蓄えて行ったらいずれどんどん強くなれる。それが魔物の強みじゃな、人間は魂を他人から奪わなければ素質が決まっているから強くなるのに限度がある、じゃが、人間の強みは魔力を使った後の回復が早いから、すぐに魔力が回復するところかの】

【それは知らなかったな、あと、栞は外で魔法の練習をしていたのか? あの緑葉に探知されてたようだが】

【そうですね、練習してました。これからは外で魔法の練習はしないようにします】

【そうじゃな、あと、栞に言い忘れておったが、魔法はちゃんとした知識がないとなかなか身に付かないから、この街が魔力を使っても安全になったら、相馬と一緒に教えてやるのじゃ、それまでは、バンパイアとしての力や空間制御の力を練習した方がよいのじゃ。それなら、さきの魔法使いにも探知されにくいしの】

【そうなんですか、じゃあ空間制御の力だけ練習しときます】

【それは、そうとよくやった、栞、空間制御があんなにうまくできるとは、たくさん練習をしたんだな。あと、作戦通りやってくれて良かった、おかげで相手の正体もわかったし、相手の一人はあの魔法使い一人だけということもわかったからな……しかし、この世界にも魔法組織が存在するなんて、なんだっけ? 藍の集団だっけ】

【藍の教会です。どんな組織か見当がつかないですね……この現代に魔法が知れ渡ってないことから秘密組織でしょうね】

【まあ、そうだろうね】

【ほれ、わらわの言った通りこの世界にも魔法使いはおったじゃろ?】

 ゾフィー は自慢げに言った。よほど前笑われたのが悔しかったのだろう。

 しかし、誤算が二つある。一つは栞が生徒とばれてしまい、学校では今まで以上に魔力は使いにくいこと、二つ目はあんな小さな空間の穴でも気づかれたことだ。これで俺というブレインの存在がばれてしまった。しかし、お互い正体がばれてないのが幸いだった。

【……栞、危ないことさせて、ごめんな】

【まったくですよ! 怖かったんですからね! 今度ちゃんとお礼してください!】

【わかったよ、何がいいんだ?】

 栞はイエスを貰えると思っていなくてどきっとした。そして蚊のような声を絞り出した。

【あ、はい……デ、デートしてくれませんか!】

【なんだ、そんなことか、この地区が安全になったらしよう】

【よかった……断られたらどうしようかと思ってました】

【じゃあ、今から断ろうか?】

【そんないじわるはだめですよ!】

【わらわの話は無視かい、いいもんね、今度相馬が寝てる間に勝手に体動かしてプリン食べに行ってやるわい】

 と、最後の方は適当にふざけ合っていた


緑葉真とやりあってから一週間、俺は生徒会選挙の情報を集めていた。うちの学校は、各学年6クラスあり、1クラス30人程度の人数である。調べてく内に次の生徒会長の最優秀候補はやはり1年で副会長を務めている緑葉だった。

どうやら緑葉はスポーツもそれなりにできたので遥みたいにいろんな部活からスカウトされていた。しかしそれを全部断り一年の時から生徒会の役職に就いたのだった、そして一年のころから副会長に抜擢されるという特例が出るほど優秀だった。

そして、現在、緑葉への対抗馬は今のところ俺だけである。俺はというと、とりあえず、魔眼の力を駆使して、同学年の支持を俺にあつめるくらいしかできていない。ゾフィー から聞いた話だが、魔眼も魔法使いが気付くと解くことができるらしい。だからむやみやたらにみんなに魔眼をかけまくることもできないのだ。特に緑葉がいる1年のクラスには迂闊に催眠術をかけて支持を集めれない。もし緑葉が催眠術に気づいた時、今、催眠術を掛けて得をする人物は俺しかいないので、俺が警戒されるのは今後、緑葉と戦っていくうえで非常にやりにくくなるだろう、下の学年が難しいからといって、上の学年や同級生に接触している時間もない。なにしろ残り一週間しかないのだ。御岩学園の生徒会選挙は毎年ゴールデンウィーク2日前にやることになっている。やはり、緑葉をなんとかするしか方法はないみたいだ、しかしどうすえるか、どうにかして仲間に引き入れるしか選択肢はないみたいだ。

