聖女のユニークスキルは婚約破棄の数だけ強くなる
魔王城・最上階。
勇者パーティーは壊滅していた。
◇
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!?」
聖女アリス・ルミナスが、泣きそうな顔で絶叫する。
爆炎。
衝撃波。
崩壊する床。
そして。
その全ての中心で。
魔王ゼルディアは、無言で立っていた。
◇
強い。
意味が分からないくらい強い。
◇
「なんで聖属性効かないのぉ!?」
アリスが杖を振り回す。
だが。
魔王は片手でそれを弾き飛ばした。
「ひっ」
アリスが固まる。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
◇
盗賊リオが、床へ倒れたまま叫ぶ。
「アリスちゃん!」
「次いこ次!!」
「軽く言わないでぇ!!」
◇
魔法使いセリナが瓦礫から起き上がる。
「今回マジで当たり少なかったし!」
「それはそう!!」
◇
僧侶フィリアだけは、なぜか優雅にお茶を飲んでいた。
「でも【高速皮むき】は便利だったよ〜?」
「今それ関係ある!?」
◇
【高速皮むき】
野菜の皮を超高速で剥ける。
◇
「魔王相手に使い道ないからぁ!!」
アリスが泣き叫ぶ。
◇
その時だった。
魔王が、ゆっくり剣を持ち上げる。
空気が沈んだ。
◇
「はい撤収ぅぅぅぅ!!!」
セリナが即座に転移魔法を展開する。
巨大な魔法陣。
光。
空間歪曲。
◇
「次どこ行く!?」
リオが紙束を広げた。
「えっ今!?」
◇
「候補一覧!」
「行動早すぎるぅ!!」
◇
「第三王子レオニール!」
「女好き!」
「愛人四人!」
「ユニークスキル持ち!」
◇
アリスの目が輝く。
「スキル名は!?」
リオがニヤリと笑った。
◇
【剣聖】
◇
空気が止まる。
◇
「SSRきたぁぁぁぁ!!!」
セリナが跳ねる。
「絶対強いやつ!!」
フィリアものんびり拍手した。
◇
だが。
アリスだけは真顔だった。
「……でも私、剣使えないよ?」
全員、静かに目を逸らした。
◇
「……まぁ!」
リオが咳払いする。
「当たりかもしれないし!」
「いこいこー!」
セリナが笑う。
◇
「もうやだこの人生……」
アリスが項垂れる。
だが。
次の瞬間には、しっかり髪を整えていた。
◇
「よし」
アリスがニッコリ微笑む。
完璧な聖女スマイル。
◇
「婚約されに行きますか!」
「言い方ぁ!!」
セリナのツッコミと同時。
転移魔法が発動した。
◇
◇
◇
王立舞踏会。
煌びやかなシャンデリア。
豪華な料理。
談笑する貴族達。
その中央へ。
巨大魔法陣が出現した。
◇
「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
アリス、空中投下。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
テーブル粉砕。
料理飛散。
貴族絶叫。
◇
静まり返る会場。
その中心で。
アリスはゆっくり立ち上がった。
ドレスを整え。
銀髪を払い。
そして。
◇
「……失礼致しました」
超綺麗なお辞儀。
空気が止まる。
◇
「聖女アリス様……!?」
「なぜここに……!?」
周囲がざわめく。
◇
その中で。
一人の王子が、目を輝かせていた。
◇
第三王子レオニール。
イケメン。
クズ。
女好き。
婚約継続率3%。
◇
(よし)
アリスが心の中で拳を握る。
(ここから婚約して)
(婚約破棄されて)
(【剣聖】ゲット!)
(完璧!)
