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他空箱(たからばこ)
夜の終わりに見た
小さな景色
何度も思い出して
何度も仕舞って
繰り返された作業の中
緩やかに
緩やかに
ほんの少しばかりの思い出を
誰かとの思い出を
繋いで
繋いでいた
あの日のことを
忘れないために
蓋をして
何度も蓋をして
それがたった一つの
出来ることだから
どんなに思い出しても
今を生きるために
今日を生き抜くために
笑って笑って
泣いて泣いて
そうやって
昔を昔と
決めつけて
蝶の姿などなく
蝉のなき声もなく
ただただ
私の声だけが
響き渡って
そうやって過ぎていく
忘れられない季節
思い出の中だけで生きて
想い出の中だけで実る
私の大切なあの頃
さぁ
後ろは振り返らず
見ることもせず
忘れることはしないで
蓋をして
仕舞ってしまって
大事なあの日を
残したまま
今日を過ごして
明日を生きよう
風はいつでも
その時に吹いているのだから




