第一章 未知なる世界へ
都会と呼ぶには山が多く、田舎と呼ぶにはあまりにもビルが多く、そういった矛盾したような都市、魅岩市。
その中心くらいの場所にある学校、魅岩第一高校に倉木相馬は通っている。
駅や大型ショッピングモールなどからも近い、そして背後に山があるので、長閑な空気を醸し出しているのが特徴な学校である。
今は嫌になるほどにまぶしい朝日を浴びながら重い足取りでそこに通学していた。
周りで通学している名も知らぬ生徒たちは、嘘くさい笑顔をしている人ばかりだ。それというのも、今は新学期はじまってまもない、つまり、新たな人間関係の構築のために必死になっているからだ。
「くだらない……」
ぼそっっと、自然に口がつぶやいていた。
「おはよ、そうま」
突然後ろからショートヘアーの女の子に肩をパンと子気味良く叩かれ、子気味の良い挨拶をされた。
彼女の名前は同級生であり昔の幼馴染でもある空上遥。170センチを超える長身、やや短めの茶色い髪を後ろに束ね、ポニーテールにしてまとめている、ぱっちりとした眼をして、モデルのような体型をしており。性格も明るくスポーツ万能。
だが成績が悪く、オカルトが大好きでありオカルト研究会『通称 オカ研』に入っている。何かと怪しげな勧誘をよくしているのを見かける……昔のことだから覚えていないが俺も幼馴染だからという理由だけでこいつに無理やり入れられた気がする。そのため、近くにいるのは俺くらいのものであった。まあ、人間だれしも良いところばかりではないってことだな。
ちなみに友達の少なくなった俺に話しかけてくる2人のうちの1人だ。
しかし、こいつのテンションに朝からついて行くのは正直しんどい。朝からめんどくさいことになりそうだと確信していた。
「元気ないね、カルシウム足りてないんじゃない? あっ! それは怒りっぽい人に言うことか、なんだろうね、栄養剤がぶ飲みしたらいいんじゃない?」
「はぁ、朝からうるさいな、あと栄養剤は飲みすぎると体に悪いぞ」
「まじで 朝からリポピタ4本飲んできたよ、まずいかなー? どうしようー そうま―」
「知らん! 自分で何とかしろ」
あと馬鹿であることを付け加えとこう。
やっとのことで学校に着いた。前まではいつもここに来るたびに復讐心に囚われたが、それも時間が立つにつれて諦めの方が大きくなってきていた。
自分の席に座り準備を始めていたら、いつものように遥が来る。
「宿題忘れた、見せて」
「100円な」
「え! お金を取るの? そうまのけち!」
「毎回毎回、せがまれる俺の身にもなってみろよ、だから、面倒くさいし料金制にした。」
「えー 昨日は見せてくれたじゃない、いつからそんなことにしたの?」
「たった今」
「えー それはないよ、大体そうまはバイトしてるから、金あるんじゃないのー? だいたい、いつもそうまは……」
二人で騒いでいると、耳障りな大きな嫌な音がした。誰かが机を叩いた音である。まあいつものことなのだが、それでも未だに聞き慣れなかった。
一人の女の子にいかにも不良といった感じの3人が取り囲んでいた。
「夜坂! お金は持ってきたか?」
「え! そんな話聞いてないです。」
「俺の話を聞いてなかったってよ、聞いたか二人とも」
リーダー格の男が取り巻きに問いかけた。
「元春くんの話を聞いてなかったって、こいつほんと馬鹿だな」
「10万円用意しろって、言ってたじゃないか」
「そんな話、10万円なんて……」
女の子は青い顔をした。
「しょうがねぇなぁとりあえず財布出せ!」
「はい」
「ふむ、5千円か、まあいい明日までには10万円持ってこいよ、いいな!」
「そんな……」
泣きそうな顔になって、机に伏せてしまった。
いつもの風景になってしまっているのだが、
いま、いじめられていた子は、夜坂栞背は160センチくらい、つやつやの黒髪を腰付近まで伸ばし、前髪は目の上で揃えられており、目は半分しか開いていない、そして一番目立つのはやはりメロンくらいの大きな胸であろう、おまけに成績優秀。夜坂は日本人形のように整った美しさを持っていることもあり、それが、ほかの女子からの反感を買いクラスで女子からも間接的にいじめられているらしい。
しかし、なぜ、こんなかわいい子が男の子いじめられているのか? そう思ったことが俺にもあり少し調べたころがある。きっかけは単純で、さっきの不良グループの一人にぶつかってしまい、そいつに一目惚れをされて告白され、それを振って逆恨みされたみたいなのが始まりであり、それで今に至る。
性格も暗めなので、今ではクラス全員にいじめの標的とされている。
最初の頃の俺は、妹と夜坂さんを重ねて見てしまい、最初は助けようとしたが、それも不良達に袋叩きにあい、またしても自分の無力さを呪った。
それも昔の話だ。
「ねぇ、そうまー聞いてる? まあいいや勝手に取っちゃおうっと」
「あ、ああ、っておい、ふざけんな、ってもういないし、仕方ない、今度なんか奢ってもらうことでチャラだ」
女の子にたかるとは我ながら情けない。まあ、あいつだからそんなの関係ないか、いつも宿題を見せてばかりだからな。
特に何もなく、遥が現代文の授業中に寝ていて、先生に立たされたくらいなにもなかった……うん、いつものことだ、
授業が終わり、放課後になり。俺は遥に半ば強制的にオカ研に連れられている。遥はぼやいていた。
「くそう、国語の山田の野郎、乙女の頭を叩きやがって、今度会ったらぶっ殺す!」
「お前が乙女かどうかはこの際置いとくが教師に殺すとか言うのは駄目だろう、それにそんなことする暇があるのなら夜に睡眠をもっと取れよ」
「『黒魔術についての追求』という本を読んでたら、眠れなくてね、あ! 今度貸そうか?」
「丁重にお断りする、俺はそんなのに興味ねえ」
「じゃあなんでオカ研入ったの?」
「お前が無理やり脅して入れたんだろうが!」
と適当に突っ込みを入れていると、オカ研の部室に着いた。
中に入ると先客がいた。
橘美鈴、俺たちが2年生であるので3年生にあたる美鈴さんは先輩にあたる。身長は150センチぎりぎりあるかくらいで、顔立ちに幼さが残っており、栗色の髪をしており、その髪を腰くらいまで伸ばしている。何よりの特徴は、日本人とロシア人のハーフらしく、クリクリとした目が、右目がサファイヤのような蒼く、左目は普通の黒の所謂オッドアイだ、そして丸い眼鏡をしており、聞いたところによるとトレードマークらしい。オカ研の部長でもある。しかし、三年の間では、そのオッドアイのせいでクラスに友達がいないという噂は聞いたことがある。ちなみに学校で話しかけてくれる2人のうちもう1人が先輩だ。このことから俺の交友関係の狭さがわかる。
「あら、早いのね、ふふふ、紅茶はまだ用意はできてないのよ、ごめんなさいね。」
見た目は幼いが、口調はすごく丁寧である。
「えーまだ出来てないんですか、もうちょっと待ってくればよかった」
「こら! また先輩に甘えて、すいません美鈴さん……」
「いいのよ、相馬君、大事な部員だもの、それに一人で同好会つくって、部員が入ってくるまでの独りのときは辛かったのよ。同好会の存続も懸かってましたし」
暗い顔で美鈴先輩が話す。
「だからって、遥にそんな遠慮する必要なんてないですよ」
「私は怖いのよ、遥ちゃんと相馬君、二人だけでどこか行ってしまって、私を一人取り残された時のことを考えると、折角の……やっとできた友達なのに、失うのが私は怖……」
「先輩! それ以上言わないでください、俺たちをもっと信用してくださいよ、俺は裏切らないし、遥も先輩のこと好きなはずです。だから……大丈夫ですよ」
