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反省戦 その01


「偉そうなこと言うよ」

「どーぞ言って言って、勝者の特権でしょ?」

「俺、公式大会でも結構勝ち越してるし、結構強いつもり」

「強かったー」


 猫魂(ねこだまし)さんはカードをシャッフルしながら仕草で拍手。負けて悔しそうだけど、それより勝者を称える方を優先するとは、なんていい子なんや……。

 ちなみにゲームデザイナーのマロー・クールウォーター氏によると『プレイヤー全体に取ったアンケートによると、半数以上のプレイヤーは自分の実力を平均より少し上だと思っている』らしい。俺もそうだけど。


「ヒヤヒヤした」

「ええ〜? ウッソ〜?」


 照れたようにニヤニヤする猫魂さん。これはおべっかではない。正直猫魂さんの使ったカードは猫だからというだけで入れているような弱いカードばかりだった。

 だが、速攻で追い詰められたし、《幽霊強襲揚陸艦》を出した直後は異様なプレッシャーがあった。《テンペスト》無しでは負けていたのだろう。


「強くなりたいって言ってたけど」

「うん、今週末に大会あってね」


 …………知らないな。近くでの情報は集めてるんだけど。俺はスマホを出して検索したがヒットしない。内々のものなのか?


「そこで勝ちたいの」

「…………」


 俺は少し考え込んだ。一番手っ取り早いのは、お金をかけることだ。強いデッキのコピーデッキを使うことだ。

 今時、ネットを調べればデッキレシピなんてゴマンと出てくる。しかし、強いカードは高い。カード一枚で数千円は飛ぶ。


 『アルメ』のレアリティは五段階ある。

 ちなみにデッキに入る上限枚数はレアリティで異なる。


☆コモン

 封入率約80% パックを開けたらコモンが4枚。上限も4枚。

☆☆アンコモン

 封入率約20% 5枚目のカードは大体アンコモン。上限4枚。


☆☆☆レア

 封入率約5% 1ボックス剥いたら平均9枚。上限2枚。

☆☆☆☆ハイレア

 封入率約1% 1ボックスに2枚入ってると嬉しい。上限2枚。


☆☆☆☆☆ユニーク

 封入率は0.2% 平均して3ボックスに一枚。上限1枚。


 ハイレア以上はちょっと手が出せない。

 俺のデッキには《嵐の精霊(テンペスト)》や《棺の女王(コフィンクイーン)》のようなレアが数枚入っている。《幽霊強襲揚陸艦(ファントム・アサルトシップ)》はハイレアだ。一枚しか持ってない。いや、重すぎるから二枚あっても困るけど。


 ユニークは極めて強力だ。しかしデッキ一枚制限のカードに頼るのは趣味じゃない。使えるものは使うけどね!

 一度名前の挙がった『アグロおでん』は、そのユニークをサーチするカードが複数存在するからこそ可能なデッキだ。


 猫魂さんは『アグロおでん』の話をした時に、イラストに言及していた。情報を集めないタイプの猫魂さんが、だ。

 もしかしたら、猫魂さんはキーカード《捧げられたウォーデン》を持っているのかもしれない。


「強くなるために何でもする?」

「なんでもする!」


 即答だった。オイオイ、そんなに軽いノリで何でもするはダメでしょ? 俺みたいなおっぱいに魂を縛られた男は、ナニしでかすか分からないぜ??

