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水底(すいてい)
手を差し伸べて
手を差し伸べて
水底に沈む私を
誰でもいいから掬い上げて
願った言葉は泡となり
祈った両腕は藍となり
光のない深海へと
私の身体が落ちていく
浮かぶ滴は撹拌し
流れる雫は溶解し
光りの筋が貫く眼前
狭い額縁に囚われて
徐々に姿を縮めてく
青と藍と白と黒の世界
煌びやかに厳かに
静寂に静謐に
ゆっくり急速に
別れていく
分れていく
酸素の泡が気泡となりて
水面へと昇って行く
置いてかないでと伸ばした手は
伸ばした手は
伸ばした手は
着地し沈む背中
舞い上がる砂塵が
やがて視界を覆う
耳を澄ませば
おかえりと囁く
何かが聞こえながら