 そんな事を考えていると。だるそうな声が聞こえてきた。

「そうまー 最近冷たいよー」

「しょうがないだろ、選挙に出る準備してるんだから」

「しおりんー」

「私もいろいろ疲れているんですよ」

 栞は日夜、空間制御の修業をしているようだ。いまでは自分で作った空間に隠れることもできるらしい。ちなみに練習してるとき、野犬に追われて空間に隠れてやり過ごしたらしい。どうやら、栞は犬が嫌いらしい、

「最近、そうまはオカ研にもあまり顔出さないし、先輩も寂しがってたよ」

 まあ、忙しいからな、栞の名前を出なかったてことは、栞は行っているのだろう。

「選挙が終わったら遊べるから。緑葉君に勝てないかもしれないけど。全力を出したいからね。」

「まあ、いいやー 放課後しおりんと遊んどくもんね」

「ちなみに、俺が生徒会長になったら栞は副会長になってもらうから」

「そうことになってしまいました」

「私が副会長なりたい!」

 遥が駄々をこね始めた。

「雑務係のまちがいじゃないのか?」

「ひどい、私だってやればできるしー 」

「まあ、お前としおりん、間違った、栞、優秀な所が違うから、お前はお前でいいところがあるから」

「そうま、ありがと……さっきなにげにしおりんって呼んだよね?」

「……私はそれでも構いませんよ」

 栞は頬を赤く染めて言った。

「いや、栞、それは俺が恥ずかしい」

「残念です」

 頬を膨らませて講義する栞

「私のことは、はるりんでいいんだよ」

「そんな気持ち悪い呼び方するか!」

 俺は調子に乗る遥に適当に突っ込みを入れた。そんな感じで今日も終わっていった。そして放課後、秘密で俺の家に来るように栞には言っておいた。


「作戦会議」

 その言葉で、相馬の家に集まった(といっても栞だけだが)空気が張り詰めた。

「あの魔法使い、緑葉さんをどうやって倒すかですよね?」

「いや、できれば仲間にしたいのだ」

【ふむ……それはむずかしそうじゃの……仲間にするのは、倒すことよりも難しいからの】

「戦うのもままならないのに、仲間に引き入れるなんて……」

 やはり、二人の反応は厳しいものだった。ちなみにある程度魔力も回復してきた(といってもまだまだだが)ので手をつながずにゾフィーが心で会話することが可能だった。

「だが、あいつはここの地区担当の魔法使いらしいじゃないか、倒してしまうとこの地区に魔法使いがたくさん集まってくる危険性が高い、それに緑葉が倒されたとなると、いないくなって都合のいい俺に目が向いてくる。それで、俺の近辺の人たち……つまり、俺か栞を詳しく調べられたらアウトだ。だから、仲間にする。最低でも支配下に置くことが重要だな。……しかし、魔眼は魔力不足で効かないだろうし、かといって、魂を吸い取りまくり、そこで、異変に気付いて、同じレベルの仲間を呼ばれると正直詰んでしまう……使える手段は、額の契約か」

【ふむ、しかし、どうやって近づくのじゃ?】 

「それが問題だな……」

 敵を籠絡するのがこれほど難しいとは。考えろ……緑葉はあの時、何を気をつけていた? 周りを巻き込むのを嫌ってたくらいか、待てよ、そうか! なんでこんな簡単な手段に気がつかなかったのだ。 

「ゾフィー 人間になら魔法使いにもすぐに解けないような、強力な催眠術かけれるか?」

「そうじゃのー 二人の人間の魔力を吸い取ったし、わらわが相馬にとりついて、もう2週間程度になるかの、3人程度ならいけるんじゃないかの?」

「ふむ、なら人質を取る作戦がいいと思うんだ、どうだ?」

「わかりました」

【悪役っぽくなってきたのう、くっくっく……】

 そして、俺達は作戦の内容を二人に伝えた。二人ともやや難色を示したが、納得はしてくれたようだ。決行は一応、明後日ということにした。一応、万が一ほかに魔法使いが居ないか、学校中を探しまわる時間と、操る3人を誰が適切なのか決めるためだ。

