反省戦 その03
「お前……猫魂先輩にナニをした……ッ」
「何でもするって言うから、弱いカードを抜いて、シナジーを考えて貰ったんだけど」
猫魂さんの《異端審問官》は悪魔に対して圧倒的で、あの後乳母崎さんは隠し玉の《悪食のナイトメア》を使わざるを得なかった。
満を持して降臨した《女王様猫ミルエルフ》は、コントロールを奪う3コストの《肉壷のナイトメア》で対処するも、二枚目の《異端審問官》に蹂躙され、乳母崎さんは敗北した。
猫魂さんは昨日帰宅後、カードの山をひっくり返してカードを確認しまくったという。
そうして見つけたカードの一つが《紅マグロ漁》であり《烙印》だった。
《烙印》は紫が得意とする除去、デバフカウンターを用いたものだ。デバフカウンターはターンが終了しても効果の残る-1/-1修正である。
正直限定構築でしか使わないような、かなり弱いスペルなのだが……追加効果で対象を永続で魔女にする。紫には想像以上に悪魔・魔女対策カードが多くあったらしく、猫魂さんのデッキは魔女冤罪シナジーデッキとなっていた。
ちなみにシナジーとは相乗効果の事である。複数のカードを組み合わせて効果を高める時に使う言葉だ。
コンボと似ているが、カードゲーム関係では勝利に直結するものをコンボと呼び、そうでないものをシナジーと呼びがち。つまりコンボは必殺技のことなのである。
…………《セイレムの猫》による『《異端審問官》強化待伏』はコンボかもだな……。
「だからやめとけって言ったじゃん」
「ぐぬぬ……」
「いえーい、ケーくんの強さ、分かったでしょ?」
「まあ、はい……猫魂先輩がここまで劇的にデッキを変えるとは思っていませんでした」
それは、猫魂さんが俺の想像以上に意固地で、今まで助言してもデッキを変えなかったという事なのだろうか。
だとしたら、それは俺だけの力ではない。昨日引き当てた《虚無守りの姫君》と、何よりもニーチェ先生のおかげだ。
「『古いもの、古くから知られていたもの、あるいは誰の目にもふれていたが見逃されていたものを、新しいもののように観察できることが、真に独創的な頭脳の証拠である』」
「また誰かの言葉の引用?」
「ニーチェ先生だ、カードを触る時はこれを忘れないようにするといい」
乳母崎さんは胡散臭そうに俺を見た。格言とか名言とかを諳んじる俺の厨二ムーブに抵抗があるのだろう。うるせえ!
「ニーチェって、あのニーチェ?」
「俺の知ってるニーチェはプロイセンの哲学者、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ先生だけだな」
「何でお前、歴史上の人物を知り合いみたいなテンションで語ってるの?」
「俺の人生の先生だし」
実際、俺の人生哲学はニーチェ先生に形作られている。俺のような半端で何もない人間でも、絶望せずに行きていけるのは先生のおかげだ。
「…………」
「とりま、デッキ調整見てもらっていい? このカードどう思う?」
猫魂さんがそう言って取り出したのは、《女王様の奴隷》。ヤバい名前だ。描かれているのはどこにでもいそうな小太りのオッサン、他にいいイラストなかったんか?
「『高慢かつ残酷で知られている猫の女王であるが、己の奴隷がしばしば発狂し、主人を主人と思わないような暴言を叫びながら暴挙に至ることを、慈悲深いゴロゴロ音を放ちながら許している』
アタシも奴隷になりたぁ〜い!」
人に聞かれたら誤解をされそうな感想を口にする猫魂さん。つまりこのオッサン、女王様猫を「んんんねこちゃん! 吸わせて! 吸わせて!」とか叫びながら揉みに揉んでいるってことなのね。
「入れましょう」
「入れよう」
「お前と同じ意見か……」
「先輩呼びは終わりなの、乳母崎さん?」
《女王様猫の奴隷》は常在効果で猫と猫のスキルコストを減らす。ユニットに適応される『魔術:』だ。使わない手はない。
これがオッサンではなく巨乳のお姉さんだったらより良かったのに。巨乳であるならオバサンでも構わないのだが。そんな風に残念がる俺を、乳母崎さんが気持ち悪そうに見つめている。そんなに先輩呼びが嫌なのかな?
「あー、ええと」
俺が嫌ならいいよと言おうとした所で、ドアがノックされた。すっかり騒いでいたが、ここは教会の敷地内! 俺は青ざめる。
「はーい」
しかし、一切の躊躇もなくドアを開ける猫魂さん。ドアの向こうには見慣れたシスターが微笑んでいた。
俺たちの通う私立九曜学園高校の非常勤講師であるシスター・マナミだ。
「もしかしてうるさかったですか……?」
「いいえ〜、ここは軽音部にも貸しているくらいですので、いくら騒いでも平気ですよ」
胸を撫でおろす俺。シスター・マナミはおっとりとした美人シスターだ。身長が高く175センチくらい、タレ目で糸目、分厚いシスター服のせいで胸のサイズは判別し難い。有志のトトカルチョで、俺は108のHに賭けている。
とりあえず目算三桁は確定なので、カップ数はロマンである。ゆっくり穏やかな姿から、皆はぽっちゃり系を推している。分かる。全身が柔らかいお肉でたゆたゆなのは最高だと思う。むっちゃ甘えたい。
しかし、それでも俺はあえてHカップでいく。175センチでアンダーが80。アラサーというか三十路を少し過ぎたシスターの、神様にも内緒の熟れたボディが鍛え抜かれてきゅっと締まっていたら……どうでしょうか。対戦お願いします。
「それにしても……うふふ」
シスターは俺を見て含みある笑みを浮かべた。
「ラコちゃんが猫魂さん以外の人と遊んでるのなんて久しぶり、ねえ……晴井さんはどっちのボーイフレンド?」