 だが、その答えを聞いて心は決まった。


 俺の尊敬するニーチェ先生も言ってたし。


「『高い所へは他者に運ばれるべきではない。人の背中や頭に頼ってはならない』」

「なんて?」

「おんぶに抱っこじゃ強くなれねーよっていう偉い先生のお言葉。

 俺にできるのはカードのトレードとデッキの組み方を相談すること、後はプレイングの助言かな」

「おなしゃす!」


 こういう時にニーチェ先生は頼りになる。人に何かを教えることに、先生は一家言持っている。


 『空の飛び方を知りたいと思っている者は、まず立ちあがり、歩き、走り、登り、踊ることを学ばなければならない。過程を飛ばして飛ぶことはできないのだ』。

 俺は猫魂さんに空の飛び方までは教えられるか分からない。だな、走り登る方法までなら教えられると思っている。


「まずデッキを分解しよう。ユニットカーブ論と黄金比は知ってる?」

「カーブ? フォークも投げれるけど」


 ボールの握りを実演する猫魂さん。いや、凄いけど野球の話ではない。ユニットカードのコスト配分と、ユニット:スペル:戦場カードの比率の話だ。


 カードを全部表にして、コストごとに分けて行く。見事に猫カードと猫がイラストのカードしか無い。というかそのせいでものすごくチグハグだ。

 さっきのプレイでも見かけたが、《眠り猫》や《長くつ下の猫》なんて初心者しか使わないようなカードだ。それらを丁寧に一枚ずつだけ入れている。


「猫魂さん」

「可愛いから抜けなくて……」

「何でもするって言ったよね?」


 この言葉、こんなに早く使いとう無かった。

 それらのカードの弱さは本人分かっていたのだろう。あっという間にデッキが痩せていく。


「ユニーク2枚もある……紫のユニーク何枚持ってる?」

「《ミルエルフ》ちゃんと《月影》ちゃんと、あと《ウォーデン》かな」


 本当に持ってるし。俺は少し考えてスマホで検索した。《捧げられたウォーデン》美品、買い取り価格4000円。

 カード資産次第では、猫魂さんに売却を提案してもいいかもしれない。


「《女王様猫ミルエルフ》が居るなら、確かに猫デッキは有りだなぁ……でもさ、サーチ系カードが無いんだけど?」

「サーチ?」


 《女王様猫ミルエルフ》は常在型能力で、猫全体を教化する強力なユニークだ。

 通常、その手の全体強化は同一の戦場に居なければ効果が無いが、《ミルエルフ》は距離無関係の全体である。


 無制限強化は強い。しかし種族限定でその猫自体が弱いのが弱点だ。このカードだけに頼るのは難しい。

 …………これで巨乳だったら是が非でも、いや俺のデッキじゃないし。


 《ミルエルフ》は冠と毛皮付きのマントと王笏を持った長毛種の白猫が玉座でツンと澄ましているイラストだ。

 『アルメ』において

猫族は猫人間とガチ猫の両方を(よう)するが、まさかのガチ猫である。


「デッキは60枚で、ユニークはトータル2枚。5ターン目までにどちらかが出る確率は?」

「六十分の一?」

「約五分の一、20%。その確率を上げるために、多くは山札からカードを探したり、ドローを増やして対応する」


 俺なんかまさにそれで、ドローを増やしてついでに自分の山札を削る。

 捨て札は第二の手札だ。しかも使い放題の。


「新しいアンコモンになんかあった様な……《ミルエルフ》と《月影》が確実に手元にあったら強いだろ?」

「つよつよ。つーかあのグロ船が居なかったらアタシの《月影》にゃんで勝ってたしぃ」


 もう一枚のユニーク、《月影》。

 こちらは紫の炎を纏う黒豹だ。しかもなんかデカい。怖い。


 2コストで戦場の別のユニットと交代して現れる、通称『化け猫』能力持ちなのだが、同コスト帯では破格の戦闘能力を有している。

 マジな話、《幽霊強襲揚陸艦》無しではあのまま押し負けていた。


 《月影》は弱点として戦闘終了時に手札に戻ってしまう。代わりの裏向きカードを置いて。


 は? 弱点?? 悪用し放題じゃねーか???

 クソ強戦闘力+表にした時オープン効果カード再利用し放題。なんとか《月影》をサーチして、低コストながら優秀な表にした時オープン能力を乱打する。


 これでデッキ組めませんかね??

 

「とりま、パック開けよ。実は集合前に買ってきたんだ」


 ふと思い出したように猫魂さんがカバンから巨大な猫の描かれたエコバッグを取り出した。

 集合時間が遅かったのって、もしかしてそのせい?



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― 新着の感想 ―
武術と同じで全部のカードを手に入れてからやっと戦術を論じれるのが勝負というもの でも!足りないカード資産でなんとか勝つのが一番楽しいんだ!!!そこに嘘はないんだ1
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