 生徒会選挙まで残り4日……


 そして、その作戦決行の日はやってきた。

 いつもと変わらない朝だが、失敗するとこの街から逃げないと思うとすこしだけ寂しさが込み上げてきた。そんな感情を無視するかのようにいつものあいつがやってきた。

「おはよ、そうま、今日はオカ研くるの?」

「行けたら行きたいな」

 オカ研にも行けなくなると思うと、少しはあそこも楽しかったのかなと思うことができた。

「お? 自分から行きたいなんてめずらしいじゃんー 遂にオカルトに興味が出てきたのかー?」

「違うよ、なんとなくだよ、しかし残念だが今日は生徒会があるのだ。ごめんな」

「おおおー そうまから謝る単語が聞けるなんてー 今日は雨かー?」

「降らねぇよ」

 と、馬鹿な会話をしていた。俺がもう普通の人間じゃないことに気付いたらどんな反応を示すのだろう……いや、遥なら、なんとなく、いつもと変わらない気もしていた。

 そして授業が終わった。俺は栞と合流して、作戦に間違いがないかをもう一度確認していた。そして、生徒会部室に着いた。

「こんにちは、生徒会長」

「こんにちは、相馬くん、そして栞ちゃん」

「覚えてくれていたんですね、ありがとうございます。」

「あなたたちは生徒会選挙に立候補してるからね、応援してるわ」

これから、この人に催眠術をかけると思うと、申し訳ない気持ちになった、だがやらないと、俺の世界を変えるという夢は壊れてしまう。だから心を鬼にしていた。

 そして、みんな集まって、運命の生徒会が始まった。

 まず、最初に行動を起こしたのは栞だった。小銭をぶちまけるのだった、人間は小銭の音を聞くと、思わずそちらを振り向いてしまうものだ。案の定みんな注目している。そしてとなりにいるのは生徒副会長

「あ、あわわ!」

「大丈夫ですか? 私も拾いましょうか?」

「いや、生徒会長は進めておいてください、代わりに僕が拾うの手伝う、時間がもったいないですから」

 動き出そうとしていた。生徒会の面々やクラス代表は席に着いた。緑葉は下を向いている。

いまだ! と思った。俺は心の中で叫んだ。

【幻想神の魔眼ファンタズマゴリア

 相馬の瞳が赤黒く光った。そして、生徒会長と書記、そして俺の隣の生徒に強力な催眠術をかけた。そして、周りの他の連中は簡単な催眠術で眠らせた。栞にはみんなが眠ったら動き出すよう指示してある。

 その瞬間、栞は緑葉を突き飛ばした。そしてその瞬間変身した。

「かかりやがってですね。前回のリベンジです。屋上で待ってますです。早く来ないと生徒会長を殺しますです!」

「何が起こった! みんな寝てる、だと」

そして、協力な催眠をかけた連中を一人だけ残して一緒に屋上に空間の穴をあけて逃げ出した。あっけにとられて、緑葉は動けなかったのである。

「くそやられた、それに人質も取られた」

「落ち着いてマスター、奴はまだ屋上にいますわ、追いかけましょう」

 肩の猫が宥める

「それよりもまず、寝ている奴を起こすことが先決だ」

【どうやら、催眠術に掛けられているようだな……この程度なら簡単に解けるが】

 素早く一人一人の頭に手をやると、順番に目覚めていった。

「あれ? 私はなにを? 生徒会長は?」

それに反応している暇は人質を取られている緑葉にはなかった。そして、最後に俺の隣にいた1人を解こうとした……しかし催眠術がなかなか解けなかった仕方ないので目をつぶって小さく呪文を唱えた。そうすると、しばらく時間がかかったが、解くことができた。