◇
「おぉ……!」
レオニール王子が歩み寄る。
「なんと美しい……」
アリスは儚げに微笑んだ。
◇
「そんな……」
「わたくしなど……」
完全聖女モード。
◇
その後ろ。
◇
「ちょろそうだね」
リオ。
「二日かな?」
セリナ。
「早いね〜」
フィリア。
◇
二週間後。
アリスはレオニール王子と婚約した。
そして。
三日後。
◇
「聖女アリス・ルミナス!!」
王宮ホール。
大勢の貴族達の前で。
レオニール王子が高らかに叫んだ。
◇
「お前との婚約を破棄する!!」
◇
「ありがとうございますっ!!!」
アリスが即答した。
会場が凍る。
◇
「……え?」
王子が固まる。
アリスも固まった。
◇
「あっ」
やってしまった。
本音が出た。
◇
「こ、こほん」
アリスが咳払いする。
そして。
うるうる涙目モードへ移行。
◇
「そ、そんな……」
「婚約破棄だなんて酷いですぅ……」
超棒読みだった。
◇
その瞬間。
アリスの身体が淡く光る。
◇
【ユニークスキル獲得】
【剣聖】
◇
「きたぁぁぁぁ!!!」
セリナ達が歓声を上げる。
「SSR!SSR!」
「大当たりぃ!!」
◇
アリスも目を輝かせた。
「剣聖ぉぉぉぉ!!」
◇
五分後。
中庭。
◇
「重っっっっっ!!!」
アリスが剣に潰されていた。
◇
「持てないぃぃぃ!!!」
「聖女だもんねぇ」
フィリアがのんびり言う。
◇
盗賊リオが肩を震わせる。
「SSRなのに完全ハズレじゃん……!」
◇
その夜。
魔王討伐再チャレンジ。
◇
アリスは、巨大な剣を引きずりながら魔王へ突撃した。
「うぉぉぉぉぉ!!」
だが。
◇
ブンッ。
◇
勢い余って、自分で一回転した。
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
アリスが壁へ突っ込む。
◇
魔王は、無言だった。
ただ。
ほんの少しだけ。
呆れたように見えた。
魔王城最上階。
◇
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
聖女アリスが、壁へめり込んでいた。
◇
「やっぱ剣無理ぃぃぃ!!」
アリスが涙目で叫ぶ。
巨大な剣は床へ突き刺さり。
魔王ゼルディアは、無言でそれを見下ろしていた。
◇
「いやぁ〜!」
セリナが爆笑する。
「アリスちゃん才能なさすぎ!!」
「うるさいぃぃぃ!!」
◇
盗賊リオが肩を竦める。
「せっかくSSRだったのにね〜」
「なんで聖女に【剣聖】持たせたの神様ぁ!?」
◇
フィリアがのんびり頷く。
「でも【高速皮むき】よりは強いよ〜?」
「比較対象が終わってる!!」
◇
その時だった。
魔王が、ゆっくり歩き出す。
ズン。
ズン。
重い。
空気が重すぎる。
◇
「撤収ぅぅぅぅ!!!」
アリスが即決した。
セリナが転移魔法を展開する。
◇
光。
浮遊感。
そして次の瞬間――
◇
「到着ぅー!」
王都・高級レストラン。
◇
「……へ?」
アリスが固まる。
目の前。
そこには。
超高級フルコース。
◇
「いや戦略会議じゃないの!?」
「空腹じゃ頭回らないし!」
セリナが肉を切りながら言う。
◇
リオが大量の資料を机へ並べた。
「次の婚約候補一覧〜」
「仕事早いなぁ!?」
◇
「まず第一候補」
リオが紙をめくる。
◇
「東方公爵家長男」
「ユニークスキル持ち」
「超ナルシスト」
「浮気性」
「婚約破棄率高め」
◇
アリスが身を乗り出す。
「スキル名は!?」
リオがニヤリと笑った。
◇
【黒炎】
◇
全員固まる。
◇
「強そう!!」
