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猫魂vs乳母崎



 俺のデッキではあまり発生しないが、普通の『アルメ』の対戦ではユニット同士の戦闘がメインになる。

 ユニットには攻撃力と防御力があり、その数値を比べ合うのだ。


 戦闘発生時、各プレイヤーはまずそれぞれのスキルを確認する。攻撃時強化されるスキルや、常在効果、オープン効果によって戦況はガラリと変わる。


 今回、猫魂(ねこだまし)さんの使った《エスコートする紳士猫ジェントルにゃん》はオープン効果で猫カードを、探してくれるだけの攻撃力2防御力2。

 攻撃力は同じ戦場のユニットの全てを合算する。しかしこの場には《紳士猫(ジェントルにゃん)》しか居ないのでトータル2。


 対する乳母崎(うばさき)さんのユニットは《あ! クマ》。テディベアみたいなクマ型悪魔で、攻撃力0防御力2。

 何事もなければ一方的に、ぬいぐるみのワタをばら撒いて遊ぶ猫のように……いや、それをやるのは犬か? とにかく《あ! クマ》は解体されてしまうだろう。


「《クマ》ちゃんいいな〜、うちの《眠り猫》ちゃんにも見習わせたい」

「可愛いですよね〜」

「むっちゃ可愛い」

「外野は黙ってろ。お前がクマちゃんを語るな。かわいそうだ」


 言い方ぁ!


 《あ! クマ》はクマでもあくまで悪魔なのでその可愛さは悪魔的。猫も杓子(しゃくし)(あ! クマ)の可愛さには抗えない。なんと、《あ! クマ》は同じ戦場にいる全てのユニットの攻撃力を-2するのだ。可愛すぎてなごむ〜。


 お互い攻撃力0のため、戦闘は引き分け。防御側が一体でも残っていたなら、防衛成功で、攻撃側は経路に戻る。

 防御側が全滅したら攻撃成功だ。


 ちなみに、裏向きの相手に攻撃を仕掛けるのは勇気が要るが、相手がコストを支払えなければ一方的に倒せる。攻撃できるなら攻撃しておくべきなのだ。


「《紳士猫(ジェントルにゃん)》の能力で山札を見るよー」

「猫魂先輩がこんなまともな動きを……」

「失礼だねチミぃ、《女王様猫ミルエルフ》を手札に加えて……2枚セットで終わり」


 乳母崎さんの目が獲物を狙うように細められた。なぜかエロティック。《女王様猫ミルエルフ》はすべての猫を強化する厄介な大型ユニットだ。しかしコストの大きさがネックである。

 2枚セットした事で的を増やしたとはいえ、それでも除去が2枚あれば《ミルエルフ》を排除できる。居るのが分かっているなら、確実に対処したいだろう。


「《ゲラゲラ笑いの魔女》を表にするオープン、《すがりつく怨霊》! 右のカードを対象にします」

「おけ、《紅マグロ漁》でした~」

「青……? というか、猫魂先輩が猫の描いていないカードを……!?」


 これは俺が勧めたのではなく猫魂さん自身で見つけてきたカードだ。色が違うスペルでも、ゼロコストならばセットして使えば利用できる。『魔術:』スキル持ちを入れているなら同じ色でまとめたいけれど、残念ながら猫には『魔術:』持ちが居ないから関係ないのだ。


 さて、むくつけき大男が一本釣りする美しいマグロスペル。その効果は『猫ユニットにしか使用できない万能のエキストラリソースを1点得る』というもの。

 万能リソースとは色を限定しない、何色にも使えるリソースだ。そしてエキストラ。つまりターンをまたいで貯めておける。


「…………《飛びかかるインプ》をセット即表にする(オープン)します」

「こっちは《セイレムの猫》ちゃんでしたー」

「ね、猫魂先輩が……まともなプレイングを!?」


 乳母崎さんが後方師匠面する俺を激しく睨んだ。いや、昨日した助言を猫魂さんが守ってるだけなんだけどね。

 そう、サーチ系の弱点は手札にそのカードがあると分かってしまうこと。高コストのカードをサーチした場合は表にするオープン前に除去されやすいのだ。


 だから対処法として、複数枚セットして的を散らすか、温存するのが基本戦術である訳で。猫魂さんは教えたことを守っててエラい!


「アタシの番、2枚セットして前進、終わり」

「除去が足りないですね……分かりました。カードセット、《血まみれ手術室》……《インプ》を生贄に捧げて、《強欲なナイトメア》」


「アタシの番〜。ここで《紳士猫(ジェントルにゃん)》ちゃんともう一人で《クマ》ちゃんに攻撃だよ」

「《ミルエルフ》ですか?」

「残念! 《異端審問官》さんでしたー!」


 表になったのはエロい服を着た黒髪赤目の巨乳お姉さん。カードを二度見した後に、乳母崎さんが俺に対して憎悪すら感じる視線を向けてきた。


「猫魂先輩! 騙されていますよ! それは猫ではありません!!」

「吸血鬼だね。ほら、うちの猫ちゃんが『アレは害鳥だ』って指差すから」


 《異端審問官》というか、この世界の吸血鬼にはいくつかパターンがある。いわゆる貴族風なのも、怪物みたいなのもいる中で、この《異端審問官》は背中から血液の翼を出して戦う『赤い翼』とかいう一派だ。

 首と胸当て、腰回りだけを防具で覆い、肩も背中も脇も横乳も丸見えの、言うなれば童貞を殺す鎧状態だ。もう古いか?


 《異端審問官》は通常は2コスト2/4で『待伏』『先制』持ちなので、強い弱いで言ったらあまり強いユニットではない。


 ちなみに『待伏』は『襲撃』の防御版。攻撃を受けた戦場に駆けつけてくれるのだ。

 『先制』は紫の得意スキルだ。戦闘の際に、『先制』スキルダメージが先に発生する。これで破壊したユニットからは反撃を受けない。


 スキルだけ聞くと強そうなのだが、いかんせん戦闘能力が防御偏重なのがなあ。


 さて、ここまでの説明だと弱そうな《異端審問官》だが、実はもう1つ特殊能力があり、むしろそちらこそが本命だったりする。

 その能力とは『同じ戦場に対戦相手のコントロールする悪魔か魔女がいる場合、+2/+2の修正を受ける』。悪魔か魔女相手には一気に強くなる。3コスト級の《悪食のナイトメア》だって一方的に叩き潰せるすごいおっぱいだ!


「なんでそんなカード入れてるんですか!?」


 乳母崎さんの可愛い悲鳴からしか取れない栄養素がある。仕方ないじゃないか。《セイレムの猫》による冤罪魔女化能力とシナジーがあるから勧めたんだよ。


「んああ、私のクマちゃんがぁぁ〜……」


 妙に色っぽい悲鳴。攻撃力は《あ! クマ》の能力で相殺。それでも2残る。クマちゃんは吹き飛んで、戦場は乳母崎さんのものになった。

 猫魂さんのデッキの改良とプレイングの変質に、乳母崎さんは驚いている。俺自身も驚いていると言っていい。今まで、猫魂さんに『アルメ』のプレイングを教えた人間は居なかったのだろうか。デッキの組み方について相談する者は?


 ほんの少し、俺が走り方を教えただけで、猫魂さんは登り始めていた。もうすぐ踊りだすだろう。

 ニーチェ先生は『いつまでもただの弟子でいる事では、師には報いることができない』と言っていたが、同じだけの師でも、すぐに弟子を満足させられなくなるだろうことは明白であった。



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