先輩が泣き崩れそうな顔になったので思わず叫んでしまった。
こんなに熱くなったのは久しぶりの事である。
「私も先輩のこと好きですよ」
遥もあわててフォローしている。
「そうですよね。いらない心配掛けましたね。ごめんなさいね」
先輩はほっとした顔になった。
「いえいえ、それよりも紅茶も沸けたところだし、一息つきましょうよ」
たまにこのような会話がこのオカ研ではあるのだった。なぜか知らないが、この先輩は極端に後輩を失うのを恐れている節があるのだった。同級生に友達がすくないからなのか、昔になにかあったのかわからない、しかしそれは簡単に触れる話題でもないと俺は思っている。
今のところ、オカ研のメンバーはこの3人だけである。遥は増やす気満々らしいが、難しいだろう。
オカ研に集まってるのは、俺を含めてどこか欠けた人間、もしくは遥のように変わった人間が集まってできている。この先、増えるとしてもそのような人間が入ってくるんじゃないかと俺は予測している。
そして、オカ研の活動といっても特に何も決まっておらず、適当に怪しい本を読んでみたり、トランプやオセロをするくらいなものである。お遊びサークルと言ってもいいだろう。
今日はトランプでババヌキをした。遥はババを引くとすぐに顔に出るし、美鈴先輩は適当にカードを引くので、すぐにババを引かせることができる。つまり今日は、というか運のないゲームは、ほぼ毎回勝っている。
「そうま、強すぎだよ!」
「相馬君はなんでそんな強いんですか?」
「まあ、たまたまですよ」
「いつもそう言うじゃないー」
遥が突っかかってきた。
「負ける理由は自分で考えろってことだ、俺はそろそろ帰るぞ」
「あら、相馬君、今日は早いのね、どうしたのかしら」
「病院に見舞いに行くんですよ」
自然と暗いトーンになってしまった。
「あ……そうですか……お気を付けて」
「そうま……」
「じゃあ、帰ります。お疲れ様です」
二人はそれぞれ見送りの言葉を言い、相馬は部室を出て行った。ドアは開きっぱなしになっていた。
黄昏の街を背に、俺はある病院に向かっていた。
病院に行くのはいつも気が重い、平地のはずなのにまるで坂道のように足が進まない、俺がその現実を受け入れたくない気持ちと、どうにかしてやりたいという、相反する気持ちがあるのだろう。
やっとのことで病院に着いた。俺は看護師にいつもの挨拶を済ませ、少しの希望を抱きながらその病室へ向かった。しかし、現実はそんなに甘くない。
「ただいま、凛」
そこには人形のようにきれいな少女が眠っていた。彼女の名前は倉木凛、俺の妹だ、特徴といえば、年は俺より一つ下で、173センチという、遥と同じくらいで女の子としては背が高く、長く月のように奇麗な白い髪だ、元は黒かったのだが、過度なストレスでだんだん白くなってしまったらしい。
なぜ、彼女は入院しているのかというと、それは俺の過去を話さないといけない。
そんなことを考えていると、丁度、病室に医者が入ってきた、俺が見舞いに来たのを看護師が伝えたのだろう。
「凛の様子は……どんな感じですか?」
「変わりはないですね、体温も安定しているし、心臓のリズムも、体の調子もいいです。いつ目覚めてもおかしくないはずですが、どうしてか起きないのです。心に深い傷を負ったせいかも知れませんね……医者になってもわからないことだらけだよ」
「そうですか、いつもありがとうございます」
医者は軽く治療費のことなどを話すと、二人の邪魔をしないようにと出て行った。
「今日は帰るよ、凛、いつか目覚めると、信じてるよ、おやすみ」
俺は家に一人で寂しく帰っていた。その道は厚い雲に覆われてとても暗い道だった。
―――俺は奇跡や運なんて信じていない、幼いころから自分の力でなんとかしていた。
悲劇は、妹の出産によって母親が死んでしまったことから始まり、そしてその知らせを聞いた父親が急いで車で駆けている途中、事故を起こして父も亡くなってしまった。そして、俺と妹は生涯孤独になってしまった。
しばらく孤児院に入っていた。そこで遥と出会っている。しかし、孤児院が潰れたとき、遠い親戚である叔父が拾ってくれたのだが、とても態度が冷たかった、後から聞いた話なのだがどうやら俺達は押し付けられた子供らしい、一応、小学校などには行かせてくれたが俺が高校に入った途端に。
「お前らの世話はもうしない、独り暮らしの手配はしてやったあとは勝手にしやがれ」
と言われ、妹と2人暮らしの生活を送りながら、生活費や学費はバイトと奨学金を駆使しながら高校に通っていた。
苦しいながらも、妹と一緒に学生生活を送るのは、決して楽ではなかったが、それなり楽しかった。
しかし、悲劇は悲劇を呼ぶものだ。俺が高校1年の寒さも本格的になって来た頃、妹はいじめが原因で橋から川へ飛び降りたのだ。一命は 取り留めたものの、こうして昏睡状態にある。
俺はいじめなんてものは我慢すれば耐えることが出来た。俺自身がそうしてきたからである。
だから妹もなんとかなるだろうと思い、励ます程度しかしていなかった、それが人生で最大の誤りだった。いじめが凛をそこまで追い詰めていたとは、俺は思いもしなかった。それほどまでに苛烈ないじめに気付けなかった俺にも罪はある。
それは、今でも後悔していることだった。今までの人生も相まって、最愛の妹が昏睡状態になるという事態は、相馬に
『人間に復讐してやる』
と決意させるのに十分すぎた、俺は妹をいじめていた奴らに復讐を試みた。
しかし、いじめていた子のバックにはとても大きな不良集団がいて、逆にぼこぼこにされたのだった。そのとき自分はなんて無力なのだろうと、どうすることもできないほど無力だろうと、その時思い知った。
そのあとに遥が転校してきていろいろ励ましてくれたが、もういろいろ遅かった。そして時間が立つごとにいつのまにか、その決意も薄れていく。なんの力もない俺にはどうすることもできなかった。夢も希望も失った今のおれは、抜け殻のような物だった―――
……ながながと昔のことを思い出すのも久しぶりだと思う。
しかし、昔のことを思い出しても何も変わらない、生きるためには、飯を食わないといけない。それに、まだ凛は死んだわけじゃない、目覚めるかもしれないのだ。相馬は暗くなっていた気分を無理やり戻そうと、無理やり明るく考えるのであった。
病院を出た相馬は、遅くなったので、夕ご飯の食材確保のために帰り際にコンビニに寄ることにした。
(今日は奮発して550円のガッツリスタミナ焼肉弁当と、そうだ! 気分を変えるとためにもデザートも買って帰ることにしよう)
いつものことだが、妹の見舞いに行った後は、暗い気分を紛らわそうとすこしでも豪華な食事をするのだった。
コンビニを出るころにはもうすっかり日も落ちてしまっていた。
(これは、一雨降るかな、最近の天気予報はあてになんないな)
やはり、干しっぱなしの洗濯物などを思い出すと憂鬱な気分になってしまう。急いで家に帰ることにしよう。
そのとき、相馬には上空を彷徨う、黒い球体に気付くことはなかった。
家に着いて、鍵を開けたその時、何の前触れもなく、視界が暗闇に覆われる。
その次の瞬間、内臓を引き裂かれるような鋭い衝撃が襲ってきた。そして、思わず。その場に倒れこんでしまった。
「ぐはっ 何が起こったんだ……」
【ほう! わらわが体に入っても気絶しないとは、やはり、わらわが選んだ人間じゃ!】
相馬の頭に直接、女の声が響いてきた。しかし、相馬は激痛でそれどころではない。
