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『未尽(びじん)』
死ぬ前に
いつか見たあの景色を
死ぬ前に
いつか嗅いだあの香りを
僕はまた知りたい
けれど
それが何処だったのか
少しも思い出せない
どんな風景だったのか
どんな香りだったのか
何も知らない
見えるのは
いつも閉じ籠る暗い自室
煙の香りが籠り
人工の光が照らす
動かない壁紙に
擦り付けた指紋
風はなく
何もない
薄っぺらい壁
低い天井に
空を描いて
薄い壁に
外を想って
僕はまだ
あの景色を思い出せない
いつか見る
少しばかりの懐かしさを胸に
今日も死んでいく




