表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/109

晴井彗 その10


 あまり良い目覚めではなかった。

 眠れなかった訳では無いが、寝苦しく、夜中に何度となく目を覚ました。もちろん乳母崎(うばさき)さんからのRAILはなく、俺は重いため息を吐いた。ひどく沈んだ気分だった。


 時刻はまだ六時台、集合は駅前に九時。俺は朝シャンして、早めの朝食にした。食事中にRAILが届く。確認してがっかりした。


【マッハ:赤と金、どっちがいいかしら?】

【(真っ赤なエグいビキニの写真)】

【(ゴールドの際どいビキニの写真)】


 ビキニの名前に相応しい爆発力。どっちも凄まじい破壊力だ。つーか、布面積と食い込みがエグすぎる。ほとんど紐じゃねーか!?


【ハレ:今日は海水浴ですか?】

【マッハ:大会当日よ? ハレさんもキメて来てね〜(ハート)コスプレも可ですよ】


 どんな格好で来るのだろうか。俺は恐れ(おのの)いた。俺の知り合いとして猫魂(ねこだまし)さんに紹介せにゃならんのだぞ? 他人のフリされたらどうしよう。


【ハレ:乳母崎さん、何かありました?】

【マッハ:昨晩から元気がないみたい。悩んでるみたいな】


 …………シスターが前に言っていた通り、乳母崎さんは『向こう側』勢力の一員なのかもしれない。

 そして、それ故に悩んでいる可能性はある。そもそも俺はその辺り信じていないんだけど。シスターは『悪の道』と言っていた。うーん。


 今日、ライバルとして対戦する可能性があるのかな。


【マッハ:敵として当たる可能性があるわ】

【ハレ:何言ってんですか、対戦相手でしょう】


 カードゲームは一人ではできない。相手が必要で、競技であると同時にゲームなのだ。共にゲームをする相手は『敵』ではない。


【マッハ:ハレさんのそういう所、好きよ】

【ハレ:また盤外戦術ですか?】

【マッハ:ひどーい(ハートハートハート)】


 乳母崎さんが急病とかでなければいい。

 俺は少し悩んだ後にRAILを開いた。


【ハレ:おはよう乳母崎さん。約束憶えてる? 上位入ったらお弁当。楽しみだなあ!】

【ハレ:おはよう猫魂さん、今日はがんばろうね。大稲(だいな)デイヤをぶっ飛ばそう】


 出かける準備を済ませても、二人からは返信がない。大稲デイヤもそうだが、俺は可能なら布田(ふた)とマカラもぶっ飛ばしたい。

 『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』について教えてくれてありがとう。今度は負けない。負けてたまるか。


【猫命:うわあああ、ケーくんなんで起こしてくれなかったんの!!!!??】

【ハレ:七時半にRAILしたが?】

【猫命:起きるまでRAILしてよお!】


 現在八時半。俺はコンビニで昼メシを調達中だ。乳母崎さんは既読がついたものの返信がない。いわゆる既読無視だ。

 あ、これってこんなにしんどいもんなのね……既読無視がなんだよとこれまで笑ってたけど、見てくれたのに何のコメントもないって、虚しい……。


【ハレ:いま駅前のコンビニなんですが、猫魂さんが寝坊しました】

【マッハ:じゃあちょっと速いけどロータリーに向かうわ。猫魂さんは家までお迎えに行きましょう】


 車の運転ができる社会人って格好いい……俺も車の免許取ろうかな。

 免許と車があれば、熱中症の心配をせずに乳母崎さんを誘えるしな。


【ハレ:家まで迎えに行くので急いで慌てて準備して】

【猫命:急ぐ急ぐ! 徳川秀忠バリに急ぐ!】

【ハレ:それ、付いた頃には大会終わってるじゃん】


 RAILしながらロータリーへ、例のワゴン車を探すもそれらしい車はない。ちょうど赤いスポーツカーが入ってきた。高そうな車だな。


「はぁい、晴井(はれい)さ〜ん」


 そのスポーツカーの運転席には、シスター姿にサングラスのシスター・マナミ。


「え、その格好で行くんですか?」

「晴井さんこそ制服じゃな〜い?」

「学生は学生らしい格好でいいんですよ」


 助手席のドアが開けられ、俺は仕方なく乗り込んだ。今日は変なイタズラはされまい。

 革張りの座面、うへぇ……土足でいいのこれ?


