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聖女のユニークスキルは婚約破棄の数だけ強くなる

作者: たっくん
掲載日:2026/05/11

 魔王城・最上階。


 勇者パーティーは壊滅していた。



「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!?」


 聖女アリス・ルミナスが、泣きそうな顔で絶叫する。


 爆炎。


 衝撃波。


 崩壊する床。


 そして。


 その全ての中心で。


 魔王ゼルディアは、無言で立っていた。



 強い。


 意味が分からないくらい強い。



「なんで聖属性効かないのぉ!?」


 アリスが杖を振り回す。


 だが。


 魔王は片手でそれを弾き飛ばした。


「ひっ」


 アリスが固まる。


 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。



 盗賊リオが、床へ倒れたまま叫ぶ。


「アリスちゃん!」


「次いこ次!!」


「軽く言わないでぇ!!」



 魔法使いセリナが瓦礫から起き上がる。


「今回マジで当たり少なかったし!」


「それはそう!!」



 僧侶フィリアだけは、なぜか優雅にお茶を飲んでいた。


「でも【高速皮むき】は便利だったよ〜?」


「今それ関係ある!?」



【高速皮むき】


 野菜の皮を超高速で剥ける。



「魔王相手に使い道ないからぁ!!」


 アリスが泣き叫ぶ。



 その時だった。


 魔王が、ゆっくり剣を持ち上げる。


 空気が沈んだ。



「はい撤収ぅぅぅぅ!!!」


 セリナが即座に転移魔法を展開する。


 巨大な魔法陣。


 光。


 空間歪曲。



「次どこ行く!?」


 リオが紙束を広げた。


「えっ今!?」



「候補一覧!」


「行動早すぎるぅ!!」



「第三王子レオニール!」


「女好き!」


「愛人四人!」


「ユニークスキル持ち!」



 アリスの目が輝く。


「スキル名は!?」


 リオがニヤリと笑った。



【剣聖】



 空気が止まる。



「SSRきたぁぁぁぁ!!!」


 セリナが跳ねる。


「絶対強いやつ!!」


 フィリアものんびり拍手した。



 だが。


 アリスだけは真顔だった。


「……でも私、剣使えないよ?」


 全員、静かに目を逸らした。



「……まぁ!」


 リオが咳払いする。


「当たりかもしれないし!」


「いこいこー!」


 セリナが笑う。



「もうやだこの人生……」


 アリスが項垂れる。


 だが。


 次の瞬間には、しっかり髪を整えていた。



「よし」


 アリスがニッコリ微笑む。


 完璧な聖女スマイル。



「婚約されに行きますか!」


「言い方ぁ!!」


 セリナのツッコミと同時。


 転移魔法が発動した。





 王立舞踏会。


 煌びやかなシャンデリア。


 豪華な料理。


 談笑する貴族達。


 その中央へ。


 巨大魔法陣が出現した。



「いっけぇぇぇぇぇ!!!」


 アリス、空中投下。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 テーブル粉砕。


 料理飛散。


 貴族絶叫。



 静まり返る会場。


 その中心で。


 アリスはゆっくり立ち上がった。


 ドレスを整え。


 銀髪を払い。


 そして。



「……失礼致しました」


 超綺麗なお辞儀。


 空気が止まる。



「聖女アリス様……!?」


「なぜここに……!?」


 周囲がざわめく。



 その中で。


 一人の王子が、目を輝かせていた。



 第三王子レオニール。


 イケメン。


 クズ。


 女好き。


 婚約継続率3%。



(よし)


 アリスが心の中で拳を握る。


(ここから婚約して)


(婚約破棄されて)


(【剣聖】ゲット!)


(完璧!)



