ソーマ その03
《青褪めた騎士アズラーン》!
黄色の2コスト2/2で、ゲームから取り除かれた自分のカードの枚数だけ+1/+1の修正を受けるユニークだ。
どう考えても悪さができるのですげー欲しいが、生憎俺は持っていない。
ソーマは《抜け落ちた記憶》で《ロキ》を落としたので、現在3/3で『魔術:万色万色』持ち。どんなスペルでもコスト-2だ。しかも弱点なし。
「最高じゃねーかチクショウめ!」
俺は自分の《抜け落ちた記憶》でソーマのデッキを確認する。
マジで《ミドガルズオルム》がいる。山札を破壊する《魂の砲弾》がある。山札を半分にする《天冥戦乱》もある。
しかし、見える範囲に《罪の暴露》が無い! これは……恐らく手札に持っている。
「《思い出せ》をゲームから取り除く」
ゲームから取り除かれたカードを手札に戻すハイレアだ。《罪の暴露》を再利用とかされたら目も当てられない。
「お前の推理、面白く聞かせてもらった。代わりにオレ様の推理も聞かせてやろう」
ソーマがドローし、補充、リソースを並べる。
このターン中に倒されるなら、アホみたいなサイズの《ミドガルズオルム》や《地下図書墳墓の主人》を《魂の砲弾》で投げて来る。
そうでないなら大型ユニットをばらまいて次のターンでこちらを壊滅させる。
…………いやまて、そんなの必要ない。
《アズラーン》だ。
除外されているカードの枚数だけ強化される《アズラーン》がいる。
《罪の暴露》を使用したターンは捨札に行かずに全てのカードが除外される。つまり、捨札の枚数だけ巨大化した《アズラーン》自身が、ソーマのデッキの決まり手なのである。
「そのデッキ、海賊による手札破壊が入っていたな。いまや一躍有名になった『外科医テンペスト』だ。手札を減らすという対策方法なんて誰でも思いつく。
それを逆手に取ったデッキなんじゃないか? 海賊に《激昂》シリーズとかいう連中がいたな。対戦相手の手札がゼロの場合強化される」
俺はニヤつくのを止められない。《ドクロ旗の略奪隊》だけでそこまで当てられると、感服するしかない。
ソーマも同じだったのかもしれない。俺に『アズラーン暴露』を言い当てられて、悔しくも嬉しかったのかもしれない。
「手札破壊と、手札ゼロの脅威、『外科医テンペスト』……複数の要因で敵を警戒させ混乱させる。
存在しない怪物で敵を牽制するかのようなデッキだな。ククク、面白い。
まるで仲達を走らせる死せる孔明だ。
非礼を詫びさせてもらおうか、つまらないと言ったことを訂正する」
頭を下げるソーマ、俺は慌てて両手を振った。
「いや、やめてくれ。俺は一歩遅かった。手札に《罪の暴露》があるんだろ?
俺の山札は残り約30枚。この後の猛攻には耐えられない」
「ククク、そうだろうな…………だが、そのデッキの真価はその先なんじゃないか?」
「分かる?」
そこまで見抜かれているとは脱帽だ。
「サイドボーディングしたら、次はどう化ける? 手札破壊なしの『外科医テンペスト』に戻る? それとも…………まったく別の、第三の矢を隠しているのか?
まるで鵺、変幻自在の怪物だ」
俺は大きくため息を吐いた。全部ぶちまけてしまいたい気持ちになる。
しかし、それはできない。
「俺、副将なんだけどあんたは?」
「お前ほどの男が大将ではないのか。だが僥倖だ。奇しくもオレ様も副将だ」
「なら、言えないな」
流石に猫魂さんとマッハが負けまくって本戦に出れないって言われたら笑っちゃうけど、そうでなかったらソーマとは今一度戦う事になる。
何故なら彼は大稲デイヤのチームメイト。
『運命潮力』の導きとやらが、きっと大稲と猫魂さんを戦わせる。
その時、俺とソーマも決着を着ける事になるだろう。
「オレ様はソーマ」
「晴井彗」
俺たちが握手を交わすのと、試合終了時間のアナウンスが鳴るのは同時だった。
「ふむ、引き分けか」
「いやソーマの勝ちだ。二点がある。時間切れは制圧点が高い方の勝ちになる」
つまり何にせよ俺の負け。あー、クソ。悔しいな! でもすげー楽しい。次は勝つぞ。
「そうだ、大会の後時間ある? メシ行かね? 雨宮さんに奢らせるから」
「お前……雨宮プロとどういう関係なんだ?」
「被害者と加害者かな……? つーか公式サイトに上げるとか本当勘弁して……二度と使えないじゃん」