「ぐ……なんだ、この痛みは? それにお前は誰なんだ、どこにいる?」
朦朧とする頭で必死に問いかける。
【どこにいると聞かれるとな、おぬしの中にいるのじゃ】
また、同じような声が聞こえてくる。しかしもうすでに声を出す力が出ない。
「…………俺は……死ぬのか?」
【安心するのじゃ、体共有の魔法の一時的な痛みじゃ、時期なくなる。お前は運がいいのう、魔王のわらわと運命共同体になるのじゃから】
「ま……おう……?」
そこで、相馬の意識は途切れてしまったのであった。
第二章復讐劇序曲
相馬は、はっと目を覚ました。まだ意識が朦朧としているのでなかなか周囲の状況がつかめないが、ここはどうやら自分の家のソファーでそこに寝転んでいる格好なのだと認識した。
【ようやく起きたか、随分と寝ておったが、疲れが溜まっていたのかの?】
びくっとした。いきなり声が聞こえてきたからだ、そして先ほどのことを大体思い出した。そして、いろいろ聞くために深呼吸をして混乱している頭を冷やし、冷静に質問をする。
「……まず、お前は誰だ?」
【ほう、焦らずに冷静に情報を集めようとするとは、わらわは魔王! 名はゾフィー・シュバルツ長いからいろいろな名前で呼ばれておったが、お主はゾフィーと呼ぶがよい】
「名前はゾフィーで、魔王か、とりあえず、疑っていると話進まないから信じておく、それとこの頭に直接聞こえるような声はどういうことだ?」
【それは、わらわがお主の中に一時的におるからじゃの、お主にもできるぞやってみぃ】
俺は頭で念じるようにして
【こうか?】
【そうじゃそうじゃ、なかなか見込みがあるのぅお主】
なるほど、自分の頭に語りかける。こんな感じか……いや、なにがなるほどだ、この状況、全体的にわけがわからん。
【そうか、それで、その魔王さんは俺を乗っ取るつもりなのか?】
【むしろ、その逆と言ってもよい、わらわ一人じゃ難しいから協力できそうな人を探しておってな、わらわも時間がなく急いで器を探しておるところちょうど莫大な負のエネルギーを持ったお主が居たわけじゃ】
相馬はこの話が真実ならかなりうれしい状況であると感じていた。もし、話が本物なら世界を変える力を手に入れることができる。しかし、ある疑問がわいてくる
【なんで魔王なんかが俺の中にいる? それに急いでいたっていうのがわからない】
【そうじゃのう、長く話すのもあれじゃし、要点をまとめるとのう、わらわはこの世界とは別世界の魔王なのじゃ、そこで勇者達に負けそうになったのじゃ、そして勇者は別の世界に飛び立つことができないから、別の世界に逃げたのじゃ、時間がなかったから、行先は適当だったのだがのう、そのときにすこし逃げるのが遅れて、体と、ほぼ全ての魔力を失ってしまったのじゃ。そして、急いで、いい器を探しているとき、たまたま、お主がいたというわけじゃ】
話を聞いてみるに、どうも嘘をついているようには見えない、それにこの現象からに見るに信じるしかないようだ。それにこれは俺にとってもかなりの好機である。
【しかしなぜ、俺を選んだ?】
【お主は抱えている闇が、かなり深くて、その割には中身が空っぽだったから容易に入れそうだったからなのと、割と好みの男だったからじゃの】
【お前、女だったのか、まあ声色で何となく予想はしていたが】
しかし、魔王に気に入られたとは、俺もすこしは運が残っていたのかもしれない。
【それでお前は魔王というからにはこの世界を支配できるのか?】
【できる! ……と言いたいところじゃが、いまは魔力を失ってしまって、難しい、じゃが! 魔力を蓄え直せば、支配できるはずじゃ】
どうやら、魔力を集めたいらしい。ここで協力しない手はない。
【わかった。協力しようじゃないか、まずはお前が使える能力をおしえてくれ】
【うむ、その前に、運命共同体のわらわに向かってお前はないじゃろう、ゾフィーと呼んでくれ】
【わかったよ、ゾフィー俺は倉木相馬だ、これからよろしく頼む】
【よろしくなのじゃ、相馬、それでわらわの力じゃが、まだ魔力が少ないから今現在は3つしか使えぬ、まずは魔眼じゃこれを使えば勇者以外のほとんどの敵を強力な催眠術にかけることができる。2つ目は人間を魔族にして一つ能力を与えることができる。要するに仲間にすることができるということじゃな。3つ目は額に触れたものに3つの契約を結ぶことができる。今のところできるのはわらわが最初から持ってるこの3つじゃ、あとはわらわがお主の中にいることによって、肉体的能力が普通の人間を遙かに超えていることくらいかの、まあ魔力が集まるとできることも徐々に増えていくじゃろうて】
若干幼いような魔王の声がてきぱきと説明していく
【ふむ、とりあえず今は3つの力を使い、魔力と仲間を集める感じか?】
【今のところはそうじゃの、とりあえず、まずは一人、魔族の仲間が欲しいのぅ、そこから魔物も少しずつ作っていけばよい】
相馬はある疑問を抱いた。
【今、魔族と魔物といったがどう違うんだ】
【そうじゃの……人で例えると、人間と動物の違いのようなものじゃ】
【なるほど、これと先ほどの能力を使って、前の世界では魔族を増やしてきたというわけか?】
【それは違うのじゃ、催眠状態の相手を魔族化しても強い魔族にならんからのう、前の世界では自分から志願してきた人間以外はもともと居た魔族をまとめて魔王軍を作ったのじゃ! どうじゃ、すごいじゃろ】
【一応、カリスマはあるのだな、わかった手伝うよゾフィー】
相馬は徐々にゾフィー を信じ始めていた。
【魔力を上げるにはどうしたらいいんだ?】
【時間経過で少しずつ回復して行くが、手っ取り早い方法は、人間の魂を吸い取ることじゃ、かなり上がるじゃろう】
そこで俺は躊躇してしまった。
【……人を殺すのか?】
【結果的にそうなるが、しかし、吸い取らても、息もするし、生活もする。ただ、夢を持たなくなるだけじゃ】
俺は考え込んでしまった。
【……ゾフィーは逆に昏睡状態の人間を救えるか?】
【状況にもよるが、力が集まれば可能であろうのう】
俺は、深く考え込んだ。
そして
【分かった、できるかぎりやってみる】
【うむ、その意気じゃ】
ゾフィーは満足そうに笑った気がした。
【次の質問だが、敵はどんなのがいるんだ】
【お主は質問ばっかりじゃな?】
【自分の周りを取り巻く状況を知るのは何よりも大切なことだ】
【ふむ、うすうす気づいておったが、お主なかなか策士じゃな】
ゾフィーは感心していた。
【伊達に修羅場を乗り越えてないからな】
【なるほどの】
【それで、敵はどんなのがいるんだ?】
【とりあえずの敵は、魔法使いを中心とした、わらわ達、魔王軍を討滅するために作られた組織、『エトワール』じゃな、こやつらが多分、わらわが逃げた先の世界を探しておるはずじゃ、しかし、まだばれてないはずじゃ】
【つまり、ばれないためにも、大きな動きができないということか……】
【それと、あとはこの世界にいる勇者とこの世界の魔法使いじゃの】
【ぷ……っ】
俺は思わず吹き出してしまった。勇者とか魔法使いって漫画じゃあるまいし……でも、現に魔王はここにいるのか。
【なにがおかしいのじゃ!】
ゾフィーは俺が笑ったことに怒る
【いや、ごめん、この世界は魔法使いも勇者もいないんだ、俺が知らないだけかもしれないが】
【確かに、空を彷徨っている時に、魔力を特に感じなかったわい、なら世界征服なんて簡単じゃ、そこらの人間の魂を吸い取って、エトワールが来る前に莫大な力を蓄えればいい】
ゾフィーは楽観的にそう言ったが、俺は待ったをかけた。
