昼休み その03
今回、名前のあるキャラがたくさん出ますが喋らない奴はモブです。
「羅睺、勝率はどうでしたか?」
「五勝一敗。アミにぶつかった」
「ふむ……アミ遭遇してしまったなら仕方がありませんね」
青銅みたいな肌、神経質そうな細面に冷酷な目付き、慇懃無礼を絵に描いたような男、シヴァ。
彼が率いる『向こう側』のメンバー、総勢十二名。私、乳母崎ラコ=羅睺はその中に混じっていた。
上座には『祈祷者』。ただ一人肌を露出していない仮面の男。ほとんど喋らないし感情を感じさせない、恐らくはシヴァの傀儡だ。
その横に侍りナンバーツーを演じる道化、シヴァ。上半身ほぼ裸、他の魔人達も露出度が高いのはコイツの趣味なのだろう。最低。
一応私がナンバースリーという事になっている。『運命潮力』が高いからだ。
残る八人は高くて3000、しかも魔人として『向こう側』の容貌をあまり発現していない。
右半身のほぼ全てが怪物なんて私だけ。
赤使いの『融鬼』、『運命潮力』は3000。八人の中では最強。体温が50度越えの女子大生。背中の開いたボディコンシャスな赤い服。
そのチーム『雪組』には爪が金属製でパンクロッカーみたいなファッションの大男、茶色使いの『金居』『運命潮力』2200と、融鬼が連れてきて洗脳された中年男。
青使いの『魚虎』は顎の下にエラがある。1800。黄色使いの『尸鴉』は頭髪に羽毛混じり、1500。緑使いの『鱗蛇』は瞳孔が縦で1600。女三人姦しいが仲が良くて羨ましい。
彼女ら『花組』は世界とかよりもChickTockとファッションの方が大事。三人とも顔が可愛いし、色違いコーデの鱗っぽいレオタードが可愛くて楽しそう。
残る『月組』。紫使いの『闇身』、影が勝手に動く2400。虹色の目で白使いの『輝煌』は1000、牙の生えた黒使いの『堕怒』は1700。こいつらは十代のガキらしく不躾で頭が悪く、いつもいやらしいことばかり考えている。
…………晴井先輩と大差ないな。
素肌にジャケット、眼帯やモノクル、包帯といった小道具にテンション爆上がり。ガキだな。
…………晴井先輩も同じ服与えたら喜びそうだが。
「しかしよー、猫魂ケイトがを仲間にできなかったにしても、このチビデブはなんなんじゃい」
「黙れ、文句は彼より勝ってから言え」
金居とその男の勝率は同じ五勝一敗。『運命潮力』は250程度。洗脳されて動作は単調。つまりかなり『アルメ』が上手い。
三十代半ばの、人の好さそうな丸顔、小太り、背は平均より低め。
一つ気になるのは、融鬼が彼のことばかり考えていること。焦り、怯え、何が起きているかは容易に想像できた。
融鬼は、この男を人質に取られている。
…………家族か? まさか恋人ではないよな? 親子ほども年の差があるぞ。そうだとしたら男の趣味が悪い……せ、先輩は顔は悪くないしスタイルもいいから、その代わりおっぱいに見境ないし性格も微妙か……? 私も人のこと言えないな。
「そうだ融鬼、一つ言い忘れていました」
私は表情を動かさない努力をした。嫌悪感で顔をしかめそうになったからだ。
獲物をいたぶり、それを愉しむ表情で、シヴァが融鬼の肩に手を置く。恐怖に身震いする融鬼。クソ、シヴァの心が読めればいいのに。私の力では、何故か奴の心を読むことができない。
「お前の呼び込んだあのプロゲーマー、大したことありませんでしたよ……大稲デイヤに負け、『祈祷者』様に負け……あれは予選落ちでしょうねぇ」
「うう……っ!」
融鬼の脳裏にいくつかの情景が駆け巡る。
公式トーナメントに参加し、期限切れの近い『運命潮力』を駆使してトッププロにすり寄ってチーム入りを果たした。全ては、このシヴァという男から逃れるために。
「大会の後、あなたに罰を与えます」
「ひっ」
私はおぞましさに身震いした。シヴァの洗脳の邪悪さを思い知った。シヴァが融鬼をその凶悪な欲望の捌け口にしている事は知っていた。知っていたが、これまでそれに、何の疑問も抱かなかった自分に気付かされた。
シヴァが融鬼を完全に洗脳しないのは、そうでないと痛めつけても面白くないからとか、そういった身の毛もよだつような理由からだろう。
シヴァを……排除しなければならない。しかし、どうやって?
そして、可能ならば全ての洗脳を解除するべきだ。問題はその方法……サンプルは私と融鬼。まさか、その、『愛の力』なんて馬鹿げたことは言わないよな?
…………私は何気なく例の小男に近づく。意識はない。精神はシヴァによって封じられている。
しかし、私ならば見える。直立不動のその男の頬に手を当てた。眠っているようなものだ。私ならば夢を渡れる。
一瞬で深くまで入り込んだ私が見たのは、体育座りで泣いている幼い融鬼と、その前に立ちはだかるように立つこの男の姿。
『守るんだ守るんだ。今までひどいことばかりだったこの子を、おれが笑わせてやるんだ。
もう悲しい目に合わないように、笑って過ごせるように、守るんだ守るんだ』
「ならば戦うよりも、彼女を抱きしめて一緒に逃げてやるんだな」
次の瞬間、私は肩を掴まれ引き戻された。火傷をするような熱さ。我慢しながらゆっくりと振り向くと、怒りに満ちた目の融鬼がいた。
「羅睺……なにをしている」
噛みつかれる前に、私は男から手を離す。代わりに融鬼の手を掴んだ。熱い。肩は手の形に赤くなってそう。
「オトコの趣味がいいな」
「馬鹿にしているのか」
まさか、褒めているのだ。
しかし今の私はシヴァの洗脳を受けてぼんやりしている身の上。それ以上何も言わずに二人から離れた。
融鬼がこの男に救われたように、この男にとっても融鬼は救いなのだろう。
なんとかならないものだろうか。やり方は分からないけれど。