晴井vsマカラ その01
「不詳マカラが相手を致しまショウ。手前の疑似運命回路から発生する『運命潮力』は7500。猫魂さんの約4倍になります」
俺の前に立つメイド服。テーブルが展開して液晶が現れる。液晶にはプレイマット、格好いい!
「マカラの計算によると、アナタの勝率は0.18%デス」
「すげー、よく分かるな」
俺のデッキも、プレイングも見ないでそれが言えるのは驚きだね。つまり、数字に何の信用もできない。
「お座り下サイ」
「失礼します」
「じゃ、アタシはブッティとヤるね〜」
横に座る猫魂さん。俺は改めてマカラと名乗るメイド服を見た。明るい茶色のお下げ、ブルーの瞳。人形みたいな顔。拘束具みたいにベルトがたっぷり付いたミニスカメイド服。
「ソレでは……」
「晴井です。よろしくお願いします」
「…………マカラ。『MCR-01』通称マカラデス。よろしくお願いしマス」
席につき、カードをシャッフルする事で俺は怒りを鎮める。カードは自由だ。何の束縛もない場所だ。
人によって、これは音楽や本だったりするのだろう。漫画や料理などの創作に向ける人もいるかもしれない。自分の心の安定のための儀式。
液晶画面の中でコインが舞う。先攻後攻を決めるためのコインフリップだ。プレイヤーの位置はしばしば南北で呼ばれる。今回の俺は北。コインの表は南。
「先行頂きマス」
戦場カードも液晶、マカラのリソースも液晶タッチパネル式。ここでのプレイに慣れると、何もない机を叩くことになりそう。
「ドロー無し、補充無し、リソース茶色、セット。東経路へ」
茶色。防御特化で長期戦向きの色だ。長年ネックだった攻撃力の低さを、半年前に発売したセットで克服した。
そのコモンカード名は《圧殺》。茶色の0コストスペルだ。イメージは壁が倒壊して相手を押し潰すというもの。
効果は『ユニットを一体生贄に捧げる。対象のユニットに、生贄に捧げたユニットの防御力-2のダメージを与える』。
普通に使うと弱い。この-2がしんどい。防御力4を消費しても2ダメージにしかならない。
しかし、一部の頭のイカれたプレイヤーがとある紙コモンに目をつけた。
《ノリスの決死隊》。
茶色1コスト 1/4。戦闘開始時能力は『このユニットが単体で戦闘に参加する場合0/+7の修正を受け、戦闘終了時にこのユニットを生贄に捧げる』。
たった一人で殿を務めるなら絶対に倒れないという強い意志を感じるが、いかんせん攻撃力が低すぎたし、守っても戦闘終了時に死ぬのはいただけない。
しかし《圧殺》と組み合わせる事で、このコモンカードは化けた。通称『ノリスシュート』。
2枚コンボ9点火力として、今や茶色デッキではまず入ってくる。
俺も昼に乳母崎さんに勧めた《攻守交代》、攻撃力と防御力を入れ替えるカードで悪さをしようと企んだが、それでは攻撃してきた相手を倒せるだけ。狙った相手を押し潰せる《圧殺》ほどの汎用性は望めなかった。
なお、俺が教室でツレ相手にしているのはこの《圧殺》デッキである。
巨乳ユニットの防御力を盛りまくって《圧殺》する。『おっぱい圧殺』だ。勝利は二の次、笑うためのデッキだ。ははは。正直、つまらない。
「ターン貰います。後攻ドロー、補充なし、リソースは青、セット、西経路へ」
俺は戦闘を避けるためにマカラとは逆の経路にユニットを進めた。『ノリスシュート』を警戒しなければならないが、それ以外にも茶色は防衛に長けたユニットが多い。
下手に手を出しては危険だ。
「2ターン目、ドロー、補充。リソースは茶色かける2デス。前進して表にする。《ガラクタ街のシャンブラー》」
「おや?」
「セット、東に前進してエンドデス。+1/+1バフカウンターを乗せマス」
《ガラクタ街のシャンブラー》は毎ターン終了時に、自分に+1/+1バフカウンターを一つ乗せる。放っておくとどんどんデカくなる1コストのユニットだ。
マカラがカードの脇を指先でタップ、すると液晶に『+1/+1バフカウンター』の文字が浮かんだ。おもしろーい!
「ターン貰います。ドロー、補充、リソースは青黄色。カードを戦場Dに進めて表にする、《人魚の歌姫》」
頼りにしてるぜ俺のおっぱいちゃん!
『魔術:』スキルでスペルコストを減少してくれるスゴイやつだ。
今日も頼むぜ永久おっぱいポイント、おっぱいを使えば使うほどお得が貯まる!
「《衝動》《衝動》、カードセット」
山札を上から4枚見て、欲しいカードを1枚手札に、残りは山札の一番下に。何が『運命潮力』だ。欲しいカードが高確率で引けるだ!
カードゲームってのはな、そんなもんじゃねぇんだよ。運だよりのゲームがしたいならじゃんけんでもしてろ!
「手前3ターン目、ドロー、補充。リソース茶色かける3デス。ソレでは、お見せしまショウ」
マカラが引いたばかりのカードを場に置いた。《組み立て改造工場》。戦場Aにセット。
「表にする。《倍加マシーン》」
《組み立て改造工場》。ターン終了時に同一の戦場でなら+1/+1バフカウンターを移動できる戦場カード。
そして《倍加マシーン》は、+1/+1バフカウンターが乗った時、その数を二倍にするユニット……!
「カードを1枚セット、西経路へ移動デス。リソースを残してターンエンド。
《ガラクタ街のシャンブラー》にバフを一つ。《組み立て改造工場》で《倍加マシーン》に二つ移動……トータルバフが四つにナリ、《倍加マシーン》は現在6/6のご精算デス」
ロマン優先のファンデッキじゃねーか!!?