【いや、それは不確定すぎる。もし、もしもだ、この世界に魔法使いがいて魔力を隠していたとすると、どうだ? まず過ぎる。いまの俺の力じゃあ一瞬で殺されちゃうだろ。それにエトワールに早い段階で見つかるとそれこそ、その時点で終わりだ】
ゾフィーは少し考えた気配を見せると
【ふむ、なるほどの、それじゃあどうするのじゃ?】
【ゆっくりいこう、まず、近場の……例えば、学校を支配する。それも静かにだ。そして徐々に規模を広げて、いずれは全世界を支配する、これなら大丈夫なはずだ】
【なるほどの、千里の道も一歩からじゃな】
【それでだ、今から、ゾフィーと俺でこれから仲間を増やしながらやっていくわけだが、お互いまだ付き合いが浅いから、もし大事な場面で裏切られでもしたら困る。だから裏切らない魔法みたいなので縛ろう。あるか?】
そこでゾフィー は押し黙ってしまい、そこで照れた様子で口を開いた。
【あるにはあるが危険じゃぞ、裏切れば両方の魂が死ぬのじゃから】
【それくらいがいい、あとから力蓄えられたからと言って、ゾフィーに独立し、裏切られたらら困るからな】
【まあ、そんなことは考えてもいなかったが、もし、独立したとしてもお主は優秀じゃから魔物にして、仲間にしたいとは思っとったわい、それがおぬしから相棒になりたいとは、言い心がけじゃ】
【わかった。それでは契約をしよう、何が必要なんだ?】
【とりあえず、なんでもいいから、依り代を用意してくれ】
【依り代? 人形とかでもいいのか?】
【うむ】
【わかった、とりあえず用意してみる】
ゾフィー に言われた依り代がよくわからなかったが、漫画とかはぬいぐるみとかを使っていたから、遥からおみやげでもらった亀のぬいぐるみを布団の上に置いた。+
【これでいいか】
【大丈夫じゃ】
【まさかだが、このぬいぐるみに乗り移ってキスをするとかじゃないだろうな?】
【まあ、そうなるのじゃがな】
【ファーストキスが亀の人形はいやだな】
相馬は顔をしかめた。
【まあ、慌てるでない】
ゾフィーがそういった瞬間自分の体のちょうど中心あたりから黒い球体が抜け出し、人形に入った。途端に部屋が真っ暗になったと思ったら。すぐに明るくなったそこにいたのは。黒いゴスロリを着た15歳くらいの少女だった。眼は深淵を想像させるほどの暗い瞳をしており、唇は真っ赤だった。そして髪が紺色で膝もとまで延びている。
「これが、わらわの本来の姿じゃ、契約方法はお主がさっき言った通りせ、接吻じゃ!」
ゾフィーは無い胸張る。
「お前、本当に魔王だったんだな……しかし、こんなにかわいらしい幼女とキスするのか俺は?」
「か、か、かわいいじゃと! 綺麗というのじゃ! あと、わらわは2億歳を超えてからは年を数えておらん」
ゾフィーは顔を真っ赤にして早口でしゃべった。
「ばばあじゃないか」
「魔族では、普通のことじゃ! それとも、わらわと接吻するのが嫌なのか?」
ゾフィーは悲しそうな目で見つめてきた。その気がないのに、俺はどきっとしてしまった。
「い、いや、大丈夫だ」
相馬は決意を固めた。
「だけどお前、キスはしたことあるのか? 俺なんかでいいのか?」
「そ、そ、そ、そんなことはどうでもいいのじゃ! は、はやくするのじゃ!」
そして、お互いがぎこちない動作でキスをした。唇をつけた瞬間、白い輪のようなものが、俺とゾフィー を囲んだかと思った、瞬間、暗い虹色に変わり締め付けた。不思議と痛みはなかったが、なにか結ばれた感触がした。
こうして、俺とゾフィーは命の契約を結んだ。そしてゾフィー は俺の体に戻ってきた。
【しかし、お主の体は居心地が良いのう】
【それは、どうも、さて作戦会議とするか】
そのとき、相馬のお腹が、ぐー鳴ったのである。
相馬は買ってきた弁当を食べながら、ゾフィーと作戦会議に移るのだった。
【まずは、仲間の確保だな、どんなやつがいいんだ】
【そうじゃの、なるべく、心に闇を秘めていて、世界に抗おうとしてるやつが良いな】
【そうか、心に闇か……】
相馬は頭に一人の人物が浮かんだ。
【一人いるな、学校のクラスメートなのだが、最初の仲間はその子にしよう】
【相馬がそういうなら、その子がいいんじゃろう。しかし、この世界の料理は美味じゃの~】
こいつ、本当に魔王か? と疑いたくなるような腑抜けた声を出していた。
【それは置いといて、まずは当面の目標だが現在二人、実質、俺一人なのでその子を仲間に引き入れる、そして、もうひとつはこの近くにお前の言う魔法使いがいないかを調べる】
【どうやるのじゃ?】
【それは、仲間を手に入れてからだが、ゾフィーが魔力を探知できるのなら、相手もそれをできるかもしれない、ならそれを逆手にとって魔力を公園などの広い場所で放出してみる。それで誰かが来るか確かめればこの世界にそういう類のがいるかどうかわかる】
【うむ、いい案じゃ】
【まあ、エトワール以外の可能性はないと思うがな】
相馬は呆れ顔でつぶやいていた。
【なるほど、その方針で行ってみるかの】
【最終目標は生徒会長になって学校全体を支配する感じだな】
【生徒会長とはなんじゃ?】
【学校のみんなの中心人物みたいなもんだよ】
【なるほどの、納得じゃ】
そのとき、ゾフィー が体の中で飛び跳ねているような感覚がした。
【なんじゃ、この甘くて舌で蕩けて、そして上にかかっているほろ苦い液体とのハーモニーを奏でている。おいしすぎるのじゃ】
【プリンだが、どうした?】
【こんなもの食べたことがない、ほかの料理もおいしかったのじゃが、これは格別じゃ!】
【今度から帰りに買ってきてやるよ】
【やったー!】
ほんとに魔王かどうか疑ってしまう性格だな。まあ部下が優秀だったら組織も動く、そういう魔王だったのかもしれないな、と思うことにしよう。
作戦を練っていたら、深夜の2時を回っていた。
【そろそろ寝るか】
【休息も魔力を回復するからの】
相馬は魔王が本物と分かり、すっかり失っていた復讐の火が、再び燃えだしたのだった。
そして二人は様々な思いを抱きながら眠ってしまった。
次の日の朝、目は驚くように早く覚めた。そして、学校に着いてからの作戦の確認を頭で行なっていた。
【ふああ、なんじゃ、朝が早いのう? 怖気づいて眠れなかったのかの?】
【いや、逆だ。世界への反逆の第一歩を今日踏み出すと思ってたいら興奮してな】
【頼もしい限りじゃ】
【着替えるからひっこんでいてほしんだが?】
【ふ、ふん! そんなもの見飽きとるわい】
【……とかいいつつ、存在感が強くなっているのだが】
【そ、それは、気のせいじゃ】
【いいから、引っ込んどけー!】
久しぶりに、ドタバタした朝を迎えた。妹がいた半年前みたいな感覚にすこし懐かしさを感じた。
登校中、遥に会った。昨日いろいろあったから、何となく久しぶりに会った気分になった。
「おはよ、そうま、ん? なんかいいことあった? 楽しそうな顔してる」
「気のせいだよ、それより遥、今日こそ宿題、やってきたか?」
「え? 宿題? それは投げ捨てるもの」
とても、いい笑顔だった。
「はあ……おまえ、学校をなめす……ぎ」
そのとき、心から声がした。
【この子がターゲットか?】
一瞬戸惑ったが、すぐに対応した。
【違う、こいつはただの幼馴染だ】
【ふむ、この子も結構心に暗い闇を持っており、強い魔族になりそうじゃがのう】
【そうなのか……あとあと遥を仲間にしてもいいかもしれないな】
心の中で会話してたら、声がした。
「おーい、そうまー 急に黙り込んじゃったりしてどうしたの? 具合悪いの?」
「いや、なんでもない、ちょっと立ちくらみがしただけだよ」
