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ローソンで待ってる

作者: 青井鳥人

ベットの上に座って、すっかり湿気ってしまったポテトチップスをポリポリと齧ってみる。


またあいつらが寝静まったら、コンビニに行かなきゃ。レオンは今日来るのかしら? こないだ会った時は、コーラばっかり飲み過ぎて、気持ち悪いとか言ってたけど、だいたい本当にあいつ、学校に行ってないのかしら? 腕なんか真っ黒に日焼けしてたし、「自宅用の日サロがあるんだよ、家に。深夜の通販で買ったんだ」っていうのも、ちょっと言い訳っぽい。まあいいわ。あいつに会ったらまた色々買ってもらわなきゃ。


レオンは少し前から、真夜中のコンビニでちょくちょく会うようになった男の子だ。歳は同じくらいだろうか。聞いていない。

「俺のこと、レオンて呼んでよ。君のことは何て呼べばいい?」

「教えない。」

レオンも学校に行ってない。どのくらい行ってないの? と聞いたら「200光年くらい。」と言って笑ってた。「光年」は距離の単位なのよ、馬鹿。でも私も馬鹿だから、そういう意味では、レオンは「友達」ってことになるのかしら?「友達」だって。うげぇー。タモさんじゃあるまいし、「友達の輪」とか気色悪いし。大体、二人だけで「輪」なんて作ったら、騎馬戦の下で支えてる二人みたいになるし。上に乗る人がいない騎馬戦の「馬」なんて本当にマヌケだわ。


あいつらが寝静まるのを確認してから、そろりと家を抜け出す。パーカーのフードを頭にかけて、不審者気取りで「ローソン」の前まで歩く。おでんの匂いが、一年中するのよね、「ローソン」って。

いたいた。レオンが雑誌のコーナーで、ゲーム雑誌を立ち読みしている。なんだかムカついたから、思い切りお尻を蹴ってやる。


「おい、ネクラ! 雑誌は買って読めよ!」

「お、来たな。今日あたり来ると踏んでたよ。ちょっと待って、ここだけ読ませて。」

「お前はストーカーか。なんで私が来ることを『踏む』んだよ! 気持ち悪い。ねえ、ポテチ買ってよ。」

「分かった分かった。分かったからちょっと待って。」

ゲームの攻略を全部雑誌に載せちゃったら、ゲーム会社が怒っちゃうでしょう? たいがいそういう雑誌には、「ヒント」しか書かれてないの。知らないの? それも踏まえての「ゲーム」になってんのよ。戦略よ、戦略。おバカなレオン。まんまとそれにハマっちゃってさ。


「ねえねえ、すごい事を思いついたんだけど、聞いてくれる?」

一つはここで食べて、一つは部屋に持って帰ろう。レオンはなんであんなにお金持ってんだろ?家がお金持ちだから? 私の家なんて、年中お金がなくて、あいつらピーピー言ってんのに、なんてまあ世の中は不公平ね。

この時間ならお巡りさんも回ってこない。コンビニの前で、こうやって堂々と深夜徘徊。

「君と僕でね、会社を作るっていうのはどうだろう?」

「あんた何言い出してんの? 会社って何よ?大体何を売るのよ?」

「それはさあ、これから考えるとしてさ。とりあえず作るんだよ。そうすりゃ集まる名目が、とりあえずできるじゃない。で、夜な夜な二人でこうやってコンビニの前で、会議を開くわけさ。普通の人は真夜中に働かないから、僕らには競合相手も少ない。チャンスだら!」

何よ「チャンスだら!」って、全然言えてないじゃない。そんなんじゃ、チャンスの方から逃げて行くわよ。まったく何を言い出すかと思えば、会社を作る? どうしてそんなこと考えつくのよ。

「でも僕たち、学校に行ってないから、きっと相手になんか、されないかな? 会社って、大学出た人しか、作っちゃいけなかったりして。そうだったら残念だなー。僕、絶対大学なんて行けないし、その前に高校にも行けてないし、どこにも行かないまま、死ぬような気がするんだよね。」

「そうかもね」

「何だよー! ポテチ買ってやったろー? 少しは慰めたり、励ましたりしてくれてもいいじゃない! そうやって人は支え合うんだぞーう!」

支え合って、なすり合って死んでいくなら、一人でこうやって夜に潜っていた方がいい。

「君が社長でいいからさ。ね?」

何でそんな会社の社長にならないといけないのよ? あんた、会社っていうものの仕組み、分かってんの? 出資者が必要なのよ? 信用を得て、お金をたくさん出してくれるパトロンを探さないといけないのよ? 学校行ってない二人が、真夜中のローソンの前でやってる会社になんか、一体誰がお金を出すのよ。ローソンにだって訴えられるわよ。そのうち。

「よ! 社長! それはそうとさ、君はもう本当に行かないの? 学校。僕はさ、馬鹿だから行かないって言っても、周りが「はい、そうですか」で済む部分があるからいいんだけどさ、君は違う。頭いいし、優しいし、かわいいし。『いし』って何回言ったかな? まあいいや。」

「余計なお世話よ。」

本当に余計なお世話よ。なんでそんなこと言うのよ、レオン? 私はあんたといる時だけ、こんなに話せるの。ここが私の場所じゃないなんて、なんでそんなこと言うのよ? だったら代わりの場所を見つけてきてよ。ここで待ってるから! でも、さっきの会社の話以外でよ。

「もうすぐ夜が明けちゃうね。僕らの時間はあまりにも短いよ。昼間の奴らは、僕らの倍は時間を持ってるんだ。不公平だね。大学出ただけで、昼間働けるだけで、時間を倍貰えるなんて、そんな不公平なゲームがあるもんか。」


ゲームね。確かにゲームなのかもね。レオン。


「そろそろ帰るわ。あの人たちが起きてきちゃう」

「ん? ああ、分かった。じゃあまたここで会おう。会社さえ作れたら、定期的に君と会えるのになあ。」

「そうね、考えとくわ。ポテチありがと。」


また会いましょう。レオン。でももしかしたら、もう二度と会わないかもね。どっちでもいいわ。今は。

まずい、夜が明ける。早く隠れなきゃ。レオン、バイバイ。私の友達。

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