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猫魂ケイト その01



 放課後、俺と猫魂(ねこだまし)さんは二人で教会ではない場所へ向かっていた。猫魂さんの友達の家だという。

 昨晩、猫魂さんと大稲デイヤ対策について相談した。俺が考える最もシンプルで手段を選ばない方法は、最初から対策デッキを用意することである。


 デッキの相性は、勝率に顕著(けんちょ)に反映される。捨て札利用の俺のデッキは、相手も捨て札を利用してくると不利になる。

 悪魔と魔女が中心の乳母崎(うばさき)さんは、猫魂さんの冤罪デッキに惨敗した。


 そこまでする気がなくとも、大稲デイヤがどんなデッキを使いやがるのか知っているのと知らないのでは訳が違う。

 『敵を知り己を知れば百戦危うからず』だ。当然ニーチェ先生の言葉である。嘘です。孫子だ。


 その友達は大稲ダイナの過去のデッキレシピを記録しているし、プレイも録画しているとか。


「つーか、猫魂さん『アルメ』やってる友達いるじゃん」

「でももう別のチーム組んでるから、ライバルなんだよねー」


 そう言われたら仕方ない。ちなみに乳母崎さんは「不愉快な目に遭いそうなので行きません」だそうで。

 乳母崎さん、シスターが言っていた通り友達が少ない様子。一緒に遊ぶのは猫魂さんだけ……そんな……悲しすぎる…………でも俺も人のこと言えないんだよなぁ。


 今のツレどもは高校からの付き合いで、しかも関係は浅い。休日に会わないし、外で遊んだりもしない。そんな風に俺が関わってきたせいなのだけれど、事実俺は友達が少ないのだ。


「あっめあっめふっれふっれ、にゃんにゃんがぁ〜ッ」


 しっかし、猫魂さんはすげぇよ。尊敬するよ。可愛くて巨乳で雨の日にも元気なんだぜ?

 俺はスマホ片手に猫魂さんを観察した。女子とRAILしながら女子と歩く。俺の寿命は後何年だ……。


「見て見て見てケーくぅん! この傘ね、この傘ね! ななななんと、猫耳付いてんの!」

「俺が見てどうするのさ」

「アタシが差したら見えないから見てもらうんだよ! ツベコベ言うない」


 ビニール傘の俺とは違い、傘も猫、レインブーツも猫。湿気を含んだ髪の毛がいつも以上にぴょんぴょんと跳ねまくっているけどオールオッケー。まるで気にしない。猫魂さんはホントに元気だなぁ。


「閃いた! ケーくん、傘交換しようぜ〜」

「俺が猫耳傘持ってても痛いだけじゃん!?」

「ダイジョーブダイジョーブ、少シモ痛クアリマセーン!」


 その口調が全然ダイジョーブじゃぁないんだが!!

 バスに乗って十分。そこから徒歩で十五分。案内されたのはモダンな個人医院のような白い建物だった。


「『布田研究所」ねぇ」

「たのもーう」


 ズンズンと侵入する猫魂さん。研究所って、研究所ってなんだ? アニメや漫画以外では初めて見たぞ。


『いらっしゃいマセ猫魂サマ。奥へドウゾ」


 現れた少女はメイド服だ。俺はこの時点で腰が引けた。普通にメイド服に案内される猫魂さん。

 メイド服の子は背も低いし胸も平ら。中学生か? それがメイド服? なんだこれ、なんだここ。


「猫魂さん……ここダイジョーブ?」

「ダイジョーブダイジョーブ、科学ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース」

「ダメじゃん!?」


 猫魂さんが普段通りなので、おっかなびっくり付いていく。ステレオタイプなよく分からない機械がごちゃごちゃしている謎の研究所。


「猫魂さんよく来てくれたでヤンス! 今日欲しいのはデイヤのデータでヤンスね?」

「お願いできる? サンキュサンキュー!

 ケーくん、こちらブッティ。デイヤの友達。

 ブッティ、こっちはケーくん。アタシの師匠兼相棒(バディ)って所かな!」


 おいおいおいおい! やめろってそんなの嬉しいじゃん照れるじゃーん! 俺は相棒か、師匠で相棒なのか!

 メイド服に案内された先に居たのは、チビで痩せ細った瓶底メガネ。汚れた白衣にフケっぽい頭。俺は心配になった。


晴井(はれい)だ。よろしく……君、ちゃんと食べてる? お風呂も入ってる? お父さんかお母さんは??」

「なんでヤンスか、この失礼なボーイは……その学章、二年でヤンスね? オイラは私立九曜学園高校三年生。布田(ふた)先輩でヤンス」


 俺は固まった。身長一管金(150センチ)の育児放棄された小学生欠の食児童だと思った。


「よかった……ご飯を貰えていない小学生は居ないんだね……」

「ケーくん言い過ぎ〜」

「舐められたものでヤンスね……まあ、軽く見られるのは慣れてヤス。せっかくなのでお二人、そこに並んでくだせェ。土足で構いヤセンぜ」


 指さされたのは金属の台。床から10センチほど高い。つまづいて転びそうだな。

 俺と猫魂さんは素直に台に乗った。天井からマニピュレータが降りてくる。先端には大型のカメラがキュイキュイピントを合わせていた。


「いえーい、ピースピース! ケーくんも!」

「なんでピースを頭につけてんの?」

「猫耳ピースじゃん? 知らんの??」


 知らんが。そもそも猫魂さんは指で猫耳再現しなくても寝癖が猫耳じゃね?


「『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』測定装置でヤンス……はて? これは機械の故障でヤンスか?」

「イイエ、マカラの簡易観測でモ同じ結果デス」


 プリンタから吐き出された白黒写真を見ながら、布田が首をかしげる。覗き込んだメイド服が同意。なになに? なんの話?


「猫魂さん、その彼……晴井氏とはどんな関係でヤンスか?」

「師匠で相棒(バディ)だけど?」


 布田は瓶底メガネをクイクイ動かした。なんか嫌な雰囲気だな。


「猫魂さんの『運命潮力(ディスティニー・ドラフター)』は2000。前回の測定から変わってないでヤンス。

 でも晴井氏は100……こう言ってはなんでヤンスが、戦力にならない一般人でヤンスね」




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