セリナが叫ぶ。
「絶対強い!!」
アリスも目を輝かせた。
◇
「炎系!」
「しかも黒!!」
「当たり感すごい!!」
◇
フィリアがパンを食べながら呟く。
「でもアリスちゃん火属性苦手だよね〜」
空気が止まった。
◇
「……あ」
アリスが固まる。
◇
「またハズレじゃん!!」
「まだ分かんないでしょ!?」
セリナが慌てる。
◇
「いやでも前回も」
『SSRきたぁぁ!!』
↓
『剣持てない』
だったし……」
リオが真顔で言った。
◇
「うわぁぁぁぁん!!」
アリスが机へ突っ伏す。
◇
その時だった。
店内奥。
一人の男性が、アリスへ視線を向けていた。
整った顔立ち。
高級服。
そして。
異常なまでのナルシスト笑顔。
◇
「……見つけた」
リオが小声で呟く。
◇
「東方公爵家長男」
「エルディオ」
「本人です」
◇
アリス達の視線が、一斉にそちらへ向く。
◇
そして次の瞬間。
エルディオが髪をかき上げながら立ち上がった。
◇
「おや」
「これは運命かな?」
◇
全員、確信した。
◇
「「「ちょろい」」」
◇
三日後。
アリスはエルディオと婚約した。
そして。
翌日。
◇
「聖女アリス・ルミナス!!」
王都噴水広場。
大勢の観衆の前で。
エルディオが薔薇を撒きながら叫ぶ。
◇
「お前との婚約を破棄する!!」
◇
「ありがとうございますっ!!!」
アリスが即答した。
◇
「またやったぁぁぁぁ!!!」
セリナが頭を抱える。
◇
「あっ」
アリスが口を押さえる。
しまった。
また本音出た。
◇
「ご、ごほん」
アリスが咳払いする。
そして。
涙目モードへ移行。
◇
「そんな……酷いですぅ……」
棒読みだった。
前回より雑だった。
◇
その瞬間。
アリスの身体が、黒い炎に包まれる。
◇
【ユニークスキル獲得】
【黒炎】
◇
「きたぁぁぁぁ!!!」
セリナ達が飛び跳ねる。
「今回は強そう!!」
「大当たり感ある!!」
◇
アリスも目を輝かせた。
「これいけるかも!!」
◇
数時間後。
魔王城。
◇
「くらえぇぇぇぇ!!!」
アリスが杖を掲げる。
黒い炎が渦巻く。
◇
超カッコよかった。
見た目だけは。
◇
だが次の瞬間。
◇
ボンッ。
◇
アリスの杖が爆発した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
◇
「火力高すぎぃぃぃ!!」
アリスが転がる。
◇
「魔力制御できてない!!」
セリナが爆笑した。
◇
その奥。
魔王ゼルディアは。
相変わらず無言だった。
◇
ただ。
ほんの少しだけ。
今度は確実に。
◇
呆れていた。
魔王城最上階。
◇
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
聖女アリスが爆発していた。
◇
「熱い熱い熱いぃぃぃ!!!」
黒煙の中を転がり回る。
その横で。
魔法使いセリナが腹を抱えて笑っていた。
◇
「アリスちゃん自爆しすぎ!!」
「だって火力高すぎるんだもん!!」
◇
盗賊リオが呆れた顔で言う。
「【黒炎】、普通に超当たりスキルなのにね」
「聖女との相性が終わってるだけで」
◇
フィリアがのんびり頷く。
「でも前より魔王押せてたよ〜?」
◇
全員の視線が、魔王へ向く。
◇
魔王ゼルディア。
相変わらず無言。
相変わらず怖い。
だが。
◇
その黒いマント。
端っこだけ、焦げていた。
◇
空気が止まる。
◇
「……え?」
アリスが固まる。
◇
「今」
セリナが震える声で言った。
「初めてダメージ入った?」
◇