それを、相馬達は小さな穴から見ていた。

「あんなに、早く解けるのか……すごいなでも、強くかけたやつは、時間がかかった。これであいつに強い催眠が掛ってるやつを認識させることができた。あとは、栞、緑葉と戦って、もし、囲まれたり、やばくなったら、隙を見てこの学校のどこか人気のない場所に逃げ出してくれ」

「本気で追いかけてくる奴をまくことはできるです? すぐに追いかけれるんじゃないです?」

【まだ、魔力の少ないおぬしなら余程精密な探知の術式を使わないと、正確な位置はわからないじゃろうて、それに催眠を解く方を優先するじゃろう】

「了解です」

そして、緑葉は教室を飛び出す。さて、俺も演技をするかな。

緑葉が屋上に来た。

「さて、前回、僕が仕止めそこなったつけだな。しかも人質を取られるとは、迂闊だった」

「負け惜しみですか!」

「いや、自分の迂闊さを叱咤していただけだ」

前回の呪文を警戒してか、栞は後ろに相馬を含めた催眠術で操った人を立たせていた。

「さて、今回は前回のように出し惜しみはしない、騒ぎが起こる前に貴様を滅する」

緑葉はまた本を開いた。

「同じ手はくわないです!」

そういうと、栞は先手必勝とばかりに細かい沢山の空間の穴をあけ、それを叩きつけるように叩いた。すると、緑葉へ空間の矢が雨のように飛んでいった。

空を裂く音が聞こえた。緑葉はガードしようと魔法陣を前に展開させたが、嫌な感じがしすぐさま上へ飛んだ。その判断は正しかった。栞のとばした空間の矢は魔法陣を貫通して後ろの給水塔を貫いた。

「結構、強力な魔法陣を張ったのに貫通するなんて……魔力を貯めてきたってことなのか?」

緑葉の知らないことだが、ただ単に空間の矢なので、実際には貫通したのではなく魔法陣の一部を別の場所に飛ばしただけである。しかし、それを言う必要はなかった。

「へへ、どうです! 年貢の納め時です!」

「仕方ない……」

そういうと、空中に本を浮かべた。そうすると、本が大きな木になりそれがどんどん増えて行き 栞の周りを囲んだ。

「しまったです!」

「これは、聖樹のグリモワール、藍の教会の書庫から持ち出したものですわよ。」

緑葉の声が栞にはいろんな方向から聞こえていた、それは周りに木で囲まれることによって起った事象だろう、つまり栞は視界と聴覚を塞がれてしまった。栞は試しに四方八方に空間の矢をもう一度飛ばした。一度は突き抜けたが、すぐに別の木で修復された。

「壊しても無駄だ。貴様はもう終わりだ。」

そういうと、緑葉は静かに呪文を唱えだした。栞はこの囲まれた状況から見て、呪文の効果は恐らく魔力吸収か捕縛の類だろう、と考えた。栞はここまでか、と思い、空間に穴を空け、空間に潜り移動した。その瞬間。全方向から木の蔓が猛スピードで伸びてきた。

「あらら、また仕留め損なった……まあ、魔力の反応が無くなったことから、逃げられたいみたいだし……まったく、やっかいな能力を持ってる魔族だな、すぐに追いかけたいが、今はこの人たちの催眠を解いてからだ。ジュエ逃げた妖怪の探索を」

「イエス! マスター」

このとき、緑葉は栞の目標がすでに達成されていたことを知らない。栞の役割は緑葉に自分が単独でかつリベンジしに来たと思わせて、栞を迎撃したという心の隙を生み出すためことであった。

