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ソーマ その02


「『外科医テンペスト』の弱点は、まずはユニット戦の脆弱(ぜいじゃく)さだ。山札(ディクショナリ)攻撃に頼りすぎて戦場をないがしろにしすぎる」

「えー? そんなに酷い?」

「酷いな、たった数枚の戦闘用カードを捨札利用(リアニメイト)で回そうという考え自体が甘過ぎる」


 そこまで酷くないつもりなんだけどな……。《幽霊急襲揚陸艦(ファントム・アサルトシップ)》や《地下図書墳墓の主人》で殴り勝つことも視野に入れてるし。


「《高い買い物》で2枚引いて2枚捨てて、山札を2枚削るぞ」

「二つ目、手札を減らされると《嵐の精霊(テンペスト)》が望む活躍をしない」

「それはマジで思う」


 乳母崎さんにもむっちゃ対応されたし。

だからこそ、それを見越しての手札破壊方『オーバーカム』なんだけど。


「《掘り出し物市》をセットして即使用」

「三つ目、お互いの山札を大きく削るために、相手の捨て札利用を助長し、逆に山札(ディクショナリ)破壊に極端に弱くなる」


 それは環境次第なんだよな。捨て札利用をするにしても、『ロキ暴露』ぐらい遅いと先に削り尽くせるし。


「1枚セットしてターン終了」

「そもそもプロが公式サイトの書いたようなデッキを使う(ヤカラ)が、このオレ様を楽しませるとは片腹痛いぞ」

「は? …………はぁッ?」


 聞き捨てならない事を言われたぞ。

 俺は思わず立ち上がり、声を荒げたことを恥じて座り直した。雨宮さん、公式? は? 公式サイトからいくら貰ってんの?? 今まで俺のデッキでいくら稼いだ???


「失礼、声を荒げた。ちょっと悪いけどスマホ見る。進めて」

「なんだ? とりあえずエンド前に《エルフのドルイド》を表にする(オープン)


