NO.6
冬 1
『あれ?』
その人になんとなく会ったような気がしたのは、その人が長いコートを着ていたからだ。季節は冬なので、コートは珍しくない。問題はその長さだ。着ているのは、男性なのだが背が高い。そのせいか、ロングコートを着たまま、つり革を持つと、ちょうど裾がその人の前で座っている人のひざあたりにあたる。
座っている人が鞄を持っていると、鞄の上に乗せている手にあたるのだ。立っている本人に悪気はないのだろうが、ウトウトしかけていた目を覚まさせるくらいの効果が実はある。なぜ、それがわかるか。
自分がやられたことがあるからだ。
その人が今日は横に立っている。私も立っているのだ。
すると、その人の前にいる女子高校生が、鞄をあげ、手を鞄の下に入れて再び夢の中で。どうやら、彼女もコートが当たったようだ。
その気持ち、わかる!と心の中で共感していた朝だった・・・・・・。
冬 2
ある時刻の赤い電車に乗ると、乗り継いだ銀色の電車で会える人がいることが判明した。
なぜ、その人に目が行くのか。
理由は簡単。恋……ではなく、その人の格好だ。へんな格好をしているわけではない。
ワイシャツにスーツのズボン。スーツは手に持っている。
だが。
それが、夏だろうと冬だろうと同じ格好なのだ。
電車の中が、クーラーがガンガンに効いていようとも、暖房が効いていようともだ。しかも、同じ駅で降りていく。途中から方向が違うのか、姿が見えなくなるのだが、いつしか変わるときが来るのか、それだけが楽しみなのだ。
乗り継いだ先の電車にも顔見知りができる最近なのである。
終わらない赤い電車
誰かが言っていた。物語の基本の一つは行って、帰ってくることだと。
そう赤い電車に乗って出かける者は、赤い電車に乗って帰ってくるのだ。乗らなければ、帰ってくることもない。
そんなわけで。
私は、赤い電車を降りた。勤め先が変わったのだ。毎日、乗っていた時間、車両、混み具合、出会う人。すべてが変わる。
そんなことには、関係なく、今日も赤い電車は走っている。あれは多くの人の生活を乗せて、支え、耐えて、今日も動いている。
私と赤い電車の物語は終わっても、誰かがまだ乗り始める。そうして、時は、移ろっていくのだろう。赤い電車は終わらない。