晴井vs乳母崎 その04
「私のターン、ドロー。全てのリソースは黒…………まずは戦場をセット《血まみれ手術室》」
乳母崎さんのセットした戦場は《奈落》亜種。こちらはカードではなく無色のリソースを1得る。
無色のリソースはユニットやスペルのオープンには使用できないが、セットに使える。他にも色指定のないコスト消費、例えば《タピルスの歩き巫女》を対象にする場合に必要な追加コストにも扱える。
「セット済みカードを表にする。《悪食のナイトメア》」
オープンしたのは3コストの大型ナイトメア。腹に巨大な口を持つ大型デーモン。
その生贄能力はコストとハイレアのレアリティに相応しい、制限無しのユニット破壊!
「《強欲なナイトメア》を生贄に捧げ、裏向きのカードを一枚破壊」
「…………《記憶の書架》だよ」
「そんなものまで」
《記憶の書架》はスペルカードを捨て札から回収するスペルだ。
俺は即座に発動させ、《黄泉返りのダンス》を手札に加える。しかし、場のカードがなければ意味がない。
《黄泉返りのダンス》ではユニットに『襲撃』スキルが付与される。その効果は『あなたがいずれかの戦場へ攻撃を仕掛けた際、このユニットを位置関係なくその戦場に移動させてもよい』だ。
つまり、戦場に攻撃できなければ発動すらされない。セットしたばかりのカードは経路までしか移動できない。俺はここで、乳母崎さんにもう除去が無い事を祈るしかできない。
「そして先輩、私の手札にはもう除去がない」
俺は顔を上げた。乳母崎さんの強い視線が俺を射抜く。その目は敗北ではなく、勝利を確信していた。
除去はない。しかし別の手段がある。そう語っていた。
「捨て札利用は黄色の専売特許ではない。セット、即表にする。《腐肉漁りのナイトメア》」
1コストのナイトメア。墓を掘る巨大なイモムシみたいな怪物。能力は捨て札から好きなカードの回収。
これで乳母崎さんはリソースを使い果たした。果たした、が。
乳母崎さんは《悪食のナイトメア》を生贄に捧げ、《血まみれ手術室》の効果で無色のリソースを得る。そして捨て札の一番下のカードを引き抜いた。
「ばーん!」
指をピストル型にして、微笑みながら乳母崎さん。口元は隠れていても、細められた目が笑みを語る。
目付きだけなのに、恐ろしエッチだ。俺は心臓を撃ち抜かれた。《すがりつく怨霊》で。
「負けましたー! 対戦ありがとうございました」
「ふふふ、どういたしまして」
無茶苦茶嬉しそうな乳母崎さん。どうしよう、とってもセクシー。ドキドキしちゃうぜ。
というか、それまでずっと不機嫌だったのに、勝確になると同時に上機嫌で可愛くなるってなに? 試合に負けたが勝負に勝った気分だぞ。
「強いな乳母崎さん、もう一戦やろうぜ」
「は? 調子に乗るなゴミめ。今すぐ消えろ、ほらほら」
口では辛辣だが、その口調はウキウキしている。勝って気分がいいのだろう。
だが、負けてこのまますごすごと帰っては、明日以降猫魂さんのおっぱいが拝めなくなる。それは困る。
「ねえ、うっぴー。次アタシ」
「…………猫魂先輩、本気ですか? 私にほとんど勝てないでしょうに」
心配そうに乳母崎さん。俺との時と露骨に態度が違う。俺にはもっと攻撃的なのに。
「ええ〜? やろうよ」
「別に構いませんけど……」
そう言いながら俺を一瞥する乳母崎さん。早く出て行けとその目が語る。
「アタシが勝ったらケーくんには居てもらうよ」
「私に勝ってから言ってください」
「乳母崎さん」
「口を開くな生ゴミ。負け犬。腐ったタマネギ」
「やめたほうがいい」
乳母崎さんが蔑みの視線を俺に向ける。俺は、ひるみながらも全力で、心から、真摯に続けた。
「変な約束はしない方がいい」
「黙れと言った。私は負けない。なんなら猫魂先輩の言う事をなんでも一つ聞きますよ? さっきの蛮行も許しますし、なんならもう一回構いませんが?」
あーあ。
やれやれとばかりに俺は席を立ち、猫魂さんと交代、彼女の後ろに立つ。
「なんでそこに立つ? 視界に入るな不快害虫」
「ケーくんはアタシセコンドだかんね」
「うぇーい! 猫魂さんは許してくれるってよ!!」
両手を振り回して煽る俺を、乳母崎さんが一睨みして黙らせる。
「ヨロシク!」「よろしくお願いします、先輩」
猫魂さん相手だと本当に丁寧だ。ふと思ったのだけど、もしかして対応が悪いの俺相手だけなのでは?
俺のこと、おっぱい目的で猫魂さんに近付く悪いオトコだと思ってる? だとしたらそれは間違いではないというか真実100%なのが問題だな。どうしよう。ぐうの音も出ない。
さて、二人の対戦を見ながら俺は先ほどの対戦の反省をするとしよう。とりあえず、事故は仕方ない。そしてその後の回転は比較的うまくいった。
問題は乳母崎さんがもっと速攻型のデッキだった場合、なす術もなかった所だろう。
俺も乳母崎さんも中期戦型。昨日の猫魂さん相手にも序盤は押されていたし、やはり課題は序盤の守りか。
乳母崎さんは序盤を除去で何とかするつもりだろうけど、追加手札の必要な《すがりつく怨霊》は使いづらい。生贄を乱用するデッキだし。手札があっという間に枯渇しそうだ。
早い所《奈落》に繋げられればいいんだろうけれど、そんなに都合よくカードが引けるかな? やはり事故は起きるものだしな。
ナイトメアは強力だ。しかし生贄というコストは大きい。ユニットを消費してしまうのは戦力的に厳しい。
ナイトメアの利点は二点。
まずはそのオープン効果が強力なこと。生贄にしていいユニット、例えば大量のトークンを出す手段があれば扱いやすくなるだろう。
そして、システムユニットと違い個体戦闘能力が高いこと。オープン能力ユニットは一度しか使えないその性質上、戦闘能力と効果そのものが強い。
この利点だけをうまく利用できれば……。
「攻撃、《エスコートする紳士猫》を表にするよ」
「へえ、サーチ効果の猫ですか。私はコスト無しで《あ! クマ》ちゃんを表にしますね」
二人の対戦は3ターン目、普通のユニット戦が発生していた。猫魂さんが出したのは昨日のカード。山札の上の方から猫を探してくれる紳士な猫だ。
対して乳母崎さん側はクマのぬいぐるみみたいな可愛い悪魔だ。
「かわゆ!」
「オープン効果どうぞ」
なんか和気藹々としてて少しもトゲトゲしてないの。どゆこと〜?
明日はお休み致します。