「おぉ……!」


 レオニール王子が歩み寄る。


「なんと美しい……」


 アリスは儚げに微笑んだ。



「そんな……」


「わたくしなど……」


 完全聖女モード。



 その後ろ。



「ちょろそうだね」


 リオ。


「二日かな?」


 セリナ。


「早いね〜」


 フィリア。



 二週間後。


 アリスはレオニール王子と婚約した。


 そして。


 三日後。



「聖女アリス・ルミナス!!」


 王宮ホール。


 大勢の貴族達の前で。


 レオニール王子が高らかに叫んだ。



「お前との婚約を破棄する!!」



「ありがとうございますっ!!!」


 アリスが即答した。


 会場が凍る。



「……え?」


 王子が固まる。


 アリスも固まった。



「あっ」


 やってしまった。


 本音が出た。



「こ、こほん」


 アリスが咳払いする。


 そして。


 うるうる涙目モードへ移行。



「そ、そんな……」


「婚約破棄だなんて酷いですぅ……」


 超棒読みだった。



 その瞬間。


 アリスの身体が淡く光る。



【ユニークスキル獲得】


【剣聖】



「きたぁぁぁぁ!!!」


 セリナ達が歓声を上げる。


「SSR!SSR!」


「大当たりぃ!!」



 アリスも目を輝かせた。


「剣聖ぉぉぉぉ!!」



 五分後。


 中庭。



「重っっっっっ!!!」


 アリスが剣に潰されていた。



「持てないぃぃぃ!!!」


「聖女だもんねぇ」


 フィリアがのんびり言う。



 盗賊リオが肩を震わせる。


「SSRなのに完全ハズレじゃん……!」



 その夜。


 魔王討伐再チャレンジ。



 アリスは、巨大な剣を引きずりながら魔王へ突撃した。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 だが。