 本能的におっぱいを目に焼き付けようとした所で違和感に気付く。あ、この人修道服じゃない。

 暴力的な身体のラインをバッチリ出した黒のボディスーツ。言うなれば女スパイ衣装の上にシスター服の襟とベールだけ付けてやがる! こんなエロ衣装許されるのか? 俺はもちろん許すよ。だが神様はどうなんだ!!?


「なんという……」

「ちなみにぃ、さっきのビキニは下に着てるのよぉ……」


 チャックを下ろすシスター。凶暴な胸の谷間と真っ赤なビキニが顔を出す。布面積が少なすぎる。いや、普通サイズなのか? 胸が大きすぎるだけか??


「ごめんなさいね。おっぱいが大きいと乳輪も大きくなっちゃうから、これ以上マイクロなビキニは難しいのよ〜」

「謝るところそこですか!?」


 健全な青少年の前で乳輪とか言うな。想像しちゃうだろ!! つーか、十分過ぎるほどマイクロなんですけど。見えないギリギリってこと? 桜色……見えるのかな?? ドキドキ!


「一応言っておくと、この格好にはちゃんとした理由があるのよ〜?」

「露出狂の痴女であること以外にまだ何かあるんですか……?」


 俺の言葉にシスターが驚いた様子で口元を隠した。やっべ、流石に言い過ぎた。


「すごぉい。さっすが晴井さん。分かってるじゃなぁい」

「えぇ……」


 それは『ちゃんとした』理由じゃないと俺は思うんですけど。


布田(ふた)博士は懐疑的だったけどぉ、自分の好きなカードに対して『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』が働きやすくなるように、小物や服も好きなもので固めると『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』の働きが活発になるの。

 『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』は感情に直結して動作するから、テンションのアガる状況を作るといいのよ〜。


 わたしは露出狂だから注目浴びると興奮しちゃうんだけどぉ〜、その性的興奮を『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』に転用するためにこの服装なのぉ。

 布田博士は最後まで『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』を科学だって主張してたけど、わたしは信仰か信念による|超感覚的知覚(ESP)の一種、オカルトだと思うのよねぇ」


 おや? 布田先輩よりもはるかに論理的説明だぞ。痴女が露出する理由を論理的に立証されると困るんだが? 困らんけど。もっとやれ。


「その論理だと『勝負服』が強いってことになります? だからコスプレ可? でも、興奮を転用とか簡単に言いますけど、可能なんですか?」

「そう、お化粧とかよそ行きの高い服、必勝のお守りなんかも効果があるわぁ。(イワシ)の頭的にね。興奮の転用はわたしの専用技だから難しいかも〜」

 

 自分の好きなものを集めて身につける、小物を揃える、そして、声援を浴びる。

 アスリートがパフォーマンスを高めるために、あるいは呪術師が神懸かり的な力を発揮するために行う儀式(ルーティン)に類似する。


 露出狂を正当化するための言葉というノイズがなければ完璧だ。

 俺はシスターの理論を信用することにした。やはり非常勤とはいえ教師でなおかつ神職。説得力がある説明をする。


【ハレ:勝負服を着ると運命ちからが高まるらしいので、大稲デイヤに惚れ直させるくらいキメッキメにしてください】

【猫命:あのね、何度も言うけどデイヤとは別にそう言うんじゃ】

【ハレ:つべこべ言わず急いでね!】





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