『ナイトメア・サバイバル』 その02
「こ、こんな……!? 黒茶だと!? 《悪夢の支配人イザベルト》はどうした……!」
晴井先輩がお勧めしてきた茶色のカード《攻守交代》は紙だ。
他に良いカードがいくらでもあるだろう。
しかし、私の可愛い《あ! クマ》ちゃんと組み合わせると話が変わる。
《あ! クマ》ちゃんの常時攻撃力減少能力と、《攻守交代》の攻撃力と防御力の交換のシナジーーが、私にとって致命傷になる『銀の弾丸』《黒曜のラッパ吹き》を見事に討ち取った。
そして次のターン。間抜け面の……どことなく晴井先輩に似ていて、頼りになる男、《帰ってきたサバイバー》を生贄に《強欲なナイトメア》を表にするした。
アミの手札を2枚捨て、私はカードを2枚ドロー。
「《イザベルト》だと? 抜いたが? 役に立たないし」
「『闇のカード』だろ!?」
「生贄ユニットを複数枚用意しろなんて馬鹿馬鹿しい」
『闇のカード』《悪夢の支配人イザベルト》は黒の5コストユニークだ。場に出れば相手の裏向きのカードと手札をいつでもいくらでも見れる。
ユニットを生贄に捧げることでコストを軽減できるが、そこまでして出したいカードでもない。当たり前だ。直接的勝利に結びつかないからだ。
相手のクローズ情報を見れるのは強かろう。しかし、そのためにユニットを何体犠牲にする? ユニットが居なければ制圧もできない。
ただでさえ中盤以降は息切れするデッキなのだ。重いばかりで使い所のないカードに割く席はない。
「《帰ってきたサバイバー》の効果で、捨て札から手札に移動」
「…………」
「戦場Dに《ファニーガーデン》をセットでエンド」
思いも寄らない展開に硬直したままのアミを笑い飛ばす。
「さあ、お前のターンだ。カードを引け。それとも主力を倒されただけでもう降参か? とんだ単発銃だ。まるでマスケットだな」
「そんなことはない。ボクの『銀の弾丸』は連装式だ」
感謝しよう、私の宿敵。お前のおかげで目が覚めた。
「ならば良く狙うんだな。私の心臓はここだぞ。しかし、外したら分かっているな?
私の『悪夢を生き抜く訓え』が貴様の喉笛を食い千切るぞ」
昨晩、シヴァの精神攻撃を受けてからこちら意識が曖昧だった。奴に反抗的な態度を取りすぎたようだ。
仕方あるまい。私は超人に至る階梯を登った。
ニーチェはその階梯を『ラクダ』『ライオン』『無垢』と呼んだ。重い荷物を背負わされ、疑いもせずに砂漠を旅する『第一階梯』から、私は次の段階に至った。先輩がそう言ってくれた。
重い荷物と、責務と、命令に疑問を持ち、己の主人を己自身と定める『第二階梯』へ。
その先の段階へは、まだ至るのは難しい。だけれど、憎い敵よ、アミよ。
お前を乗り越えることで、私は『無垢』への一歩を踏み出してやる。
「ボクのターン、ドロー! 補充、リソースは白白白、2枚セットして中央と東経路へ」
「ターン貰います。ドロー、補充、リソースは黒黒茶色。2枚セット、中央へ。戦場Cに《奈落》をセット」
2点戦場ではない。『運命潮力』ではやはりアミが上。
「エンド前に《悪魔狩りの騎士団》表にする。
《悪魔狩りの騎士団》は悪魔相手には+2/+2される1コスト2/2ユニット。猫魂先輩の《異端審問官》に比べれば可愛いもの。
「ドロー、補充、リソースは白白白。まずは《騎士団》で《強欲なナイトメア》を攻撃する」
「ではカード表にする。《陰謀論のナイトメア》、《強欲》を生贄に捧げる」
《陰謀論》は山札から好きなカードを探してくるナイトメア。『欲しい答えをでっち上げる』ということだ。
そして私が求めるのは、もしもの時のための切り札。
「《奈落》の効果で一番上に置いたカードを引く」
「1枚を戦場Aに移動、カードセットして中央経路へ。リソースを2残してエンド」
アミの場の札はその2枚。どちらかが大型のユニットで、もう一枚はスペルだろう。
私は魔人としての力で相手の表層思考を読み取れる。このズルみたいな力は、しかしアミには通用しない。
なぜならアミは思考していないからだ。
『運命潮力』に任せるままにカードを動かしているだけ。機械も同然。
「5ターン目だ。ドロー、補充、リソースは黒黒茶色。エキストラは黒。戦場Cに攻撃する。表にする(オープン)」
「攻撃時にカードをセットできる……?」
《娯楽人形》は1/3だ。《騎士団》とは相打ちすらできない。むしろ、だからこそ、無償カードセットが行い放題になる。
「少し待て……」
私は唇を吊り上げた。アミは『考えている』。スペルはダメージ除去だろう。それを使って《娯楽人形》を倒すべきかどうかを。
場のアドバンテージも、テンポも、今や全て私が優位だ。だからそれを助長する《娯楽人形》は見逃せないのだろう。
だが、『考えた』時点でそれが誤りだと気付くべきである。
アミの『運命潮力』は適切なタイミングを示すだろう。いつも通り何も考えずに『運命潮力』任せがアミの最適解だ。それと同時に限界だ。
「いや、やはりいい」
「《陰謀論のナイトメア》を戦場Bに移動。もう一枚セットして2枚を東経路へ…………王手」
次のターンまでに手を打たなければ私の勝ちとなる。
「侮るなよ。これからが本番だ。《いかづちの大天使》表にする。《陰謀論のナイトメア》を破壊する」
オープン効果でダメージを与える天使だ。多くの天使は『飛行』スキルを持つ。これは経路を使わずに戦場間を移動できる極めて厄介なスキルだ。
私が気になるのは、《いかづちの天使》で焼いたのがなぜ《陰謀論のナイトメア》だったのかだ。
『飛行』を持つ《いかづちの天使》は直接戦場Bに移動して《陰謀論のナイトメア》を一方的に倒せる。しかし、《いかづちの天使》は動かしたくない。
それはつまり、次のターンは《陰謀論のナイトメア》に回す手が足りないし、戦場Aは2点戦場なので防御に回したいと『運命潮力』が言っているということ。
ならば私も、ここは様子を見るのが得策か。
「どうぞ」
「ボクのターン、ドロー、補充、リソースは白白白、エキストラ・リソースも白。まずはオープン、《祈り》」
手札と無色リソースを得る0コストスペル。これは……特大のユニットが来る!
「羅睺、結局キミはボクに勝てない……セット、《聖なる七つの天使》即オープン! ボクの天使は、黒と茶色からの全てのダメージを受けない!!」