 ブンッ。



 勢い余って、自分で一回転した。


「ぎゃぁぁぁぁ!?」


 アリスが壁へ突っ込む。



 魔王は、無言だった。


 ただ。


 ほんの少しだけ。


 呆れたように見えた。


 魔王城最上階。



「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


 聖女アリスが、壁へめり込んでいた。



「やっぱ剣無理ぃぃぃ!!」


 アリスが涙目で叫ぶ。


 巨大な剣は床へ突き刺さり。


 魔王ゼルディアは、無言でそれを見下ろしていた。



「いやぁ〜!」


 セリナが爆笑する。


「アリスちゃん才能なさすぎ!!」


「うるさいぃぃぃ!!」



 盗賊リオが肩を竦める。


「せっかくSSRだったのにね〜」


「なんで聖女に【剣聖】持たせたの神様ぁ!?」



 フィリアがのんびり頷く。


「でも【高速皮むき】よりは強いよ〜?」


「比較対象が終わってる!!」



 その時だった。


 魔王が、ゆっくり歩き出す。


 ズン。


 ズン。


 重い。


 空気が重すぎる。



「撤収ぅぅぅぅ!!!」


 アリスが即決した。


 セリナが転移魔法を展開する。



 光。


 浮遊感。


 そして次の瞬間――



「到着ぅー!」


 王都・高級レストラン。



「……へ?」


 アリスが固まる。


 目の前。


 そこには。


 超高級フルコース。



「いや戦略会議じゃないの!?」


「空腹じゃ頭回らないし!」


 セリナが肉を切りながら言う。



 リオが大量の資料を机へ並べた。


「次の婚約候補一覧〜」


「仕事早いなぁ!?」



「まず第一候補」


 リオが紙をめくる。



「東方公爵家長男」


「ユニークスキル持ち」


「超ナルシスト」


「浮気性」


「婚約破棄率高め」



 アリスが身を乗り出す。


「スキル名は!?」


 リオがニヤリと笑った。



【黒炎】



 全員固まる。



「強そう!!」


 セリナが叫ぶ。


「絶対強い!!」


 アリスも目を輝かせた。



「炎系!」


「しかも黒!!」


「当たり感すごい!!」



 フィリアがパンを食べながら呟く。


「でもアリスちゃん火属性苦手だよね〜」


 空気が止まった。



「……あ」


 アリスが固まる。



「またハズレじゃん!!」


「まだ分かんないでしょ!?」


 セリナが慌てる。



「いやでも前回も」


『SSRきたぁぁ!!』



『剣持てない』


 だったし……」


 リオが真顔で言った。



「うわぁぁぁぁん!!」


 アリスが机へ突っ伏す。



 その時だった。


 店内奥。


 一人の男性が、アリスへ視線を向けていた。


 整った顔立ち。


 高級服。


 そして。


 異常なまでのナルシスト笑顔。



「……見つけた」


 リオが小声で呟く。



「東方公爵家長男」


「エルディオ」


「本人です」



 アリス達の視線が、一斉にそちらへ向く。



 そして次の瞬間。


 エルディオが髪をかき上げながら立ち上がった。



「おや」


「これは運命かな?」



 全員、確信した。



「「「ちょろい」」」



 三日後。


 アリスはエルディオと婚約した。


 そして。


 翌日。



「聖女アリス・ルミナス!!」


 王都噴水広場。


 大勢の観衆の前で。


 エルディオが薔薇を撒きながら叫ぶ。



「お前との婚約を破棄する!!」



「ありがとうございますっ!!!」


 アリスが即答した。



「またやったぁぁぁぁ!!!」


 セリナが頭を抱える。



「あっ」


 アリスが口を押さえる。


 しまった。


 また本音出た。



「ご、ごほん」


 アリスが咳払いする。


 そして。


 涙目モードへ移行。



「そんな……酷いですぅ……」


 棒読みだった。


 前回より雑だった。



 その瞬間。


 アリスの身体が、黒い炎に包まれる。



【ユニークスキル獲得】


【黒炎】



「きたぁぁぁぁ!!!」


 セリナ達が飛び跳ねる。


「今回は強そう!!」


「大当たり感ある!!」



 アリスも目を輝かせた。


「これいけるかも!!」



 数時間後。


 魔王城。



「くらえぇぇぇぇ!!!」


 アリスが杖を掲げる。


 黒い炎が渦巻く。



 超カッコよかった。


 見た目だけは。



 だが次の瞬間。



 ボンッ。



 アリスの杖が爆発した。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」



「火力高すぎぃぃぃ!!」


 アリスが転がる。



「魔力制御できてない!!」


 セリナが爆笑した。



 その奥。


 魔王ゼルディアは。


 相変わらず無言だった。



 ただ。


 ほんの少しだけ。


 今度は確実に。



 呆れていた。


 魔王城最上階。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 聖女アリスが爆発していた。



「熱い熱い熱いぃぃぃ!!!」


 黒煙の中を転がり回る。


 その横で。


 魔法使いセリナが腹を抱えて笑っていた。



「アリスちゃん自爆しすぎ!!」


「だって火力高すぎるんだもん!!」



 盗賊リオが呆れた顔で言う。


「【黒炎】、普通に超当たりスキルなのにね」


「聖女との相性が終わってるだけで」



 フィリアがのんびり頷く。


「でも前より魔王押せてたよ〜?」



 全員の視線が、魔王へ向く。



 魔王ゼルディア。


 相変わらず無言。


 相変わらず怖い。


 だが。



 その黒いマント。


 端っこだけ、焦げていた。



 空気が止まる。



「……え?」


 アリスが固まる。



「今」


 セリナが震える声で言った。


「初めてダメージ入った?」



 静寂。


 次の瞬間。



「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


 女子三人が飛び跳ねた。



「いけるいけるいける!!」


「希望見えてきたぁぁ!!」


「燃やせ燃やせぇ!!」



 アリスも感動していた。


「やったぁぁぁ!!」


「婚約破棄無駄じゃなかったぁ!!」



 だが。


 次の瞬間。


 魔王が、一歩前へ出る。



 ズン。



