晴井彗vsシスター・マナミ その03
現在四ターン目、シスター・マナミのターン。制圧されているのは戦場Aのみ、シスターの場には『俊足』持ちの《疾走する狼》と、『魔術:』持ちの《龍信仰のシャーマン》。戦場Cには《飛びかかる猛犬》。リソースは三つ、手札は4枚。
対する俺の場には《地下図書墳墓の主人》。捨て札にあるスペルの数の攻撃力防御力を誇り、現在15/15。各ターンの終了時に1小さくなる。
「う〜ん。15、13……」
手札を見ながら数字を呟くシスター。《地下図書墳墓の主人》が、俺の戦略の鍵だと見抜いている。
どこまで小さくなれば、あるいは火力を用意すれば倒せるかを考えているのだろう。揺れるおっぱいは俺を誘惑しているのではなく無意識に違いない。そうだと言って。
「俺が次のターンで使うスペルも忘れないで下さいよ」
「だから先に《外科医》を焼いたのよ〜」
そう、俺が《高い買い物》を使ったらそれだけで最悪+3、《精神の外科医》がいたら+5まであり得るのだ。
「うん、決めたわ〜。まずは《疾走する狼》を戦場Bに移動」
よし! 戦場Cを制圧しないということは、今は『俊足』持ちも戦場カードもないということ。
だが、放置すると次のターンに制圧される。絶対に対処しなければならない。
一箇所ならば、《地下図書墳墓の主人》で叩ける。問題は……。
「カードを3枚セットするわ。1枚を西経路へ、残りは中央に〜」
《地下図書墳墓の主人》を火力で叩くつもりなのだろう。
ついでに手札を使い果たして、《テンペスト》による山札大量消費を止める狙いか。そう、それが《テンペスト》の弱点なんだよ。克服するべき課題でもある。
「終わりよ」
よし。
「ターン貰います。ドロー、補充、リソースは青黄色黄色、エキストラ・リソースも黄色」
5ターン目。エキストラ・リソースが入ることで戦略の幅も広がる。シスターのターンの終わりに《地下図書墳墓の主人》によりカードが1枚除外。現在14。
「…………ふぅー」
俺は大きく息を吐いた。勝った。
「カードをセット、《地下図書墳墓の主人》で戦場Bを攻撃」
「ええ、《疾走する狼》は破壊されたわ」
「これで終わり」
「終わり?」
瞬きするシスター。俺に残った黄色のリソース三点と、裏向きのカードを見比べる。
まだ気付いていないのだろうが、シスターの勝ち目は、火力じゃなかったんだ。
《地下図書墳墓の主人》を倒すことを諦めて、《龍信仰のシャーマン》も前に出し、このターンで戦場Cも制圧、戦場Dを狙えばよかった。
「《天冥戦乱)」
「えっ……うそっ、今はこんなカードがあるの……!?」
お互いの山札を半分に削る。
これにより発生する事柄は二つ。
《地下図書墳墓の主人》が巨大化する。
山札切れが見えてくる。
「わたしの山札は残り19枚。ドローして18枚よ。そちらの攻撃力は1枚減らしていくつ?」
「22ですね」
「あら〜。《魂の砲弾》持ってるんでしょ〜?」
俺は手札から言われた通りのカードを見せた。ユニットを生贄にして、攻撃力に等しい枚数山札を削る黄色のレアだ。
次のターンまでに《地下図書墳墓の主人》が残れば、これを打ち込んで俺の勝ち。そして、単純火力による除去以外を苦手とする赤には、ここで対処する術はない。たぶん。
「はい〜、負けました」
「ありがとうございまし……何してんですか?」
「え? うふふ〜、脱がせたかったぁ?」
服を脱ごうとしていたシスター。
俺は大きくため息を吐いた。
「もう疲れました」
「じゃあこれ」
「…………援助交際費ですか?」
ハダカの一万円札を差し出されても、怖くて受け取れない。何をさせられるの?
「ううん、買い物頼もうと思って〜。とりあえずゴムは無いと困るでしょ?」
「自分で買ってください」
「晴井さんのえっち……でも、そういうプレイがしたいなら〜」
「マジで疲れたんで、このノリやめてもらえませんか?」
「ぶ〜」
本当にぶー垂れる人を初めて見たんだけど。子供か?
「あのね晴井さん。信じてもらえないかもしれないけど、わたし男の子とこんな話するの本当に久しぶりなの〜」
「えぇ……」
「独自の方法で必要な時まで『運命潮力』を貯めておきたくて……この十年禁欲に努めてきたのよぉ」
まあ、まだアラサーと若くて美人で爆乳のシスターだ。男子からの人気は極めて高い。
しかし、ガードが固い事でも有名だった。俺だってこんな人だとは思っていなかったし。
「今日はちょっと舞い上がっちゃったけどぉ、実はナニもしないつもりだったって言ったら……信じてもらえる〜?」
「あれだけ男心を弄んでおいて……!」
俺は深呼吸した。落ち着け、むり、落ち着けない。許せないぞこの女! これだけ誘惑しておいてノータッチで済ませるつもりだっただとぉ!? これはエロいお仕置きするしかない! しよう!!
俺はスマホを取り出した。この苛立ちどうしてくれようか。脅迫材料になるようなえろえろ行為の後に写真を撮ってやる!
【さきうば:帰った?】
【さきうば:遅くまで大変だな。明日の昼、今日の場所に来い。秒で。】
【さきうば:私は寝る。返信するな】
【(お布団に入ったクマのスタンプ)】
対戦中は気付いていなかったが、RAILが溜まっていた。
最後のRAILは数分前だ。俺は「おやすみなさい」とだけ書き込む。
【さきうば:返信するなと言ったのが読めないのか。目と頭と顔が悪い。配慮も足りない。また明日。おやすみなさい。】
【(手を振るクマのスタンプ)】
俺は落ち着いた。
「お写真撮る? ポーズ取ろうか〜? おっぱい出すぅ?」
「もういいです。何が欲しいんです?」
面倒くさくなって現ナマを受け取る。早く帰って風呂入って寝たい。
「わたしのデッキ、使えないカード多いでしょ〜?」
「コモンアンコモンなら俺の手持ちでなんとかなりますよ。問題はキーカードで使えないものと……」
「ものと?」
「《カルマ》かな……」
《冒険商人カルマ・ノーディ》は赤の弱点を克服する恐るべきユニークだ。具体的にはスペルを使う度にカードが引ける。
こないだ見たら七千円もした。
「ハイレア以上のシングルのカードは買わなくていいわよ〜。金に物を言わせるのは禁欲と相反する気がするしぃ〜」
「本当に禁欲してたんですね」
「ほ、本当本当?」
「噛まないで下さいよ怪しくなるから」
まあ、とっくに怪しいんだけれど。
「とりあえず、明日の放課後にでも三人で買い物して、ラコちゃんに選んでもらってボックス買いしたら〜?」
「『運命潮力』活用する気ですね。残りは後日お返しします」
「ゴムとおやつ代にして」
「まだ言うか……」
その後、俺は今度こそシスターに家まで送ってもらった。それまでにデッキを確認してリストを作り、ついでに家にある赤のカードを渡しておく。
時計を見ると十時を回っている。俺は風呂に入り、シスターのデッキの使用可能不可能カードを確認しながら眠りについた。