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晴井彗vs猫魂ケイト その01


 放課後、五時に駅前のマックに集合と聞いて俺は一度家に帰り、デッキケースとバインダーを持ってやって来た。

 『アルメ』は……というか、カードゲームは金がかかる。


 1パック160円で5枚入り。36パックで1ケース。それを2ケース買って約12000円。高校生には手痛い出費だ。

 だから、正直ファーストフードは辛い。場所代なのは分かるが、お値段的にしんどい。いや、猫魂(ねこだまし)さんの小麦色っぱいと向かい合って食べれるのならばお安いものだが、それでも可能ならば無料で扱えるスペースが欲しいもの。


 これはカードゲーマー全員の永遠の悩みであると言える。カードショップが近くにあれば、多くは無料の机(デュエルスペース)があるのだけれど、顔見知りに出くわす可能性が高い。

 それはちょっと避けたい。俺なんかと一緒にいるところを見られたくはないだろう? っていうか、それはマックも同じだが。


「ゴッメーン、待った? 注文済み??」

「い、い、いま来たところです……」


 ぴょんぴょん跳ねてくる猫魂さん可愛い。いや、可愛い以上になんだ今のやりとりは。こんなカップルみたいなやりとりをできるなんて全く想定していなかった。

 俺は噛み噛みに噛んで、尻すぼみに答えるしかない。定番のセリフを口にするのがこんなに恥ずかしいなんて! でもこの恥は嫌な恥ではない。最高! 最高の恥じゃ! これにはニーチェ先生もにっこりですよね?


「ここ混んでるし、あっちのファミレスでドリンクバーにしない?」

「猫魂さんがいいなら、そうしようよ。ていうか、俺今月ピンチでさ、安いほうが助かるんだ」

「マジで〜? アタシもピンチ。明日はお金かかんない場所にしよっ」


 今日だけじゃなくて明日もあるんですか? ご褒美ですか? こんな幸福が許されるのか、もしかして揺り戻しが待っているのでは? いや、だとしても俺は負けない。ここにおっぱいがあるのだ。この先が地獄で、逆落としに何もかもを失ったとしても本望だった。


 俺達はファミレスでドリンクバーだけを頼み席を占領した。コーラを持ってきた猫魂さんが、ふきんでテーブルを拭くと、カバンから布を取り出す。プレイマットだ。

 簡単に言うとコレクターアイテムである。ゲームにおけるカードの位置を分かりやすく示し、カードが傷つくのを防ぐ。多くはシリコン製なのだが、布? かわいい猫柄に、カード位置だけが白糸で囲われている。


「え? 手作り?」

「公式のって運びにくいじゃん?」


 シリコン製のプレイマットは畳めず、丸めるしかない。大きいカバンが必要になる。俺は慄然(りつぜん)としながら手作りプレイマットを見た。

 これは猫魂さんを甘く見ていたかもしれないぞ。この人は……ガチ勢だ。


「一発(デュエ)っとこ?」

「普段、友達はあんまりマジで遊んでないからガチなデッキは使わないんだけど……」

「そっちでヨロ」


 俺は頷いてメタリックブルーのデッキケースを置いた。巾着からチェックカウンターに使うクリスタル・ダイスやメタル製の小物を並べる。

 その間に猫魂さんも猫柄のがま口から猫型のオハジキや猫小物を並べた。デッキケースもカード保護袋(スリーブ)も《猫の女王ミルエルフ》。『アルメ』における猫の顔役。長毛種の御猫様だ。


「ヨロシクネ☆」

「よろしくお願いします」


 お互い、馴れた手付きで自分の山札(デッキ)をシャッフルする。トランプでよくやるようなショットガン・シャッフルなどではない。あんな事したら顰蹙(ひんしゅく)ものだ! カードが傷つく!!

 シャッフルしたカードを交換して、お互いに軽く混ぜる。デッキを指定位置に置き、目が合った。


「じゃんけん?」

「いや、こっちは猫魂さんが紫だって知ってるし、先攻後攻は好きに決めていいよ」

「あんがと、じゃあ先行もらっちゃう」


 同様にシャッフルした戦場カードを置き、リソース置き場に選んだ三枚を裏向きにセット。

 カードを七枚引いて、次元を巡る対戦(デュエル)の始まりだ。


 『デュエル・ディメンション』は簡単なゲームではない。突き詰めれば陣取りゲームだが、正直複雑だ。

 プレイフィールドには12のマスがある。手前から自陣1、自経路3、戦場4、敵経路3、敵陣1という形になる。


 自陣からは自経路すべてに線が繋がっており、経路は隣の経路と戦場二つと繋がっている。この線が移動可能なルートを示している。戦場同士は移動できない。必ず経路を利用する必要がある。

 毎ターン補充される資源(リソース)をコストに、カードを本陣に裏向きにセット。そのカードを動かして戦場を三つ制圧すれば勝ち。


「先行、リソースは紫ね。カードセットで前進。ターン終わりっ」


 つーか、ルールなんてどーでもいいよな!? 見ろよ、猫魂さんの真剣な顔!! その表情と大胆に開いた胸元のコントラスト!


「ターン貰います。ドロー、補充リフィールなし、リソースは青。カードセット、前進。どうぞ」


 絵面が地味ぃ!!


 なにしろ『アルメ』では全てのカードを裏向きでセットする。そして本陣にセットするにもリソースを使う。

 つまり最初のターンはお互い裏向きのカードを一手進めておしまいだ。だがまあ、そこにも戦術があるんだけど。


 各経路から向かえる戦場は二つ。北経路は戦場AB、中央経路は戦場BC、南経路は戦場CDにしか行けない。

 序盤の行動は二つに一つ。つまり早いところ一つ目の戦場を制圧(ドミネート)するか、相手を妨害するかだ。


 猫魂さんのカードは真ん中の経路へ。対して俺は最初に置いたカードを失いたくないので南経路へ。

 俺がセットしたのは《人魚の歌姫》。青の1コストユニットだ。攻撃力0/防御力2。戦闘能力は最低レベル。しかしこのカードは素晴らしい。危険なパワーを秘めている。


 まずはイラスト、胸を強調した爆乳の人魚が岩の上で歌っている。素晴らしい。そしてフレーバーテキスト。



『人魚は危険な存在です。彼女の歌は船乗りの心を揺さぶり、そのたわわな胸は船乗りの目を奪う。二つの手段で船を座礁させるのです』『二つ? 乳房は二つあるから三つでは?』



 うはー! そりゃ危険だよ! 俺も座礁させてくれー!!

 ちなみに、能力は『魔術:青』。詳しくは次回で。


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