静寂。
次の瞬間。
◇
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
女子三人が飛び跳ねた。
◇
「いけるいけるいける!!」
「希望見えてきたぁぁ!!」
「燃やせ燃やせぇ!!」
◇
アリスも感動していた。
「やったぁぁぁ!!」
「婚約破棄無駄じゃなかったぁ!!」
◇
だが。
次の瞬間。
魔王が、一歩前へ出る。
◇
ズン。
◇
空気が沈んだ。
「ひっ」
全員硬直。
怖い。
やっぱり怖い。
◇
「撤収ぅぅぅぅ!!!」
アリスが即決する。
◇
セリナが転移魔法を展開。
光。
浮遊感。
そして次の瞬間――
◇
女子会だった。
◇
「なんで!?」
アリスが叫ぶ。
◇
高級スイーツ店。
テーブルいっぱいのケーキ。
紅茶。
パフェ。
女子達。
◇
「反省会だよ〜」
フィリアがショートケーキを食べながら言う。
◇
「今回かなり惜しかったし!」
セリナがパフェを突きながら笑う。
◇
リオが資料を広げる。
「で、次の候補なんだけど」
「切り替え早いなぁ!?」
◇
「南方侯爵家次男」
「ユニークスキル持ち」
「婚約者への態度最悪」
「自己中心的」
「女性問題あり」
◇
アリスの目が輝く。
「スキル名は!?」
リオが紙を見ながら答えた。
◇
【能力転移】
◇
全員、固まった。
◇
「……え?」
セリナが瞬きする。
◇
「これ」
アリスがゆっくり立ち上がる。
◇
「めちゃくちゃ当たりじゃない?」
◇
静寂。
次の瞬間。
◇
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
店内で女子三人が叫んだ。
◇
「絶対SSR!!」
「いやUR!!」
「これやばいやつぅぅ!!」
◇
フィリアだけが冷静だった。
「でも効果分からないよ〜?」
◇
アリスが拳を握る。
「でも名前がもう強い!!」
◇
その瞬間だった。
◇
店の奥。
一人の男性が、アリスを見ていた。
整った顔立ち。
高級服。
そして。
超嫌な笑み。
◇
リオが、ゆっくり紙を確認する。
◇
「……いた」
◇
「南方侯爵家次男」
「クロード」
◇
その瞬間。
クロードが立ち上がった。
そして。
ニヤリと笑う。
◇
「君」
「可愛いね」
◇
アリス達。
全員、確信した。
◇
「「「ちょろい」」」
◇
三日後。
アリスはクロードと婚約した。
そして。
二日後。
◇
「聖女アリス・ルミナス!!」
超高速だった。
◇
王都広場。
大勢の観衆。
そして。
ドヤ顔のクロード。
◇
「お前との婚約を破棄する!!」
◇
「ありがとうございますぅぅぅ!!!」
アリス、ガッツポーズ。
◇
「もう隠す気ないじゃん!?」
セリナが爆笑した。
◇
「あっ」
アリスが口を押さえる。
またやった。
◇
「ご、ごほん」
アリスが咳払いする。
◇
「そんな……酷いですぅ……」
過去最低レベルの棒読みだった。
◇
その瞬間。
アリスの身体が光り始める。
◇
【ユニークスキル獲得】
【能力転移】
◇
静寂。
次の瞬間。
◇
「きたぁぁぁぁぁぁ!!!」
◇
セリナ達が机を叩いて大騒ぎする。
◇
「試すよ試すよ!!」
「アリスちゃん!【剣聖】渡して!!」
◇
「えっ!?できるの!?」
アリスが慌てる。
◇
だが。
本能的に理解した。
使い方を。
◇
「……えいっ!」
アリスがセリナへ手を向ける。
◇
光。
◇
次の瞬間。
セリナの前へ、巨大な剣が現れた。
◇
「……軽っ」
セリナが目を見開く。
◇
そして。
片手で振った。
◇
ズガァァァァン!!!