 空気が沈んだ。


「ひっ」


 全員硬直。


 怖い。


 やっぱり怖い。



「撤収ぅぅぅぅ!!!」


 アリスが即決する。



 セリナが転移魔法を展開。


 光。


 浮遊感。


 そして次の瞬間――



 女子会だった。



「なんで!?」


 アリスが叫ぶ。



 高級スイーツ店。


 テーブルいっぱいのケーキ。


 紅茶。


 パフェ。


 女子達。



「反省会だよ〜」


 フィリアがショートケーキを食べながら言う。



「今回かなり惜しかったし!」


 セリナがパフェを突きながら笑う。



 リオが資料を広げる。


「で、次の候補なんだけど」


「切り替え早いなぁ!?」



「南方侯爵家次男」


「ユニークスキル持ち」


「婚約者への態度最悪」


「自己中心的」


「女性問題あり」



 アリスの目が輝く。


「スキル名は!?」


 リオが紙を見ながら答えた。



【能力転移】



 全員、固まった。



「……え?」


 セリナが瞬きする。



「これ」


 アリスがゆっくり立ち上がる。



「めちゃくちゃ当たりじゃない?」



 静寂。


 次の瞬間。



「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


 店内で女子三人が叫んだ。



「絶対SSR!!」


「いやUR!!」


「これやばいやつぅぅ!!」



 フィリアだけが冷静だった。


「でも効果分からないよ〜?」



 アリスが拳を握る。


「でも名前がもう強い!!」



 その瞬間だった。



 店の奥。


 一人の男性が、アリスを見ていた。


 整った顔立ち。


 高級服。


 そして。


 超嫌な笑み。



 リオが、ゆっくり紙を確認する。



「……いた」



「南方侯爵家次男」


「クロード」



 その瞬間。


 クロードが立ち上がった。


 そして。


 ニヤリと笑う。



「君」


「可愛いね」



 アリス達。


 全員、確信した。



「「「ちょろい」」」



 三日後。


 アリスはクロードと婚約した。


 そして。


 二日後。



「聖女アリス・ルミナス!!」


 超高速だった。



 王都広場。


 大勢の観衆。


 そして。


 ドヤ顔のクロード。



「お前との婚約を破棄する!!」



「ありがとうございますぅぅぅ!!!」


 アリス、ガッツポーズ。



「もう隠す気ないじゃん!?」


 セリナが爆笑した。



「あっ」


 アリスが口を押さえる。


 またやった。



「ご、ごほん」


 アリスが咳払いする。



「そんな……酷いですぅ……」


 過去最低レベルの棒読みだった。



 その瞬間。


 アリスの身体が光り始める。



【ユニークスキル獲得】


【能力転移】



 静寂。


 次の瞬間。



「きたぁぁぁぁぁぁ!!!」



 セリナ達が机を叩いて大騒ぎする。



「試すよ試すよ!!」


「アリスちゃん!【剣聖】渡して!!」



「えっ!?できるの!?」


 アリスが慌てる。



 だが。


 本能的に理解した。


 使い方を。



「……えいっ!」


 アリスがセリナへ手を向ける。



 光。



 次の瞬間。


 セリナの前へ、巨大な剣が現れた。



「……軽っ」


 セリナが目を見開く。



 そして。


 片手で振った。



 ズガァァァァン!!!



 遠くの山が割れた。



 全員、固まる。



「……え?」


 アリスが呟く。



 セリナが、ゆっくり笑った。



「……これ」



「勝てるんじゃない?」


 魔王城最上階。



 静寂。



「……これ」


 セリナが巨大な剣を片手で持ちながら呟く。



「勝てるんじゃない?」



 その瞬間。


 全員の視線が、魔王ゼルディアへ向いた。



 魔王は無言。


 だが。


 ほんの少しだけ。


 視線がセリナへ向いていた。



「よぉぉぉし!!!」


 アリスが拳を突き上げる。


「いけるいける!!」


「ついに当たり引いたぁぁぁ!!」



 リオも興奮していた。


「やばいってこれ!」


「今までの婚約破棄全部無駄じゃなかった!!」



 フィリアだけは、のんびり紅茶を飲んでいる。


「よかったね〜」


「そのテンションで紅茶飲めるの逆にすごいよ!?」



 その時だった。


 魔王が、ゆっくり剣を持ち上げる。



 ズン。



 空気が沈む。


 壁が軋む。


 床が割れる。



「……っ」


 アリスの背筋へ冷たいものが走った。


 強い。


 やっぱり圧倒的に強い。



 だが。


 今までと違う。



 セリナが、一歩前へ出た。



「アリスちゃん」


「うん!」



「【剣聖】借りるね」



「いっけぇぇぇぇぇ!!!」



 セリナが魔王へ突撃する。


 超高速。


 今までとは比べ物にならない。



 そして。



 ガギィィィィン!!!!



 魔王の剣と、真正面からぶつかった。



「……止めた」


 リオが震える声で呟く。



 今まで。


 誰一人。


 魔王の攻撃を真正面から止められなかった。



 だが。


 今。


 セリナは笑っていた。



「うわっ」


「めっちゃ強いこのスキル!!」



 そのまま剣を振り抜く。



 ドゴォォォォォン!!!



 魔王が、初めて吹き飛んだ。



 全員、固まる。



「……え?」


 アリスが目を見開く。



 壁へ叩きつけられた魔王。


 その黒い鎧に。



 初めて。


 大きな亀裂が入っていた。



「やったぁぁぁぁぁ!!!」


 女子三人、絶叫。



「通った!!」


「ダメージ入った!!」


「いけるいけるぅぅ!!」



 だが。


 次の瞬間。



 パキン。



「……え?」


 セリナが固まる。



 巨大な剣。


 【剣聖】で生成された魔剣。


 それが。



 砕けた。



「えぇぇぇぇぇ!?」


 アリスが絶叫する。



「耐久足りない!?」


 リオが叫ぶ。



 その瞬間。


 魔王が消えた。



「っ!!?」


 セリナの背後。



 黒い剣が振り下ろされる。



「セリナちゃん!!」


 アリスが叫んだ。



 次の瞬間。


 フィリアが前へ出る。



「【豪腕】借りるね〜」



 ドゴォォォォォン!!!