「そう、ならいいんだけど、あと、なんか誰かに見られてる気がしたから」
昔から遥は勘が鋭い奴であり以外にも頭が回る。しかし、その場はなんとか、適当にごましきれた。
教室に着いた。さて、作戦開始だ。
まずは魔眼を試してみないと、万が一、最初にあたったのが魔法使いだったら運がなかったとあきらめるしかない、最初のこの一歩は正直、賭けだ。
すこしでも、リスクを減らすために、人気のない職員室前の廊下をたまたま一人で歩いていた女学生に魔眼を使ってみた。
「幻界悪夢」
「え?……」
事前にゾフィーに教えてもらった呪文を唱えた、そうすると、相馬の両目が黒くなり瞳孔の部分が逆向きの赤い五芒星を示していた。それと同時に女生徒の目から光が消えた。
【これは……成功か?】
【うむ、上出来じゃ】
そのとき、魔力の反応が2つ表れこちらに向かってくるのをゾフィーと相馬は感じた。
【まさか!】
【そう、そのまさかじゃ、わらわ達の魔力に反応して様子を見に来たのだろう、お主の予想に反して、この世界にも魔法使いはおったようじゃの】
【とりあえず、気づかれないうちに退散するぞ】
【わかったのじゃ】
相馬はそそくさと廊下を通り過ぎ、階段を上り自分の教室を目指すのであった
―――職員室の廊下の前で魔力の反応があったので様子を見に来た。それで驚愕した。女生徒が強力な催眠術にかかっているのだ。
「なんだこれ、どうやってあんな短時間でこんな強力な催眠を……くそっわからない」
そのとき、前から監視対象の敵が現れた。
「あれ? これはあなたサイドの仕業じゃないのかな? 何が目的?」
「黙れ下郎、僕はたった今ここに来た。てっきりお前らが何かしたかと思ったんだがな」
「あら、心外ね、うちはここに人払いの結界まで張ってあげたのに」
お互い、腹を探り合いが始まりそうだった。
そのとき、3人目があらわれた。
「魔力の反応があったと思ったらあなたたちだったの? 紛らわしいからやめてほしいのだけれど」
「ふん、言ってろ」
そのとき、授業5分前の鐘がなった。
「さて、その子のことは置いとくとして、授業がはじまるよ、副会長さん」
「ふん、お前みたいな奴に言われる筋合いはないな」
そうして、その子の催眠をといた副会長はそのまま歩き去ってしまうのだった―――
帰る途中でついでにトイレを済ませて、教室に戻った。そうすると、いつものように遥が机に来ていて、相馬に声をかけてきた。
「どこいってたの?」
少し、いつもとは違う表情のような遥が問いかけてきた
「……トイレだよ」
「ふーん」
ちょっと、疑っていたが、俺は話題をそらすために問いかけた。
「で、お前は俺の机で何を期待しているんだ?」
「それはもちろん、しゅくだ」
「却下だ、たまには自分でやれ、そもそも今日はそんなに宿題多くないだろ」
「宿題とは投げ捨てるもの!」
「それはさっき聞いた、それに……」
そのとき、視界の端で夜坂栞が絡まれているのをとらえた。
「いや、しょうがないから今日は見せてやる。その代わり、ちょっと助けてくれ」
「む? そうま、何を企んでるの……まあ宿題を見せてくれるならいいや」
遥はすこし怪しんだが、すぐにノートをひったくって自分の席に戻っていく。そのとき、ちょうどこんな会話が耳に入ってきた。
「夜坂、当然10万円は持ってきてるだろうな?」
「いや……まだです……」
「お前、いつまでも俺らが待ってると思うなよ、お前ら、やれ!」
「了解っす」
そう元春が言うと、取り巻きたちが夜坂の髪を引っ張り床に張り倒す。
「痛い……なんで、私だけがこんな目に……」
「お前が、10万いつまでも払わないからだよ、親に泣きつけばいけるだろうが!」
「そんな……ううう」
「ここに丁度いいはさみがあるな、これで髪を切ってみるか、ははは、さっぱりしていいだろう」
「いやよ、もうやめて、いやああああああああああああああ!」
髪を切られそうになった夜坂は絶叫した。クラスメートたちも気づいていたが見て見ぬ振りをしている。
「お前らいい加減にしろよ!」
この流れを待っていた。ここで声をかければ夜坂が俺にいい印象を持つだろうと確信していた。
「なんだ、お前は? 確か倉木だったか? お前は昔、暴走族にぼこられた負け犬だよな? 俺らは夜坂と遊んでるんだけど、邪魔する気なら……殺すぞ!」
「お前らは殺すしか言えないのか? 幼稚だな」
「! 舐めやがって、ぶっ殺す」
「やれるもんなら、やってみろ!」
普段とは違う空気にクラスメートたちが圧倒されている中、お互いは、睨み合いながら拳が届く距離まで近づいた時。
「ハイハイ、ストップストップ、元春君も落ち着いて、そうまも熱くなって今日はなんか変だよー」
遥が何かを察したのか仲裁に入ってくれた。そのとき、教室のドアが開いた。
「どうした、お前ら、早く席に着け」
先生が入ってきた。俺らの担任だ、年は28歳くらい、大学生って言ってもわからないくらいに若く見える、たれ目をしていてほんわかとした印象を与えがちだが、口調はきつめである、
こんな言葉使いだが一応女性だ。一応、美人の部類に入るのだろう。
「ちっ……覚えとけよ!」
そうして、元春達は席に戻って行った。俺は内心ホッとしていた。ここで魔王の力が宿っている俺が元春達をぼこぼこにすると、みんなに怪しまれる。
なぜ、いきなりこんなに強くなったのか、と。そう、ここは最初から遥に途中で止めてもらう算段だったのだ、それに、あそこで退くような連中ではない、昼休憩……いや、おそらく放課後だ、邪魔が入らないようにどこか誰もいない場所へと俺をおびき寄せるだろう。くくく、そこでやればいい。高望みはしないほうがいいか、まずは夜坂に信頼してもらい、仲間にすることが先決だ。
そのとき、夜坂の嗚咽をかみ殺したつぶやきが普通の人間より聞こえるようになった俺に届いた。
「なんで私なんかを助けてくれたんだろう? どうせ、返り討ちに会うだけなのに……それに、偶然勝ったとしても、どうせ、別の人が私をいじめるだけだし……しょうがないか、私にとりえなんてないもんね……今日が終わったら死にたいな、でも死ぬのも怖いなあ……辛いよ……」
予想外だった。まずいな、ここで俺に少しでもいい印象を与えたかったのだが、俺に全然信頼がなかったのが痛い、俺が元春君達を倒したことをなんとかして伝えないと仲間になってくれなさそうだ、なにか手を打たなければ。
授業も何事もなく終わり、放課後になった。予想通り人が居る学校では何も仕掛けてこなかった。
【授業は退屈じゃな……それでこれからどうするのじゃ】
【十中八九、放課後に何かアクションを起こすはずだ。今朝、俺が割って入ったことに、相当苛立っているはずだからな、今朝の行動で夜坂を間接的ではなく直接的に痛めつけようとしたことから見るに、俺の持ち物や家などに、なにかするよりも、俺に直接何かする可能性の方が高い、よって、俺を何かしらの方法で呼び出す確率が高いと踏んでいる】
【ふむ、そこまで考えるとはなかなかじゃの……わらわの知恵はいらぬみたいじゃな】
【いや、ゾフィーは昔、魔王軍のリーダーだったんだよな。それなら話術もうまいはずだ、カリスマもあると思う、そこで頼みだが、夜坂を仲間にする時にうまくいかなかった場合の説得を頼む、惚れさせてもいい】
【ふむ、演説みたいにすればいいかの?】
【それでいい、俺の口調を真似するくらいは造作もないだろ?】
【うむ、簡単じゃ】
【それでいい、がんばってくれよ相棒】
そうこうしてるうちに、遥が声をかけてきた。
「部活行こう」
