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甘畏現実(あまいげんじつ)
あなたの命を
どうか捧げてください
なんの意味も価値もないのなら
健康的なその腕を
しなやかな脚を
たくましい身体を
どうか捧げてください
不要だと言うのなら
恵まれない者達のために
望んでも叶わない者の為に
どうか捧げてください
わたし達は羨ましい
はじめからすべてを持っている
あなた達が憎らしい
誰かと繋げる手をください
ここに来れる脚をください
想いを伝える口をください
痛みを訴える心をください
モノを考える脳をください
あなたのすべてを
ぼくらにください
いらないと嘆くのなら
わからないと泣くのなら
助けてあげる
もう二度と
悲しくないように
もう二度と
考えることのないように
ずっとずっと
忘れ続けることができるように
余すことのなく
ひとつ残らず
きれいにさっぱり
食べてあげるから
いただきます
ぼくらに
わたしたちに
かれらに
あのこたちに
あなたのすべてを
ささげてください