そうとも知らずに、緑葉は相馬を含む、屋上にいる一人一人に催眠を解いていった。右から順番に解いていった。催眠が解けたものから、部屋に帰らせていった。

【やはり、あの魔物……たしか栞と言ったか? の近くに居た人と生徒会長にかけられた催眠の力は強いな】

緑葉は心の中で確認していた。これこそが相馬の狙いであった。

そして、俺の前に、生徒会長を催眠から解いた。

「あら? 緑葉君? どうしたの? なんで私、屋上にいるのかしら?」

「知りませんよ、とにかく、部屋に戻ってください」

「了解ですよ。ふふふ、時期、生徒会長っぽいですね」

「な、なにを言ってるんですか! いいから早く戻ってください」

緑葉はすこしうれしそうだった。生徒会長になるのもまんざらじゃないらしい。

俺と緑葉の二人になった。

「さて、最後の一人だな。こいつは気に食わないが、被害者だ、催眠を解くとしよう、魔物の近くに居たから。強い催眠だろう」

そう、思い、緑葉は相馬の額に手を当てて目をつぶった。その瞬間、異変に気付いた、しかし相馬の方が動くのが早かった。すぐ近くにあった緑葉の額に自分の手を当てる。

「ぐっ? なんだ、この何かに、縛られたような感覚は」

「よし、成功だ。俺達の勝ちだな」

「何を言ってるんだ? いやなんで……そうか! お前らグルだったんだな!」

「ははは! 今更気づいても遅い、汝、我との契約、一つ! 俺が心から念じた命令には必ず従え!」

「は? 何を言っているんだ? まあいい、貴様も魔物なんだろ? 討滅する」

「お前は、今からしばらく魔法を使えない!」

「なにを馬鹿なこと言ってるんだ? 喰らえ」

緑葉は手を前に突き出した。しかし、何も起こらなかった。

「ははは、言っただろう? 魔法を使えないって。俺は額に手を当てた相手に三つの契約ができるんだよ、その一つを使ったまでだ」

「くっ! 予想外だ……降参だ」

そういいながら、そういいながら緑葉はポケットを探っていた。なるほど、魔法が使えないなら携帯で連絡をつけようとしてるわけか。

「眠れ!」

「くっ……意識がとお……ざか……」

がくっと、音を立てたかのように、緑葉は意識を失った。そして、小さい空間の穴からのぞいていた。栞が戻ってきた。

「やりましたです。私たちの勝ちです」

嬉しさのあまり、相馬に抱きついてきた。ゾフィー がすこし不機嫌になったのがわかった。

「そうだな、俺達の勝ちだ。とりあえず、騒ぎが起こる前にここから去ろう」

そう言い、緑葉を背負いおれの家へと続く空間の道を作ったところで、想定外のことが起きた。屋上のドアが思いっきり開け放されたのだった。そこにいたのは、

「そうま! 生徒会長に聞いてここに来たんだけど、だいじょう・・・・ぶ、あれ? なんで眠ってる緑葉を背負ってるの? それにその子、誰? なんで私のそうまに抱きついてるの?」

まずいことになった。人に見られてしまった。くそっ、ここまで完璧だったのに、しかもよりにもよって遥に見られるとは……しかし、ここで去っても問題はないだろう、例え、遥が誰かにこのことを吹聴したとしても、こんな荒唐無稽な話、信じはしないだろう。ここは一旦姿を晦まそう。

「どうしますです? 相馬」

「……」

俺は遥に背を向け、無言で空間の穴に入いろうとしたら、ぞくっとして振り向き、とっさに横によけた。空を割く音がして、そこに風の刃が通り抜ける。その場に立ったままだと思うと怖かった。

「そうま、説明してくれるかな?」

振り返ると、そこには、烏のような翼が生えており、手には羽扇子を持っている。遥が立っている。口調もいつものだるそうな声ではなく、凛とした声で有無を言わさぬ物言いだ。顔つきも真剣である。

