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晴井彗 その12


 予選を突破した八チーム、ボクらのチーム、布田(ふた)のチーム。

 そして『向こう側』の魔人たちが四チームと、その他に二つ。


「『祈祷(きとう)者』のチームに当たるのは決勝か」

「どうでヤンスかね、その前にあっしらが倒してしまうかもしれヤせん」

「そりゃいい。決勝で会おうぜ、ダイナミックに期待してる!」


 デイヤと布田が拳を合わせる。実際にそうなる可能性もあった。


「どうしたアミ、気になることでもあるのか?」

羅睺(らごう)がボクを下した際に、一つの名前を出した。それがどこの誰なのか分からないんだよ」

「名前……?」


 デイヤと布田もボクを見る。


「羅睺は言っていた。『必ずやボクらの前に立ちはだかる男がいる』と。

 融鬼(ユキ)のチームにいるアイツか?

運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』は300もないが」


 ボクの言葉に、布田が素早く端末を操作した。フケだらけの頭を掻きむしりながら説明する。


「彼は『袖搦(そでがらみ)マサシ』氏、数合わせに洗脳しただけの一般人でヤンス。警戒には当たらないでヤンスね」

「ククク、それがお前の限界だよ布田。あれは現行最強デッキの一つ、『アグロおでん』の使い手だ」


 変な名前だ。ボクの視線に気付いたか、ソーマが肩をすくめた。


「変な名前」

「馬鹿め、デッキの名前で強さは決まらん。むしろデッキ名が知られているということは、それほどの強さがあると言うことだ。

 …………まあ、洗脳されていなければ強敵だったかもしれんな。『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』のないアミのようなつまらないプレイングだったし、さっさと一蹴したが」


「いまなんでボクをディスったの??」

「ククク」


 ポーズを付けて格好を付けるソーマ。コイツは事あるごとに何かとボクをバカにするから嫌い。ホント嫌い。


「それよりアミ、羅睺はなんて言っていたんだ?」

「ああ、立ちはだかる者の名は……『ハレイケイ』」


「なんだと……どういう事だよ!?」「ククク、そうかそうか!」「馬鹿な、あり得ないでヤンス!」


 ボクがその名を口にした途端に、男たちの空気が変わる。困惑するデイヤと布田、そして面白がるソーマ。

 三人が三人とも、それぞれがその名を知っている事にも驚いている様子。さらに言うならば。ボクの口から出たことにも。


「晴井彗は『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』100の凡人でヤンスよ!それが立ちはだかるとはあり得ないでヤンス!」

「布田、アイツを知ってんのか?」


 こころなしか青ざめたデイヤの問いに、布田が頷く。


「デイヤの情報を求めて、猫魂さんと研究所に来たでヤンス。猫魂さんの彼氏でヤンスね」

「ちちちちげーし! ケイトに彼氏なんてありえねーし!!」


 だだっこのようにわめくデイヤに、布田がやれやれと首を振る。


「いい加減認めるでヤンスよ。調べたところこの一週間登校から下校まで仲良く一緒、休み時間もべったり。

 猫魂さんがお昼寝する昼休みは別行動でヤンスが、コンビニでアイスを分けっこしている姿も目撃されているでヤンス」


「その昼休みは何してんの?」

乳母崎(うばさき)という女子とおしゃべりしている姿の報告が上がっているでヤンスね」

「はぁ!? ケイトだけじゃなくて乳母崎にまで粉かけてんのかよ!? 許せねえ!!」


 そのウバサキとやらがどこの誰かは知らないが、デイヤの知り合いらしい。違う意味で立ちはだかりそうだな。


「問題は、何故羅睺があの男の名を出したかでヤンス。うちに来るまで『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』も『向こう側』も知らなかったような奴でヤンスよ」

「羅睺との繋がりが見えないな。しかし、『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』は低い……『能力を誤認させる闇のカード』でも存在するのか……?」


 ボクの思い付きに、布田がメガネを上げた。その可能性、そうであるならば符号が揃う。

 突然現れて猫魂ケイトに近付いたのも、羅睺がその名を口にしたのも、まだ見ぬ新たな魔人であるならば……!


「下らん。アミ、もう少し頭を使え。行動と選択を『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』に任せているからそんな珍説が浮かぶのだ」

「ソーマはいつもいつも、ボクを否定してなんなんだ?」


 掴みかかろうとするも、長い腕で頭を押さえられて手が届かない。このひょろ長め……!


「アホらしい。いいか? お前が羅睺ならば何故バラす? 奴らの隠し球ならば、お前に話しては不都合しか生まれん」

「じゃあなんだ? 偽情報だって言うのかよ。晴井彗は大したことないヤツなのか? …………オレはそうは思えないんだが」


 デイヤが考え込む。布田の印象と、デイヤの印象がまるで違う。


「知り合いなのか?」

「アミもソーマも会っただろ? さっきケイトと一緒に来た奴だ」


 ボクは首をひねった。ソーマも考え込む。そういえば、猫魂ケイトの横に弱っちい雑魚のチンピラが居た気がする。顔は憶えていない。へのへのもへじで思い浮かべる。


「せ、制服を着てたような……」

「そうか! どこかで見たと思ったら、会っていたのか。悪いことをしたな」

「え、ソーマって悪びれる感情持ち合わせてたの!? 信じられない」

「ククク、つまらん相手には抱かんがな」


 ボクらは三人でソーマを見た。明らかに晴井彗への印象が違う。布田は侮っている。デイヤは敵愾心(てきがいしん)を抱いている。ではソーマは?


「六戦目で遭遇した。オレ様が二点戦場(ダブル)を獲っていなければ引き分けていたぞ」

「ソーマが……?」「あり得ないでヤンス」


 ボクらは息を呑んだ。『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』で言うならばボクが最強なのだが、なぜかソーマには勝てない。

 そのソーマと引き分けた? 『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』100の凡人が?


「それがお前らの限界だ。そういう意味で羅睺は正しい。あれは『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』などではない。もっと根源的で、揺るぎ無い力を持っている。

 ククク、素晴らしい、最高の敵だ。オレ様にとっても、『向こう側』にとっても敵なのだ。だから警告した。潰し合わせるために」


 理解できない。『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』よりも根源的で揺るぎ無い力? そんなものが存在するのか?

 そもそも、ボクらとも『向こう側』とも敵対するとはどういう事だ?


「いいぜ、どうせ戦うつもりだったんだ。ぐだぐだ考えててもしかたねー。ダイナミックにブチのめす」

「無理だな」

「なんでだよ」


 ソーマが顎で示した。試合が始まる、決勝リーグ最初の試合。

 融鬼たちのチーム『雪組』と、晴井彗と猫魂ケイトのチームとの。


「あのチームの大将は猫魂ケイトだ。晴井彗はオレ様が頂く」

「では、ボクの相手はあのデカい女か? 『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』は…………ふむ、あの年で1000とはなかなか」

「お前と話していると頭が痛くなるな……アミじゃなくてザルなんじゃないのか?」


 誰がザルだー!


「いいかザル、『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』が全てではないと教えたばかりだ。

 あの女もただのデカい女じゃない…………いや。デカ過ぎるだろ。金居よりデカいぞ??」


 ザルではない。殴りかかるもオデコを押さえられては、ボクの拳は届かなかった。



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