「すまん、今日は新しいバイトの面接がある」
もちろん嘘だ。どこでアクションを起こされるかわからないから、オカ研にいると、他の面子を巻き込む可能性を考慮して断ったのだ。それに、まだこの力は見つかるわけにはいかないからな。
「そうか、頑張ってね、あと体調も気をつけてね、今日なんか変だったから」
「わかったよ、部長によろしく言っといて、じゃあな」
そうして、俺は一人で靴箱に向かった。そしたら案の定、手紙があった。
『御岩町の東の山沿いにある廃工場で待つ、ちなみにお前の大好きな夜坂も一緒に来てるから、あとはわかるよな』
思わず俺は邪悪な笑みを浮かべてしまった。夜坂も連れて行ってくれているとは、都合がいい、あとで呼び出す手間が省けた。俺は運がいい。と、呟いた。
俺は廃工場に行く途中、試しに適当な壁を軽く殴ってみた。そしたら簡単に穴があいた。
【すごいな……ちょっと手加減したほうが……いや、俺が化け物に見えるように本気で行ったほうがいいか】
【まあ、普通の人間が弱すぎるのじゃ、しかし、なぜ本気で行くのじゃ?】
【今朝の会話から推測するに夜坂は力を望んでる。なら俺が超常的な強さを見せると、どうだ】
ゾフィーはふむぅと呟いて
【なるほどの、それだけでわらわ達についてきたくなるってことじゃな】
【まあそういうことだな、あとはどう説得するかに掛かってるかな】
【了解じゃ】
そして、廃工場に着いた。町はずれにある。小さな工場だ、昔の名残か製鉄工場の文字がかすれて見える。
「よう、倉木、逃げずによく来たなー」
中には元春のほかの取り巻きはいつもより多い。奥には手首を後ろに縛られた夜坂がいた。幸いまだ何もされていないようだ。
そこで俺はいつもとは違う二人の姿を見て激しい憎しみの感情に襲われた。
「今井!!!」
そう、妹を自殺未遂に追い込んだ首謀者、今井だった。
「誰かと思えば、あの自殺しようとした女の兄貴じゃないですか、今日は何の用事で?」
「よくも、ぬけぬけと!!!」
俺はそいつに殴りかかろうとした。
【落ち着くのじゃ相馬! 冷静になれ】
【でも……でも……】
【焦っても失敗するだけじゃ、その妹とやらも戻ってこんぞ】
【!? ……分かった……】
ゾフィーに窘められて俺は止まった。
「今井、知り合い?」
元春が今井に呟く
「え、別になんでもないっすよ」
「ふーん、今日はおともだちもつれてきたからな、ちゃんと家に帰れるかな?」
「ははは……」
「どうした、今更後悔しても遅いぞ、お前から喧嘩を売ってきたんだからな!」
「……お前らがゲス過ぎて、容赦しなくていいと思うと心が楽になっただけだ」
「お前、何を言ってるんだ? 怖くて可笑しくなったか……?」
「まあいいや、死ねよ」
相馬は人間には出せないほどのスピードで元春に近づき、殴った、本気は出さなかったが、やや強めに殴った。それだけで元春は横に5メートルも吹っ飛び、頬が抉れ、血だらけになっていた。
「は? え……?」
元春は状況を理解してなかった。
「今井も覚悟しろ!」
ばらばらにいた4人にも、とてつもない速さで近づき、元春のいる方向へ殴り飛ばした。怪我をした場所は様々だが、全員、元春の近くにみんな倒れた、意識はみんなあるが、全員叫べる気力はないぐらいの怪我をしている。計算通りだ、あいつらを1か所にまとめ虫の息にする。それが目的だったからな。
「え? なにこれ? 私殺されちゃうの? 怖い、怖い、怖い!」
予想だにしなかった状況に、夜坂はパニックに陥りだした。さて、本番はここからだ
「大丈夫だ、俺は君を助けに来ただけだ、まあ、こんなことしたら怖がるのも無理はないね……ごめんね」
「殺さないの……?」
「もちろんさ、辛かっただろう、今、縄を解いてあげるよ」
「……ありがとう」
まず縄を手刀で切った。夜坂は警戒しきっている。
「さて……君は自由だ、帰ってもかまわないよ。助けるのが遅れてごめんね」
相馬はまず信頼を得るために、夜坂を一度自由にしてあげた。
「……」
「どうしたんだい?」
「帰っても、どうせ明日、学校いったらどうせ別の人がいじめてきます。一緒です。あなたのしたことは、無駄なことだったんです!」
夜坂の悲痛な叫びがすっかり静かになった廃工場に木霊する。
「無駄じゃあないと思うけどね、夜坂さんもこいつらを何とかしたかったんだろう? すっきりしただろう?」
「それはそうですけど……もう私……この世界が嫌なんです!」
それは、今までの人生、嫌な役目ばっかり背負ってきた、夜坂の心の叫びだった。
「ふふふ……じゃあ、変えればいいじゃないか」
「えっ?」
「俺がその力を与えよう」
「え!?」
ここで、夜坂の表情が驚きと期待がごちゃまぜになったような顔をした。しかしすぐ冷静になった。
「そんなの神様でもない限り無理です!」
相馬は内心しめたと思った。
「神様はいないが、俺の中には魔王がいる。それがこの強さの正体だ」
「え……?」
夜坂は不安そうな顔をした。
「魔王って何か漫画みたいですね。でも、魔王にしては弱いような……」
「今はとある事情で力を失っているんだ。」
「そうなんですか……信じ難いですが、確かにあの元春君達を倒したのは事実なので、信じて見ようと思います」
夜坂まだ納得していないようだった。
「そこでだが、俺たちの仲間にならないか?」
「いいですが、 私は何も力持ってない普通の人間ですよ……」
夜坂は暗い表情で言った。
「それなら、安心しろ、ひとつだけ方法はある……君が魔族になることだ。ちなみに普段は人間に変身できるから生活に問題はないよ。あと、魔族の時の姿もほとんど人間に変わらない。」
夜坂は悩んでいた。もう後戻りできないと思ったからだろう。そして
「ごめんなさい! やはり私には無理です……せっかくの誘いですけどやはり自信がありません」
夜坂は悲しそうな表情で急いで廃工場の外に出ていこうとしている。相馬は焦り始めていた。
「お前はそこで逃げるのか! 今、逃げても何も人生は変わらないぞ!」
そのとき、口が勝手に動いた。いや、正確にはゾフィーが俺の意識と入れ替わっただけなのだが。
「いままで誰も助けてくれなかった。これからもそう、人生なんて何も変わらない」
諦めの表情を浮かべて、つぶやいた。しかし、それを遮るように言った。
「甘えるな! お前は誰かに助けてもらいたいだけだ。だが人生そんなに甘くない、誰も助けてくれない、ならどうする? 自分で動くしかないだろ! 賽は投げられた。俺が夜坂ならそれをうまく利用できると信じている。だが、決めるのは自分だ、そう、強くなるのも、諦めるのも自分の選択だ!」
「もう一度問う! 世界を変えたくはないか?」
夜坂はしばらくその言葉を反芻しているかの表情をし。やがて決意した表情だが涙声で言った。
「私は! 世界を変えたい!」
「おう! よく言った」
夜坂はついに泣き出した。これにはゾフィーも焦った。
「どうしたのじゃ、間違った。どうしたんだ? やはり魔族になるのが怖いか?」
「うれし泣きですよ。私のことをこんなに思ってくれる人がいたなんて、えへへ」
夜坂は腫れた目でうれしそうに笑った。
「そうか、何か悪いことでもあったのかと思ったよ」
「そんなことはないですよ、あ、それよりも魔族になったら何ができるのですか?」
それはだな、一つ特殊な能力を使えることできるのと、魔法を使う素質が人間より上がることと、あとは……人間よりも平均的な運動能力が増える。しかし、いいことばかりじゃなく異世界からの敵やこの世界にいるかもしれない魔法使いからも狙われる、どうだい?」