「お前も、魔法使いで俺の邪魔をするのか?」

「違う、無視するから止めたまで、私はいつでもそうまの味方、そこは安心して」

 遥はやさしく諭すように言う。

こいつがこんなことを言うとは思わなかった。相馬は悩む、正直に話してもいいものか、いや、でもここで明らかに格が違う遥に挑む力もない、信じるしかないようだ。

「わかった、でも何を説明すればいいんだ?」

「その前に、緑葉さんを殺すことは絶対しないで、まずいことになるから」

「よくわからんが、殺すつもりはないぞ、仲間にするつもりだ」

「それならよかった。ならまず一つ目、その子は誰? そうまをたぶらかしているのなら殺すよ」

遥の顔が険しくなった。

「まてまて、こいつは栞だ、それにいろいろ聞きたいこともあるだろうがとりあえず、俺の家で話さないか?」

「……そうしようか、先に行って待ってる」

そういうと、遥は消えた。厳密には超スピードで俺の家に向かって行ったのだが。


栞の力で移動した俺たちは、とりあえず緑葉をソファーに寝かして、遥と話し合うことになった。

「まずは、なぜ俺がこんな力を使えるようになったかというと」

【魔王としてのわらわが中にいるから力をつかえるようになったのじゃ、話すのは初めてじゃな、わらわはゾフィー・シュバルツ、ゾフィーと呼ぶのじゃ】

「よろしく、ゾフィー。なるほどね、そうまの雰囲気が変わったのはゾフィーが原因だったのか。てっきりそこのでこっぱちの妖怪かと思ったよ」

「でこっぱちとは遥ちゃん、ひどいです!」

そういうと、栞は変身を解いた。

「こりゃ驚いた。ほんとに栞ちゃんとは、でも、栞ちゃんは人間だったのになんで妖怪になってるの?」

「妖怪? まあ、同じものか、ゾフィー は人間を魔物にすることができるんだよ」

「!! そんなことができるなんて! この世界ではそんなことできる妖怪はいないわ」

 遥はびっくりしたように声をあげた。

【わらわは別世界の魔王じゃからの】

「……そうか、なるほど、あなたが別世界の魔王だからこそできることだね」

なにかぶつぶつと言っているが納得はしたようだ。

「今度はこっちから質問させてもらうが、遥、お前は何者なんだ?」

「うち? うちは天狗だよ。天狗の中でも烏天狗って言われる部族に入るかな、つまり妖怪だね、そうまたちが言う魔族と多分大差はないと思う」

「妖怪だったのか? 昔からそうだったのか?」

「うん、そうだよ、孤児院が潰れたとき、仲間の天狗に見つけられて育てられたんだけど、そのときにうちの正体を知ったんだ。実はうち、妖怪の中で没落した名家だったらしいんだよ、それで、めきめきと成長して、14歳の時にはもう、百鬼妖怪連合の幹部、大妖怪八人衆の一人になった、言っても、その中で一番新しくて、若いから、あまり認められてないんだけどね」

 まさか、遥が妖怪だなんて、思いもしなかった。だけど、ふと疑問が浮かぶ

「でも、なんでまた高校に通おうと思ったんだ」

「それは……また、そうまと、りんと遊びたかったんだもん」

 遥は嬉しそうに言った。

「妖怪に拾われたからって言っても、周りからは没落した貴族あがりって馬鹿にされて、友達もできなかったし、また、昔みたいに遊びたいなって思って、そうまをやっとみつけたから」

