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『ナイトメア・サバイバル』 その01


 ひどく、気分が悪い。


 ただ、何もかもが憎たらしく汚らわしい。他人を否定したくて仕方ない。

 胸の中を渦巻くドス黒い感情のままに、私は動いていた。大切なものが何かあったような、そんな気もするが、それすらも今や憎悪の対象に他ならない。


 この大会で優勝すれば『災厄の扉(ディザスター・ドア)』が開く。

 この世界に天変地異が起き、まあ、世界人口の数パーセントくらいは死ぬかもしれない。


 そうしたら、少しは気が紛れるのだろうか。良くわからない。気分が悪い。意識が混濁している。

 すでに予選が始まっていた。勝者は勝者同士で、敗者は敗者同士で戦わされる。会場には二百人程度の参加者がいて、様々な感情が渦を巻いている。毒ガスが爆弾でまとめて吹き飛ばせたらどんなに気分がいいだろう。


 一人目。勝ち。

 二人目。勝ち。

 三人目。勝ち。


 無感情に勝ち星を重ね、案内されたテーブルへ。そこには、すでに先客が待っていた。


州蔵(すくら)アミ……」

羅睺(らごう)か、ここでボクとキミが対戦するってことは、本戦では戦わない運命なのかもしれないな」


「お前が予選敗退するって事だ」

「そっくりそのまま返そう……なにしろ羅睺、今のキミは明らかに弱っている。『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』も5000くらいしか無いんじゃないのか? ボクの12000に勝てるとでも?」


 白いワンピース、鍵編みのカーディガン。天使のような顔立ちに、血のように赤い目、輝く銀の髪。美しい少女がそこにいた。その美しさが、私には我慢ならない。私はこんなにも醜いのに、貴様はなんで美しい。


 私は席に着いた。暴力を用いてその顔面を破壊してやりたい。だが、それでは大願を叶えられない。


よろしく(・・・・)お願い(・・・)します(・・・)

「…………は?」

「…………?」


 アミがあ然とした。目玉が飛び出さんばかりに見開き、私を見る。あり得ないものをみる目。何かあったのか? 訳が分からない。

 デッキをシャッフルし、小物を置き、対戦準備完了。


「羅睺お前今……何て言った?」

「は? 何も言っていない」


 私の小物は悪魔を描いたコインやフィギュア、トークン。アミは天使のそれ。腹立たしい。全部燃やしてやりたい。

 私は気を静めるためにデッキケースに付いたクマちゃんを撫でた。


 ……………………?


 なんだこれは?

 ✕✕✕✕✕先輩がゲームセンターで取ったものをくれた? 何の話だ?


「コインでいいな?」

「裏」


 アミがコインを弾く。回転したコインはテーブルに落下して、見事に裏を出した。先行を貰う。素早く押し切らねば。

 アミは黒対策カードをデッキに入れていて、『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』の力で必ず引き当てる。


「先行ドローなし、リソースは黒。セット、西経路へ」

「ボクのターンだ。ドロー。リソースは白。セット。西経路へ」


 合わせてきた。頭が痛む。私の『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』による手札事故誘発は、上回る『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』で相殺されている。

 私は歯ぎしりした。牙状の右犬歯が唇を傷つける。勝てない。そう思った。


「ドロー、補充(リフィール)、リソースは黒黒……」


 私は引いたカードを見た。まばたきする。なんだ? これは。

 間抜け面の男がボロボロの姿で汗を拭うイラスト。記憶にない。どうして入っている?


 それまで、残りの手札をキチンと確認していなかったことに気付く。ぼんやりしすぎだ。

 そこにも、記憶にないカードばかりが並んでいる。シヴァ様に貰ったデッキはどうした?



『…………あんなのは格下には勝てるけれど同格以上には勝てないような紙束。ゴミ。何も分かっていない。脳みそカマドウマ以下』


 頭の中で私の声が返事をする。導かれるように2枚セット。両方西経路に進める。


「ボクのターンだ。ドロー、リソースは白白。攻撃して表にする(オープン)黒曜のラッパ吹き(オプディシアン・トランペッター)》」


 黒のスペルと能力の対象にならず、黒からダメージを受けない天使! 私のデッキはこの1枚で封殺される!


「こちらの表にする(オープン)……《あ! クマ》」

「へえ、最低限の『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』は働いているようだね」


 私の《あ! クマ》ちゃんも黒だが、その戦場全体への攻撃力減少効果は対象を取らない。《黒曜のラッパ吹き》は能力が強い代わりに攻撃力は2しかない。

 つまり、このターンは防衛に成功するのだ。


 私は天を仰いだ。


「リソースは無いからこちらは終わりだよ、早くするといい」

「少し待て」


 涙がこぼれそうだった。こんな事あり得ないと思った。ついさっきまで心を支配していた、行き場のない怒りが、理不尽な憎悪が、正体不明の頭痛が。

 何もかもが、跡形もなく消えていた。 


「そちらのターン終了時にスペル表にする(オープン)。対象は《黒曜のラッパ吹き》」

「何を言っている? ボクの《ラッパ吹き》は黒のスペルの対象に……」


 私が表にしたカードを、アミが二度見する。私は大きく息を吸い、吐いた。ダメだ。


「《攻守交代》」


 涙声になってしまう。私は手の甲で涙を拭い、呆然とするアミを横目に悪魔関係の小物をしまった。

 代わりに巾着から出すのは、あの人もお気に入りの、1/1ハリボンフィギュアやクマちゃんのコイン。


「さあさあ、邪魔な《ラッパ吹き》は除去出来たしターンを貰うぞ。

 ドロー、補充(リフィール)、リソースは黒黒茶色。1枚セットして《強欲なナイトメア》を表にする(オープン)だ!」


 あの人がくれたカードで、私は悪夢(ナイトメア)()生きて抜け(サバイバルし)た。


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