11.クラゲとペンギンのどっちに似てるんだろう
能天気そうにしているペンギン達だが、あれで人間関係――鳥だから鳥関係か――に悩むとかもあるのかな。
ひょこひょこと歩く姿になさそうだなと思う。
しかし、美咲さんから見ればクラゲのように何も考えずぷかぷかと漂っているらしい、この自分も現在進行形で悩んでいる。見た目だけでは、その人の内心などは分からないのだ。
リア充に見えている3人も、それぞれに問題を抱えているようだし。
問題の深刻さでいえば、あくまでも客観的な話だけど、陰キャぼっちよりもリア充の方が大きい気がする。
いや悩みや問題などというのは、結局は主観的なもので、他人が重いとか軽いとか言うべきことじゃないんだろうけど。
少なくとも、客観的に見て今の自分が不幸な状態にあるとは、ほとんどの人は思いもしない。夏休みに美少女な彼女と水族館デートをしているという、どう見てもリア充な状況なのだから。
主観的にも不幸な人生と嘆くような状況でもない。両親も弟妹も、一緒に住んでいない祖父母達も特に何か大変な目にあってもいないし。
「移動するよ」
上野さんと松原先輩がペンギンコーナーから次に行くのを見て、美咲さんはスマホでの写真撮影を止める。
「ペンギン好きなの?熱心に見てたけど」
そんなに熱心だったかな。
「まぁ、そうだね」
特に思い入れがあるわけじゃないけど。久しぶりに生で見れておもしろかったのかもしれない。総合すると好きということになるのか。
「でも、クラゲの方が似ているんだっけ」
「あの子は似てるかも」
群れから離れて、1匹でふらふらしているペンギンを美咲さんは指差す。
「協調性がないみたいに言わなくても」
「違うよ。あの子は、群れの近くでふらふらしているじゃない。あっちの本当に1匹でうろうろしてる子と違ってさ」
確かに、群れから付かず離れずの場所で何かしている。たまに他のペンギンも近づいてきて、誘っているようにも見える。そして誘いを断ったのかで1匹になる辺りも似ている気がしないではない。
「そう言われたら何か親近感がわいてきたよ」
名も知らないペンギンに、がんばって生きろよとエールを送る。
「で、2人の様子はどうなの」
美咲さんは首を横に振る。
「入る前よりは感じはいいけど」
あれより悪くなっていたらデートの継続が不可能になっている。
「イルカショーとかあればなぁ」
「今日はやってないんだ」
別の意味でのため息を美咲さんはつく。
「この水族館、イルカいないんだよ。載ってないでしょ」
入館の時にもらったリーフレットを見るように言われる。
「載ってないね」
改めて館内案内図を確認すると、イルカコーナーは存在していなかった。
「入場券にイルカが描いてあったから、いるものだと思って」
「昔はいたのかもね」
描かれているイルカとペンギンの絵のセンスから、けっこう昔にデザインしたものをなくなるまではと使っていそうだった。
そんな感じで館内を1周して、お土産物売り場にたどり着いた。
「2人は何か買う?」
先にぬいぐるみを物色していた上野さんが聞いてきた。
「いいのがあれば、記念でほしいですけど」
「そうだよねー。せっかく4人で来たんだからさ、思い出に残せるのがあるといいよね」
記念と言われれば、あった方がいいかなと思い売り場を回る。
しかし、買ってもいいなというのは意外と見当たらない。正確には値段や大きさが合うものがないだったが。
家族にお菓子とか買って帰ろうか。だけど誰と行って来たのかと聞かれるのも嫌なので、やっぱり止めておこう。
「深山君、いた」
お土産用のクッキーやチョコを眺めていると、急に後ろから美咲さんに声を掛けられる。
「本当に、あのペンギンみたいだね。1人でふらふらするとこ」
「えっ、お土産を探してて」
ちゃんと目的があってのことで、当てもなくさまよっていたわけじゃない。
「それ、いいのがあったら自分のだけ買っちゃうやつでしょ」
図星というか、それは何か悪いのだろうか。
「自分のを買うのはいいよ。だけど、その前に4人で買うのを一緒に見ないとなんだよ」
陽キャリア充ルールが突き付けられた。
「ご、ごめん。よく知らなくて」
「ほら、行こ」
誘われたのを断ったペンギンとは違い、頷いて美咲さんに付いて行く。
「真白君、見つかったの。はぐれないように手をつないどいた方がいいんじゃない」
