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珈琲(こーひー)
知らない知らない
私は何も知らない
貴方が咥えた煙草の煙が
崩れていきながら天井につく
考え事をする横顔
半開きの口に挟まった煙草
細く切れた眼差しは
どこか遠くを見ているようだった
声をかけるのを躊躇ってしまう背中
手をかけるのを戸惑ってしまう空気
だから私は何も言わず
そっと珈琲を淹れる
気づかれないように
溢さない位置に
それだけして帰ろうと背を向ければ
貴方はいつも通りさり気なく
ありがとう
と言ってくれる
たったその一言が聞きたくて
私は毎日貴方の近くに
苦くて甘い
珈琲を居れる