「そうか、俺も再会できてうれしかったよ」

 そして、相馬は本題を切り出すのだった。

「それで、いまから俺たちは世界を変えるため、世界を征服する。遥はついてきてくれるか?」  

「もちろん! うちはいつでもそうまの味方だよ!」

「ありがとう! 遥! これからもよろしく頼む!」

遥とギュッと握手を交わした。ゾフィーと栞からじとーっとした雰囲気が漂ってきた。

【なんじゃ、その昔から心は繋がってましたよ、みたいなアピールは、わらわだってこれからは仲間じゃ】

「私だっているんですからね、相馬、いつでも味方ですからね」

「お前らは何を言ってるんだ? そんなの当たり前だろ?」

 遥は勝ち誇っている顔をした。

 そのとき、すっかり忘れられていた緑葉が目を覚ました。

「ここは……どこだ?」

 まだ、意識がはっきりとしないらしい

「俺の家だがなんか具合が悪いところはあるか?」

「! 敵の塩なんてもらうような僕じゃない!」

 緑葉は魔法を使おうとしたが、まったく発動しないことに気づき、先ほどのことを思い出し、降参をした。

「そうか、僕は負けたのか……ははは、そうか、また勝てなかったのか」

 そこで緑葉は昔を思い出した。

 ―――僕はいつもかませ犬の人間だ。僕は魔法使いの名家に生まれた、そして双子の兄がいた。とても優秀で、僕がどれだけ頑張ってもいつも兄が日の光を浴びていて、そして弟の僕はその影、そして、学校でもいつも比べられていた。

「稔君の魔法は、いつみても上手ね」

「真もすごいけど、やっぱり、稔のほうがすげぇな」

 そんなことを言われる毎日だった。

ある日、どっちかが藍の境界の中央支部長を決める戦いが行われることになった。兄が優勢と皆行っていたが、それを言われても僕は諦めなかった。

兄が目を覚ます前から練習をし、兄が寝た後も血のにじむ努力をした。

しかし、現実は変わらなかった。兄に負けた僕は、地方の魅岩市に配属され、監視の任務に付かされた。そう、努力も研究も練習も、全て最後まで兄を引き立てるため見たいなものであった。僕は兄のかませ犬の人生だったのだ―――

 これが走馬灯っていうやつかな? と緑葉は思った。

「そうか、僕は死ぬのか……いつも僕は負け犬だ、努力しても研究しても何をしても結局才能があるやつには負けるんだよ」

 緑葉が何かつぶやいている。

「何を馬鹿なことを言っている……どうだ? 緑葉、俺の仲間にならないか?」

 俺が優しく言うと、緑葉は叫んだ

「そんなことは断じてお断りだ! どうせこき使われて死ぬぐらいなら、今ここ死んでやる」

 舌を噛み切ろうとした緑葉に、俺は思わず殴り飛ばしてしまった。

「ッ……何をする……」

「お前が大馬鹿野郎だってことだからだ!」

「僕が馬鹿? 笑わせる」

 緑葉は乾いた笑いをした。

「ああ、お前は馬鹿だ、いままで何を見てきたのかは知らないし、だがここまで生きてきて、足掻いてきたお前の人生はかけがえのないものだろ? 例え努力が実を結ばなくても。研究が生かせなくても。才能があるやつに勝てなくても。それでも、必死に生きてきてお前がここにいる! その大切な命をここで捨てるのか?」

 緑葉は倒れたまま、悲しい目でこちらを見ている。

「生きているかぎり、チャンスは必ずめぐってくる。たとえ今報われてない努力も、明日には報われるかもしれない、明日報われなくても明後日報われるかもしれない、それを諦めるやろうは一生才能があるやつに勝てない!」

 みんな固唾を飲んで俺の言葉を聞いている。

「才能があるやつに勝ちたいのなら、卑怯な手を使え! 卑怯の何が悪い、才能こそ生まれ持っての最大の卑怯だよ! それに対抗して何が悪いんだ、勝ちたいと思って何が悪いんだ!」

 緑葉は顔を上げ、虚ろな目でこっちを見た。

「俺は緑葉、お前のことをかっている。だって、俺たちがあんなに卑怯なことをしないと勝てなかった。つまりお前には才能がある。だから、死ぬなんて悲しいこと言わないでくれ」

 妹が自殺未遂をした相馬にとって、これは本音の言葉だった。

 緑葉押し黙り

「……お前は僕を認めてくれるのか?」

「ああ、認める! 誰が認めなくても俺が認める。強敵だった!」

 緑葉は目に涙をいっぱい溜めていた。

「……僕には才能がなくてもいいの?」

「いいさ、才能なんて飾りさ、それに俺はお前は才能があると思っている」

 緑葉は天井を見上げながら。

「そうか……あなたに出会えて本当によかった」

 嬉しそうな言葉を言い残すと、よほど疲れていたのか、緑葉はそのまま倒れてしまった。


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