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ソーマ その01



 五連勝である。これは予選全勝突破もあり得るな。

 六戦目に『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』持ちが出てこなければというか、それこそ運頼みっぽいけど。


 俺にとって喫緊(きっきん)の課題は二つ。

 一つ目は乳母崎(うばさき)さんが見せてくれた『闇のカード』とかいうもの。


 調べる必要があるが、今はその時間がない。あちらさんが『アルメ』のルールに従ってくれるなら勝ち目はある。

 ほとんど反則だけど、まず勝てる。


 これは、俺みたいな『外』の人間だから思いつく事だろう。『向こう側』の存在を受け入れている人たちにはできない発想ではないだろうか。

 ただ、ひどく卑怯で、行使するには抵抗がある。司馬先生が悪と呼ばれる覚悟をしてでも『向こう側』を救うために戦う孤高の英雄だったらどうしよう。


 まあ、その辺りは昼メシでも食べながら適当に考えるとして、より重要なのはスマホの待ち受け画面だ。

 どの乳母崎さんにしようかな〜!!


【さきうば:そういえば既読無視してごめんなさい。シヴァの催眠影響化にあったせいです。】

【ハレ:それ大丈夫? 後遺症とか】

【さきうば:先輩への愛の力で回復したので問題なし】


 猫魂(ねこだまし)さんパワーということか。流石だな!

 つーか、司馬の首は柱に吊るされるのがお似合いな気がしてきたぞ……。


 そんなやり取りの後に送られてきたのが、乳母崎さんの撮った自撮り2枚。

 俺が連写した乳母崎さんは呆れ顔困り顔、下唇噛んでる照れ顔から笑顔まで様々。どれも可愛いし全身の写真も撮れた。


 しかし、表情は乳母崎さんが送ってくれた一枚目が抜群だ。あまりの可愛さに時間を忘れて見てしまう。透明感ある美しさ。ずっと見つめていたい。

 隣のアホ面男が邪魔だが、先は仕方がない。


 もう一枚は俺の頬にキスしている写真。見る度に動悸(どうき)が激しくなり息切れする。救心が必要だ。

 これを壁紙にしたい気持ちもある、しかしおっぱいも見えないし顔も半分隠れている。家に帰ったらプリントアウトして写真立てに入れよう。そうしよう。


 スマホの待ち受けは乳母崎さんからもらった一枚目を拡大したものにしよう! 美人フェイスが見放題だぜ。


 そんな訳で、俺は予選最終試合のテーブルについた。こうやって浮かれてられるのは、対戦前だけだからだ。

 すでに席についてシャッフルしている顔を見た瞬間、俺の心は引き締められた。浮ついた気持ちでできる相手ではない。

 

 片目を隠した黒髪、左右一房ずつ金に染めた触角。他人を寄せ付けない鋭い目付き、シャープな顔立ち。獰猛(どうもう)な狼を連想させる男。

 チェーンとベルトと破れのファッション。カラーリングは黒と黄色、パンクロッカーかな?


「よろしく」

「予選はつまらん相手ばかりだった」


 にこやかに話しかけると、その男は吐き捨てるように言った。


「お前はどうだ?」

「それは運がなかったな」


 目の前の男が言いたいことを理解して、俺はわざと無視をした。


「俺はここまで楽しかったぜ」


 誇るように、自慢げに言う俺を、そいつはくだらないもののように見る。

 そいつの首から下がった参加票、名前は『ソーマ』か。


「せっかくだから楽しもうぜ」

「つまらん試合になりそうだ」


 それは、箱を開けてのお楽しみだよソーマ。お前は俺に興味がないから、まるで憶えていないのだろう。

 だが、俺はお前を知っている。10000だか12000だかは知らないが、大稲だいなデイヤのチームメイトの片割れだ。


 俺は席に着きシャッフル、その間にソーマは小物からコインを摘み、親指で弾いた。


「顔が表、数字が裏だ」

「裏」


 空中で手の甲にキャッチするソーマ、コインは表。いちいちキメて来る。イケメンはずるい。


「後攻」

「では先行貰います。ドローなし、補充(リフィール)なし、リソースは青。セットして東経路に」

「オレのターンだ。後攻ドロー、補充(リフィール)なし、リソース緑。セットして西経路に移動」


 緑? ライバル系だからイ陰険な妨害色かと思ったが、大型ユニットと強化を得意とする緑使い?

 いや、単色ではなく複色……リソースブーストをメインとした緑使いならばあり得る。たとえばそう、前回大会で前評判は最強だった『ロキ暴露』のような。


「ターン貰います。ドロー、補充(リフィール)、リソースは青黄色。セット、前進、ターンエンド」

「オレのターン。ドロー、補充(リフィール)、リソース緑黄色。セットして移動。エンドだ」

「エンド時、《人魚の歌姫》を表にするオープン


 緑黄色……俺とソーマのここまでの挙動は極めて近い。というか同じと言っていい。

 おそらく俺の三ターン目終了時に、戦場Dにいる緑の『魔術:』持ちが表にする(オープン)される。


 もう一枚は緑のリソースブースト系スペルかユニット。序盤を守る大型ユニットでこちらを蹴散らしながら本命を待つ。まさかマジで『ロキ暴露』か?

 いや、まだ色が一致しているだけだ。


「ターン貰います。ドロー、補充(リフィール)、リソースは青黄色黄色。《精神の外科医》を表にする(オープン)。戦場Aを制圧(ドミネート)

「つまらんな」


 ソーマが髪を掻き上げながら舌打ちを した。つまらない? まだ何も始まっていないような状況で?


「『外科医テンペスト』か。ここまで二度も当たった。飽き飽きなんだよその紙束には」

「人のデッキを紙束扱いとは。あんた、随分ずいぶんな言い草だな」

「事実弱い。少なくとも明確な弱点が三つもある。前大会の環境に合致しただけだ」


 あ、はーい。それは仰る通り。実際『ロキ暴露』『カルマノリス』『アグロおでん』の三つを狙い撃ちにしたのが『外科医テンペスト』だ。

 ちょっと練るのが甘かったよな〜。お陰で勝ち越しはできたけど、本戦までには行けなかったのが悔やまれる。


「お前はこのオレ様に勝てない。理由を三つ教えてやる」



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― 新着の感想 ―
えっと、その……このソーマ氏、どうにも、「当て馬」感が強すぎて……。 待ち受け選びの微笑ましさ……微笑ましさ!(言い聞かせ)や、先輩の愛の誤解釈に、どこの鈍感主人公野郎の真似事か、のツッコミとかをスル…
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