晴井vsシスター・マナミ その04
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俺 猫 乳 マ
俺 \ ◯ ✕
猫 ✕ \ ◯
乳 ◯ \ ◯
マ ✕ ✕ \
乳母崎さん 二勝
猫魂さん、俺 一勝一敗
シスター・マナミ 二敗
賞金二千円には乳母崎さんが一番近い。しかし、猫魂さんが乳母崎さんに勝った場合両者二勝一敗になる。
さらに、俺もシスターに勝てれば二勝一敗が三すくみ。山分けかな……?
「晴井さん、賞金の事聞きましたよ〜?」
秘密のスポンサーであるシスター・マナミがにこやかに、しかしその裏からは『なんでそんな事するの? めっめ!』という意思を感じる。
「二人にやる気が出ればいいカードも出るかなって思ってね」
「ん〜。でも賭け事みたいなのはよくないわ〜。次からは『晴井さんとのデート権』とかにしましょうね」
「それ、最下位の罰ゲームでは?」
ちょっと、二人に見えてないからって淫靡な舌なめずりはやめてください。
最下位になったら俺を好きにできる訳じゃないんですよ!
「うふふ〜。でも、久しぶりに新しいカードを見るのは楽しいわ。昔より複雑性を減らしたのね〜」
「新規参入が難しくなりますからね」
高レアのカードは複雑だったりルール文章が長いが、コモンアンコモンはシンプルなカードばかりだ。
難しいカードは、新規のプレイヤーにゲームそのものを嫌われる原因になる。
ちなみにシスターのデッキは青と茶色。確実に低速。そしてここまで二連敗……だが、手加減している可能性がとても高い。
何しろ元トッププレイヤーだ。十年くらいブランクがあったとしても、それ以前の経験値が違う。
俺を相手には本気を出してくる可能性があった。
「攻撃するわ。《娯楽人形》を表にするよ」
「ああ、それ乳母崎さんにいいかも」
「あれ? ラコちゃん茶色なの〜?」
「俺が茶色との複色を勧めたんです」
《娯楽人形》は茶色のレアユニット。戦闘開始時にカードを1枚無償でセットできる。
人気の絵描きで、その絵を見に来るという効果のようだ。
『娯楽人形は素晴らしい絵画を毎日掲示板に貼り付けるために、すぐに町の人気者になった。
人々は彼の絵が貼られると我先にと見に行く。男たちと子供は見逃すまいと、女たちは子供の目から隠すために』。
イラストではカエルのような機械人形が肌色率高めの絵を描いている。センシティブ!?
「お互いに倒せずに防衛成功ですけど、そっちはセットできるのがズルいですね」
「おわりよ〜」
手札の消費が早くなっても、ドロー強化できる青ならば問題ない。むしろドロー系スペルのコストが抑えられるのが強み。
更にいうならば、俺が乳母崎さんに貸した生贄用ユニット《帰ってきたサバイバー》には最高の相棒とも言える。そのためには《娯楽人形》を守る必要が出てくるんだけどね。
「もう1枚と攻撃よ〜」
「《猛獣の肉体》でエルフに+3/+3」
「じゃあ《馬防柵》で0/+2〜。それと《悪い虫》をオープンして手札を捨てるわ」
「どんなでしたっけ?」
《悪い虫》青の1コストをユニット。ギザ歯で三白眼のメイドが唇に指を当てて「しー」のポーズをしているイラスト。ちなみに種族は人間・ならず者。
何が《悪い虫》かって? フレーバーテキストを見てみよう。
『もう坊っちゃん、ダメですよまだ明るいんですから。おイタはお夕飯の後に、ゆっくりと……ね?
…………ああ旦那様、奥様は本日は午後までお出かけです。なのでお帰りまではゆっくりと』。
この女ヤベェ!?
なお、ターン開始時にカードかリソースを要求してくる。戦闘能力は皆無。
なにより厄介なのは、戦闘開始時に手札を捨てれば相手に押し付けられる点である。そう、俺はこのクソビ◯チを押し付けられたのだ。
「《サボタージュ》もあげるわ〜」
《サボタージュ》は茶色のスペル。次のターンのリソースを-1する妨害工作だ。
ええと? 俺は尻軽メイドにカードかリソースを与えねばならず、しかもリソース制限付き?
「シスターやらしい」
「うふふ……後でイイコトするぅ?」
「褒めてないですが」
俺は1ターンをほぼ無駄にされる。《悪い虫》は厄介な女だが、しかし一つだけ弱点がある。
「じゃあエルフと《悪い虫》で戦場Bを制圧」
「あら〜?」
そう、戦闘能力は無くても、ユニットだから制圧には使えるのだ。ついでにもう一点。
「《怠慢のナイトメア》表にする。生贄は《悪い虫》で!」
「黒相手だと妨害効果が薄いわね〜」
しかし、自分から処理できない色にとっては間違いなく邪魔な女だ。シスターは青茶の手札妨害およびリソース妨害である。
俺もこの方向を考えるか……? いや、『運命潮力』に勝つのに必要なのは奇襲的勝利だ。長期戦のソフトロックでは奇跡的なドローで覆される。
ちなみに《怠慢のナイトメア》も相手のリソースを妨害するナイトメアだ。防御偏重でテンポを妨害できるので乳母崎さん向けかも。
「…………後でそのカード貰ってもいいですか?」
「もちろんよ〜、ワルい使い方思いついたかしら?」
「まだですけど、サイドボードに入れるのは有りかなって」
サイドボードとは、公式の試合で使用するデッキの一部である。公式試合ではメイン60枚とサイドボード15枚をデッキとして扱う。
多くの対戦は二勝先取の三本勝負で、一戦ごとにサイドボードを入れ替える。多くは特定色の対策やらに利用するが、時にはデッキのスタイルをまるっと変更させる場合もある。
それこそ俺のようにトリッキーなデッキでは、その15枚で戦術をまるまる組み替える場合がある。
今の俺の『外科医テンペスト』ならば、山札破壊がメインだが、サイドボード次第では墓地利用大型ユニット速攻デッキに形を変えることも可能となる。
《悪い虫》がどう役立つかはまだ見えていないが、当日までに思いつけば選択肢の幅が広がる。
俺のように技術と知恵で挑むものには、考え続けることこそが力であった。