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プロローグ

俺は14歳。交際経験なしで超がつくほどの馬と鹿、そして致命的なコミュ障でおまけに身体能力すら無い。絶賛黄昏中の少年である。


教室の窓から差し込む午後の光が、机の上にある数学のノートを淡く照らしている。

白いページに走る細かい罫線は、何も書かれないまま空白を保ち、俺の内側の虚しさをそのまま映しているようだった。


「ふぅ……今日も疲れたなぁ」


と、誰にも聞こえないくらいの声で吐き出す。

我ながらイタイ、羞恥心が湧いてくる。

そして俺はいつも通り、クラスメイトたちを観察していた。


──なぜこんなことをしているか?答えは簡単だ。

俺は紛れもない“ぼっち”だからだ。


休み時間、誰かと笑い合うこともなく机に座って名前がよく分からない文豪らしき人の『人間失格』という本を読んでる”ふり”をしている。


誰も話しかけてこない。

少しくらい良くないか?

そんなに俺が嫌いなのか?

話しかけても無視される未来しか見えないし。

必然的に、俺の時間は「観察」で埋め尽くされていく。


右隣の席の女子は、今日も友達とSNSの話題で盛り上がっている。

前の席の男子は、新作ゲームの話をしている。

彼らの会話は、俺にとっては未知の言語のように遠く感じられる。


(あぁ……俺には一生関係ないんだろうな)


当たり前だが友達なんていない。いたことも無い。

正直言って、それを悲しいとすら思わないように自分を訓練してきた。

でも本音を言えば――寂しかった。


だから俺は、彼らの些細な仕草や言葉を観察して、頭の中で分析する。

あの男子はリーダー気質。

あの女子は影響されやすい。

あいつは群れの中で安心してるだけ。

そんな風に冷静にラベルを貼っていくことで、僕は「孤独」を保つことができた。

哀れだなぁ。


だが、現実は容赦なかった。


「おい、ぼっち!」


周りの人たちに見せしめるようにそう言った。

授業の隙を狙って、いつもの同級生が僕の机を叩く。

乾いた音が教室中に響き、何人かの視線が一瞬だけ僕に向けられ、くすくす笑っている。


「……」


反応しない。机の端に視線を固定し、息を殺す。

何もされたくない。

何もしたくない。

存在を認知されたくない。

このまま透明人間とかになれないのかな。


「なぁ、聞こえてんだろ?お前よぉ」


次の瞬間、足の甲に鈍い痛みが走った。

机の下から、彼が靴で踏みつけてきたのだ。

くすくす笑っている音のボリュームが上がる。


(こいつ、本当に何が面白いんだ?)


僕は心の中で冷ややかに吐き捨てる。


「ほんとに聞こえてねぇのな。耳鼻科でも行ったらどうなんだ?」


俺の耳元で囁いた。

怖い

怖い

とにかく怖い

今すぐ逃げ出したい

そんな思いを封じ、次の一手を考え始めていた。


──踏みつけられたタイミングは教師の視線が届かない瞬間。

──笑い声は注意を引くためのフェイク。

──反応すれば面白がられる。無視すればさらにエスカレートする。


さて、どうするか……。


正解は――『謝る』だ!!


ふっ、プライド?そんなもんないねっ


「すいませんでしたぁぁ!!!!僕が貴方様に何か悪いことをしましたでしょうか!?だとしたら土下座でもなんでもしますっ!!!」


わざとらしいほど大きな声で叫んでやった。

もしかしたら隣の教室にも聞こえたんじゃないか?


「お、おい!そんな大声出すなって!担任にバレたらどうすんだよ!」


相手の声が、一瞬だけ焦ったのが分かった。

その微かな変化に、僕は心の奥でガッツポーズをした。

(やった。 一泡吹かせてやった)


「きんもちわっるいやつだなぁ……」


吐き捨てるように言い、そいつは自分のグループへ戻っていった。

周りの数人も、嘲笑を残して去っていく。

余韻が鋭くて痛い。


「……ふん。」


僕は机の上で軽く肩をすくめた。

小さな勝利感が胸に宿る。

けれど、それは本当に小さな、小さな火種だった。


放課後。


帰り道、駅へ向かう足取りは重かった。

夕陽に染まる街並みはきれいなはずなのに、僕にはただモノクロに見える。


「……ふぅ」


電車に乗ってしまえば、あとは家に帰るだけ。

両親が作ってくれる晩ごはん。

呼んでも無いのにやってきてくれるヌッコ。

少しでも癒やしがあるのは、家だけだ。


だが、その日だけは違った。


人通りの少ない駅のホームに立った瞬間、背筋が凍った。

視界の端から、あの「グループ」が歩いてきたのだ。


「よぉ」

「今日もお前、つまんねぇ顔してるな」


笑顔の裏にある、濁った悪意。

僕は即座に思考を回転させる。


逃げるか?……無理だ。囲まれている。

騒ぐか?……ここは人が少なすぎる。

殴るか?……勝てるはずがない。


(どうする……?どうする……!?)


詰んだ、完全に詰んだ。


背後から、突然強い力が加わる。

背中を押されたのだ。


「えっ……ちょ、ちょっと待て!!!」


流石に冗談じゃ済まないぞ!?

足元が空を切る。

体のバランスが崩れ、視界が大きく揺れる。


「嘘だろ……嘘だろ……!?」


目の前に、光。

電車のライトが迫る。

鼓動が跳ね上がり、喉が焼けるほど乾いた。


「ざけんな……!こんなところで……!」


全身が必死に抗おうとするのに、体は動かない。

時間が引き延ばされたように、一瞬が永遠に感じられる。


そして――世界が暗転する直前、視界が不思議な光に包まれた。


夢の中でI ◯AXの巨大スクリーンを見ているような、異様な感覚。

これが……走馬灯というやつか。


記憶が次々と映し出される。

幼少期の笑顔。

小さな公園で父に肩車をしてもらったこと。

母と一緒に台所で料理を作ったこと。

帰ってきたら足元で体をすっている猫。

小学生の頃、家族で行った旅行。


「あぁ……俺を大切にしてくれたのは、やっぱり両親だったな……」


思い返せば、一昨日の夜も、母は僕の足の痣を見て「大丈夫?」と心配してくれた。

父は仕事で疲れているのに、わざわざ僕に本を買って帰ってきてくれた。

そんな二人に、僕は何も返せていない。


「くっそ……!まだ親孝行もしてないのに……!」


悔しくてしょうがなかった。

胸の奥から込み上げるのは、後悔と怒りだった。


一発でいい。

たった一発でいい。

あいつらの顔面を、思いっきりぶん殴ってやりたかった。


だが、その願いすら叶うことなく。


次の瞬間――


「ぶちっ」


何か、映画のワンシーンにありそうな音がした。

多分、それは僕自身が潰れる音だ。


世界が白く光に包まれる。

景色が歪み、音が消え、意識が遠のいていく。


——もし、“2回目”があるなら。


今度こそ、俺は。

初の執筆なので感想やアドバイスを言ってもらえると幸いです。

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