◇
遠くの山が割れた。
◇
全員、固まる。
◇
「……え?」
アリスが呟く。
◇
セリナが、ゆっくり笑った。
◇
「……これ」
◇
「勝てるんじゃない?」
魔王城最上階。
◇
静寂。
◇
「……これ」
セリナが巨大な剣を片手で持ちながら呟く。
◇
「勝てるんじゃない?」
◇
その瞬間。
全員の視線が、魔王ゼルディアへ向いた。
◇
魔王は無言。
だが。
ほんの少しだけ。
視線がセリナへ向いていた。
◇
「よぉぉぉし!!!」
アリスが拳を突き上げる。
「いけるいける!!」
「ついに当たり引いたぁぁぁ!!」
◇
リオも興奮していた。
「やばいってこれ!」
「今までの婚約破棄全部無駄じゃなかった!!」
◇
フィリアだけは、のんびり紅茶を飲んでいる。
「よかったね〜」
「そのテンションで紅茶飲めるの逆にすごいよ!?」
◇
その時だった。
魔王が、ゆっくり剣を持ち上げる。
◇
ズン。
◇
空気が沈む。
壁が軋む。
床が割れる。
◇
「……っ」
アリスの背筋へ冷たいものが走った。
強い。
やっぱり圧倒的に強い。
◇
だが。
今までと違う。
◇
セリナが、一歩前へ出た。
◇
「アリスちゃん」
「うん!」
◇
「【剣聖】借りるね」
◇
「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
◇
セリナが魔王へ突撃する。
超高速。
今までとは比べ物にならない。
◇
そして。
◇
ガギィィィィン!!!!
◇
魔王の剣と、真正面からぶつかった。
◇
「……止めた」
リオが震える声で呟く。
◇
今まで。
誰一人。
魔王の攻撃を真正面から止められなかった。
◇
だが。
今。
セリナは笑っていた。
◇
「うわっ」
「めっちゃ強いこのスキル!!」
◇
そのまま剣を振り抜く。
◇
ドゴォォォォォン!!!
◇
魔王が、初めて吹き飛んだ。
◇
全員、固まる。
◇
「……え?」
アリスが目を見開く。
◇
壁へ叩きつけられた魔王。
その黒い鎧に。
◇
初めて。
大きな亀裂が入っていた。
◇
「やったぁぁぁぁぁ!!!」
女子三人、絶叫。
◇
「通った!!」
「ダメージ入った!!」
「いけるいけるぅぅ!!」
◇
だが。
次の瞬間。
◇
パキン。
◇
「……え?」
セリナが固まる。
◇
巨大な剣。
【剣聖】で生成された魔剣。
それが。
◇
砕けた。
◇
「えぇぇぇぇぇ!?」
アリスが絶叫する。
◇
「耐久足りない!?」
リオが叫ぶ。
◇
その瞬間。
魔王が消えた。
◇
「っ!!?」
セリナの背後。
◇
黒い剣が振り下ろされる。
◇
「セリナちゃん!!」
アリスが叫んだ。
◇
次の瞬間。
フィリアが前へ出る。
◇
「【豪腕】借りるね〜」
◇
ドゴォォォォォン!!!
◇
僧侶フィリア。
素手で魔王の剣を殴り返した。
◇
「「「は???」」」
◇
空間が吹き飛ぶ。
魔王が初めて後退した。
◇
フィリア本人も固まっていた。
◇
「えっ」
「豪腕ってこんな強いの〜?」
◇
アリス達も固まる。
◇
「握力だけじゃなかったの!?」
「完全にSSRじゃん!!」
◇
その時だった。
◇
魔王ゼルディアが。
初めて。
◇
ゆっくり。
アリスを見た。
◇
空気が止まる。
◇
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
◇
だが。
その瞳の奥に。
◇
ほんの僅か。
◇
――“興味”。
◇
それが見えた気がした。
◇
「……え」
アリスが固まる。
◇
次の瞬間。
魔王が剣を構えた。
◇
今までとは違う。
◇
明らかに。
◇
本気だった。
魔王ゼルディアが、剣を構える。
◇
空気が変わった。
◇
今までとは違う。
本気。
本当に、本気。
◇
「……えっ」
アリスの顔が引き攣る。
「なんか怒ってない!?」
◇
次の瞬間。
魔王が消えた。
◇
「はやっ――」
◇
ドゴォォォォォォン!!!