「倉木君も同じように狙われてるんですよね」
「ああ、もちろんだ」
「なら、私も魔族にしてください!」
うれしそうに答えた。
「よく言った! じゃあ、俺に手を合わせてくれるかな」
「なんか今日の倉木君しゃべり方が丁寧だね」
「そ、そうか? 気のせいだと思うぞ」
そして、夜坂とゾフィーが手を合わせて、ゾフィーが目をつぶって少したったと思ったら。夜坂の体が暗闇に包まれた。そして、1分くらい立ったと思ったら。パッと暗闇が晴れた。そこには。
目は半分ほどしか開いていないが、その瞳は黄金に輝いており、赤を基調とし、黒をおりまぜた可愛らしいシャーリングをきており、耳の上には、巻くような二つの角が出ており、紅蓮のように真っ赤な髪をし、それを足もとまで伸ばしていた、そして奇麗なおでこが光っていた。
「これが私? 力がみなぎってくるです」
「夜坂さんに与えた力は空間制御力だね。いろいろ応用がきくから便利だと思うよ。それにその姿から見て高位のヴァンパイアになったようだね」
この空間制御の力を与えることを選択したのは相馬のアイデアだ、最初の仲間は逃げることが得意でそれなりに攻撃ができる能力と考えての結果らしい。高位のバンパイアになったのは予想外だったが。
「さて、今のままじゃ俺も夜坂さんも力不足だね。それだけど……」
「わ、わたしのことは栞ってよんでくださいです!」
突然、栞が話を遮った。
「なんでだい?」
「わ、わたしの初めてできた友達だからです!」
「じゃあ、俺のことは相馬って呼んでくれ」
「わかったです。相馬」。
「で、話の続きだけど、力を蓄える方法は3つある、そのうち一つで最も効率がいいのは、人間の魂を吸い取ることなんだよ、そこに屑が5人転がってるだろ、そいつらの魂を吸い取る。俺が二つで栞が三つだな」
【魔力を上げる方法は3つあるのか、2つは聞いたが最後の1つは聞いてないぞ】
相馬がゾフィー に心の会話で愚痴っていた。
【最後の1つは、魔力を使ったりすることによる鍛錬じゃ、あの時に言わなかったのは今はできないことだと思ったからで、決して忘れていたわけじゃないのじゃ!】
どうやら、説明するのを忘れていたらしい。
「……魂を吸い取った人はどうなるの? 死んじゃうの?」
どうやら、心配しているようだ。
「夢と希望を失うだけだよ」
「……この人たちは私を散々苦しめてきたからそれくらいはいいです」
「物分かりがいいね、そういう子は好きだよ」
「え? ……ありがとうです」
栞の顔は茹でダコのように真っ赤になっている。
「さて、魔力を集めに行きますか」
「やっと、復讐することができるです、テンションあがりまくりです」
ちょっとテンションを上げてしゃべる栞
「まあ、殺すわけじゃないからね、あくまで、魂をいただいて夢と希望を奪うだけだけどね」
「ざまあみろです!」
興奮気味に栞は言った。
【おい、ゾフィー 栞の性格や口調が変わってね?】
【まあ、魔族になるとその人のなりたい性格が出る可能性が高いからの、変わる人が多いのじゃ】
俺はいまからやることに緊張して気合を入れる。
【ここからは俺がやるよ、ありがとう、ゾフィー】
【わかったのじゃ】
「さて、元春君達を処理しますかね」
「はいです」
そして、俺たちは元春君達に近づいた。
「ひっ、やめてくれ」
「今更、命乞いしても遅いです」
栞は目をつぶると、近くにいた3人からふわーっと白い光の球が栞に流れ込んでいった。魂の吸い取り方なんて教えてないのに簡単にやるなんて……相馬は魔族の中にも才能があるんだなと思った。
「……さて俺の番だな…………」
「ん、相馬? どうしたです?」
「いや、なんでもない」
俺は震える手を抑える。
「動け……くっ……」
俺はやっとのことで手を前に出し、目の前にいる二人の生気を感じてそれをつかみ取るように自分の中に取り込んだ。そうすると、すこし体のなかに温かいものを感じそれが血液に乗って全身に流れていった。なるほど、これが魔力か。相馬は改めて魔力がどんなものかを感じていた。
魂を吸い取られた五人の目は虚ろだった。
呆然としている場合じゃない、もうひと仕事あるな。
「栞、さっそく悪いが、空間移動できるか?」
「やったことないですが、やってみますです。どこに移動しますです?」
「俺のアパートの裏庭に飛んでくれ」
「わからないとこは無理です」
「じゃあ、学校の屋上にとんでくれるか」
「了解です」
そういうと、栞は手を前に出し円を描いた、そこには黒い空洞ができていた。どうやら力の使い方は本能的にわかるらしい。
「ここの穴に入ると行けますです」
「わかった」
そして無事に俺達は屋上に移動したのであった。
「終わったか……おつかれ」
「おつかれさまです。」
「変身解いてくれ」
「そうですね、こんなところ目撃されたくないです」
そういうと、すぐにもとの黒髪の栞に戻った。
「結構簡単に変身できるんですね」
「まあ、人間に化けてるって言ったほうが正確かな、さて、今後の方針について話したいが、ここだと万が一のことがあるからあとで俺の家でいろいろ話したい。来てくれるか?」
すると栞は
「え? いきなり家なんて……大胆ですね」
「そういうことじゃないんだが……」
「シャワーは浴びさせてくださいね」
栞は顔を赤らめながら言った。全然話を聞いてなかった。
「だから! 今後の作戦方針を決めたいんだよ! 俺ら仲間だろ?」
「え? あああ、そ、そ、そうですね、何を勘違いしてるのかな、私ったら」
栞はうまく説得した。次は俺と栞との放課後のアリバイが必要だがどうする、俺と栞が屋上にいるアリバイだ、しかし、元春達は廃工場で魂を吸ったし、瀕死の怪我を負っている。おそらく今頃、元春達はあそこに留まっているだろう、魂を吸い取った後口を割る心配はないが……問題は、朝に元春達と揉めて、ここに元春達がいなくて、なぜ俺らが屋上にいるのかだ……なんかいい方法はないか? このままだと確実に俺らが元春達の容疑者になってしまう。考えろ、俺。
「あの……急に黙り込んでどうしたんですか?」
「ああいや、なんでもないよ」
「なんか悩み事ですか? 助けられることがあったら言ってくださいね」
ああ、栞はやさしいなあ、遥とは大違いだな、待てよ、助ける……そうか! 簡単なことじゃないか、栞を匿うということにして屋上にずっと居たことにすればいいんだ。あとは誰か目撃者が必要だな……遥を使うか。
「ああ、栞、人間のままでも微力ながら力が出せるはずだが、ちょっと頼みをいいかい?」 「はい、なんでしょうか?」
「同じクラスの俺によく話しかけてくる。空上遥って知らないか?」
「知ってますが、話したことはないですね。それがどうかしましたか」
「そうか、なら当然、靴箱の位置も知らないよな……」
話したこともない人の靴箱の位置なんて、普通覚えてないか……別の作戦を考えようとしたとき。意外な返事が返ってきた。
「いや、靴箱の位置は覚えてますよ。」
「え! なんで?」
「……結構な頻度で、クラスの友達に靴を隠されていたので、靴箱を探し周ってるうちに自然と覚えてしまったのです。」
栞は悲しそうな顔をしていた。
「でも、もう大丈夫です。相馬が居ますから。何しろ仲間ですもんね、何があっても大丈夫」
「そうか、辛いこと、思い出させてごめんな」
「いえいえ、もう私は強くなったのですからね」
栞ははにかんで笑う
「それで、空上さんの靴箱に何をしたらいいんですか?」
「ああ、この2枚の紙を靴箱に入れてくれ、手だけ空間に突っ込んで、移動させてやれば簡単なはず」