からかうように上野さんが言うのに、「そこまで子供じゃないですから」と応じておく。
「いいのあったよ」
「どれですか」
上野さんは、海の仲間達シリーズとかいうデフォルメされたイルカやペンギンの描かれたアクリルキーホルダーを指し示す。
「私はウミガメにするの。清華ちゃんはペンギンがいいんじゃないの」
アクキーを手にして、ついている小さな鈴をチリンチリンと鳴らす。
「俺はイルカだな」
松原先輩は躊躇うことなくイルカのアクキーを選ぶ。
「イルカっていなくなかった」
上野さんの突っ込みに、「水族館って言ったらイルカだろ」と返す松原先輩の姿はすごくカップルぽかった。今日、初めて2人がカップルなんだなと思ったかもしれない。
「真白君は何にするの?」
こういうのって全員で同じペンギンとかにして、おそろいとやるものじゃないのか。友達と遊びに行って、記念で何かを買うなどという経験はないため自信はないが。
いや、陰キャぼっちの想像よりも、陽キャリア充な3人のやることの方が普通に決まっている。黙って従うのが正解なのだ。
とはいえ、イルカとペンギン、ウミガメが取られたとなると残りは、かわいいとかを置いておくと、みんなで水族館に来た記念で選ぶにはどうなんだというのしかいない。
「クラゲ」
この水族館でペンギンについで印象に残った生物といえばクラゲだった。思い出というにはいいかなと手に取る。
「珍しいのにするね」
「美咲さんが言うには似ているらしいので」
似ているかなというような目で上野さんは見てくる。
「ぷかぷか漂ってそう、だそうで」
「普段を知らないから分かんないけど、ぷかぷかはしてそうであるか」
上野さんも認めるということは、ぷかぷかしているのか。
「クラゲがあるなら、そっちにしようかな」
そういえばクラゲにも美咲さんは、かなり夢中になっていたな。
「じゃあ交換しようか」
はい、とクラゲのアクキーを美咲さんに手渡す。
「交換?」
美咲さんの反応から、どうやらかぶっても良かったということに気づく。クラゲのアクキーが1個しか残っていないということはなく、それなりにあった。何ならペンギンの方が少ないぐらいだ。
「あ、いや、ペンギンも似てるのがいたなって」
「ふらふらしてた子ね」
思い出しながら、「あれは本当に似てたね」とクスリと笑う。
そんなこんなで4人がバラバラのアクキーを購入する運びとなった。
「うーん、楽しかった」
満足そうに上野さんはしているが、デートではなくて水族館が楽しかったという感じだった。
「そうだ清華ちゃん」
スマホを取り出して上野さんは、ロビーの水族館と分かる場所で美咲さんと写真を撮り始める。
「買ったアクキーも持ってさ」
「わ、私とだけじゃなくて、松原さんとも……」
慌てて美咲さんは、松原先輩と撮るように勧める。
「まずいでしょ」
カップルで写真を撮ってまずいことがあるのか。恋人は禁止といっても、まさかスマホに入っている写真を1枚ずつチェックなどはしないだろうし。それとも、そこまでするのか。
「俺も別にいいよ」
気にするなというように松原先輩は言うが、どこか無理している感じがした。
何枚か美咲さんと写真を撮った上野さんは、「それこそ2人では撮らなくていいの」とこっちに振ってくる。
「大丈夫ですよ」
撮ったところでガラケーに写真は送ってもらえないのだから、いつになるか分からないスマホ買い替えの日まで美咲さんに預かってもらわないといけなくなる。
美咲さんのことだから律儀に保管しておいてくれるだろうが、そんな迷惑はかけられない。
「そう」
少し上野さんは驚いているようだった。
「じゃあ私と撮る?」
写真に誘う相手を間違えている。
「男と一緒に撮るのはまずいんじゃなかったんですか」
「真白君となら問題ないよ」
ファンを相手にしていると思われるからか。
「あんま、ひどいこと言うなよ」
呆れたように松原先輩が注意する。
「分かってるわよ。ごめんね、真白君」
謝られても、「気にしてないですよ」と言うしかない。実際、気にしていないし。
結局、カップルの間の空気は微妙なまま水族館デートは終わった。
個人的には楽しかった。だけど、このまま状態が変わらないのはどうなんだという気がしてならない。好転させる方法を知っている人がいるなら教えてほしかった。