◇
セリナが吹き飛ぶ。
壁を三枚貫通。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
◇
「セリナちゃん!?」
アリスが叫ぶ。
だが。
次の瞬間には。
魔王が、もう目の前にいた。
◇
「ひっ」
黒い剣が振り下ろされる。
◇
フィリアが咄嗟に前へ出た。
「【豪腕】!」
◇
ドゴォォォォォン!!!
◇
僧侶フィリア。
またしても素手で受け止める。
だが。
◇
「ぅっ……!」
初めて。
フィリアの足が沈んだ。
◇
床が砕ける。
耐えきれない。
◇
「アリスちゃん!」
リオが叫ぶ。
「なんかないの!?」
◇
「えぇぇぇぇぇ!?」
アリスが半泣きになる。
◇
持ってるスキル。
◇
【高速皮むき】
【剣聖】
【黒炎】
【豪腕】
【能力転移】
◇
「うわぁ微妙ぉぉぉ!!」
「いや混ざれば強いって!!」
リオが叫ぶ。
◇
その瞬間だった。
◇
アリスの脳裏に。
一つのイメージが浮かぶ。
◇
“混ぜる”。
◇
「……あ」
アリスが目を見開く。
◇
「もしかして」
◇
「全員に渡せばいいんだ」
◇
空気が止まる。
◇
「え?」
セリナが瓦礫の中から顔を上げる。
◇
「全員に」
アリスが、ゆっくり笑った。
◇
「全部乗せする」
◇
「「「あっ」」」
◇
次の瞬間。
アリスの身体が、眩く光り始めた。
◇
「セリナちゃん!」
「うん!!」
◇
「【剣聖】!」
◇
光がセリナへ流れ込む。
◇
「リオちゃん!」
「おっけー!!」
◇
「【黒炎】!」
◇
盗賊リオの短剣へ、黒い炎が宿る。
◇
「フィリアちゃん!」
「は〜い」
◇
「【豪腕】!」
◇
フィリアの拳が輝く。
◇
そして。
◇
アリスは、自分自身へ手を向けた。
◇
「私には――」
◇
「これでいい!!」
◇
【高速皮むき】
◇
「最後までそれぇぇぇ!?」
セリナが叫ぶ。
◇
だが次の瞬間。
◇
アリスの杖が、高速で動いた。
◇
シュババババババッ!!!!
◇
「えっ」
◇
魔王の黒い鎧。
◇
超高速で。
◇
剥けた。
◇
「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」
◇
鎧が吹き飛ぶ。
魔王、初めて硬直。
◇
アリス本人も固まる。
◇
「皮……むけた……」
◇
その瞬間。
◇
リオが、黒炎付き短剣で突撃する。
◇
「うぉぉぉぉぉ!!!」
◇
黒炎斬撃。
初めて魔王の身体へ深く通る。
◇
続けて。
セリナが【剣聖】の巨大剣を振り抜いた。
◇
ズガァァァァァン!!!
