正乞法(せいこうほう)
何かを正しくて生きていても
何が正しいのか解らない
どうして間違えるのかと嘆いても
どこが間違っているかも解らない
悔しさをバネにしても
何回も使ったバネは痛みっぱなし
伸びて跳ねない針金が
押して突き刺さる痛みに変わっただけ
痛みに手を引けば
転がるバネが無情に落ちる
軋んだ椅子が静かに笑って
ふやけた背もたれが背後を見せる
不安定な立ち位置
安定のない座り心地
揺れる頭なんかじゃ何も考えられなくて
どれが答えなのかも解らない
生きるなんて難しすぎる問題は
毎日どこに棚上げして
今日も何も考えず生き延びる
増える書類に嵩む卑屈
気が付けば
学生時代の友人なんて覚えていなくて
気が付けば
新しくできた友人なんて誰もいなくて
少しずつ消えていく見知らぬ人達が
携帯のアドレス帳から削除される毎日
律儀に同じ時間
メールを送ってくる相手は電子の世界
返事のいらない楽な関係
楽すぎて泣けてくる
聞こえる声はいつも同じで
聞こえない声はいつも同じ
もうすぐ私は消えてしまう
死ぬなんて記憶に残る鮮烈な消え方じゃなく
消えるなんて記憶に残らない曖昧な消え方
誰にも覚えておらず
誰も知らないうちに
私が消えてしまったら
それでも私は
生きていると言えるんだろうか
置物と変わらない携帯は放物線を描き
くたびれたベッドの上に先に入る
電気を点け忘れた真っ暗な部屋
私の電気は
どこで点けられるんだろうか