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7.ガラケーだって写真は撮れる

 いつもやっている連絡先交換とは違うため、どうやればいいのかと美咲さんはなっていた。ガラケーと連絡先を交換したことがある今どきの中学生など、あまりいないだろうから当然だったが。


「えっとショートメール――メッセージは電話番号で送れるから。北沢君とは、それで連絡とってたし」

「そっかメッセージか。使わないから忘れてたよ」

「うん。じゃあ番号は――」


 口頭で伝えようとしたら、美咲さんはメモ帳を取り出して「書いてよ」とペンを渡してきた。


「じゃあ登録して、送るね」


 スマホを操作し1分もかからずに「できた」と美咲さんは言うと、テーブルの上に置いておいたガラケーが振動した。


 確認するとショートメールの着信があり、開くと「よろしくね」と一言あった。

 家族を除く女性から初めての連絡に、どういう反応をしていいのか分からず、「ありがとうございます」と返信していた。


 送信して美咲さんが文面を確認して小首を傾げたのを見て、話しの流れがつながっていない返しだと気づいた。

 だけど送った本人も意味の分からない内容を理解したのか、


「こちらこそ、ありがとうだよ」


 と笑顔とともになぜか感謝してくれた。

 これまでの美咲さんとのやりとりで、陽キャなコミュ強の反応が陰キャボッチとは全く違うことを承知している。

 だから気にせずに紅茶でも飲んで話を流せばいい。


「紅茶のお替り頼む?冷めちゃったでしょ」


 確かに冷めてはいるが別に飲めないほどではない。というか完全に冷え切ったとしても気にせずに飲める人間なのだ。


「おじさ~ん。お願い」


 しかし美咲さんは冷めた紅茶を飲むという考えがないのか、手を挙げてお替りを頼んでいた。


「北沢君とはお友達なの?」


 いきなり去年のクラスが一緒だった北沢君の名前が出てきて戸惑う。


「さっき連絡をとってるって言ってたから」


 言ったかもしれない。


「友達っていうか。去年、ガラケーでトークグループに入ってないから、クラスの連絡をわざわざ教えてくれてたんだ」


 久し振りに北沢君の名前を口にして懐かしさを覚える。去年のクラスで、男子のリーダーだった北沢健成君は本当にすごい人なのだ。

 立派な家に生まれ育ち、長身イケメンスポーツマンで、正反対の属性である自分にも気をつかいクラスで仲間外れが起きないように努める正しいリーダーの姿を体現していた。


 去年のゴールデンウィーク明けに北沢君は、クラスのトークグループに入っていないことを案じて声を掛けてきた。スマホではなくガラケーだから入れないんだと伝えると、「大変だな」と同情してくれた。

 それで終わらず「じゃあトークグループの内容は、俺がメッセージで送るから番号を教えてくれよ」と、屈託のない笑顔で申し出た。


 担任にクラスで孤立気味の生徒の面倒を見るように頼まれて言っているだけで、どうせろくに連絡などこないと思いながら番号を伝えた。


 予想は裏切られ1年間、北沢君はクラスのトークグループで回される連絡事項をメッセージで転送してくれた。幼馴染や友人ではなく、クラス委員といった立場にあるわけでもないのにだ。

 事務的に転送するだけじゃなく、打ち上げとかパーティーといったクラスの学外での集まりがある時に電話をかけてまで誘ってくれることもあった。


 それだけしてもらったのに、特に感謝の言葉を伝えていなかったことに今更ながら気づいた。自分の人間性の低さを痛感する。


「2年でクラスが別になってからは――そういえば連絡は1度あったかな」


 クラス分けが発表された日に、「今年は一緒じゃなくて残念だ」みたいなメッセージが送られてきた。


 北沢君と違うクラスになったことで1学期の間でかかってきた電話は、「回線サービスが終了するのでスマホに買い替えろ」というものと、数件の非通知設定からのものだけだった。キャリアメールやショートメールの類も似たようなものばかりだけだ。