 僧侶フィリア。


 素手で魔王の剣を殴り返した。



「「「は???」」」



 空間が吹き飛ぶ。


 魔王が初めて後退した。



 フィリア本人も固まっていた。



「えっ」


「豪腕ってこんな強いの〜?」



 アリス達も固まる。



「握力だけじゃなかったの!?」


「完全にSSRじゃん!!」



 その時だった。



 魔王ゼルディアが。


 初めて。



 ゆっくり。


 アリスを見た。



 空気が止まる。



 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。



 だが。


 その瞳の奥に。



 ほんの僅か。



 ――“興味”。



 それが見えた気がした。



「……え」


 アリスが固まる。



 次の瞬間。


 魔王が剣を構えた。



 今までとは違う。



 明らかに。



 本気だった。


 魔王ゼルディアが、剣を構える。



 空気が変わった。



 今までとは違う。


 本気。


 本当に、本気。



「……えっ」


 アリスの顔が引き攣る。


「なんか怒ってない!?」



 次の瞬間。


 魔王が消えた。



「はやっ――」



 ドゴォォォォォォン!!!



 セリナが吹き飛ぶ。


 壁を三枚貫通。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」



「セリナちゃん!?」


 アリスが叫ぶ。


 だが。


 次の瞬間には。


 魔王が、もう目の前にいた。



「ひっ」


 黒い剣が振り下ろされる。



 フィリアが咄嗟に前へ出た。


「【豪腕】!」



 ドゴォォォォォン!!!



 僧侶フィリア。


 またしても素手で受け止める。


 だが。



「ぅっ……!」


 初めて。


 フィリアの足が沈んだ。



 床が砕ける。


 耐えきれない。



「アリスちゃん!」


 リオが叫ぶ。


「なんかないの!?」



「えぇぇぇぇぇ!?」


 アリスが半泣きになる。



 持ってるスキル。



【高速皮むき】


【剣聖】


【黒炎】


【豪腕】


【能力転移】



「うわぁ微妙ぉぉぉ!!」


「いや混ざれば強いって!!」


 リオが叫ぶ。



 その瞬間だった。



 アリスの脳裏に。


 一つのイメージが浮かぶ。



 “混ぜる”。



「……あ」


 アリスが目を見開く。



「もしかして」



「全員に渡せばいいんだ」



 空気が止まる。



「え?」


 セリナが瓦礫の中から顔を上げる。



「全員に」


 アリスが、ゆっくり笑った。



「全部乗せする」



「「「あっ」」」



 次の瞬間。


 アリスの身体が、眩く光り始めた。



「セリナちゃん!」


「うん!!」



「【剣聖】!」



 光がセリナへ流れ込む。



「リオちゃん!」


「おっけー!!」



「【黒炎】!」



 盗賊リオの短剣へ、黒い炎が宿る。



「フィリアちゃん!」


「は〜い」



「【豪腕】!」



 フィリアの拳が輝く。



 そして。



 アリスは、自分自身へ手を向けた。



「私には――」



「これでいい!!」



【高速皮むき】



「最後までそれぇぇぇ!?」


 セリナが叫ぶ。



 だが次の瞬間。



 アリスの杖が、高速で動いた。



 シュババババババッ!!!!



「えっ」



 魔王の黒い鎧。



 超高速で。



 剥けた。



「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」



 鎧が吹き飛ぶ。


 魔王、初めて硬直。



 アリス本人も固まる。



「皮……むけた……」



 その瞬間。



 リオが、黒炎付き短剣で突撃する。



「うぉぉぉぉぉ!!!」



 黒炎斬撃。


 初めて魔王の身体へ深く通る。



 続けて。


 セリナが【剣聖】の巨大剣を振り抜いた。



 ズガァァァァァン!!!



