ヌヴェル22 朴念仁
掲載日:2026/09/12
男は大声をはりあげて交差点の真ん中に立っていた。
「俺を見ろ!おまえら、ちゃんと俺を見ろ!」
そう叫び続けていた。
男は思う。
蟻はいいんだよ。
人に見つからなくて。
見つからない方が、餌をしっかり運べるからいいんだよ。
蝶々はいいんだよ。
人に見つからなくて。
見つからない方が、落ち着いて花の蜜を吸えるからいいんだよ。
でも、俺は違う。
見てほしいんだ。
気づいてほしいんだ。
無視しないでほしいんだ。
男は大声をはりあげて交差点の真ん中に立っていた。
「俺を見ろ!おまえら、ちゃんと俺を見ろ!」
そう叫び続けていた。
蟻は誰かに見つけられたよ。
蝶々も誰かに見つけられたよ。
なのに俺は。
男は大声をはりあげて交差点の真ん中に立っていた。
なのに、そこには誰もいないかのように
人は行きかい、
車は行きかい、
時間だけが過ぎ去っていった。