 その事実に、さびしいと思うこともある。

 だけど、寝て起きればさびしいことを忘れている。何だかんだで1人でいることが苦痛ではないのだ。


「ケン君ならするなぁ」


 誰という疑問が顔に出ていたのか、美咲さんは「北沢君だよ」と答えてくれた。


「小学校が同じで知ってるの」

「幼馴染ってこと」

「違うよ」


 即座に否定された。

 どんなに察しが悪くても、2人の間に何かがあったというのは分かる。そして、北沢君の話をしてはいけないことも。


「お待ちどう」


 冷えた空気を吹き飛ばすように、店主であるおじさんが紅茶のお替りを持って来てくれた。


「ガラケーじゃん」


 しかもテーブルの上に出しっ放しなっていた折り畳み式のガラケーに興味を持つ。

 紅茶の入ったポットを置きながら「懐かしいなぁ」と口にする。


「お芝居で使うのか」


 小道具としてガラケーが必要となり用意してもらったお礼に、お店に連れて来たと解釈したようだった。


「使わないよ。深山君はスマホじゃなくてガラケーなの」


 おじさんは意味を理解するまで少し時間を要した。


「今の子がガラケー使ってんの」


 顔をまじまじと見てきて「大変だな」と、いつかの北沢君と同じ反応をした。

 ガラケーを使っている理由として、おじさん――北沢君もだが――が想像したものはおそらく外れている。

 実際はどうしようもない理由だけに、同情してくれたことに申し訳なくなってしまう。


「それで清華が連れてきたのか」

 何やら納得して、「これからも仲良くしてやってくれ」とお願いされた。


 訳は分からなかったが、「はい」と頷いておいた。

 おじさんが空いたポットを下げて立ち去ると、美咲さんは口元に手を当てて笑った。


「絶対に勘違いしてるよね。深山君がガラケーの理由」


 普通に考えれば、ものすごく親が厳しいか経済環境が悪いになるだろうから、ちゃんと説明しなければ勘違いするに決まっている。


「後で教えておいてよ」

「えー、信じてくれるかなぁ。気をつかわせないように言ってるだけだって、私が察し悪いってなりそうだけど」


 そういうパターンもあるのか。


「美咲さんは、すぐに信じてくれたよね」


 あまり疑うことなく、「面倒くさい」というのを信じていた。


「深山君ならありえるかなって。ご両親が厳しいとかより、面倒くさいからっていう方が、らしいじゃない」


 どういう印象を抱かれていたのか恐くなった。


「ほら、いつもクールな感じだけど、話すと何というか、その人がいいというか……」

「何となくは分かったよ」


 ポンコツみたいなことを言いたいが、悪口になるからきれいに表現しようとしてみても言葉が出てこないという感じだった。

 というかクールと思われていたのか。


「そういえばガラケーだから、お店に連れて来たみたいになってたけど、何でだろ」


 その場で聞きはしなかったが疑問だった。


「ガラケーだと写真を撮れないでしょ」


 明らかな間違いを当然のことのように口にされると、どうしていいか分からなくなる。指摘して変な感じになるのは嫌だったし、かといって適当に話を合わせてもどこかで無理が出る。


「……ガラケーでも写メは撮れるよ」


 さすがに今回の間違いは訂正しておかないと、話が終わってしまいそうなので気は進まないが指摘するしかなかった。


「写メ?」

「えっとガラケーで撮る写真は写メって言うらしいんだ」


 ガラケーの元の持ち主とか両親からは、そう教わった。


「へぇー、そうなんだ」


 今後、役に立つことはないだろう知識だけど、美咲さんは感心してくれる。


「撮ったことはほとんどないんだけどさ」


 試しに2、3回ほど撮ったことがあるぐらいだ。


「だから写真は撮れるよ」


 ガラケーを使っていた世代だろうおじさんは、写真を撮れることを知っているのだから美咲さんのあげた理由は違うことになる。


「言い方が悪かったね。ガラケーだと撮った写真を、SNSでアップとか投稿できないでしょ。パソコンに取り込むとかすればできるだろうけど、そこまでする人ならスマホにしてるだろうし」


 インターネットにつながってはいるが、きちんと見れるサイトは少ないし、スマホ用のアプリをダウンロードすることもできない。SNSとかも、その気になったら投稿とかできるのかもしれないが、やり方は知らないのだからできないでいい。


「SNSダメなお店なんだ」


 無断撮影や投稿を禁止する店があるというのは聞いている。

 落ち着いた雰囲気で高齢者の利用が多そうなので、スマホでの撮影を制限してもおかしくはなかった。


「そんなことはないはずだよ。積極的に活用してるってわけでもないみたいだけど」


 だったら何でだろう。


「私が、この店に通ってるってことがバレないようにってこと」


 バレたら、まぁ学校の男子とかは会えるかもと来店しそうだった。


「学校の友達と来たら悪気なくアップしちゃうから。しなくても、おじさんの店っていうのは広がるだろうし。そしたら迷惑かけちゃうかもで」


 美咲さんぐらいの美少女になると、そんなことまで気をつかわないとなのか。大変だな、と平凡な自分との違いを思い知らされる。


「ガラケーの深山君なら悪気なしに投稿とかすることもないから、連れて来ても大丈夫かなって。実際、写真1枚も撮ってないもんね」


 携帯で写真を撮るという習慣はない。普通ならパシャパシャと撮影しているのだろうか。


「パソコンでSNSやってるかもじゃないか」


 あまり意味はないが反論してみる。


「写真も動画も撮ってないのに?」

「隠し撮りしてるかも……いや、してないけどさ」


 美咲さんの言う通り、SNS時代に取り残されし者だった。だからこそ信用できるというのは喜んでいいのだろうか。


 あぁ、だから。ようやく気付けた。

 ガラケーだから上野さんがデートしている場に連れて行けるのだ。写真を撮って拡散する恐れがゼロとは言えないが、限りなく低い。

 確かに「深山君しかいない」だ。


「でも、せっかくだから撮ろうか」


 そう言うと美咲さんはスマホを手に取った。


「ほら、こっち」


 テーブル越しに2人が写るようにスマホで自撮りをする。


「もうちょっと笑ってよ」

「えっ、あっ、その、初めてで」

「そんなことないでしょ。家族で撮ったりしないの」


 初めてというのは、女子とこういう形でツーショットの写真を撮ることだった。


「はい、撮るよ~」


 カシャっという音とともに撮影された。


「けっこう上手に撮れたかな」


 確認して見せてくれる。

 美咲さんの美少女ぶりは完璧だった。一緒に写っている男は、もう少し楽しそうな顔をできなかったのだろうか。


「あげたいけどガラケーにはどうやって送ればいいのかな。メッセージに画像はつけらんないだろうし」


 ガラケーにスマホから簡単に送る方法はないと思う。多少の手間をかければデータはもらえるが、そこまでして写真は欲しくあったが頼むのは気が引けた。


「スマホにしたら送ってもらえれば」

「買い替える予定あるの」


 首を振る。

 2年半後の停波までに買い替えるだろうが、少なくとも年内はガラケーを使い続ける予定だ。おそらく高校入学までガラケーのはずだった。


「じゃあスマホにしたらちゃんと教えてよね」

「分かったよ」


 教えなくてもスマホにしてるのに気づいたら、美咲さんなら「あの時の写真」と送ってくれそうな気がした。

 そのつながりがあるからこそ、できるだけスマホに買い替えないようにと思うのだった。


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