 魔王の片腕が吹き飛ぶ。



 そして最後。



 フィリアが前へ出た。



「えいっ」



 僧侶とは思えない軽い声。



 だが。


 【豪腕】付きの拳が。



 魔王の胸を、真正面から貫いた。



 静寂。



 魔王ゼルディアが、ゆっくり崩れ落ちる。



 誰も喋らなかった。



 そして。


 数秒後。



「……勝った?」


 アリスが呟く。



 沈黙。



 次の瞬間。



「勝ったぁぁぁぁぁぁ!!!」



 女子四人、絶叫。



「やばいやばいやばい!!」


「世界救っちゃった!!」


「うぉぉぉぉ!!」



 アリスも飛び跳ねる。



「婚約破棄最高ぉぉぉぉ!!!」



 その瞬間。



 ピシッ。



 空気が止まる。



 全員、ゆっくり後ろを向く。



 そこには。



 瀕死の魔王ゼルディア。



 まだ生きていた。



 そして。



 初めて。



 口を開いた。



「…………哀れだな」



 静寂。



 次の瞬間。



「えっ喋ったぁぁぁぁぁ!!?」


 アリス達の悲鳴が、魔王城へ響き渡った。


 ――魔王討伐から、一ヶ月後。



「聖女アリス・ルミナス様!」


「世界を救った英雄!!」


「こっち向いてください!!」



 王都は、お祭り騒ぎだった。



 広場にはアリスの銅像。


 街には“魔王討伐記念スイーツ”。


 子供達は“婚約破棄ごっこ”で遊んでいる。



「教育に悪くない!?」


 アリスが頭を抱えた。



「いやぁ〜有名人だねぇ」


 セリナが笑う。



 その横で。


 フィリアは屋台の焼き串を食べていた。


「おいし〜」


 平和だった。



 盗賊リオが新聞を広げる。


「今日の見出しこれ」



【婚約破棄こそ世界を救う鍵だった!?】



「やめてぇぇぇぇぇ!!!」


 アリスが絶叫する。



「聖女アリス、衝撃の告白!」


「“婚約破棄最高ぉぉぉ!!”」


「だから言わなきゃよかったぁぁぁ!!」



 アリスが机へ突っ伏す。



「でも実際、婚約破棄されまくってなかったら世界終わってたよね」


 セリナが笑う。



「それはそうだけどぉ……」


 アリスが顔を赤くする。



 その時だった。



「アリス様!!」



 一人の男性が走ってくる。


 王族風の服。


 整った顔立ち。


 そして。


 見覚えしかない顔。



「あっ」


 アリスの顔が引き攣る。



「元婚約者だ」


 リオがボソッと呟いた。



 第一王子。


 第二王子。


 公爵家長男。


 侯爵家次男。



 全員集合していた。



「「「アリス様!!」」」



 アリス、真顔。



「……なに?」



 第一王子が叫ぶ。


「もう一度やり直してくれ!!」



 第二王子も叫ぶ。


「君ほど素晴らしい女性はいなかった!!」



 公爵家長男は薔薇を撒いていた。


「今度こそ真実の愛を――」



「うわぁ……」


 アリスがドン引きしていた。



 セリナ達は大爆笑。



「きたきたきた!!」


「定番イベント!!」


「テンプレぇ!!」



 元婚約者達が必死に叫ぶ。



「頼む!!」


「戻ってきてくれ!!」


「俺達は間違っていたんだ!!」



 アリスは、しばらく黙っていた。



 そして。


 ふぅ、とため息を吐く。



「……みなさん」


 静かな声。


 元婚約者達の顔が明るくなる。



 アリスが、ニッコリ微笑んだ。


 完璧な聖女スマイル。



「ごめんなさい」


「もう次の婚約者決まってるので」



 全員、固まる。



「……え?」



 その瞬間。


 店の奥。


 一人の青年が立ち上がった。



 黒い髪。


 無表情。


 異常な威圧感。



 アリス達以外、全員凍る。



「……あっ」


 セリナ達の顔が引き攣った。



 アリスは、冷や汗を流しながら笑う。



「え、えっと〜……」



 その青年は。


 静かにアリスを見る。



 そして。


 低い声で、一言。



「……婚約する」



 沈黙。



 次の瞬間。



「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」



 王都中へ、悲鳴が響き渡った。



 ちなみに。



 後に判明したことだが。



 魔王ゼルディアのユニークスキルは――



【不器用】



 だったらしい。


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