「わかりました。それくらいの力でいいのなら、多分ですができると思います。えーと、えい!」
かわいらしい掛け声とともに、手を前に伸ばした、手のひらの部分が見えなくなった。次の瞬間、手を引き抜いていた。
「成功です! しかし、何を書いたんですか? 」
「それは、時期に分かる。今やることは、屋上の給水塔の陰に隠れることだな。」
「了解です。」
少し時間がたった、時刻は18時を指したところだった。慌てて階段を上る音がしてきた。
そして、大きな音ともに屋上のドアが開いた
「そうま!」
血相を変えた、いつもとは違う怒気をはらんだ遥の声が屋上に響いた。
「誰だ!?」
ちょっと白々しかったが、まあいいだろう。
「……なんだ、遥か、びっくりさせるなよ、なんでここに来たんだ?」
「いや、夜坂さんを匿うって書いてたから、様子を見に来たけど、その様子じゃあ、あいつらは馬鹿正直に廃工場で待ってるわけね。あーあ、心配して損した」
よし、これで、目撃者を得た。これで俺らはずっと屋上にいたことになる。遥の靴箱に入れた2つの紙は、ひとつは俺に宛てられた元春の手紙をちょっと修正し遥宛に書きなおしたもの、もう片方は俺が屋上で夜坂を匿うからお前は逃げろ、という紙である。遥と俺の付き合いの長さなら、俺を心配して屋上に来るだろうと、予測していた。それが見事に当たったわけである。
「それで、夜坂さんは無事なの?」
すこし怪訝な顔をして言った。
「うむ、大丈夫だ、栞出てきても大丈夫だぞ」
「あ、はい……」
「しおり?」
しまった! と思ったが、もう遅い
「なんでそんな呼び捨てできるほどに仲良くなってるのかなー 今朝も急に助けてたし、もしかしてそうま、夜坂さんのこと好きなわけー?」
あいかわらずのど直球である。さて、どう返答する。遥と栞と両方と仲良くする方法は……
「いや、俺はこれから生徒会長に立候補しようと思っていて。そのための後見人が必要で、栞を選んだんだ、それでお互い親しみを込めて呼んだほうが、みんなに好感を持ってもらえると思ったんだ」
我ながら、苦しいいいわけである。しかし、後見人になってもらおうとしているという話は本当だ、あとは、栞がどれだけ話を合わせれるかだな。
「そ、そうなんですよ、隠れていた時になんで私を助けたのか聞いたのですが、生徒会の後見人を探してて、頭がよくて、容姿がそこそこにいいのはお前しかいないと言われて、それなら、私でいいならと立候補したのですよ、そのとき仲良さそうにしていたほうが、みんなに好感が持たれるって言われたから、仕方ないから賛成をしたのです。」
ファインプレーだった。これなら遥も納得するだろう。
「ふーん、なるほどね、そうまー なんであたしじゃなかったの?」
「お前は成績悪いし、適当だから向いてない」
「それもそうか、まあ、なにはともあれ、今日は無事に過ごせたからいいかな、明日すっぽかされた元春達の逆襲が怖いから対策たてとかないとね」
「そうだな、なんか今日考えとくよ、今のところスタンガンを持ってひたすら逃走することくらいしか思いつかねえ……」
そのとき、栞は笑っていた。
「ふふふ、仲がいいんですね、二人とも」
「伊達に幼馴染やってないからねー」
「俺は腐れ縁だと思うがな」
「ちょっとー それひどいよー」
そんな事を話していると、下校のチャイムが鳴り始めた。
「さて、危ないし、3人で帰ろうか」
「そうだね、そうしようか、夜坂さんもそれでいいかい?」
「はい!」
そして俺達は学校を後にしたのであった。
「俺は栞を送って帰るから。お前も気をつけて帰れよ」
「らじゃー」
遥はてきとうな返事をして、家へと帰って行った。
「さて、俺の家に行こうか」
「はい、シャワーは……」
「それはもういいです。」
帰りにコンビニによって夕飯とプリンを買ってきた。そのときに栞は親に遅くなると携帯で伝えていたようだ。家に着いたら早速説明を始めた。
「ひとまず、俺のことについての説明しよう、俺は体に魔王が住んでいる。それを確かめる方法は、えーと、あ、そうなんだ、ゾフィー 曰く体が触れていると心の会話ができるらしい」
「ゾフィー?」
「まあ、とりあえず、手を握ってみろ」
栞は軽く俺の手を握った。
【はじめましてなのじゃ、わらわこそが魔王ゾフィー じゃ】
【あ、はじめまして、魔王って女性の方なのですね】
【そうだな、俺も最初はびっくりしたけどな】
【魔王が女だといけんのか?】
【まあ、イメージ的に男が多いですからね】
とそこで、栞は握っていた手を離した。
「わかりました。あなたの中にはゾフィーさんが居ますね。」
「うん、そういうことだ」
「次に状況だが、あまり芳しくない、ゾフィーは魔力をほとんど失っているし、いつ異世界から追手がやってくるかわからない。だから栞が結構、要になっている。自由に移動できるし、俺の予測だが、応用すれば攻撃にも使えるだろうと、たとえば切り裂いた空間を敵に飛ばしてみると真っ二つになると思う。」
「なるほど、今度、人のいないところでいろいろ練習しときますね」
「魔力を使うときは敵にはくれぐれも注意してくれ」
一応、念を押しておいた。
「まあ、当面の目標は学校内での敵を把握しつつ、静かに学校の支配だから、生徒会長になるのは本当だ、後見人は頼む」
「あれは冗談じゃなかったんですね。わかりました。なりましょう。」
「ありがとう、そして注意することだが、少なくとも二人の魔力を持ったものが潜伏している。なので、むやみに学校内で力は振るわないでくれ、魔力を探知されて、やられたら、それこそおしまいだからな」
「わかりました。」
「とりあえず、今のところ異世界からの敵は見つかってないから今気を付けるのはその二人の人物だな」
「なるほど、気をつけますね」
そのあと俺は栞に魔力の回復の仕方などいろいろ教えたが、俺自身の力は教えなかった。
「さて、あまり遅くなってもいけないから、そろそろ帰るか?」
「そうですね、じゃあ、今日はありがとうございました。……また来ていいですか?」
「おう!いいぞ、じゃあな」
そういうと、栞はうれしそうに帰って行った。
さて、飯にするかな。
【今日は成功じゃったな】
ゾフィー が話しかけてきた。ご飯を食べながらでも心の会話はできるのは楽なところだな。
【そうだな、仲間も出来て、しかも、素質がありそうなんだがどうなんだ?】
【うむ、あの子は、魔族の素質があるのう、いきなりあそこまでいろんな技をできるとは思わなかったのじゃ】
【だよな、良かった。最初にいい仲間ができて】
【うむ、まず一歩じゃな】
【次なんだが、まずはクラスをまとめる、そして、長いこと空席になっているクラス委員を俺が務める、そして、生徒会の先輩に顔を売りつつ催眠術をかけ、俺の支持者にする。それでいけるはずだ】
【じゃが、なんとなくいやな予感がするのじゃ】
【予感は予感だ、当たらない】
【うむぅ、そうかのう、まあ良い、ほれ、プリンを開けるのじゃ】
【はいはい】
こうして最初の作戦は概ね成功に終わったのだった。
―――話は遡る。ちょうど、相馬達が廃工場を脱した時のことだった、独りの男が廃工場に入ってきた。
「これは……帰り道に魔力の反応を追いかけて来たら、こんなことが起こってるとは……魂を抜かれてるな、この感じから魔法使いか妖怪か? それとも科学結社が何か企んでるのか? どちらにしろ、この程度のことだ、僕が解決できないわけがない」
彼はこの地区を任されてる魔法使いのエリートだった。上に報告しなかったのは彼のプライドだろう。
彼女は小さく呪文を唱えると、跡形もなく消えてしまった―――