晴井彗 その05
「あ、俺はただのカードゲーム友達です。運よく同じゲームをしてたんで誘われただけの」
「あらぁ、へえ、ふぅん」
物言いたげなシスター・マナミ。いや、ボーイフレンドか。ボーイフレンドね……だったらいいよね。でもそうじゃないし、そうなる事も無いんだよ。
猫魂さんには幼なじみがいるし、乳母崎さんは俺を敵視している。俺はただの指南役。二人のおっぱいを心のプレイリストに保存するという役得だけが俺の報酬……ごめん嘘。
普通に対戦していて楽しいです。
「ま……マナミさん、それくらいにして。その男は猫魂先輩の知り合いなだけ」
「そろそろお夕飯だけど、ラコちゃんどうする?」
「食べる、片付けたら戻るね」
「はーい」
シスターはニコニコしながら退室。乳母崎さんもデッキや小道具をいそいそと集める。
「乳母崎さんもシスターの格好だけど家族か何か?」
「詮索するな、喋るな、視線を向けるな」
「叔母さんなんだよね〜」
「ああ、ごめん」
家庭の事情があるのだろう。女の子のことをアレコレ詮索するのは失礼である。でも、喋るなと視線を向けるなは違うよね。
「乳母崎ラコちゃん? 名前可愛い」
「黙れ、絶対に呼ぶな。腕を折るぞ」
「はーい」
俺は素直に頷いた。そして乳母崎さんの胸を凝視。喋っても平気なら見ても問題あるまい。だがやはり布地が邪魔でサイズ感は分からない。
ラコ。どんな字を書くのだろうか。とりあえず、俺に呼ばれたくないだけなのか、昔嫌なことがあったのか。
後者だったら分かる。俺も昔『ほうき』と呼ばれて掃除当番を押し付けられていた。名前をイジられるのはマジで苛つく。
乳母崎さんが目元にファンデーションを塗っていることに俺は気付いている。アレは、紫外線かあるいは別の何かのアレルギーか? だとしたら、真夏でも長袖で手袋までしているのも納得だ。そして、そこからの連想。夏場でも上着、ラコ……これ以上はいけない。ザネリ、アームロックが飛んでくるぞザネリ!
「あばっ」
「キモい。ツバで手袋が汚れた」
「うっぴー、そりゃちょっとかわいそうじゃない?」
突然ビンタと罵声が飛んできて俺はよろめいた。
「いいんです。この変態には罰が必要です。猫魂先輩も二人きりになったら気を付けないとダメですよ。
マナミさんのこともいやらしい目で見たし、今私も見ていたな? 目玉は二つあるから一つなくなってもいいだろう?」
乳母崎さんが右手を顔の前に上げ、親指を自分の眼球前でグリグリ動かした。『抉るぞ』のジェスチャー。
「その理論はおかしい」
「警告はした」
おっぱいは二つあってこそ美しい谷間を作り出す。一つでは出来ないことでも二つならできるのだ。という論理展開は火に油を注ぐだけなのでやめておこう。
というか、わざわざ乳の話にしなくても目の機能だってそうだったじゃん? 二つの目で観測することで三次元的にものを見る機能があるんだから片方失ったら遠近感が掴めなくなるらしいし。
「あばっ」
「にゃはは! 逆にウケる!」
反対の頬をビンタされる。想定外の打撃がツボに入ったのか、腹を抱えて笑い転げる。ひどい。乳母崎さんは鼻で笑い、そのまま退室。
「にひひひひ! ごめん! にゃは、あはははは!」
よほど面白かったらしい。喜んでもらえたならば、俺としても殴られた甲斐があるってもんよ。ホントホント。
それに衝撃はあっても痛くはなかった。手加減したビンタだったのてある。いや、手加減してもビンタするなよとは思うけど。
「そういえば、チームの人数のこと乳母崎さんに言った?」
「あー、言ってねーや。RAILしとこ。ケーくん、RAILしてる?」
「してるしてる」
「グループすんべ」
いいのか? 俺は打ち震えた。猫魂さんとRAILアドレスの交換なんて許されるのか?
アドレスを交換して招待されたルームには、両目を猫に押された猫魂さんのアイコン『ねこ命』と、《あ! クマ》のアイコンの『さきうば』の名前がある。
俺は女子とのアドレス交換という展開に、先ほどのビンタのことなど忘れて心中で喝采をあげた。しかも二人! 乳母崎さんからは罵倒しかされない可能性もあるが、でもさ! 女子だよ? 巨乳女子のアドレスだよ!!
「ヒャッホー!」
俺は『参加しますか?』に当然のように『はい』を連打し……………………青ざめた。
全身から嫌な汗がどっと吹き出る。ヤバい。しまった。こんなこと、ありえないと思っていた。俺が女子とアドレス交換なんて……絶対にありえないと!!
大急ぎでプロフィール画面に移動、変更! アイコンの変更! 猫魂さんは気が付いていない。よし! まだ間に合う!!
巨乳の谷間にアイスを乗っけたアニメアイコンを変更!! 変更……うわあ、俺のギャラリーSNSで拾い集めたおっぱい系の画像しかないよう!? しかも女の子に見せられないようなのばっかりぃ!
俺は大急ぎで『アルメ』の公式ページに飛んだ。配布されているアイコンページへ。だが男は嫌だ! 巨乳でセクシーだがギリギリ許されるレベルのがいい! なんかないか!?
「《棺の女王》は?」
「それだ!?」
気が付けば隣に、汗の匂いを嗅げる距離で、猫魂さんがニマニマしながら覗き込んでいた。
「あ……ええと……」
「あの画像はえっちすぎるっしょ〜?」
「はい……乳母崎さんにバレたら何を言われるか」
「だよねだよね〜」
猫魂さんがこういう子でよかった……俺は大きくため息を吐きながら《棺の女王》のアイコンをダウンロード。自分のアイコンを変更する。
「まさか、女子とアドレス交換することになるとは思わなかったからな」
「にゃはは」
どっと疲れた。
俺は汗を拭い、すぐに通知の鳴ったスマホを確認した。
【さきうば:ハレ@巨乳好き好き先輩、アイコン変えても名前を変えていないぞ】
【さきうばが画像を添付しました】
ギャバァァァアアアア!!!?
おっぱいアイスアイコン状態のスクショ貼られてるううっっ!?