◇
魔王の片腕が吹き飛ぶ。
◇
そして最後。
◇
フィリアが前へ出た。
◇
「えいっ」
◇
僧侶とは思えない軽い声。
◇
だが。
【豪腕】付きの拳が。
◇
魔王の胸を、真正面から貫いた。
◇
静寂。
◇
魔王ゼルディアが、ゆっくり崩れ落ちる。
◇
誰も喋らなかった。
◇
そして。
数秒後。
◇
「……勝った?」
アリスが呟く。
◇
沈黙。
◇
次の瞬間。
◇
「勝ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
◇
女子四人、絶叫。
◇
「やばいやばいやばい!!」
「世界救っちゃった!!」
「うぉぉぉぉ!!」
◇
アリスも飛び跳ねる。
◇
「婚約破棄最高ぉぉぉぉ!!!」
◇
その瞬間。
◇
ピシッ。
◇
空気が止まる。
◇
全員、ゆっくり後ろを向く。
◇
そこには。
◇
瀕死の魔王ゼルディア。
◇
まだ生きていた。
◇
そして。
◇
初めて。
◇
口を開いた。
◇
「…………哀れだな」
◇
静寂。
◇
次の瞬間。
◇
「えっ喋ったぁぁぁぁぁ!!?」
アリス達の悲鳴が、魔王城へ響き渡った。
――魔王討伐から、一ヶ月後。
◇
「聖女アリス・ルミナス様!」
「世界を救った英雄!!」
「こっち向いてください!!」
◇
王都は、お祭り騒ぎだった。
◇
広場にはアリスの銅像。
街には“魔王討伐記念スイーツ”。
子供達は“婚約破棄ごっこ”で遊んでいる。
◇
「教育に悪くない!?」
アリスが頭を抱えた。
◇
「いやぁ〜有名人だねぇ」
セリナが笑う。
◇
その横で。
フィリアは屋台の焼き串を食べていた。
「おいし〜」
平和だった。
◇
盗賊リオが新聞を広げる。
「今日の見出しこれ」
◇
【婚約破棄こそ世界を救う鍵だった!?】
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「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
アリスが絶叫する。
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「聖女アリス、衝撃の告白!」
「“婚約破棄最高ぉぉぉ!!”」
「だから言わなきゃよかったぁぁぁ!!」
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アリスが机へ突っ伏す。
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「でも実際、婚約破棄されまくってなかったら世界終わってたよね」
セリナが笑う。
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「それはそうだけどぉ……」
アリスが顔を赤くする。
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その時だった。
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「アリス様!!」
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一人の男性が走ってくる。
王族風の服。
整った顔立ち。
そして。
見覚えしかない顔。
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「あっ」
アリスの顔が引き攣る。
◇
「元婚約者だ」
リオがボソッと呟いた。
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第一王子。
第二王子。
公爵家長男。
侯爵家次男。
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全員集合していた。
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「「「アリス様!!」」」
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アリス、真顔。
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「……なに?」
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第一王子が叫ぶ。
「もう一度やり直してくれ!!」
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第二王子も叫ぶ。
「君ほど素晴らしい女性はいなかった!!」
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公爵家長男は薔薇を撒いていた。
「今度こそ真実の愛を――」
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「うわぁ……」
アリスがドン引きしていた。
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セリナ達は大爆笑。
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「きたきたきた!!」
「定番イベント!!」
「テンプレぇ!!」
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元婚約者達が必死に叫ぶ。
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「頼む!!」
「戻ってきてくれ!!」
「俺達は間違っていたんだ!!」
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アリスは、しばらく黙っていた。
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そして。
ふぅ、とため息を吐く。
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「……みなさん」
静かな声。
元婚約者達の顔が明るくなる。
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アリスが、ニッコリ微笑んだ。
完璧な聖女スマイル。
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「ごめんなさい」
「もう次の婚約者決まってるので」
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全員、固まる。
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「……え?」
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その瞬間。
店の奥。
一人の青年が立ち上がった。
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黒い髪。
無表情。
異常な威圧感。
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アリス達以外、全員凍る。
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「……あっ」
セリナ達の顔が引き攣った。
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アリスは、冷や汗を流しながら笑う。
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「え、えっと〜……」
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その青年は。
静かにアリスを見る。
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そして。
低い声で、一言。
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「……婚約する」
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沈黙。
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次の瞬間。
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「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」
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王都中へ、悲鳴が響き渡った。
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ちなみに。
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後に判明したことだが。
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魔王ゼルディアのユニークスキルは――
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【不器用】
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だったらしい。




