世に太陽は二つと要らず その01
大稲デイヤのチームと、先輩たちのチームの戦いが始まった。準決勝進出の私たちと布田のチームは、最前列での観戦ができる。
先鋒である私。乳母崎ラコの相手は、アミあるいはマナミさんだ。私たちの席は大将側なので見にくいが、二人の対戦を見れなくもない。
「勝敗は見えていますね……金居め、馬鹿な真似をしやがって……」
私の隣でシヴァが吐き捨てる。『運命潮力』だけを見れば、勝敗見えているだろう。それこそ桁違いだ。
勝ち目があるのは猫魂先輩くらいだろうが、相手はあの大稲デイヤだ。
…………しかし、猫魂先輩と晴井先輩の目的はこの一戦である。ここでの勝利は必須ではない。
気になるのはマナミさんがいる事なのだが……正直、その目的はよく分からない。
対戦が始まると同時にパフォーマンスして、極めて珍しいカードを起動した。初めて見るし、効果も初めて聞く。
「…………あの女、似ていると思ったが、まさかマッハ本人か?」
「知っているのか」
「我々の本当の敵の一人、奴らのせいで……」
憎々しげに呟くシヴァ。『本当の敵』。つまり大稲デイヤたちはシヴァにとって『敵』ではあってもそこまで重要な相手ではない。
普段は見透かせないシヴァの内心も、魔人の姿なら少しは見える。故郷を滅ぼした怨敵……絶対に許さないと考えて……滅ぼした?
シヴァの思考に私の頭は混乱する。『滅ぼした』とは、どういう意味だ? 『向こう側』は、滅びているというのか?
ならば、この戦いは何のためだ? 何のためにこの次元を壊そうとしている。相手を滅ぼしてでも、自分たちの故郷を守るためではないのか。
それ以上の思考は読めない。どこかで問い詰めることができればいいのだが、それも難しい。私は洗脳下にあることになっているし。
「マッハさんすごいねー、面白カードじゃん」
「ダイナミックだな」
「あ、おっぱい? おっぱい見てるでしょー?」
「見てねー! 見てねーし!」
目前で猫魂先輩と大稲デイヤの試合が始まる。アミの手管は知っているからいい。それならば私は、ここで猫魂先輩を応援しよう。がんばれー!
「すごいよねー、三桁だってさ」
「興味ねーっての、《駆け抜けるラプトル》を即オープン、戦場Cに移動するぜ」
大稲の言葉に口を尖らせる猫魂先輩。カードをテーブルに伏せて、パイプ椅子に寄りかかる。
「少しも?」
猫耳カチューシャにパーカー、真正面に猫型の穴の開いたセクシーなヘソ出しトップス。
猫魂先輩の健康的な可愛さとセクシーさ、そして何よりも猫愛フルスロットルなファッションだ。
「おま……そりゃぁ……」
言葉に詰まる大稲。その目が猫型窓の奥にある胸の谷間に釘付けなのは傍目にも分かる。
見てる見てる。本当は興味津々なんだろう? 私の胸も見てたよな?
「後攻ドロー、補充、リソースは紫。セットして前進。終わり。このカッコ、どう思う?」
「え…………? け、ケイトらしい猫だらけだなって……」
「ふーん」
ちなみに大稲はジーパンにティーシャツ、ボディバッグだ。ティーシャツには爪痕の柄と『DYNAMIC』の文字。
ダッサい。制服姿もどうかと思ったが、私服がダサいよりかはマシかな…………いや私服のダサさについては私も人の事はどうこう言える立場ではないのだが。
「ドロー、補充、リソースは赤と赤」
「ケーくんは褒めてくれたんだけどなぁ……」
「なにぃ!?」
攻めるなあ猫魂先輩。まだ対戦は始まったばかりなのに凄まじい猛攻だ。
シヴァは融鬼に猫魂先輩の感情を加熱してもらうつもりだったようだが、今の猫魂先輩の方が怖いし強いと思う。
チクチク言葉が強すぎる。
「可愛くない?」
「そ、そりゃ……まあ」
「まあ?」
瞳孔全開で捻じるように見上げる猫魂先輩。圧が強い。大稲はもはやグロッキーだ。明らかに腰が引けている。戦意喪失している。
「あんまり可愛くないってぇ?」
「いや、可愛い、可愛いって!!」
脂汗を垂らしながら両手を振り回す大稲。これは勝てる試合も勝てないのでは?
「ええと、《険しい岸壁》で制圧。セットした《火花走り》を即オープン」
「褒め方が雑過ぎなぁい? ゲーム進めれば話を逸らせるとか思ってる? 《紅マグロ漁》」
「……紫じゃない!?」
猫魂先輩は極めて冷静だ。除去をかわしてリソースを貯めた。
《紅マグロ漁》は青の0コストスペル。猫にしか使えない万能リソースを得られる。
「終わり?」
「いや、一枚セットしてターンエンドだ」
「感想は終わりね。はいはい」
「あ、いや……ええと……すごく似合ってる」
「はっ」
がんばって絞り出した大稲の言葉を、猫魂先輩は一笑に付す。吹き出しそうになった。危ない危ない。猫魂先輩最強すぎる。
「あーあ、やっぱりケーくんと比べちゃダメだよねー。ドロー、補充、リソースは紫紫」
「ど、どういう意味だ?」
私は晴井先輩をチラ見する。名前が出る度に苦笑いだ。しかし楽しんでるのが目で分かる。
よかった。私はおもわず微笑みそうになって口元を引き締めた。
「ケーくんがこの格好を見た時なんて言ったと思う」
「分かんねーよ」
「少しは考えなよ、一枚セットして終わり」
晴井先輩の言いそうなこと……私はニマニマしそうな口元を気力で押さえつけながら想像した。
私と会った時は『可愛い』『写真欲しい』『大丈夫?』だった。会場冷えるからお腹の心配かなぁ。融鬼戻ってこないかな。近くにいるだけでポカポカして気持ちいいんだけど。
「…………ドロー、補充、リソースは赤二つと紫」
「……………………」
苛立ちを隠さない猫魂先輩。大稲は答えられない。
「《ラプトル》を戦場Dに、裏向きカードを戦場Bに移動して表にする。《龍信仰のシャーマン》」
「…………………………………………」
戦況は、明らかに大稲が押している。しかし精神的には完全に負けていた。かわいそうな位にボロボロだ。
「一枚セットして……」
「待って」
赤リソースを利用してセットする大稲を、猫魂先輩が制止。コストを支払いカードを表にする。
「《エスコートする紳士猫》を表にするします」
一瞬大稲の顔が引き締まる。紫には表にしたカードにコストを追加させる妨害カードがある。
猫魂先輩は大稲の妨害に警戒して、先んじてカードを表にするしたのだ。これは、先日までの猫魂さんにはなかったプレイスキル。晴井先輩の直伝だ。
《エスコートする紳士猫》は山札を7枚見て、猫を1枚手札に入れる強力なサーチカード。
「《パレイドリアの猫》を手札に加えるね」
能力かスペルの対象を移し替えるユニット、赤には天敵になりうる。
「動きが見違えたな」
「そうやって話を逸らすのがホントダメ。ケーくんには露出が多すぎることを心配されたんでしたー。デイヤはアタシが誰にどんな目でみられても興味ないんでしょーけどー」
オーバーキル火力の言葉が飛んできて、大稲は沈黙した。