 俺はスマホを取り出す。ゲーム中なのでマナー違反極まる。本当に申し訳ない。

 乳母崎さんを壁紙にして良かった。心が癒やされる。だが、検索して公式サイトのコラム欄に飛んだ所で俺は歯ぎしりした。


「マジだ。クソッ、高い店奢らせてやる……」

「…………? ドロー、補充(リフィール)、リソースは緑黄色黄色だ」


 個人ブログの『おもしろコンボ遭遇記録』だけかと思ったら公式サイトの記事にまでしてたとは。なんかマッハと話が噛み合ってないと思ったぜ。

 つーか、雨宮さんをユニット戦せずに叩き潰したせいで、雨宮さんの想像するデッキリストにはユニットがあまりに少ない。

 なるほど、これはこれは。


「《エルフの植林者》を表にする(オープン)、戦場Dを制圧(ドミネート)二点(ダブル)だ。(植林者)の無色リソースと緑リソースでカードを2枚セット」

「このデッキじゃ勝てねえよ、雨宮さんはプレイングがずば抜けているけど、デッキセンス悪いよな」

「トッププロ相手によく言う」


 ソーマがニヤリと笑う。俺の口の利き方が好ましかったのかな。でも本当だし。

 雨宮さんはチームを組むことでその実力を最大限に発揮できている。上手くやっているよ、実際。


「《苗床》を無償発動、山札(ディクショナリ)を削る、エンドだ」


 『魔術:緑』の《エルフのドルイド》、無色リソースを出す《エルフの植林者》、そして山札を消耗する代わりにエキストラ・リソースを得る《苗床》。

 これは……まさかとは思ったら。


「そういえば、そういうあんたの挙動は『ロキ暴露』じゃないのか?」

「『ロキ暴露』は決まれば強いが遅すぎる。環境に着いて行けん。勝ち筋の一つに留めるべきだ」

「お、気が合うな、流行りの『ロキ暴露』はロキに拘り過ぎて弱くなってる気がすんだよね」


 『ロキ暴露』はいわゆるコンボデッキだ。最悪の黄色ユニークスペル《罪の暴露》と頭のイカれた緑のユニーク《終わらせる者、ロキ》が始点となる。


 《罪の暴露》は黄色の2コストスペル。効果は捨て札のカードを手札のように使用できるというもの。もちろんコストは通常通り。使ったカードはゲームから除外される。


 残りリソース1でどうするんだと考えるのが素人。『魔術:』持ちで悪さをしようと考えるのが普通の人。

 《終わらせる者、ロキ》を使うのがヤバイ奴だ。


 《終わらせる者、ロキ》。自力でコスト軽減能力のない緑の4コストユニット。戦闘能力はほどほど、毎ターン手札1枚と山札5枚とリソース1を要求する。

 能力欄はシンプル、『魔術:万色万色』つまり、1コストまでのスペルは全部無償。緑のスペルでリソースを出せるので、《罪の曝露》と合わせてユニットも出し放題。


 これらを使って敵を排除し、自軍にユニットを溢れさせ、物量で叩き潰すのが『ロキ暴露』の流れである。

 山程の捨て札と、二つのキーカードがあってようやく動き始める。動けば遅くとも次のターンには相手を焼き払えるが、動く前に叩き潰せる挙動の遅さが『ロキ暴露』の弱点だ。


「《ロキ》以外でも普通の『魔術:緑』でリソースを賄えば、例えば《ミドガルズオルム》でさぁ。

 あ、エンド前に《ドクロ旗の略奪隊》を表にするオープン


 《ミドガルズオルム》緑のユニーク。コストXで、Xの二倍の+1/+1バフカウンターが乗る。元から『暴食』持ちだが、バフカウンターの数によって『俊足』『蹂躙(じゅうりん)』『庇護』などを得る。


「俺は持ってないけど、アレもいいんじゃないか? 除外されたカードの枚数の強化がされるユニーク。

 ドロー、補充(リフィール)、リソースは青黄色黄色」


 黄色の2コストユニークユニットで、ゲームから除外されたカードの枚数だけ+1/+1の修正を受け、ゲームから除外されたユニットの持つスキルを所有する奴がいたような……?


「2枚セットして1枚を即表にする(オープン)。《棺の女王》、《テンペスト》を呼出す」

「テンプレートだな」

「《ドクロ旗の略奪隊》で戦場Dを攻撃。《テンペスト》強襲。戦闘開始時効果で手札を入れ替えてください」


 俺は4枚、ソーマは5枚。さらに《精神の外科医》が山札を削る。


「《ドクロ旗の略奪隊》の戦闘開始時効果で手札を1枚捨ててください」

「通常の手札破壊か……」


 戦闘は相打ち


「あれ……?」

「む?」


 俺はセットしてあるカードを表にする(オープン)しようとして、震えた。気が付いてしまった。


「《抜け落ちた記憶》で《ロキ》をゲームから除外すれば、デメリット無しでなおかつ素早く、『ロキ暴露』ができる……?」


 山札を上から15枚見て、好きなカードをゲームから取り除く黄色のスペル。

 俺はゾッとした。《抜け落ちた記憶》は『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』の高い相手への対策として用意していたカードだ。


 対象は対戦相手ではなくプレイヤー。つまり、自分も対象にできる。


表にする(オープン)、《抜け落ちた記憶》」

「ククク」


 ソーマが笑った。そして自分の場のカードを1枚表にする。


「切り直されて山札(ディクショナリ)の底に弾かれても困る。オレ様自身に《抜け落ちた記憶》だ! 対象は…………《終わらせる者、ロキ》」

「マジかよ!」


 俺は自分の唇が笑みを浮かべているだろう事を理解した。こいつ、ソーマ! こいつは!


「ノーヒントで《アズラーン》に辿り着いた事を褒めてやる! 凡百の愚民には不可能な事だ!

 見せてやる、世界を暴き燃やすもの。名を削られた偉大なる英雄。魔王に落とされた正義の騎士……そは天を焼き、世を冥きに落とす者!」


 オリジナル詠唱!? 背景ストーリーはある程度しか知らないが、これは知っている。俺のカードにも関係があるからだ。


「いずれ魔王天冥とされる無辜(むこ)の怪物、汝の名は《青褪(あおざ)めた騎士アズラーン》!!」



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